第七話:これぞ万雷帝国!!
───ミカ視点───
「どうしたミカ?疲れたか?」
「ううん、大丈夫、考え事してたの。」
……私だ、私とお兄ちゃんが見える、今日は人が居るから【予知夢】ね。
今ミカの視界にはルーセルとミカの二人が写り、彼らは彼らを見ているミカに気づいて居ないようだ。
にしても、ここはどこ?
地面はあの中継拠点の地面みたいに亀裂が入ってる、でも周りに何も見えない荒野ね。
周りに人もいっぱい、全員騎士かしら?
全員ボロボロ、大規模戦闘の後らしいわね。
ミカは更に情報を得るべく周りを歩き回る。
あれは…ザードロオにアクアモルクス女王……
あとウィンドエルム国王様?
なんだか大物ばかり集まってるわね、
そんな大物の集まりに二名の人物が近づいてくる、
そして赤い鎧を纏った者がウィンドエルム国王に話しかけた。
「ガル、そっちに被害はあるか。」
「無い、私が指揮したからな。」
「ま、そうだとは思っていた、他二人はどうだ?」
アクアモルクス女王が最初に反応した。
「結界の維持に魔力をかなり使ってしまいました、
あれ以上長引けば部下たちも倒れていたでしょう。
噂にたがわぬ素晴らしい腕前ですね、
ファイアロンド13世殿」
ファイアロンド13世?
ウィンドファイア王国の二大貴族当主が揃い踏みね。
「我らライボルト王国騎士団に被害無し!堂々の最強である!」
ザードロオは『両手を』腰に当て胸を反らし高らかにそう宣言する。
もはや誰も気にしないその宣言を横目に、ファイアロンド13世と共に来た者、詳しく追及するなら、土色の鎧を着た大男が女王へと近づき話し掛ける。
「ドレディアンテ、部下たちを集めてくれ。」
「どうしてだ?もしやゴードン…なにか問題が……」
「そんな大層なことはない、ただの点呼だ。
動ける者は治療係に回す。」
「わかった、集めてこよう。」
女王は後方に集まる騎士達の下へ駆け出した。
「む?おい貴様ら、あれを見てみよ!」
ザードロオが指差した方向、天に亀裂が入り、瘴気が漏れだし始めていた。
「あれはなんだ?」
「ふむ、見たことがないな、警戒体制、ゴードン、合図で防護壁、ザードロオ、ドレディアンテを呼び戻してこい。」
「御意」
「いいだろう!」
ザードロオが飛び出し、ゴードンが地に手を着ける、数瞬の静寂が流れた。
バキッ、
天が割れ、瘴気が爆発するように広がった!
そしてその瘴気の爆発を貫き、急速に地面に落下する何かも見えた!
だがそれを気にしている場合ではない、瘴気の爆発が常軌を逸した速度で目の前まで迫っている。
「展開!!」
「ドムフォートレス!!」
地面から何かが高速で盛り上がる…ところまでが見えた、その頃には彼らより前に居たミカは瘴気に飲み込まれ視界を奪われたあとだったのだ、そこから先は見えるはずも無い。
そしてミカ精神にも変化があった。
…眠い…そろそろ終わりみたい…
何を見せたかったかわからないけど、一筋縄では行かないみたいね…………
………翌日………
朝日が登り、テントが照らされ中に光が透ける。
「朝か……」
いつもは豪快に起きるルーセル、疲れかそれとも昨日の出来事でブルーな気分なのか、ともかく少し暗さを感じる雰囲気で起きた。
「ううん……なわ……」
ミカより早く起きれたか、なんだか新鮮だ。
まだ起こすには早いみたいだし、散歩でも行くかな。
ベッドから足を出し、靴を履くとテントを出た。
外は昨日も見た通りテントが密集して狭苦しい、
そこを抜け出し中央の広場まで行ってみる。
「おお?」
中央の広場にいつの間にか大量の物資が置かれ、
朝だと言うのにそれの運搬に大忙しのようだ。
よくみれば、トーマが平たい端末片手に色々と忙しそうに指示出しをしている。
「おはようございます、トーマさん。」
「あ、おはようございます、ルドットセルニカ様。」
「ルーセルで良いですよ、何かお手伝い致しましょうか?」
「いえいえ、大事なお客人を働かせる訳には行きませんから、それに昨日のこともありますし……」
「ええい!!洒落臭い!!」
「!?!?」
「昨日も何も、我らこころざしを同じくする騎士!
