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「警部」  作者: ジム・プリマス


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「警部」 7~8 劉と非


劉と非


 安藤君には余計な色気(*1)は必要ないと釘を刺しておいた。非に喉を割かれて死んだ捜査官を私は2人、知っている。

 非は劉の用心棒で、八卦掌の達人であり、ナイフ使いのプロだ。その気になれば死人の束を簡単に築くような、そういうタイプの非常に危険な男だ。

 劉と非の二人組を発見したらスタンド・アローンAIドローン(*2)での上空からの遠隔追跡がセオリーだ。一般の警察官が相手をするには二人は危険すぎる。スタンド・アローンのAIパグズ・ドローン(*3)は流石にまだ開発されていない。

 ブルー・ドラゴンの幹部の肖像データは、量子ハッキング(*4)されており、情報ネットワークに繋がった防犯カメラの映像データは、瞬時に量子ハックされ消去される。つまり防犯カメラに写ってもその情報は存在しないことになるので、防犯カメラの情報は使えない。  

 あとは警邏課のバイク係が使っているようなデーター記録式カメラの映像に頼るしかない。機知の功あれば、機知の敗ありということだ。

 安藤君に映像データーのAI吸い上げを頼んでいたのだが、今回は空振りに終わったようだ。明日以降にかけるしかない。映像データの吸い上げは、これからは毎日、続くことになりそうだ。


 ブルー・ドラゴンの流す人口大麻製剤の何が問題なのかというと、既成の大麻タバコの半分の値段で買える。何の変哲もない白い錠剤で、それでは儲けがない、ただのジェネリック製剤と変わらない。

 問題なのは、こいつに全部ではないところが、余計に質が悪いのだが、ナノマシンが混入していることがある。

 これが脳内の神経組織に定着しまうと、その人間は、特定の、発症要因を揃えてやり、その上で、特定の資質を備えた、組織のプロデューサーと呼ばれている人間から、命令されると、その言葉に逆らえなくなり、その言葉を妄信してしまうことになる。

 それで市井のオッちゃんや、兄ちゃんが、組織に都合の良い、重大な犯罪や、凶悪なテロを、引き起こしたりすることになり、調べてみると脳内からナノマシンが発見され、誰に指示されて犯罪を起こしたとか、プロデューサーに関することは何も覚えていないことになる。

 組織とのつながりは、人口大麻製剤を買ったこと以外は何もないということになる。

 ナノマシンに感染した相手を、組織がどのようにして特定するのか、発症の要因が何なのか、プロデューサーに必要な資質とは何なのか、すべては霧の中だ。

 そもそもの、この話の、ソース自体が、刑務所の噂話だということだ。公安警察として手の打ちようがないというのが正直なところだ。


(*1)余計な色気

 容疑者を捕まえようと考えること。

(*2)スタンド・アローンAIドローン

 ネットワークから切り離されており、それでいながら独立思考することが出来るドローン。

(*3)スタンド・アローンのAIパグズ・ドローン

 この場合は、ネットワークから切り離されており、それでいながら独立思考することが出来る、昆虫型の小型ドローン。そのように都合の良いものはまだ、開発されていない。

(*4)量子ハッキング

 任意の肖像データーなどを、一度、量子ハッキングされると、そのデーターはネットワークには知覚さ れなくなってしまう。そういう目的のハッキング全般のこと。


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