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Case File1  作者: 安原颯
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野宿とホテルと女子高生

火種が煙草を燃やしている。

俺はこの少女の依頼を引き受けることにした。

手紙の送り先と、その内容。

あまりにも手掛かりが無さすぎる。

通常の業務であれば、ある程度、調べる内容は決まっている。不倫調査であれば、対象者のスケジュールは把握できた状態で行う。後は、尾行をして逢瀬の瞬間をカメラに収めるだけだ。それ以外の依頼でも法律に則って行わなければならない点を除けば大したことではない。

話を聞く限り、この少女が追える範囲であれば限りなく限界まで調べたらしい。正直、そんな状態から赤の他人が調べた所で、何か見つかる気もしないんだが…。

金には勝てなかった。うん、こればかりは仕方ないよね?

まぁ、一度やると言ったからには本気でやらなければならないな。

とは言えだ。

もう夜の1時を過ぎている。

今日はもう疲れた。

しかし、ここに一人、疲れ知らずの若者が居た。

「久崎さん、今日はどこから調査するんですか?」

何でワクワクしてるんですかあなた?

「いや、今何時だと思ってるんだよ。ガキはおしめでもつけて寝る時間だ」

「なぬ、私を何歳だと!?」

「何才だろうがどうでもよいが、ガキは早くマンマの所で寝てろ」

「母は4年前に病気で亡くなったんですが」

「なんかごめんなさい」

Oh…

見事なまでの地雷だったか?

こうも簡単に地雷を踏むようでは紛争地帯には行け無さそうだな。

と、あれこれ考えていたが別に気分を害した様子は無かった。よかったよかった。

今後はきおつけよう!

「まぁ、兎に角だ、今日はもう遅い。俺も眠い。明日以降から始めよう」

「いやぁ…。私も寝たいんですけれどね。実は、もう終電、逃しちゃいました♡」

「安心しろ、すぐそこにホテルがある」

千里さん、天然かは知りませんが、そういうことを簡単に言うものではありませんよ。

因みに♡は俺が脳内補完させました。え、そういう意味だよね違いますねごめんなさい。

「それがですね!ここに来る前に予約を取ろうとしたんですけれども、どうやら満室だったらしく。喫緊の問題は今日の宿探しなんですよ…」

とほほ…という声が出そうな表情である。

ぼう国民的アニメだったら、ナレーションとともに後半へと続くだろう。

しかし現実には、一日のアディショナルタイムに突入している。

「え、まじでどうするつもりなの?野宿するの?だったら病院沿いの川の土手がおすすめだぞ。俺もやけ酒したときはあそこで寝てるし。あ、でもたまに居る青姦バカップルの声がうるさいから気をつけてな」

「いや、乙女に野宿を勧める人が何処にいるんですか…。鬼ですね。というかそんな輩が居るんですね…」

上目遣いの女の子は好きですが、その視線は辞めてください!

「この辺は大学も多いからな。特にそこの通りを真っすぐに行った先にある、私大の学生はゴミだ。産業廃棄物以下。まじでたまに殺したくなる」

「何をされたのかはあえて聞かないようにしますね…」

あそこの学生、まじで酒とセックスしか考えてない猿以下なんだよなぁ。大学生になって羽を伸ばしたいのは分かるが、ちんこまでは伸ばすなよ。

「因みに、ここに泊まってはダメなんですか?」

「何があっても訴えない自信があるならいつでもウェルカム」

「やっぱやめときますね」


さて、宿をどうするか。

山郷女史のリクエストで紅茶のおかわりを汲みつつ、そんな事を考えていた。

うーん、可能性があるとしたらあそこか。

「一件、安全して泊まれる場所がある」

少女の元に、ティーポットを持っていく。

ありがとうございます、という笑顔とともに、彼女は言った。

「え、マジですか!帝国ホテルですか、阪急系ですか!?いや~、迷っちゃうなぁ」

「んなわけねぇだろ」

ティーポットを乗せたおぼんで頭を軽く叩く。

「ちょっとレディーに何するんですか!」

「痛くねぇだろ別に。アホな事言ってないで、早く準備しろ」

「え、行くってどこへ」

「君のおもりをしてくれるところだよ」

とは言え少し待つことにした。俺の汲んだ紅茶を美味しそうに、急いで飲んでくれたからだ。

今後は紅茶を飲んでいる人間を急かすのは辞めよう。

舌を火傷した彼女が俺に紅茶を吐き出してくれたからだ。

このクソガキィ、後で請求書に汚れたシャツ代も載せておこう。

精神的苦痛も込めて10万くらいかな。


「あの…。ほんとすいませんでした…」

俺のシャツを台無しにしたクソガキがこれで七度目の謝罪をしてきた。

「いや…もういいって。謝られる事に疲れた」

スーツを脱いでおいたのは不幸中の幸いだった。

六度の謝罪を受け流しながらシャツを着替え、彼女と共に事務所を後にした。

そしてこの七度目の謝罪である。

「後で弁償しますね」

「女子高生の唾液が含んだシャツなんて貴重だろ。今度、フリーマーケット?とかいう奴に出品してみるわ」

「お願いですから辞めてください。後、めちゃくちゃキモイです。ちょっと殺意が湧きました」

うん、発言した俺としてもめちゃくちゃキモかったです!

今後は女性にセクハラ発言は辞めておこう。

「じゃあ、シャツの件と今のセクハラ発言でおあいこということで!」

「あまりにも俺が損をしているんだが…」

煙草をふかしながら目的へと向かっている。

昨今では歩き煙草への警鐘が鳴らされている訳だが、こんな夜くらい許してほしい。

誰も居ない、凍える寒さの中、そんな中で一人吸う煙草というのが一番うまい。

事務所を出て、正面にある通りを左手に進むと、十字の交差点がある。この交差点を二つ渡った通りを少し歩いていくと目的の喫茶店がある。多く見積もっても徒歩10分以下といった所だろう。

「ここだ」

わんコーヒー。

ふざけた名前の喫茶店、俺の第二の勤務先であり、今晩の少女の格安ホテルである。

「わんコーヒー…?喫茶店ですか?」

「ああ、兎に角入るぞ」

シャッターの奥から微かな光が漏れている。

この喫茶店を一階に備えている、西洋風の、今では少し時代遅れになってしまった六階建てのビルの左手の入り口から入る。

右手に喫茶店の入り口を要している為、こちらから入るとバックヤードと言うことになる。

少し緊張した面持ちをしている少女を連れて、ドアを開ける。

いつもは重いはずの金属製のドアであったが、今は聊か軽く感じた。



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