何を遠慮するか、好きなだけこき使うが良い!」
辛気臭いのだ、なによりこんな空間を仕事もせずフラフラ歩いてたら気まずすぎるぞ。
「……フフッ。」
「む?どうしたのだ?」
トーマの笑顔が柔らかくなり、より自然な笑顔となってルーセルに向き直った。
「いえ、ザードロオ様を思い出しまして。」
「むむ?どういう意味だ?」
「慣れ親しんだ感じってことです。
それでは、存分にこき使わして頂きますからね!」
「いいだろう!」
さっそくルーセルはトーマと打ち解けたようだ、
それからも元気よく荷物を運びながらどんどんと他の騎士達とも打ち解けていく。
まずトーマから指示された箱の下へ向かう。
そこには既に先客が居るようだった。
「それ重そうだな、手伝おう。」
「お?わりぃな、そっち持ってくれや。」
「「せーっの!!」」
ルーセルの足からお腹ほどまである正方形の箱が、
いとも簡単に持ち上がった。
「へへっ!、ずいぶん鍛えてんな!」
「もちろんだとも!騎士であるからな!」
先客の騎士に引かれ荷物をとあるテントへ運んだ、
そこからは煙と共に少し良い匂いもしてくる。
「今日はあったけぇ飯が食えそうだ!」
「うれしいことであるな!」
その大きなテントの前にドサッと置くと、音を聞き付けたのか中から人が出てきた。
「ありがとうございます!あれ?見ない顔ですね、初めまして!」
ルーセルをおたまで指しながらそう言う。
「初めまして!僕はルドット・セルニカ!
ファイアロンド王国から来ました!」
「おお!君が噂のか!よろしく!」
「はい!」
手袋越しに握手を交わし、テントに引っ込んだ。
ルーセルもまた中央へ戻りトーマへ指示を仰ぐと、
次は馬車の組み立てと言われた。
どうやら遠征領域中心はどうなっているかわからないためテレポートが使えない、そこで代替案として昔懐かしき馬車が使われるらしい。
にしても、馬車が昔の技術扱いか、
ファイアロンド王国内ではまだ現役だと言うのに。
とりあえずで現場に向かうと、既に一台出来上がっているようであった。
その隣にはあと車輪を着けるだけで出来そうな段階にある馬車もあった。
「手伝いに来ました!」
「ようやくか、こっち来てくれ。」
急ぎめで駆け寄ってみると、片手で馬車を持ちながら車輪を嵌め込むという力業をしていた……
「俺が支えとくから、車輪をつけるんだ。」
その騎士は馬車の荷台の下に入り、まさかの片手でそれを支えはじめた。
「はい!」
車輪を着ける、か、荷台の底面に棒が着いてて……
その棒の両端に螺旋状の溝があるな。
車輪にも同じような溝が彫られた穴がある、ネジみたいなものだな。
車輪の穴を棒に合わせクルクル回す、
みるみるうちに入っていくのがみてて気持ち良い。
「そのくらいで良い、あまり締めすぎるな。
次、そこにナットがあるからそれも締めろ。」
「これですか?」
同じように溝の彫られた穴のある部品を持ち上げる。
「それは荷台の天井用の留め具だ、その隣にあるやつ。」
「えーと、これですね?」
「そうだ、」
二回目にしてルーセルは慣れたようだ、
スルスルと入り車輪に接触した。
「あと三つだ。」
「はい!」
それからも同じように作業していく、
その最中も荷台を支えているはずの騎士は余裕の様で雑談を振って来た。
「おまえ、どこのやつだ?」
「ファイアロンド王国騎士団所属の516期24番、
ルドット・セルニカです。」
「ほぉ、お前が噂の……って他の奴から聞き飽きたか、なら話題を変えよう、トミーは知ってるか?」
「トミー先輩のことですか?
あっちでとてもお世話になりました!
お知り合いなんですか?」
その騎士は少し言葉に悩んだ末、車輪を一つつけ終わるくらいの時間が過ぎた後に口を開いた。
「ま、親戚って感じだ。」
「えぇ?!国も違うのにですか!?」
驚いたルーセルが車輪を落としてしまった。
「揺らすな、まぁ複雑なんだよ、簡単に言うなら国を越えた一族なんだ、トーマも同じ一族。
法王一族とかと同じ部類だ。」
「…………」
ルーセルブレインが情報を処理している。
「あ?なんだ知らなかったのか?」
「あー、えっと、自分まだ入隊から1ヵ月も経ってい
なくて…………」
「……そういえば516期って言ってたな、」
ええと、まず国を越えた一族があって……
それがトーマさんとか法王の一族……ということはどの国も同じ一族が法王やってるのか?
