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第八話:進軍!遠征領域!

………翌日………


「ハハハハハ!!全軍進撃!!

我ら不滅のライボルト王国騎士団!!

再び!遠征領域へ突入ぞ!!」


遠征領域へと走る『雷馬車』の上、本来なら手綱を握る者が座る場所へ立ち、ザードロオは砂漠に響く大きな声で軍隊を鼓舞する。         属霊召還

ちなみに彼らの乗る雷馬車は『サーモメント』を利用した雷の馬が引く馬車のことである。


サーモメントとは属性を持った精霊を産み出し、形成することでその形に沿った動きをさせることの出来る魔法、馬型に形成すれば馬のように使える。

実力主義で国民の平均魔力の高いライボルト王国にてよく見れる魔法である。

鼓舞を終えたザードロオは雷馬車の荷台へ入った。


「お疲れ様です、ザードロオ様。」

「よい鼓舞であった!」


中ではトーマ、ルーセル、ミカの三人が座っており、ザードロオはルーセルの隣に座る、これで座席は二対二の配分で埋まった。

ザードロオの着席を確認してからミカが口を開く。


「ザードロオさん、聞きたいことがあるわ。」

「うむ、申してみよ!」

「遠征領域内で何が起こったのか聞きたいの、口振りからして、遠征領域から撤退してきたんでしょ?」

「鋭いなミーガン!そうとも、我々ライボルト王国騎士団は遠征領域内から脱出しあの拠点に居た!

その脱出した理由…話せば長くなるぞ!

あれは三国の騎士団長が集まった時……  


       ……3日前……

───遠征領域内中央、トロイア砦───

地面に浮かび上がる螺旋状に渦巻く模様、それをコロシアムのように取り囲む砦があった。

その周囲は空気も淀み、砦の外ではその空気に当てられた魔物が外壁を引っ掻き回している。

そんな砦の中には大きく分けて二種類の人間が居た。

結界の維持のため、それぞれ思い思いの方法で祈りを捧げるアクアアース王国の騎士達。

その様子を監督するよう砦の中央を眺めるほんの少し小柄な者、特徴的な分厚いマフラーに薄手のマント、その身に着ける鎧は深紅のように紅い。

頭に乗せた紺色の軍帽はその真っ赤な服装に映える。

紹介が長くなったが、その者こそがかの高名な騎士、ファイアロンド13世である。


「ハハハ!ミスリクスよ!

何ゆえそれほど険しい顔をしているか!」


そんなファイアロンド13世の元へザードロオが背後から、階段を一段一段踏みしめゆっくり近づいていく。


「……悪い予感がする。」

「ハハ!よもやそれだけではあるまいな?」


ファイアロンド13世、

改めファイアロンド・ミスリクスは首に巻いた分厚いマフラーに口元をうずめた。


「よもやそれだけだ、それ以上は無い。」

「ずいぶんと冷たいではないか!」

「いちいち声が大きい、うざ絡み、それらにどうして懇切丁寧に対応する必要がある?」


ザードロオはようやくミスリクスの隣へと立ち内壁の柵へと体重を預ける。


「ハハ!口説く隙もなしか!」

「声が大きいと聞こえなかったか?

これでも騎士団内では男で通っている、そのような

軽卒な行動は謹んでもらいたい。」

「うむ!いいだろう!」


ミスリクスのため息が内壁側の地面に着きそうだ。

実際には内壁側の地面とはコロシアムで言う戦場部分であり、名称を『障壁戦場』、ミスリクスの居る足場とは12mほど離れているため到底ため息は届かない。

それはそうと、彼らはそろそろ辺りの空気が更に淀み始めていることに気づくだろう。


「そろそろらしい、配置へ戻れライボルト国王、武運を祈る。」

「貴様も、決して死ぬで無いぞミスリクス。」


ミスリクスは視線を向けることなく手だけを振り彼を見送った。

ザードロオはその見送り知ることもなく踵を返し、

コロシアムで言う実況席の位置にある『指揮官席』へと跳躍し到達すると、マイクを豪快に手に取り先程の騒がしさを忘れたように静かに席に着いた。

しばしの静寂が訪れた、しかして当然それは破られるもの。

砦中央の螺旋状に渦巻く模様の中央へ魔力らしき瘴気が集まり始めていた。


「皆の者!討伐対象の顕現を確認!!迎撃体制へと移行せよ!!」


元から大きかった声がマイクを通して更に増幅して砦の中へと響く。

砦の至るところから兵器がせりあがり、騎士達はその兵器を遮蔽に魔法を構える。

砦中央に視線を移すと、瘴気が螺旋状に渦巻き始め、やがてそれは空間の亀裂となる。

その亀裂より、炎を纏った人形の何かが這い出た!!


