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姉からの手紙

作者: 瓶覗

 朝起きて寝ぼけ眼のまま新聞を取りに行ったら、手紙が一通ポストに入っていた。

 封筒の表には俺の名前だけが書かれている、不思議な手触りの封筒。ひっくり返して送り主を確認すると、予想通り姉の名前が書かれている。

 不審物じゃないことが確認できたので手紙と新聞を持って家の中に戻り、眠気覚ましにコーヒーを淹れてから椅子に腰かけた。


 ずず、とコーヒーをすすって、新聞を横に避けて封筒を開ける。

 最初は適当に手でびりびり開けていたが、最近ではペーパーカッターで綺麗に開けるようになった。

 姉ちゃんからの手紙はそこそこの頻度で来るので、貰い物のペーパーカッターは大活躍である。ありがとう誕プレにこれをくれた友人。景品で当たったその日がちょうど俺の誕生日だったからと貰ったが、これは良い物だぞ。

 なんて思いながら開いた手紙の一枚目に視線を落とす。


『おはようございます我が弟。姉ちゃんは元気です。相も変わらず、うるせぇ外野を黙らせながら気ままな日々を送っています。

 前回の手紙で夢のマイホームを作るための土地探しをすると書いたと思いますが、まだいい土地は見つかっていません。そう何度もマイホームを建てることはないでしょうし、せっかくなら妥協無くいい土地を見つけたいので、姉ちゃんは今日も頑張っています。

 やっぱり、買い物に行きやすくて、でも人通りが多いところからは外れていて、治安が悪くなくて、庭で広めの家庭菜園が出来て、うちの可愛い四メートル超えの猫ちゃんたちが遊べる庭があって、泳げる水質の池か湖が近くにあって、うちの可愛い全長五メートルを超える蛇ちゃんたちの家になる洞窟が近くにあって、可能であれば近くに温泉が湧いていて、転移門の近い場所、という条件は欲張りすぎなのでしょうか。

 でも、せっかくマイホームを作るのなら夢は盛り込めるだけ盛り込んだ方がいいし、希望はあればあるだけいいと思うので、姉ちゃんは諦めません。じっくりしっかり、うちの子たちも納得の土地を探したいと思います。』


 やっぱりまだ土地は見つかっていないのか。

 姉ちゃんは昔から凝り性で、納得いくものを見つけるまで妥協はしない性格だったから、そう簡単に場所を決めることはしないだろうと思っていたのだ。

 水辺を二つ求めているのも、捜索が難航している原因だと思う。泳げる湖と温泉ならどっちの優先度が高いんだろう。温泉は出来ればって書いてあるから、泳げる湖だろうか。

 池か湖と書いてあるけれど、川は駄目なんだろうか。流水は駄目とかの基準があるなら、やっぱり理想の土地に出会うのは難しそうだ。


『土地を探して各地を再度回っているのですが、なにやらまたしても面倒ごとに巻き込まれてしまっています。迷子の子を探すくらいであれば私も素直に手伝いますが、オークの群れに占拠された村についてはちゃんと町の守衛さんなどに話を通してほしい、と常々思っています。

 私が通りかからなかったらどうするつもりだったのでしょうか。

 というか、この地のオークは私が前回通過した時に軒並み倒したと思っていたのですが、どこに残っていたのでしょう。不思議ですね、この世界はまだまだ私の知らないことで溢れているようです。

 ちなみにオークはしっかり倒しましたよ。私を見るなり微振動が止まらなくなっていましたが、何か普通のオークとは違う種類だったのでしょうか?』


 これまでの手紙で姉ちゃんが倒したらしい色んなものの話が出てきていたが、今回またオークが出てきた。でっかい豚っぽい二足歩行の魔物、だと前に届いた手紙に書いてあったはずだ。

 姉ちゃんは前の手紙でオークの事を、女の敵なので見つけ次第狩りつくそうと思います、と書いていたから、今回もしっかり根こそぎいったんだろう。

 姉ちゃんは凝り性の綺麗好きなので、しっかり端から端まで掃除をするタイプだ。草むしりも、根っこからしっかり除去するタイプである。


『オークの他にもあれこれ倒してくれと話を持ってこられましたので、安全に直結しそうなものはさっさと倒し、残りはその土地の兵士さんたちと一緒に倒しに行きました。

 やっぱりいつまでも余所者である私に頼りきりではいけませんからね、次世代を育てるのは大事な事です。あと、この土地に通りかかるたびにこうして魔物討伐で足止めを食らうのは面倒です。

