第九話:到達トロイア砦
ザードロオから砦内での出来事を聞いたセルニカ兄弟はそのまま雷馬車の中で4、5時間揺られ、トロイア砦が地平線の先に見える場所までやって来た。
「あれがトロイア砦であるか!」
ルーセルが雷馬車から身をのりだしながらそう言う。
ザードロオも頷きながらそれを肯定した。
「ところでザードロオさん、この先魔物の密度が更に濃いけど、本当に任せていいのかしら?」
そういえば、砦に行く道すがらにも魔物が多く居た、だがそこは流石ライボルト王国の騎士であった!
迫り来る魔物をねじ伏せて見せたのだ!
それを見ていれば心配など要らぬと思うが……
確かに魔物の密度も確かに上がっている、ミカは配慮を怠らぬな!
「無論であろう!我らライボルト王国騎士団は最強であるからな!」
ザードロオはその言葉を更に肯定するように、彼らの載る馬車へ飛びかかる魔物を魔法で打ち落とした。
そこからしばらく雷馬車の軍団は進み、雨の如き足音を立てトロイア砦との距離を残り300mまで縮めていた。
その時、軍団100m前方で地面が隆起し軍勢を地下へ誘うトンネルが出現した。
「全軍突撃!!」
ザードロオの一声により、すべての騎士が迷いを捨てトンネルへと侵入する。
トンネル内部は馬車が通れるギリギリの高さと角度で作られた坂道で、もはや転げ落ちるような速度でその中を突き進む。
更に下へ下へと突き進む、そしてその坂は徐々に徐々に角度を緩め完全に平坦になったタイミングで大きな空洞へと到達することとなった。
「全軍停止!!」
馬車を引く雷馬達が思い切り踏ん張り、全軍は無事に停止した。
ザードロオは馬車から颯爽と降り立つと、空洞に響く大声でゴードンの名を呼んだ。
「来たか!ザードロオ!」
浮遊する巨大な石板へと乗りゴードンが下から上がってきた。
ほう…自らの操る石板に乗り移動とは!
なかなか面白いではないか!
ゴードンはその石板から降りてザードロオ達の居る地面へと足を着けた。
「随分と複雑になったではないかこの洞穴は!!」
「少しでも士気を上げるため試行錯誤してたんだ、それより、物資は持ってきたんだろうな?」
「当然である!積み荷は何処へ運べばよい?」
「そうだな…ここに積んでくれ。」
ゴードンは乗ってきた石板に手をかざし、
それを巨大な石の籠へと変えた。
トーマはそれを見ていち早く騎士達へ指示を出し荷物をそこへ積み込みはじめ……
「待って。」
と、そこで馬車から降りたミカが一声掛けた。
そのままトーマを呼び何かを耳打ちすると、トーマはそれを了承、荷物は石の籠では無く馬車の荷台前に下ろされるにとどまった。
ザードロオ含めライボルト王国騎士団の面々は不思議そうに作業を進めると、荷物の取り出しを終えた一つの馬車へミカが近づいた。
「セレクト、グラブ。」
馬車から取り出された荷物は物資のパンパンに入った箱が大半、総重量は軽く100kgは超えていそうだ。
だがミカなら関係ない、その荷物は枠で囲われると、ミカの手の動きに合わせ浮き、
そのまま石の籠へ荷物が置かれた。
「「「「おぉ!」」」」
意図を理解した騎士達は嬉々として荷物を取り出し、ミカは手際よく荷物を籠へ放り込む。
ものの数分で1トンはあろうか荷物は籠へ纏まった。
「いいね、それじゃあ全員これに乗ってくれ。」
その石の籠の隣に同じ程の大きさの籠を作り出した。
ザードロオとセルニカ兄弟含め騎士達はそれに続々と乗り込み始める。
全員の搭乗を確認したゴードンはその籠をさらに深い地下へと下ろした。
その地下降りる道中はゴードンの建築工学に基づいた耐震補強が施された壁を眺めていた。
「おぉ!急造でここまでの物を作り上げるとは!!」
目的の場所は先程の地点から20mほど降りた地点。
そこは大きな円形の広場を囲むように大量の土製簡易個室が作られていた。
ルーセルら騎士達はその大きな広場の中央へ降り立ったのである。
「それじゃあ君、また頼んでもいいか?」
ゴードンはミカの肩に手を置きながら言った。
ミカはそれを承諾すると、ゴードンの指示に従って、荷物を指定の場所へ運んでいく。