「討伐対象名!!……貴様!あれはなんなのだ!」


ザードロオが隣に座っていた騎士に聞く、その騎士も焦ったように手元の資料を漁るが……


「わかりません!!未知の討伐対象です!!」


ザードロオの表情に一瞬焦りが見えた、だが額の汗を拭いながらそれを必死に隠し指示をだす。


「物理障壁準備!!高度の柔軟性を維持しつつ!!臨機応変に対応する!!!」


這い出てきた人形は全長にして約20メートル、ほぼ砦と変わらない高さである。

その人形は大きく空気を吸い込む動作を見せると、

目の前のミスリクスにめがけ噴射!

吸い込んだ空気は爆炎に変換されたようだ、つまり今ミスリクスに向かい爆炎が迫っている。

だが、ミスリクスは恐れるどころか微動だにしない。

爆炎が50メートル進み、ミスリクスとあと25メートルの辺りまで勢いを失うことなく進撃したところで……


「その程度か。」


ミスリクスの発言と同時に爆炎は弾かれた、幾重にも重ねられた分厚い結界は、熱すらも通すことなく完璧に防いで見せた。

その様子を見て、結界を張っている騎士が軽口を叩き始めた。


「結界はアクアアース王国の専売特許!

相性的に有利な魔法でさえ結界に用いられた2倍の量の魔力をぶつけなければヒビすら入らない!!」

「それにあの結界は全属性対応!

破るのに必要な魔力量はどんな属性でも8倍!

更に消費魔力が通常の五倍のデメリットもこの人数じゃ霞んで見えちまうってもんだ!」


攻撃を完璧に防いだのを確認し、ザードロオはほっと一息をついた、しかし当然ゆっくりしている場合では無いゆえ、すぐにマイクを持ち直す。


「対象を【ヒトガタ】と呼称する!!

水属性魔法を放てるものは今すぐ放て!!」


ザードロオの合図を皮切りに水魔法の応酬が始まる!

同時に数々の兵器から砲弾や槍が無数に飛び出す!


「ドラグアクアボール!!」

「「「「アクアボール!!」」」」

「「ハイアクアバースト!!」」

「「「「アクアバレルショット」」」」


それらは結界をすり抜け次々とヒトガタに着弾する。

ヒトガタの発した熱により、大量の水蒸気が結界内部に蓄積、視界を遮られたところで掃射は止まった。

その場は蒸気の音だけが響きだれもが沈黙する空間となっていたのであった……


「愚かなり人間。」


低く、重く、怒りのような感情を孕んだ言葉。

誰もが耳を疑ったであろう。


何せその声はヒトガタの口が動くと共に一言、一言、ハッキリと聞こえてしまうからだ。


「【ヒトガタ】?なんと粗末な名前なり。

我が名は【イフリート】かつてトロイアの手により葬られた炎の魔人なりや。」


氷の如く固まった騎士達、そんな彼らを見かねたのだろうか、右手を顔の前に起き人差し指と中指を立て始めたのである。

そして次の瞬間、




        『口が動いた』





「火と呼んで火にあらず、火にありて力に無し、

魂に刻め、髄に染みよ、五感を支配し神業とす……」


その声に騎士達は狼狽を隠せない。


「魔物が詠唱?!」

「あり得ない!!」


そうだ、本来あり得ない、歴史を持たない魔物という存在に詠唱の伝承は出来ないからだ。

もっと根本的に言うなら、声が出せないはずなのだ。

なら魔物が詠唱を得ればどうなるか。

元来完全無詠唱で魔法を放っていた魔物達、

どこまで強化されるかは……


「火は魔力、魂は器、示せそなたの才を。


           火球

        ファイアボール       」


詠唱の最中、それは太陽と見紛う程の火球へと成長を続けていた。

詠唱を終えた頃には、結界越しだというのにその熱気を肌で感じているような錯覚を起こすほどだった。

だがイフリートはすぐに放つことはない、一言、放つべき言葉が彼の中にあった。


「宣言しておこう、これが我最大の魔法である。」


指を動かし、それに追従する太陽の如き火球を結界へ向かい弾いた!!