……なんだか本当に複雑なんだな……
「とりあえず大まかに理解はしました……
トミー先輩とトーマさんと……あ、まだお名前聞いてませんでした!」
「トーマスだ、」
「トミートーマトーマス……」
「代々名前の頭文字はトなんだよ、
フルネームはトーマス・キャリバン。
キャリバン一族だ。」
「じゃあ改めてよろしくお願いします!トーマス先輩!」
「あぁ、よろしく。」
二人とも雑談の終わったタイミングで、
馬車も完成した。
トーマスも馬車を置いて這い出てきた。
「よし、よくやった。」
「ありがとうございます!先輩もお疲れ様です!」
「ん、」
トーマスが手を軽く上げると、ルーセルに向けて手のひらを見せた、背が大きいせいでかなりの威圧感である、ルーセルもトーマスの顔を見上げた。
……あ、そういうことか!
パンッ
ルーセルが軽くジャンプ、小気味良い音を立てながら手のひらが触れ合う、ハイタッチだ。
満足そうな顔のトーマスの口が動く。
「それじゃ、あと28個頑張ろうか。」
「ひぇぇ…」
と、そんなところにトーマの助け船がやってきた。
「こら兄さん、ルーセルさんにあんまり意地悪しちゃダメですよ?」
「ん?これくらい普通だろ。」
トーマが彼に近づき、デコピンを喰らわせた。
「私達と一般人じゃ体力に差があるんですから、
あまり無理させないでください。」
「あいよ。」
トーマが踵を返すと、その視線はルーセルに向いた。
「さて、ザードロオ様とのお話の場がご用意できました、もう一度確認しますが、あなたとザードロオ様、加えてミーガン様との対談でよろしいですね?」
「はい、それで大丈夫です。」
「それでは、ルーセル様はミーガン様を連れて中央広場へお集まりください。」
「わかった。」
トーマはそう言ってスタスタ歩いて帰っていった。
ルーセルもトーマスに一言断ってその場を去った。
さて、ミカは起きてるかな?
テントの入り口を開け中の様子を伺う。
「お帰り、お兄ちゃん。」
「ただいまミカ、ザードロオとの対談の準備が済んだらしい、行けるか?」
「もちろん、行こっかお兄ちゃん。」
ミカは腰かけていたベッドから降りてルーセルの下へ
駆け寄るが、その肝心のルーセルが固まっていた。
「…?どうしたのお兄ちゃん?」
「な~んか服が綺麗じゃないか?」
そうだ、何かおかしいと思ったら、ミカの今まで着ていた魔法騎士の服…ザードロオとの一戦で少し焦げたりしてたはずなんだが、めっちゃ新品だ。
「予備を持ってたの。」
「…僕の分とか、」
「無いよ?」
「…ホントニ?」
「ホントニナイヨ」
ルーセルは少しがっかりとしながら、ミカを連れて拠点の中央まで向かった。
相変わらず運搬に忙しそうだが、先と比べて目に見えて物資量が減っている。
「セルニカ様!こちらです!」
「うむ!わかった!」
トーマが手を招く先は一つだけ色の違うテント、
決して目立ちはしないがそれが特別だとは分かる様になっている。
そのテントの入り口、それを構成する布を掴みながらルーセルは呼吸を整える。
彼が言うことは決まっているとも、されど相手の反応は未知数、それを恐れるのは当然、何せザードロオに対する評価は地の底を突き抜け地獄の業火で炙られているような物だ。
「ふぅ…失礼する。」
布を除けてそこへ一歩、足を踏み入れた。
すると視界の正面に、両腕を組んで力強く待ち構えるザードロオの姿があった。
「よくぞ参った、ルドット・セルニカ、並びに、
ミーガン・セルニカ。
改めて自己紹介をさせてもらおう。
ライボルト帝国第13代帝王、ライボルト・ビルバーン・ザードロオと申す。」
驚くほど礼儀正しい言葉使いに少し戸惑いながら、
それでも恐れず対面するように置かれた椅子に座る。
「えー…今回のひ…非礼、を、詫び…詫びたいことを、ここに…ここに宣言…」
「ザードロオ様、提言です提言(小声)」
セルニカ兄弟がチラッと後ろを見ると、カンペを持ったトーマがザードロオに指示を出していた。