今度は指定場所がバラバラでそれぞれ遠いためミカでもかなり時間がかかりそうだ、それを察したルーセルら騎士達は恐るべき連携でミカに負けず劣らずの運搬速度を見せた。
「すげぇ!」
「ナイスだ!」
「ありがとう!ライボルト!」
「おっシャア!これで勝つる!」
「ザードロオ、要人を集めろ、会議の時間だ。」
残存騎士達は首を30°……
更に45°…………
90°と回す………………
感謝声援を送る残存騎士達の後ろ、そこにミスリクスは静か~にたたずんでいた。
ミスリクスはそのまま固まる残存騎士達を掻き分け、荷物の運搬をほとんど終えた石の籠へ近寄る。
「うむ!いいだろう!ルドット、ミーガン、トーマ!着いてくるが良い!」
「わかった!」
「ええ。」
二人はザードロオの下へ集まる、ミスリクスがそれを確認すると、踵を返し来た道を戻っていった。
そして彼らに聞こえないような小声で一言、
「ルドット……やつが例の騎士か……」
───とある簡易個室───
「それではこれより、対イフリート攻略会議を始める。」
「「はい!」」
「承知致しました。」
「うむ!」
「ちょっと待て。」
この部屋の中で唯一ゴードンだけが異議を唱えた。
「なんだゴードン。」
「いや流石に狭くないか?」
「そうか?スペースなら余っているが。」
「確かに余ってる、だがあと一人入れば身動き取れないくらいだぞ?」
「細かいぞゴードン。」
「俺が悪いのか?……」
落ち込むゴードンを横目にミスリクスはザードロオと情報を交換し始めた、ルーセルが横から聞いていた感じだとこのように言っていた。
ミスリクスは
「お前達が来る間イフリートに動きはなかった。
だが何かをぶつぶつ唱えるような声が聞こえた」
と
ザードロオは
「ライボルト王国からできる限り戦力を持ってきた。加えて3日前にウィンドファイアとアクアアースへ援軍を頼んだ、そろそろ到着する頃だ。」
と
立ち直ったゴードンは
「障壁は早々に引き上げた、俺も十分に戦える。」と
それを聞いたルーセルは
「ほーう……」
と訳もわからなそうに聞いていた。
ともかく、イフリート戦に十分に備える時間がありそうだということで、ウィンドファイアとアクアアースの到着を待つことになった。
さてそうして時間が出来たことで、とある人物の興奮が最高潮に達していた。
彼は会議を終え、自室へ戻ろうとするミスリクスへと突撃する!
「あ、あの!ファイアロンド13世…団長!」
「ん、ルドットか、どうした?」
その人物はもちろんルドットセルニカである。
「……」
「……?」
ルーセルはモジモジとなかなか次の行動に踏み出せない様子、見かねたミスリクスの方から話しかける。
「ここで話しづらいならば場所を移そうか。」
「…はい……お願いします…」
ルーセルはミスリクスの背中を追いかける。
───ミスリクスの自室───
構造は会議に使った部屋と変わらない、ミスリクスとルーセルは丸テーブルを挟んで対面して座っている。
「実を言うと私からも聞いておきたいことがあったんだよ、いいかい?」
「はい!もちろんです!」
「ありがとう、それでだが、君の特異な能力はガルから聞いていてね、それはどうやっているんだ?」
「ええと…すべての属性を混ぜる感じです!」
「混ぜる……すべての属性をか……」
少し困惑しながらもミスリクスは手のひらを向かい合わせその間で光を調合しようとした。
炎、風、雷、土、水とミスリクス自身の最適だと思う順序で属性を重ね、融合させる……
「ふむ……やはりダメなようだ。」
混ぜられた属性の均衡は次第に崩れ、互いを打ち消しあい覆い濁る、そうしてそれらはミスリクスの手の中で霧散していった。
「恐らく、原理自体は間違っていない。
ただ、実現するための技術か…はたまた慣れか何かが足りないらしい。」
「そ、そうですか…」
「すごいものだな、騎士ルドット。」
「えへへ…」
ルーセルはしばしニマニマとその賛美を噛み締めていた、だがハッと何かを思い出しミスリクスの目を見てハッキリと聞く。
「もっと聞きたいことがあるんです!