「チッ!!物理障壁展開!!

第1から第12障壁をあげるのだ!!」



結界は次々と砕けていく!!

最後の結界へと火球が接触し、いとも簡単にくだけ散ったところで物理障壁が展開される。


物理障壁とは、高さ20mのコンクリートの柱を13106本床に敷き詰めた巨大な装置。

その柱は普段、障壁戦場の地中へ隙間を埋めるようにビッシリと配置されており、障壁戦場の床を構成するのもその柱の上面である。

その柱を外縁から中央にかけて一列ずつ1~15と番号付けており、それをストーンピラーエッジのように地中から射出することで即席物理障壁の展開が可能となる装置なのだ!


第1障壁から射出されるような速度で障壁がせりあがることで火球を止めた!!

火球は第1障壁を半分溶かしたところで続けて射出される第2第3第4障壁に書き消された!

続いて第4~第12障壁も一瞬で到着!

イフリートを半径15mの空間に閉じ込めた!!

それをザードロオが真上空カメラを介してスクリーンで確認、体に稲妻を走らせながらマイクを握り……


「砦中心から指揮官席までの障壁を下げろ!!

我が出向こうぞ!!」


その指示と共にザードロオは正面へと大きく跳躍、

それと同時に正面の第一障壁が下がり始める。

ザードロオは下がりつつもまだ高いはずの柱へ飛び乗り障壁の上を走り抜けながら魔法を唱えはじめた!


「パルスアーマー!

ウォーターベールラジェント!」


二つの魔法が発動し、

雷と水のベールがザードロオを包む。


「迅雷!喝采!黄金の賛美!

 我は猛る雷鳴を射る弓であろう!

 

       雷光の如く

     ギガライサンダー!   」


詠唱の最中の下がり行く障壁の上、ザードロオからもイフリートの姿を完璧に補足できる!

詠唱を終えると、体に走る稲妻はザードロオを完全に覆い尽くした、かと思えばザードロオはコンクリートにめり込んだ足跡をを残して姿を消した。

ザードロオは光とも思える速度でイフリート目掛けて突撃をかましていたのだ!!

その圧巻の速度、まるで時でも止めたかのようだ、

回りの騎士もイフリートまでも反応は出来ない。


「ほう。」


ザードロオの突撃はイフリートの左目を貫通、

そのままザードロオは対岸の障壁の上に着地してイフリートへ視線を移した。


「そなたを認めるなりや、名乗れ。」


イフリートは無い左目を不便に思いながらも少し浮遊し、右目をギロリと動かしザードロオを見つめる。


「ザードロオである…」


ザードロオは足からイフリートに突っ込んだ、今の彼はその足をしきりに気にしている。


「その足ではもう戦えぬ、降参せよ。

そなたを苦しみから解放してしんぜよう。」

「何を言うか!我はまだ立っておろうが!」


それは彼の精一杯の虚勢だった。

彼の足は酷い状態といえる、皮膚は無い、肉は黒い、血管は膨れ黄色く変色し、周囲の熱で破れドロッと黄色をした形容しがたいものが垂れていた。

それだけではない、足だけでなく身体中赤い火傷の跡が斑点模様を形成している。


「良き、それもまた一つの運命なり、さらば、雷光の騎士よ。」


イフリートの手はザードロオにかざされる。

段々と形成される火球、それによる熱風で皮膚は更に爛れていく。

火球が人一人を簡単に包めるほどに拡大したとき、

イフリートはそれを放った。


「ハハッ!遅いぞゴードン!」

「お前が早とちりなだけだ。」


巨岩の腕がザードロオを掴んで火球をよけた。

イフリートはその声の主ゴードンの方向を見る、いつの間にか障壁上面へ上って来ていたらしい。

ゴードンは腕を前から後ろに振り抜き巨岩の腕を動かしてザードロオを障壁下へ下ろした。


「そなた、我に挑むなりや?」

「当たり前だ、もとよりどんな魔物が来ようとも、

ここで討つつもりで来ている。」

「ならば加減は無用、火と呼んで火にあら……」


「ずいぶんと呑気な魔人だ。」


ゴードンは人差し指をクイッと上げる。


「うぬ?」


イフリートの足元、第13~15障壁が打ち上げられた!

