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宇宙の冒険者アーマッド 〈先住者〉の謎  作者: 謎村ノン
Vol. III 『ナルディア、再び』

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第十六章 研修生、拠点へ行く ―― 再会と期待の誤算

 宇宙港のゲートが開いて、人工重力の切り替わる感覚が靴裏に伝わった瞬間、胸が高鳴った。

 ――ついに来た。

 GDCの退屈なリモート研修から抜け出して、やっと“本物の現場”に立てるのだ。

 あたしは、スーツの襟を整え、息を吸い込んだ。

 今日から、冒険者チーム『チーム・ラシード』で実習研修が始まる。夢が詰まっている、はずだった。

 ゲートの先には、巨大な格納庫と、整備用アームが並ぶ拠点があった。

 白い照明に照らされた床は、驚くほどきれいで、軽く私の期待は裏切られた。

(あれ? もっとこう……床の上に謎の金属片とか、焦げた装置が転がってる感じじゃ?)

 そんなイメージを胸に抱えたまま立ち尽くしていると、少し離れたところで手を振る黒い影があった。

「おい、こっちだ。……久しぶりだな、ナルディア!」

 その声に、胸が跳ねた。

「アーマッドさん!」

 駆け寄ると、彼は腕を組みながら、どこか“保護者のような視線”で、こちらをじっと見つめてきた。

 懐かしさがこみ上げる。

「――大きくなったな。前に見たときより、ずっと、顔つきがしっかりしている」

「そ、そんな褒められ方されると、逆に恥ずかしいんですけど!」

「褒めてるんだぞ?」

「知ってますけど!」

 思わず、声が裏返った。

 だめだ、この人、前よりも“からかいスキル”が上がっている。

「さて。研修生が来たことだし、うちのメンツを紹介してやるか」

「お願いします!」

 私は緊張と期待で背筋を伸ばし、彼の後ろに続いた。


***


 格納庫の奥、巨大な母船の影から、金属音とともに声が響いた。

「アーマッド、さっきのパネル、嵌めといたぞ……ん? 新顔か?」

 ひょこっと現れたのは、白衣のような作業上着を着た男性だった。

 しかし、その肩には油汚れ、袖には焼け焦げがある。無精髭みたいな顎髭、髪は軽く跳ねていて、目の下には徹夜の名残みたいなクマがあった。

「こいつは、源一郎だ。うちのシラトリを設計した……まあ、“技術屋”だ」

「おう、よろしく! 正式なメカニックじゃないが、アーマッドに捕まってここで作業してるぜ。気づいたら、船の半分を任されていた」

「人聞き悪いこと言うな。誘っただけだ」

「いや“誘った”って……寝袋と工具箱持ってこいって言われて、そのまま二週間帰れなかっただろ?」

「お前が、楽しそうに居座るからだろ」

「居座ってなんかねえ!」

 いきなり始まる漫才のような応酬。

 私は、紹介の順番にしては情報が混乱しすぎていて、頭が追いつかない。

「あの……源一郎さんって、要するにどういう立場の……?」

「なんだろうな。一応は、外部契約者で、勝手に船を直して、勝手に改造して、勝手に寝ている」

「おいアーマッド! せめて“自由契約の技術者”って言え」

「じゃあ、そういうことに仮決めしておくか」

「……仮決め? 契約関係が、仮決めで成立してるチームって、あるんですか?」

 あたしのツッコミに、アーマッドは肩をすくめるだけだった。

 ……なんというのか、すごいチームだ。

 “冒険者=自由人”という噂は本当だった。


***


「アーマッドさーん! 燃料ポンプの圧を調整……あれ、新しい人?」

 声とともに、黒髪の少年が荷物を抱えて走ってきた。

 動きが早くて、荷物のほうが引きずられている感じだ。

「こいつはトーマス。うちの……まあ、雑用とパイロット見習いだ」

「雑用が前にくるんですか?」

「現実は、厳しいんだよ、研修生のお姉さん。僕、誰よりも働いてるのに地位が上がらないの」

「それは、お前が勝手に仕事増やしてるだけだろ」

「ちょっと、それ言わないでよ、アーマッドさん!」

 少年らしい元気さと、妙な老獪さが同居していて、あたしは、一瞬返答に迷った。

「ナルディア研修生だ。今日からしばらく一緒に動いてもらう」

「よろしく! 僕は、雑用係だけど、雑用のプロだから!」

「それ誇っていいの?」

「誇るしか残されてないんだよ……」

 なんだか、泣き笑いのような顔をされてしまった。


***


 案内されながら私は、ちらちらと周囲の機材を眺めていた。

 メンテナンスロボットとAIでやってるんだろうけど、どこも割と整っていて、妙に清潔で――私の想像した“冒険者の拠点”とは大違いだった。

「ナルディア、何をそんなにきょろきょろしてる?」

「い、いえ……もっと冒険者の拠点って、こう……こういうのかと思って……」

 あたしは、両手をバチバチさせるジェスチャーをした。

「もっとこう……火花が散っていたり、謎のガスが噴き出していたり、工具が勝手に動いてたり……とか?」

「それじゃ、ただの事故現場だ」

「えっ……?」

「冒険者は無茶をするが、基本的に死にたくはないんだ。だから、現場は意外と“きれい”だな」

「お姉さん、ちょっとガッカリしてる顔してない?」

「し、してません!!」

 思わず声が大きくなり、トーマスがくすっと笑った。

「まあ、リモート研修だけだと“現場”は、分からん。というか、ナルディア、お前、リモート研修、終わっているんだよな?」

「もちろん! 全部こなしましたし! 筆記試験も実技シミュレーターも上位五%でしたし!」

「へぇ、すごいじゃないか」

 アーマッドが、素直に褒めた。その声が意外に柔らかくて、胸が熱くなる。

「お前は、前会った時も頭の回転は速かったな。……“現場”のほうは、これからだ。期待してるぞ、ナルディア」

「き、期待は……嬉しいんですけど……!」

(何この……くすぐったい感じ……!)

 緊張と嬉しさがぐちゃぐちゃに混ざって、あたしは、変な笑いが出そうになった。


***


 アーマッドは、腕を組んで、あたし達をまとめて見回した。

「まあ――こんな感じの連中だ」

「“こんな感じ”って曖昧すぎません!?」

「ナルディア、お前は実習生だ。まずは目で覚えろ。頭で覚えると、うちでは死ぬぞ」

「こわっ!」

「冗談だ」

「冗談に聞こえませんけど! 源一郎さんも笑ってるし!」

「……まあ、“完全な冗談”、ではねぇな……」

「源一郎さんまで!」

 初日から、こんなんで大丈夫なんだろうか――いや、大丈夫じゃなかった。すでにツッコミが追いついていない!

 でも――どこか胸の奥がくすぐったくて、温かかった。

 不思議と、不安よりも期待のほうが大きかった。

「じゃあ行くぞ、ナルディア。今日からお前は――」

 アーマッドがこちらを振り返り、少しだけ笑った。

「チーム・ラシードの仲間だ」

 その一言が、胸にどん、と落ちてきて。

 あたしは思わず頷いた。

「……はい!」

 巨大な格納庫の照明が、あたしたちを照らした。

 ここから始まるんだ。

 あたしの、“冒険者になるための一歩”が。

ここから、ナルディアの宇宙冒険者の研修生時代の話です!

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