「警部」3~4 霞君
霞君
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霞君が私の元へ配属になってから、もう半年になるが、まだ、時々、気を抜いて隙を見せるところがある。美しく、聡明で、頭脳明晰な優秀な捜査官ではあるが、銃の扱いに関しては、まだまだというところだ。しかし、こういった少しの隙が、実際の捜査では命取りになることが、まま、ある。まあ、まだ若いし、経験不足なのは否めないところだろうか。
うちの部は、使用する銃器やホルスター類に一切の規制がない、もちろんそれは、私がこの部に配属されたときに、本庁に強く申し入れをした結果、しぶしぶ許されたことなのだが、霞君に好きなものを選べと言ったら、彼女はマテバの6インチとクロスドロウホルスターの組み合わせを選んだが、勿論、私は許可しなかった。
動作が確実なリボルバーに、ケース式カートリッジの選択には、納得させる根拠はあるのだが、マテバには致命的な欠陥がある。マテバはエキストラクターのカートリッジ排出距離が短すぎるのだ。カートリッジの5分の1くらいの距離しか排出出来ない。
38スペシャルのような弱装弾だけ撃つのなら良いのだが、357マグナムなどの強装弾を撃つと、発射時の高圧ガスでカートリッジのケースは膨らみ、ケースはシリンダーに張り付き、弾を素早く、交換しようとすると、空ケースがシリンダーから抜けなくて、難儀をすることになる。
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私と同じSIG-M2057の6インチ10mmを薦めたが、彼女の手にはグリップが大きすぎるので、ホーグのカスタム・グリップを薦めた。ホルスターもクロスドロウではなく、ハイウエストの無難なものに変えさせた。
クロスドロウホルスターは抜きやすいが、接近戦の場合に、敵に銃を奪われやすい。彼女は、最初、上着を跳ね除けて、腰の後ろの高い位置から、銃を抜くのに四苦八苦していたが、ゆっくりと確実と銃を抜くように指導してゆくうちに、腰から銃を抜くことに、すぐに慣れてしまった。
霞君が来て、この事務所に腰を落ち着ける前は、私は都内の分署を転々としていた。因果なものだなと当時は思っていたが、それが今にして役に立つこともある。大概の分署には顔見知りがいて、それが捜査の役に立つことが多いし、色々と情報も得られる。
本庁の警部が分署に立ち入るなどということになると、普通なら相当の抵抗があるもので、原始的な意識らしい、この縄張り意識というものは難しいものだが、顔見知りが一人いるだけで、分署に立ち入る時、随分、やりやすくなる。捜査がらみとなると尚更だ。
私のところは独自の機動性を認められてはいるものの、絶対的に人数が少なすぎる。分署の協力がなくては、捜査もままならないのが正直なところだ。機動隊の出動やSAT’や狙撃部隊にも出動を要請するくらいの権限は認められてはいるものの、分署の理解がなくては、速やかに動くことが出来ないものだ。