王国内で聞く数々の武勇伝は本当なんですか?!」
「戦争関連意外ならばおおむねはな。」
「じゃあ!ライボルト王国の王との決闘を完勝で納めたという噂は!」
「それか…相手はいわずともわかるだろう?
内容はただの模擬戦だったんだ、だからそこまで激
しいわけでも本気であったわけでもない。」
「そうなんですか…あ!でもでも!結果は!?」
ミスリクスの顔は謙遜の表情から少し誇らしげな表情へと変わり、顔をマフラーへ埋めながら…
「フッ…3-0の無傷だな。」
「おぉ!!」
ルーセルの目は幼子のように輝いている。
「じゃあじゃあ!
遠征領域から単身10日でウィンドファイア王国へと
帰還したという噂は!」
「それはだいぶ補足が要るな、
事の発端はガルの魔法の実験に付き合っていた時、
制御のミスだかなにかで転送位置を大幅に間違えた
らしくてな、遠征区域の野原に放り出された。
そして持ち物は着ていた服くらいだった、だから下
手に動くのも悪手だと思ってそこで待つことにし、
1日に一度狼煙を上げて待機、食事はその辺の木の
実とか魔物を食べていたんだ。」
「ま、魔物……なんて過酷な……」
「…それで10日で救助隊が来たからそう噂が立ったんだろうな、誰が漏らしたのだろうか…」
ミスリクスは少し思い出を漁っているようだ。
ルーセルは何かの機会をうかがっている。
そしてミスリクスが、ルーセルをチラッと見た時、
ズボンのポケットをまさぐり紙を取り出す。
「どうしたんだ?ルドット。」
ルーセルは部屋に来る前のように次の言葉を渋っていたが、遂に切望と興奮を踏み台にその言葉を発した。
「あの!……サインください!!」
部屋の中にミスリクスのポカーンと呆けた様子が満ちた、それでもミスリクスはすぐに顔を整えてその紙を受け取った。
「あ、ペンが……」
「フフ、良いさ、これで書こう。」
ミスリクスは人差し指の先に小さく火を付け、それをそーっと紙に近づける。
紙は少しづつ焦げ始め、黒くなる数瞬前に指を動かし始めた。
ミスリクスは火力と指の速度を上げ、しばらく紙の上をなぞった、すると突然指先の火を消し、ルーセルに紙を手渡した。
「こ!これは!?」
紙の焦げ目は文字として
『ファイアロンド・W・ミスリクス』の名を刻む。
途端にルーセルの目は輝き始めたかと思えば、狭い部屋の中で飛び跳ね始めた。
かと思えば、ミスリクスの視線に気付き急いで席に座って姿勢を正す。
「ありがとうございます!!」
「こんなもので喜んでくれるならいくらでも書いてあげよう、それに私も嬉しいんだよ。
最近の騎士達には畏れ多いだとか…私達には勿体無いですだとか……ともかく君みたいな歩み寄りをする騎士は居ないんだ。」
ミスリクスは何かを思い出すような素振りで宙を見上げると、ルーセルへと微笑みを向けながらそう語る。
その顔には騎士団長としての雄々しさは無い。
「あのこれ!…妹にも見せてきていいですか!!!」
「ああ、もちろんだ、行ってくるといい。」
「ありがとうございます!行ってきます!!」
扉を蹴破るような勢いで開けルーセルは去っていく、それを眺めるミスリクスはフフッと笑みを溢しながら人差し指の火傷を気にしていた。
───簡易拠点中央───
心踊らせ跳ねるようにミカの待つ会議室前まで走っていく、その道中に中央を通ると、思わぬ人物と出会うルーセルであった。
「ルーセル!」
「トミー先輩?!」
トミー先輩……ここに居るってことは!