それは他の障壁とは異なり遥か上空、それこそイフリートの姿が人間大に見える所まで持ち上がった!


「これは国庫が寂しくなるな。」


そう言うとゴードンは障壁をなで回すように手を動かし、そのまま腕を振り上げた。

すると最外縁の障壁である第15障壁のほんの一部が持ち上がり滞空すると、それらは次の指揮を待つ。


「300本って所だ、いったいいくらなのやら……

手土産には高価だが冥土になら持ってけ。」


その一言と共に柱はイフリートへ弾丸の如く飛んだ。それらは次々と着弾し……


「炎の魔人は伊達ではないか。」

「魂に刻め、髄に染みよ、五感を支配し神業とす、」


イフリートへ向けられた柱は彼の生み出す火球に飲み込まれてしまった。

飲み込めば飲み込むほどに火球は広がりどろどろとした質感を増して行く。

その時、その一滴が火球から垂れ落ちた。

重力を受けて加速したそれはゴードンの立つ障壁戦場へと落下、その質量と熱をもって柱を溶かしその中へと入っていった。

それを見たゴードンは掃射をやめ残りの柱を元の場所に差し込み、腕組みをした。


「さて、どうしたものか。」


彼がそうして考えを巡らせている間にも、火球はまたあの時のように大きく、もしくはあれより大きくなっているのかもしれない。


「火は魔力、魂は器、示せそなたの才を。


           火球

        ファイアボール       」


だれもイフリートの声は聞こえていない、ただ地面に近づく太陽の存在を認識するだけだ。

動きは非常に遅い、まだ懺悔の時間はあるらしい。

ゴードンの背後から足音が聞こえる。


「苦戦しているな、ゴードン。」

「ミスリクス……正直お手上げだ。」


ミスリクスは歩き続け、ゴードンの前に立つ。


「恐らくここで倒すことは不可能だ。

私が時間を稼ごう、そのうちに残存騎士を地中でもなんでも安全な所へ避難させてくれ。」

「……全滅よりマシか、武運祈る。」


ゴードンはそう言いながら障壁を降りる。

降りた先ではザードロオの姿は見えない、彼はそれに反応することはなく床を波のように動かしそれに乗って指揮官席へ向かった。

そして障壁戦場では、迫り来る太陽に向け両手を翳すミスリクスの姿があった。

彼女は手のひらから魔力を出来るだけ拡散するように放出し続けている。

その間にも太陽のは接近を続け砦上部を少しずつ溶かし始め、空気も皮膚が焼けるほどに熱くなる。


「……ハァッ!!」


ミスリクスが広げた両手をパンッと叩き合わせる。

それと同時、いや一瞬の間を開けてのことだった、


迫り来る太陽の如き火球の動きを完璧に止めた!!


「お返ししようか、イフリート。」


右手を振り払う動きで火球を弾き返す。

落下時より速度を増して行く火球はイフリートを飲み込まんと接近する。


「実に奇っ怪な技なり、しかし見事。」


イフリートは浮遊しそれを軽々と躱しながら言う。

だがミスリクスは不適に笑った。


「なぬ!?」


火球は軌道を変え高速でイフリートへ突撃した!

避けるイフリート、しかしミスリクスは指揮棒を振るような華麗な動きで火球を操作する。

次第にイフリートは動きを補足され……

空中で着弾!!圧倒的な熱量で大爆発を起こした!!

