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「警部」  作者: ジム・プリマス


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「警部」13~14 陳親父の町中華作戦


陳親父の町中華作戦


13

 公安室きっての中国語の通訳、坂東氏に依頼して、劉と非の尋問が始まったが、二人が組織の秘密をそう簡単に答える訳もなく、なにを尋問しても、二人はのらりくらりと答えをはぐらすだけで、らちが開かないという、無駄な時間が延々と過ぎるだけだった。

 二人にしてみれば、国際指名手配をうけて、生涯、監獄くらしなのだから、尋問にまともに協力するメリットなど、なにもないのだから、二人としては当然の態度と言えた。

 タバコなどの嗜好品を証言の取引に利用することも禁止されており、収監時の待遇に手心を加えることも公には禁じ手であることも加えれば、公安室側が提示できる交換条件は何もないのだから、こちらとしては、お手上げだった。

 最後の手段として、こちらが選んだのは、国際条約で許容されている、ぎりぎりの濃度で、二人に、自白剤を投与するという、法律すれすれの手だったが、自白剤を投与された劉は延々と三国志の話題を嬉々として話続け、それ以外は何も答えようともしないという状態だったし、非の方は、河南、河北地方にに伝わる拳法の英雄伝や,李書文の史実についての拳法史や、八卦掌の極意について、延々と持論を展開するという具合で、こちらも、まるでらちがあかない状態だった。


14

 状況を打開する手として私が選んだのは、坂東氏に耳打ちして、昼食時に二人の尋問を集中して、そこに立川の南海飯店の陳親父に頼んだ、とびきりの町中華を届けてもらうという手だった。

 とにかく二人の尋問態度がどうだろうと、一月の間、毎日、南海飯店のラーメンやチャーハンや中華の定食を出前にとり二人に提供すると、一月後には、二人は南海飯店の味に慣れてしまって、南海飯店の出前がないと居られない状態に陥っていた、そうなってから、二人の態度がだんだん軟化していった。

 公安室の坂東氏の尋問が見事さを発揮しだしたのは、それからだった。坂東氏の尋問に協力すれば、南海飯店の町中華にはあずかれるという図式に、押しつけがましくなく、見事な機微で、劉と非の二人を追い込んでいった。坂東氏の人情味がものをいうようになったのは、それからだった。

 最初はナノマシンの流通について劉がぽつぽつと証言し始め、洗脳の背景について、こちらが、ある程度の予測を立てられるようになるのに、半年の期間が必要だった。南海飯店の陳親父の町中華と、坂東氏の通訳と、二人の証言の、科学的検証を担当した科捜研の全面的なサポートがあってこその成果だった。


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