ウィンドファイア王国騎士団が到着したのか!
トミー先輩はゴードンと共に居た、だが彼らの回りにはそれ以上人は居ない。
不思議に思ったルーセルは、ミカを待たせていることを気にかけつつ彼らへと近づいた。
そしてその疑問をぶつけると、トミーはこう答える。
「ガルムンド王の方針なんだ、
『全戦力をイフリートの直下に集めるのは危険だ、
我々は近場にて合図を待つ。』ってね。
アクアアースともそこで合流する予定だよ。
それで、俺はその伝令をしに来たんだ。」
なるほどぉ…国王様はそんなことをお考えか…
ルーセルは国王へ感心しつつ、そんなことはまったく考慮の中へ入っていなかった自分は不用心過ぎるのかと落ち込んだ。
それはそうと、トミー先輩が合図の出し方を教えてくれた、土以外どんな属性のものでも良いからボール系の魔法を打ち上げるらしい、簡単であるな。
「つまりはここに戦力はこれ以上集まらない、また作戦会議の時間だ、トミー君を交えてね。」
「わかりましたゴードン団長、案内お願いします。」
「僕も行きます!」
ゴードンを先頭にトミーとルーセルは会議室……
もといただの一人用個室へと向かった。
そこに着いてみると、ミカが少し格好着けて壁に寄りかかっていた。
「お~い!ミカ!」
「おかえりお兄ちゃん、上手くいった?」
「勿論である!」
ルーセルは手に持ったサイン入りの紙を見せつけた!
ふふん!どうだミカよ!
お兄ちゃんはやり遂げて見せたぞ!
「うん、最高よ、お兄ちゃん。」
「そうだろう!そうだろう!」
ミカはルーセルの頭に手を伸ばし触れようとしたが、すんでのところで手を止めた。
その止めた手の行き先に困ったのか、さっさとサインを手に取り魔法で縮めてポケットへしまった。
その後はルーセルを会議室(仮)へ連れていく。
「俺は要人を集めてこよう、しばしくつろいで……
あー、ここじゃそれも難しいか……
好きにしていてくれ。」
ゴードンはそう言うとどこかへ行ってしまった。
………数分後………
「これより、再度対イフリート攻略会議を始める。」
「さっきより手狭になったな。」
「細かいぞゴードン。」
「やっぱり俺悪くないよな……?」
知っているぞ、これはデジャブというやつであるな?
ゴードンの言う通り、会議室は既にギッチギチの状態で、席の移動はおろか少し肩を揺すれば隣とぶつかる
ほどに手狭だった。
「状況の整理から始めようか、まずは、戦力から。
私、ゴードン、ザードロオはイフリート相手に単独で時間を稼げる。」
「あと、ルーセルもそれに並べて良いと思います。」
「トミーが言うならそうしよう。
次にキャリバンの諸君、それぞれ小隊の隊長として
の実力と素質があるゆえ二次戦力とする。」
「「わかりました。」」
「そして砦に居た騎士1500人、ライボルトからの援軍騎士200人、ウィンドファイアとアクアアースからどれほどの戦力が出ている?」
「2か国あわせて300人ほどだそうです。」
「遠征に出せる人材のほとんどが集結している訳だ、騎士達の士気はどうだゴードン?」
「戦闘に支障はないはずだ。」
「わかった。
トミー、ガルは合図を受けたらどう動く?」
「敵を補足次第に有効な攻撃を仕掛けるとのこと。」
「妥当だな、それでは、
作戦を練っていこうか 」
────トロイア砦から200m地点─────
そこではゴードン率いる土魔法の使い手により簡易的な防衛拠点が出来上がっていた。
建設中も今も絶えず魔物が襲い、定住するには些か厳しいと感じる猛攻である。
視点を移しトロイア砦中央の障壁戦場、素直にもそこに鎮座するのは炎の魔人イフリート。
だが彼とてただ待つだけではなく、常に高熱を発して防御を張っている。
その時、砦の縁という熱の影響をギリギリ受けぬ場所へ青年と言うには少し若き少年が降り立った。
青年はイフリートを目にし様々な思いを馳せながら次の行動へと移る、キチンと作戦通りのをだ。
「ハーハッハ!!!!