だがミスリクスは右手を顔の前へ置き、左腕はマントを巻き込みながらを振り払うようにして横へつき出す。

そうしてすぐさま次の詠唱をはじめた。


「縛り、妬み、縫い付ける、

 地獄の王、私情の業、張り付けられし古の極、

 業火を操り鞭となれ。

  

          業火の黒鎖

         バインデッド       」


ミスリクスの左手に火のリングが出現、それと同時にそのリングと繋がるようにリングが出現、さらにそのリングと繋がるようにリングが出現……

それを10秒の間に3000回繰り返し、ミスリクスの手に炎の鎖が誕生した。

ならびに、ドスンッと音を立てイフリートが障壁戦場へと降臨する。


「そなた、名を名乗れ。」


そう聞くイフリートは右腕と右足に火傷を追っている様であった。


「ミスリクスだ。」

「ミスリクスであるか、その名、我が魂に永劫に刻もうぞ。」

「好きにしろ、その魂ごと消し炭にさせて貰うが。」

「意気込みや良きかな、我も答えてしんぜよう。」


イフリートは空を仰ぎ、背後へ小さいながらも物量で威圧感を感じるほどの火球を生成した!

そしてイフリートはそれのいくつかを左の手に取り、あろうことかミスリクス目掛け投擲をはじめたのだ!

魔力で操るのとはまた違う加速の仕方、普通の騎士であれば惑わされることであろう。

だが相対するはウィンドファイア王国にてガルムンド国王を差し置いて最強を名乗るファイアロンド13世!

鎖を鞭のように振るい投球を弾く!

その鞭はミスリクスの鎖捌きと魔力操作により通常はあり得ない軌道を描きながら火球を次々と撃墜していく。 

すべての火球の投擲を終えたところでイフリートはとある違和感気づくであろう、明らかに、それも確実な確信をもって言える。

鎖に当たっていない火球も撃墜されているのだ。


「ただの鎖にあらずか。」

「片目のわりに良い観察眼だ、そのまま解析に時間を浪費してくれ。」


バインデッド、無論ここまで引いておいてただの魔法ということはない。

ただし至極単純、鎖の一つ一つに全属性対応の結界を少し広めに張っているだけ、だから見た目以上の当たり判定での攻撃が可能。

つまり結界を張った鎖を生み出す魔法というのがバインデッドの実態であるのだ。

ならばこのまま戦えばミスリクスが有利……

当然イフリートがそれを良しとしない。

彼は手を祈るように組んだかと思えば、その手を傾け親指の面をミスリクスに向けた。

例えるなら子どもが海やプールでやるような、

手で出来る水鉄砲の形である。

彼はその祈り手の内側へと炎を貯め……圧縮……人なら手どころか体が溶けるほどにまでエネルギーがそこへ溜まった。

ならそれをどうするか、水鉄砲の例えから考えれば、信じがたくとも想像がつくであろう。


「蓄積、圧縮、放出、単純明快であるが故に応用が効くなりや。」


高熱によってレーザーと化した炎、

それを鎖の防壁を軽々突破しその内側へと着弾させてから、イフリートは得意気にそう語った。

対象に当たりこそしなかったものの、ミスリクスに次の一手を取らせるのには十分な代物であった。


「…………」


ミスリクスは何も語ること無く、先の攻撃で千切れた部分を修復しながら鎖の鞭をイフリートへ振るった。

どうにかそれを掴もうとするイフリートだったが、

魔力により操作される鎖は蛇のようにイフリートを捕え、腕から肩へ肩から首へと這い回る。

しかしそこまで鎖が近づき体へ密着すればイフリートにも補足は容易であった、その鎖を掴みミスリクスを引こうと力を込めた!!


「遅いぞ、ゴードン。」


その鎖を引いたその瞬間、ミスリクスとイフリートの間の鎖を何者かがガシッと力強く掴んだ!!

その手は非常に巨大でイフリートの肩幅を超える程の大きさがあった!!


「すまないミスリクス!

