表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

5.炎と水、混ぜるな危険

 静けさが戻ると、外から鳥の声が聞こえた。朝の光が差し込み、木の床に柔らかい模様をつくる。

 

 グンザがギンシュに問う

「おまえの頼みとはなんだ?」

 

 ギンシュはしばらく羽を休めるようにしていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。そしてグンザに答える前に、ルルへと話しかけた。


「ルル、と言ったな。人魚の娘よ」

「はい」ルルがまっすぐ答える。


「その胸に下げているのは、ただの石ではないな。それはなんだ?」

 声はあくまでも穏やかに、だがあらがうことのできない視線でギンシュが問う。


 ルルは一瞬、迷った。けれど、嘘をつける相手ではないと直感した。

「これは、青龍の宝珠です」


「青龍の――!」

 ギンシュが驚きの声を上げた。朱金の羽がわずかに震え、光を散らす。

「ただの石ではないと思ったが……だがなぜそれを」


「わたしの母が人魚で、青龍の娘なのです」

 ルルは胸の前で、そっと宝珠を握った。


 ギンシュの瞳が、かすかに光を増した。

「青龍の血脈……なるほど。ならば話しておくべきことがある」


 その声には、炎のような揺らぎと、どこか焦りが混じっていた。


「はるか南の島で、朱雀の炎が乱れている」


「朱雀って、あの“四聖獣”のひとつか?」

 ラウスが眉をひそめる。

「そうだ。南を護る聖なる鳥。紅蓮(ぐれん)の島と呼ばれるところに在る。炎を司り、青龍とは対をなす存在だ」グンザが低く補足する。


「青龍が水、朱雀が火。二つは相反しながら、この星を支えてきた。だが……その火が、いま乱れている」

「乱れてるって、どういう意味です?」岩尾が身を乗り出す。

「炎が暴れている。島が燃えているのではない、“朱雀自身が燃えている”のだ」


 ルルが小さく息を呑んだ。

「危ないの?」

「危ないどころではない。朱雀の炎は命の源。その炎が燃え尽きれば、この星は季節を保てぬ。冬が終わらず、春が来なくなる」


 ギンシュの言葉に、全員が息をのんだ。外では、まだ朝の鳥たちが鳴いている。だが、なぜか遠く感じる。


「なぜそんなことが……」

 ルルの問いに、ギンシュがゆっくりと首を振った。

「私にも、はっきりとはわからない。そして、朱雀の宝珠が“誰かに狙われている”のは確かだ」


「宝珠って……!」

 ラウスが目を見開く。

「青龍のときと同じだ! あいつら、EOの連中だろ!」

「イーオー?」ギンシュが首をかしげる。

「人間を滅ぼそうとしてる奴らです。宝珠を集めて、なんかヤバいこと企んでる」岩尾が補足する。


「……やはり青龍の宝珠も狙われていたのか」

 ギンシュが静かに頷いた。

「朱雀を守るためあるいは助けるため、私はグンザのもとへ助けを求めて向かっていた。だが途中で“獣人狩り”に見つかり、命からがらここまで飛んできたのだ」


「……獣人狩りに、何をされたんだ」

 ギンシュは少し息を詰めた。

「人間は灰を、欲しがった。不死鳥の灰は“永遠”をもたらすとかでな」

 穏やかな声の奥に鉄の匂いが混じる。

「まず脚を撃たれた。逃げられぬように。次に槍で――ここを」

 彼は胸の下を指でなぞった。ルルが癒したところだ。

「灰を得るには、焼き尽くすしかない。奴らはそれを知っていた」

 一瞬、瞳の奥が赤く光る。

「けれど、燃えるより早く、私は空へ落ちた。そしてなんとかここにたどり着いた」


 みなが押し黙る。

 ギンシュはゆっくりと息を吐き、落ち着いた声で言った。

 「そのことはもういい。人間など、そんなものだ。それよりも――朱雀のことだ」

 岩尾が痛そうな顔をしたまま黙りこむ。このなかで、人間は彼だけだ。

「朱雀を助けるため、グンザの力を借りたい。おそらく、そう簡単なことではないだろうが」


 グンザが深く息を吐いた。

「そういうことなら、話は早ぇな。力を貸そう。お前の戦いは、わしの戦いでもある」

「本当か……?」ギンシュが目を細める。

「おう。お前がここまで来た理由、無駄にはしねぇ」


「くう!不死鳥に助けを求められるヒグマじいさん、アツイぜ! 」ラウスが興奮している。

「じいさんは余計だ」じろっとにらむグンザ。

 

 「俺も行く! 朱雀っての、見てみてぇし!」ラウスが立ち上がった。

「見物じゃねぇぞ」岩尾が苦笑した。


 グンザが鼻で笑う。

「お前のそういうとこ、昔のわしにそっくりだ」

「つまり英断だな」

「いや無鉄砲だ」


 宗田が湯呑を置いて、静かに口を開いた。

「ルルさんは……留守番です」


「は?」ラウスが間抜けな声を出した。

「青龍の宝珠を、朱雀のもとへ連れて行くべきではないからです」

 宗田の声は穏やかだが、一切の感情がなかった。

「青龍と朱雀は、水と炎。お互いの均衡でこの星を保っている。その均衡を崩しかねない」

「じゃあ、宝珠だけ置いて行けばいいだろ」

「それも駄目です。青龍の血を引くルルさんが持っているからこそ、奪われないのです」


 ルルは小さくうなずいた。

「……わたし、行きたい。でも、宗田さんの言う通りです。青龍の宝珠を守るのが、わたしの役目だから」


「それでも置いてけねぇよ!」ラウスが食い下がる。

「置いてくしかない」グンザが言った。

「人魚の娘が火の山に行けば、身体がもたねぇ。水が恋しくなって、呼吸も乱れる」


 ルルが少し笑って、手を振った。

「大丈夫。すぐ帰ってくるんでしょ?」

「すぐじゃねぇ! たぶん長い!」

「じゃあ、その間に……青龍の湖に行ってこようかな。ちょっと、水が恋しくて」


 宗田が頷く。

「それがいいでしょう。人魚の血を持つ者は、水に触れていないと体調を崩します」

 グンザが思い出して言う。

「この近くにも湖があるぞ。ちと人は多いかもしれんが綺麗な水じゃ。昼飯の後にでも行って少し休んでくるといい」


「じゃあ、俺も付き合う!」

「デートですか?」宗田が平然と刺す。

「ちげぇよ! 護衛だ!湖視察!」

「顔、真っ赤ですよ」


 ルルは笑ってうなずいた。

「ありがとう、ラウス。行こう、湖へ」


 「ルルさん、肉球の押し方を伝授します。グンザ様、ちょっと手を貸してください」

「こうか?」「硬くてちょうどいいですね。ではルルさん、坊ちゃまだと思って手を握ってください」

「ちょっとなにやってるんだ! 」

「もしラウスがもふもふになったら抱いて戻りますから大丈夫です! 」


 岩尾が吹き出し、グンザが笹の茎を噛みながら笑った。

「若いってのは、ほんといいな」

 ギンシュがうなずく。

「この愛しい世界を守りたいものだ」


 その日、山の風は澄んでいて、木漏れ日がやけに眩しかった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