僕はルドット・クルセイド!!
父トロイア・クルセイドに代わり参上した!!」
その声は豪熱に負けずイフリートの元へ届いた、
イフリートは発する熱を納めのっそりと立ち上がる。
「我が呼びたるはトロイアなり、そなたはトロイアにあらず、早々に立ち去りなれや。」
「僕では役不足だといいたいのだな?」
「いかにも。」
ルドットは不敵に笑い、無言で水魔法構えた。
直径三メートルにもなる水球を、高速でイフリートへ向け射出する。
イフリートは当然それに魔法を放とうとする。
「やはり役不足なり。」
───────
「イフリートにトロイアが死んでいると知られれば何が起こるか分からない、そのため不審がられぬようトロイアの子供という体の先人を出す。
様々考慮して…ルドット、君が適任だ。」
「はい!頑張ります!」
「そうして注意を引いたらこうだ。」
───────
「ならば、【演出】を加えようか!!」
ルーセルの一声に合わせ、砦が赤黒く光始めた!
───────
「ありったけの燃料で奴を爆破する。」
───────
地中からこっそりと設置した大量の燃料や火薬、
いづれも魔法で産み出した物、圧倒的数的有利を生かした魔力量&物量ゴリ押しである!
砦は丸々吹き飛び、天まで届く黒煙を産み出した。
そこでイフリートはともかくルーセルはと言うと……
「ハーハッハ!迫力満点であった!!」
火と土属性特化の結界を人サイズに張ったのだ、地下に待機する数十名の騎士によって。
当然の無傷のルーセルはフルアーマーを発動、爆発の中心へと入っていった。
──────
「爆破の成功を確認したら、ルドットはイフリートの状態を確認してきてくれ。
無傷ならファイアブレスを、行動不能ならウィンドブレス、行動可能ならストーンバレットをそれぞれ放ってくれ、私達が確認出来るようにな。
いいか?」
「勿論です!!」
──────
ゴードンは拠点から黒煙を眺めている。
そしてその中から出てきたのは……
風の伊吹
ウィンドブレス
「イフリート行動不能!!」
それと同時に、遥か空中へエレキボールが放たれた。
これまた同時に全軍が突撃!
10個に分けられた部隊がイフリートを囲むように展開し始めた。
──────
「もし行動不能に出来たならば、全軍でイフリートを囲むんだ、それならイフリートに一撃で全滅させられることもない。」
「む?ならミスリクスよ、どうやって奴に有効な攻撃をするつもりであるか?」
「奴に使う魔法は依然水魔法だ、そして個別ではなく複数人で一つの大きな魔法として放つ。
そして使う魔法も選別する。」
──────
配置場所へ最初に着いた部隊は急いで陣形を組み魔法を詠唱し始める。
ところでこの部隊、人数はたった21人なのだ。
そんな部隊に魔物の群れが接近する。
だが心配は無用。
「セレクト、グラブ、フィックス。」
最強の防御壁を持っているのだ、魔物はミカの魔法を破ろうと必死だが無駄、部隊は着々と詠唱を進める。
「「「「「「「「「「
廻り、巡り、渦巻く、
騒々しき波動、滅裂な水滴が集まり流となる。
渦巻く水球
ボルテクトアクアボール
」」」」」」」」」」
──────
「使う魔法はボルテクトアクアボールが最適だろう。
常に循環し続けることで表面から蒸発することが無く確実にイフリートに当てられるだろう。」
「もし当たらなかったら……」
「当たるまでやる、当たるよう工夫する、それだけだ。」
──────
十人がかりで詠唱されたボルテクトアクアボールは、直径にして30m、そしてそこで終わらない。
最後尾の騎士が角度を調節、緻密な計算により求められた弾道に沿ってそれを発射!!