今騎士達の避難が終わった!撤退だ!!」


岩の巨人の左手に乗るゴードンがミスリクスを呼ぶ。

その呼び声を聞き、ミスリクスは鎖から手を離した。

ゴードンは巨人の右腕を振り上げイフリートを再び空中へ打ち上げると、同時に持ち上げていた少しの障壁でイフリートを閉じ込めた。


「撤退と申すか、先の威勢とは偽であったか?」


イフリートは突然挑発をはじめた。

当然そんな安っぽい挑発に彼らは乗らない。


「たかがプライドで人類と部下達を危機に晒すわけにはいかないだけだ。」

「なら撤退する意味を問うや、


またトロイアを頼るつもりにあるか?」


その発言にゴードンは驚き、ザードロオは呆れた。

何せイフリートはまだトロイアが生きていると思っているとわかったからだ。


「はぁ……悪いがトロイアは……」


ただそんな状況を好機と捉えた者が居る。


「そんなにトロイアを好いているならば、ここに連れてきてやろう。」

「……まことか?」

「ウィンドファイア王国西城区にて英気を養っているところだ、だが呼ぶのにも時間がかかる。

ここで大人しく待っていれば正々堂々戦わせてやる

というのはどうだ?」


しばらく、イフリートは沈黙した。


「承諾するなり。」


彼は抑揚を抑えた声で答えた、それはまるであまりの興奮を抑えているかのように感じ取れた。

その回答を受け取ったミスリクスとゴードン、そして指揮官席にて治療と観戦をしていたザードロオの三者は、ゴードンの案内で速やかにその場を退避した。


───トロイア砦急設地下───

障壁射出装置があるトロイア砦の地下より更に下へと急設された空間、ゴードンの魔法により作られたその空間に大量の騎士達が待機していた。


「待て!我に逃げろとは何事か!!!!??」


ザードロオが猛り狂った声をあげる。

だが土壁で構成される地下ではご自慢の声も響くことも無く数名の騎士を驚かせただけだった。


「逃げろとは語弊があるな、まず前提として逃げる訳ではない。

まず、通信機器が使えなくなっている。

つまりこの異変に気づいた各国に対して情報を伝達する必要がある。

次に、ここに居る騎士達の保護。

やつとの交渉で身の安全が保証されはしたが、それでも依然として騎士達を逃がす必要はある。

食料問題、士気の低下、決戦への備え、こんなところだ。

そして移動の手段が限られる今はこれらを解決するために一日で移動できる距離に中継拠点を構えそこへ逃がすことが最善だ。

次に……」


ミスリクスの説教にザードロオが堪らず音をあげる。


「待て待て待つのだ!!

逃げる訳ではないことはわかった!

我がすべきことを 簡潔に! 話せ!」


ミスリクスは数秒考える素振りを見せ話を再開する。


「おまえは出来るだけ早く通信の出来る場所まで行って情報を交換しろ。

次に各国と協力して戦力を整えろ。」


「……我で無ければならぬ理由はなんだ?」


「国を強引に一人で動かせるのはお前だ、だから最も早く救援を出せるだろう。

次に、テレポートが使えなかった。

2、3回宝石でのテレポートを試みたが何処を指定し

ても出来なかった。

つまり移動は徒歩か魔法等を利用した移動、いずれ

にせよ一番早いのはお前だ。」


「……なぜ……」

「事態は一刻を争う、

我らは万が一に備えここに残る、そして食料の備蓄はこの騎士の数だと5日分だ。


           行け         」


ザードロオは下唇を噛みながら頷いた。

ゴードンは一通り話が終わったのを確認してから壁へ窪みを作る。

ザードロオは躊躇いながらそこに入ると、ゴードンによって地上へ送られた……

地上へ出たザードロオは記憶を辿りながらライボルト王国を目指す、ギガライサンダーを用いた移動は確かに圧巻の速度、約一時間で100kmを走りきった。


ピコンッ


「むっ?通知……ここで繋がるか。」


遠征領域から北上して100km地点、そこはライボルト王国の旧中継拠点であった。

ザードロオは通知の内容を確認し、電話をかける。


プルプルプル…プルプルプル…


「ザードロオ様?!ご無事ですか!」

「我は無事だトーマ、だが事態は深刻である、メモを取れ、すべきことを話すぞ。」

「はい!!」


無事に旧拠点へのテレポートが成功し、旧拠点へ物資と人材を輸入しはじめたところで、


魔物が大挙して押し寄せてきた!!


「ザードロオ様!援護致し……」

「トーマ、拠点内の指揮をするのだ。」

「……わかりました。」


ザードロオはトーマを見送ると、

大挙する魔物へ一人で挑んで行った……


   ………現在………

───遠征領域道中───


「これが大まかな流れである!!」

「…………」

「…………」


この空気の中、口を開いたのはルーセルだった。


「大義であったな!ザードロオ!」


その言葉を皮切りに、

馬車の中はしばらく慰めと称賛に溢れた。


第八話:進軍!遠征領域! 完

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