 今回はついでに、結婚詐欺を働いた不届き者を捕まえたり、結婚式の支度を手伝ったり、巨大な魚料理を作りたくなったので森の中の池に潜むというヌシを釣り上げに行ったりもしました。ヌシはうちの可愛い猫ちゃんたちと同じくらいの大きさで、つまりは四メートルほどあるかな、といったサイズ感だったのですが、味は繊細で美味しかったですよ。ふわふわした白身でした。

 大きいだけあって猫ちゃんたちもお腹いっぱい食べられたので、またどこかで釣りをするのもいいかもしれませんね。』


 姉ちゃんが旅している土地にいる生き物は軒並み大きいらしい。

 最初に猫が四メートルを超えていると聞いた時には流石に嘘だろうと思ったのだけれど、何度目かの手紙で巨大な肉球スタンプが同封されていたので本当らしいと理解した。送られてきた肉球スタンプは額に入れて飾っている。あの肉球の主は、回復担当スティアちゃんというらしい。白い長毛の美人さんだそうだ。

 姉ちゃんは昔から可愛いものは大きければ大きいほどいい、と言っていたから、でっかい猫ちゃんたちを溺愛していることだろう。手紙からも時々その様子が伝わってくる。


『土地を探しつつ通り抜けるだけのつもりだったのですが、私が来ているというのがどこからか伝わってしまったらしく、王様に会いに来いと言われてしまったので王城にも行ってきました。相変わらず綺麗な城でしたよ。

 前に来た時には問題になっていた内部の腐敗は大分取り除き終わって、大掃除もそろそろ終盤なんだそうです。ちょうどいいときに来てくれた、と言われて嫌な予感がしたので、あの時逃げるべきでしたね。また面倒な仕事を手伝わされてしまいました。報酬は美味しかったですが、王城関連は軒並み面倒くさいのであまり関わりたくはありません。我が弟もその辺気を付けてくださいね。』


 姉ちゃんは知らない土地の王様とも仲良くなったようだが、こっちはそんな気軽に王様に会うことはないから安心してほしい。姉ちゃんも生まれ育ったこの地では、テレビ以外で王族見た事ないだろう。

 やっぱり感覚が向こうに染まってきてるんだな、と一人小さく頷いて、コーヒーを一口飲む。

 姉ちゃんがいつのまにやら姿を消してしまって、こうして住所も書かれておらず切手も貼っていない手紙が届くようになって早数年。元気そうだからいいけれど、やっぱり里帰りは難しいんだろうか。


『王様からのクエストをこなした後は、次の面倒に巻き込まれる前にと、ちょっと人里から離れたところに足を延ばしてみました。

 やっぱり温泉と言ったら火山ですからね、ちょっくら火山に登ってみたりもしたのですが、温泉はあるけど流石に不便だし、噴火の可能性があるのは治安が良くないと言い換えてもいいのでは?と思ったので、マイホーム候補地にはしませんでした。

 やっぱり火山には時々温泉に浸かりに来るくらいがちょうどいいですね。ついでに大量の温泉卵も作ったので、しばらくご飯のトッピングには困ることがなさそうです。』


 流石姉ちゃん、温泉といったら温泉卵だよなという我ら姉弟の共通認識は、今も変わっていないらしい。特に姉ちゃんは何かにつけ温泉卵をトッピングにする人だったから、相当な量を作ったんだろう。

 手紙で読むだけでも食べたくなってきた。朝ご飯に作るのは面倒だから、昼ご飯に温泉卵をトッピングにする何かを作ろうかな。


『温泉卵を作るついでに火口まで行って、久々に武器の錬成もしてきました。今回の剣は中々いい出来です。これなら早々折れることはないだろう、というひと振りが出来ましたよ。防具も作ろうかと思ったのですが、防具は今使っているものが大分いい感じだったので良しとしました。あと、火口は流石にあっついのでさっさと移動したくなったので。

 火口でこれでもかと温まってしまったので、その後は一気に海まで移動しました。空を移動すると楽ですね、土地探しが出来ないので今回はずっと陸を移動していましたが、目的地が定まっているのならやはり空です。