ボルテクトアクアボールは射出後も形を保ち空の下を悠々と飛んでいく、いや実際にはおぞましい速度にて飛行しているのだが。
ともかくそれは段々と高度を落とし始める、ちょうどイフリートとの距離の半分ほどの地点であった。
そしてついに黒煙の晴れかけているトロイア砦跡地に着弾した!!
「─!──!!──!!!」
声にならない雄叫びが黒煙を吹き飛ばす。
そうして姿をあらわにしたイフリートはまるで最後の火種を絶やさんとする小枝のようであった。
だが小枝よ、これは決闘ではないのだ。
配置へと着いた部隊は矢継ぎ早に連鎖的に微塵の隙も無くボルテクトアクアボールを発射し続ける。
「─!─!─!─!─!!」
いくらイフリートが炎を作り出そうと関係が無い、
イフリートの体長を越える水球の連打には如何なる炎も掻き消される。
「…………」
イフリートの雄叫びが消えた、先日の屈辱を晴らすように騎士達の士気が上がり連打はペースを早める。
すべてはルーセルからの討伐報告のため。
追加で5発のボルテクトアクアボールが着弾した時、ついにルーセルが動いた、光の柱が立ち上ぼり、それをイフリートへ向かい振り下ろす。
そして光柱がイフリートへ接触する寸前。
イフリートはあらゆる者の視界から消えた。
───ルーセル視点───
イフリートの雄叫びが消えた。
それはついに最後の火種も消えてしまったのか?
違ったのだ。
「迅雷……喝采……黄金の……賛美……」
それは!?ザードロオのギガライサンダーか!?
まさか…使えると言うのか!
あのたった一回の詠唱を見ただけで!?
止めるべきか?止めるべきであるな!!もちろん止めるべきである!!未来最強の英雄ルドットセルニカよ止めれば英雄であるぞ!!
「イフリートォ!!!」
ルーセルは両手を掲げ、光を集める。
全属性解放
「ジ・オールマイティ……」
「我は……猛る雷鳴を射る……弓であろう……」
断罪光剣
「 ライトリレイザー 」
横に一閃、イフリートの口を切り裂くように光剣を振り抜いた。
雷光の如く
「 ギガ…ライサンダー… 」
それが口を切り裂く数瞬前、魔法は成就した。
「クッ逃したか!!」
その巨体をもって道中のすべてを薙ぎ払って行く。
その先は、ミカの居る第一小隊だ、そこを標的とした理由は至極単純。
初撃の方角を強烈に覚えていたからだ。
そして、君達は既に知っている、ギガライサンダーの恐るべき速度を。
流石に完璧な制御とはいかず、ミカの作り出す結界へと倒れるような体勢で蹴りをぶちこんだ。
「付け焼き刃となれば…これも必然かや…」
イフリートの崩れた足は最強の防御壁へとぶつかるといとも容易く砕け散った。
「うわぁ!?急になんだ!!」
「早すぎる!?」
「でもなんか転んだぞ?」
防御壁の中へ匿われる騎士達は動揺するが、
ミカは反応もせずただイフリートを見つめていた。
イフリートもまた、何の反応も見せず地に倒れ伏すばかりである。
「「「「「…………」」」」」
戦場は幾ばくかの間静寂に包まれた。
その静寂の間にも、イフリートの元へ続々と戦力が集中してきている。
「ウグ…グルル……ルウ……ウググ」
イフリートは意識も戻らぬまま立ち上がった。
「全員攻撃をして、今すぐ!」
「「「「了解!」」」」
ミカの結界の中に大量の魔法がひしめく、
「ドラグストーンランス!」
「アクアバレルショット!」
「エレクトラス!」
「ウォーターマグナム!」
「デモンズブラスター!!」
「一斉掃射!!」
よろよろと立ち尽くすイフリートを数々の魔法が貫き
、更にふらふらと、火が揺らめくように不安定に立つイフリート、彼の次の行動を端的に述べよう。
自身の右手でもって自身の心臓を貫いた
第九話:到達トロイア砦 完