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彼女の上からおり、自室の扉の前まで歩く。
扉を開ける前に振り返り、歩いて此方へ来ようとする彼女に命令を下す。
「Crawl。こういうのが大好きなんでしょ、変態さん」
わざと彼女の羞恥を煽るような言い方をして、楽しませてあげる。今の彼女は私の可愛い飼い犬だ。こういうサービスもしなくちゃいけない。こうやって彼女を満たして、私じゃなやもの足りなくなるよう体に覚えさせる。彼女が私から逃げられないように縛っておくのだ。
「酷いね」
口では文句を言いながら後ろで揺れる尻尾が見えそうなほど、楽しそうにハイハイで歩いてくる。本当にこういうことが好きらしい。変態さんだ。生徒会長がこんなに変態だなんて知らなかった。
ただ私も人のことは言えないらしい。私だって興奮している。学校では完璧な美少女に命じている。しかも犬のように四つ足で歩かせている。征服欲が満たされていくのがわかる。これはDomの性なのか、はたまた私の趣味なのか。考えるのは少し恐ろしい。
今は目の前のSubを可愛がることに集中しようか。私の前でおすわりをしている健気な彼女を褒めてあげなければいけない。
「ちゃんと来れたね。いいこだね」
綺麗に整えられた髪をくしゃくしゃとかき混ぜるように撫でる。ボサボサになっても彼女はかわいい。学校は終わっているからこの後誰かに会うこともないだろうが、気に入らないなら後で整えてあげればいい。
手を頭から頬へすべらせると擦り寄ってきた。猫のようでとっても可愛らしい。あまりの可愛さに少しいたづらしたくなってしまった。
「いいこだけど、黙ってなさいと言ったよね」
しゃがんで目線を合わせる。両手で顔を挟んで余所見できないようにする。口をはっきり大きく動かして、彼女の体中に行き渡るように言葉を注ぐ。
「悪い子にはお仕置きしないとね」
自室への扉を開ける。部屋の電気をつける。彼女を招き入れる。もちろんハイハイのままだ。部屋の様子は前回と変わらない。いつも通りの殺風景な部屋だ。
「伏せて。あ、お尻だけあげてね」
カーペットの上なので冷たくはないだろう。スカートからパンツが見えそうになっているが気にしないでおこう。四つん這いの方がよかっただろうか。だがこのお尻だけを突き出した体勢の方が折檻の感じが出る。そのほうが盛り上がる。こういうのは形式や雰囲気が大事なのだ。どれだけ興奮を煽れるかは細かい体勢は触れ方に出る、と私は思っている。
「そのまま動いちゃだめだよ」
私は彼女をその状態で放置したまま身支度をする。暖房をつける。持っていた鞄を机の横におろす。コートをハンガーにかける。服を脱ぎ、部屋着に着替える。脱いだ服を洗濯機に入れる。彼女の荷物を部屋に持ち込む。
これら全てを見せつけるように行ってやれば彼女は居心地が悪そうに目線をぐるぐると動かしている。それでも姿勢を崩さず罰を待つのが可愛らしい。
「お待たせ。ちゃんと罰を受け止められたら、たくさん褒めてあげるから、頑張って」
彼女の体が期待で揺れている。欲しいのは罰か、ご褒美か。きっと両方だろう。だって彼女は躾けられたい人。痛みをも利用して体に染みつくほど教えられて、そしてどんな少女漫画にも負けないくらい甘やかされるのが好きなのだろう。
ならばそれに応えてあげるのが私の役目。彼女の隣に座り、右腕だけ袖をまくる。
「いっかいめ」
手を振り上げて彼女の尻を叩く。スカートの上からだが、それなりに痛いだろう。だがそれ以上に羞恥がありそうだ。お尻を叩くなんて小さい子にするような、典型的なお仕置きだ。だからこそ、痛みだけでなく羞恥も加えられる良いお仕置きだと思う。
「にかいめ」
「い゙い゙っ──」
彼女から濁った呻き声が聞こえる。本当に痛そうで嫌そうな声だ。きとんとお仕置きできている証拠だ。心が満たされる。ずっと聞いていたくなる。今度は録音してもいいかもしれない。
あるかどうかも微妙な次回の算段をしていたら彼女ににらまれた。羞恥に頬を赤くし、目を潤ませている。本当に可愛らしい。
可愛らしいSubのご機嫌をとるためにも、次からはテンポよくいこう。
「さんかい、よんかい、ごかいめ」
「い゙だい、い゙だいよ」
「ななかい、はちかい、きゅうかいめ」
「ごめんな、さい──いい゙っ!」
彼女は顔を涙と涎で濡らしながら、悲鳴をあげていた。いつものお綺麗な顔をぐちゃぐちゃにして振り回す様は本当に可愛らしい。自分で望んだことなのに、逃げようとする彼女があまりにも愚かで、哀れで、愛おしい。
「これで最後だよ。じゅっかいめ」
最後にいっそう勢いをつけて叩いたら罰はおしまいだ。
彼女はより大きな悲鳴を上げて、カーペットに突っ伏しうごかなくなった。お尻を突き出した体勢のままなのが少しおもしろい。あんなに恥ずかしがっていたのに。今はそんなことを気にする余裕もなく呼吸を整えている。きっとスカートに隠れた彼女のお尻は赤く染まっていることだろう。可愛くって仕方がない。テンションあがっちゃう。
ベッドのほうへ行き、座って何度か深呼吸をする。落ち着きを取り戻してから彼女を呼び寄せる。
「来て」
彼女は四つ足で歩いて私の元へきて、ぺたんと座った。ご褒美を求めて上目遣いで私をみつめる目が愛おしい。ぽんぽんと頭を撫でると嬉しそうに目を細める。こうした所作が猫のようで可愛らしい。
「ちゃんとお仕置き受けれたね。よくできました」
私は彼女を抱き寄せてキスを降らせる。
キスにはする場所によって一つひとつ意味があるらしい。
髪の毛へのキスは「愛おしさ」を込めて。鼻へのキスは「大切にしたい」という宣言も兼ねて。喉へもキスを落とすのは「執着心」があるから。
彼女に伝わるかはわからない。賢そうな彼女なら知っているかもしれないが、期待しないほうがいいだろう。これはただの自己満足で、次の一手のための雰囲気作りだ。それに大事なことは言葉にしたほうがいい。
指先で唇を撫でてから、本日最後の命令をする。
「ねえ、貴女はこれからどうしたい? 教えてちょうだい」
「私は普段ならもっとかっこいい優等生だったの。貴女が悪いの。貴女が私を変にしたんだ。だから……責任とってよ」
目線を逸らして、最後のほうは恥ずかしそうにぼそぼそと呟かれた言葉に心が躍る。可愛いにもほどがある。私が貴女をおかしくした? そんなのお互い様なのに。私だって本当はこんな悪い子じゃなかったはずだ。
でも今はご褒美のターン。責任とってやろうじゃない。
「|教えてくれてありがとうね《Good girl》」
彼女の唇にキスを落とした。
私の、私だけの可愛らしいSub。責任取ってパートナーになってあげる。