 そんなわけで海まで行って海水浴を楽しみましたよ。温度差がすごかったです。これが整うということなのでしょうかね。』


 火山から海まで移動している間に熱は冷めていそうなものだけれど、保ったまま移動したんだろうか。

 姉ちゃんの移動手段は多岐に渡るから、もしかしたら空を飛ぶというのは比喩で、一気に移動できるものがあるのかもしれない。

 あとはそうだ、姉ちゃんの巨大なペットたちの中に、移動を手伝ってくれるのだという子もいたはずだ。あの子は何ちゃんだったか。たしか、マフちゃんだっただろうか。


『せっかく海まで来たし、海の見えるおうちというのも悪くはないかなと思ったので周囲を探索してみたのですが、いい土地は見つかりませんでした。残念です。

 しかし、私はそこでひとつ思いつきました。どこかの無人島を開拓するのも、ありなのではなかろうか、と。我ながら天才的な思い付きだったと思います。

 転移門さえ設置出来れば、買い物問題は解決します。島ならば面倒な隣人もいません。きっと。島に住んだことないので、詳しいことは分かりませんが。

 そんなわけで、姉ちゃんはこれからしばらく船に乗って海の旅をしてみようと思います。

 いつぞやにやたら立派な船を貰いましたからね、あれをずっと停泊させたままにして、全く使わないのもなぁと思っていたので、ちょうどいいタイミングだったのだと思います。前に航海した時にアーオリオ海のクラーケンは倒してあるので、きっとそこまで面倒なものはいないでしょう。

 人魚さんたちにもまた会いたいので、気が済むまで海を楽しもうと思います。』


 姉ちゃんは元々アクティブな人だから、山にも海にも遊びに行っていた。

 なので唐突に海を進み始めるのも、全くおかしくはない。そうだ。姉ちゃんが中学生、俺が小学生だったあの頃、夏休みに唐突に思い付いて二人で電車を乗り継いで海に行ったこともあった。

 それを思えば、唐突な船旅開始も姉ちゃんらしいなと笑えるというものだ。


『人魚さんたちとは、以前海で初めましてした時に、彼女たちの歌に合わせて踊ったソーラン節が大変好評をいただきましたからね。毎度同じでは芸もないので、今回はよさこいで参戦しようと思います。

 どじょうすくいと迷いましたが、どじょうすくいは次回にするとしましょう。しばらく海にいるでしょうし、人魚さんたちとも何回か会うことになると思いますので。次回案、次々回案など考えておいて損はないはずです。

 さて、それでは私はこれから船のあるガリャヌの町まで移動しますので、今回はこの辺りで。

 そちらが何月になったかは分かりませんが、夏なら夏バテに気を付けて。冬なら引きこもり過ぎて運動不足にならないようにしてくださいね。

 以上姉より、近況報告でした。』


 追記がないことを確認して、読み終えた手紙の順番をしっかり確かめながら畳みなおし、封筒に入れる。

 手紙はいつも通り、箱の中に入れておく。姉ちゃんから届いた手紙は全てここに入れてあるのだ。

 そして、小文便せんを取り出した。普通の便せんでは大きすぎて届かないが、これなら姉ちゃんのところに届くらしい、と前に発見したので用意してあるのだ。


『姉ちゃんへ。こっちは春です。俺は今年花粉症になりました。辛いです。弟より』


 便せんを乾かしている間に、小文便せん用の小さな封筒に宛名として姉の名前を書く。

 裏にはしっかり自分の名前を書いて、便せんを半分に折って封筒に入れた。

 これを机の上に置いておくと、いつのまにやら消えていて姉ちゃんのところに届く……こともある。


 消えていても姉ちゃんの手元に届かないこともあるらしく、届くかどうかは運だ。

 まぁ、住所も書いていないし、切手も貼っていないからな。配達が不安定なのも仕方ない。時々でも姉ちゃんに届けてもらえるだけでも有難いのだ。

 そんなわけでしっかり返事も書いたので、コーヒーを飲みつつ新聞を読むためにリビングに戻ることにした。朝ご飯も食べないと。姉ちゃんは今頃、船の上で魚を捌いているんだろうか。

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― 新着の感想 ―
ご無沙汰しております。 ……エラいアクティブなお姉さんですね。(^◇^;) ネット怪談に登場する『伝説の最強姉』を思い出してしまいました。達観している弟君も何げに凄いです。お姉さん、何処の世界に飛ば…
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