だが残念、セルニカ兄弟と目が合う。
「あ、」
「あ、」
「……あとは頼みますザードロオ様ご健闘祈ります。」
非常に早口でそれを言った、それと同じくらいはやくテントから退散していった。
「お…おい!トーマ!逃げるな!!」
ザードロオはそれを追いかけようと思い立った、だが目の前のルーセルがあまりにも鋭い眼光で睨むものであるから、再び腰を椅子へ添え治した。
「ふぅ…仕方ない、我は話が苦手だ、ここまでにあったことを全て話させて貰おう。」
ルーセルは眉も動かさず彼を見つめている。
「我は常識知らずである、それは貴殿らも良く理解しているであろう。
だからトーマがいるのだ、我の暴走を止めるための
ブレーキとしてな。
そしてそのトーマから告げられたのだ、ライボルト
王国の文化は特殊でとてもじゃないがいきなり受け
入れられるものでは無いとな。
だから出来るだけそちらに歩み寄ろうと案を出して
くれた、それがあれだ。」
ルーセルはまだ動かない。
「つまり…あぁー…我が言いたいのは……」
ルーセルはまだ動かない。
「すまなかった、我の全てをもって謝らせ欲しい。」
ルーセルの頭は真っ白だ、
目上から謝られるなど初めてなのだ。
それでも考えを止めてはならない、
相手からの歩み寄りを無下にしては和解は無理だ。
そしてルーセルが出した答えは……
「よし、殴り合おう。」
「な?!」
改めて言わせて貰おう、ルーセルは頭が真っ白だ。
「勝った方が勝者だ!ザードロオ!」
「だから何を言っていッ」ドゴォッ!
ルーセルの右ストレート!!椅子から立ち上がった
ザードロオの右頬にめり込み吹っ飛ばしたァ!!
椅子に突っかかりスッ転ぶ!!
「セレクト グラブ フィックス」
テント内の空間を囲い、ルーセルとザードロオ専用のボクシングリングが出来上がった。
ミカはしれっとリングの観戦席に居る。
こけたザードロオは戸惑いながら立ち上がる、
そこにルーセルが再び右ストレート!!
戸惑いの中に居るザードロオはまともに受け……
「ハハハハハハ!!!」
体を仰け反らしてそれを交わしながら腹にアッパー!
ザードロオは常識知らずの馬鹿だった!!
この状況にザードロオの下した判断は!!
!!!abandonment of thinking!!!
!!!思考放棄!!!
!!!放弃思考!!!
「ぐふぉぉッ!?」
アッパーの入った腹を押さえる!
すかさずそこにラリアット!!
ルーセルの首がザードロオの二の腕に引っかけられて部屋を引きずり回される!!
勢いが付いたところでリリース!
体勢を崩したルーセル!
ザードロオは走り!勢いをつけ!重心を後ろに倒し!一気に引き戻す!
「ドオ"リ"ィ"ヤ"ァァァ!!」
全体重をのせた拳をぶちかます!
「フ""ン""」
そのザードロオに回し蹴りがぶちこまれた!!
崩された体勢と回転のエネルギーを最大限利用して体を急旋回!勢いをのせた蹴りがあたったのだァァ!!
壁に叩き付けられたザードロオは受け身を取り素早く復帰ィィィィ!!
がむしゃらの右ストレート!!
ルーセルも負けじと右ストレート!!
当! た! ら! な! い!
当たらない当たらない当たらない当たらない!!!
何発もぶちかますパンチは互いに当たらない!!!
しかしいつかはあたる!!そう信じて殴る!!!
最初にあたったのは!!
「グァバ!!」
ルーセルだぁ!!顔面直撃!!
すかさずそこに全力の右足蹴り!!
壁にルーセルが吹っ飛ばされる!!
「ハハハ!!!ハハハ!!!」
ザードロオが突っ込む!
「フゴッ?!」
勢いの余り顔からルーセルに突っ込んだ!
顔に左フックをぶちこまれザードロオが仰け反る!
追撃!!そのための接近!!
ザードロオの股下に右足を捻じ込み接近!!
「チェリァ"ァ"ァ"ァ"!!!!!!!」
ザードロオが仰け反った体を一気に引き戻し!!
渾身の頭突きぃ!!!
「「痛てえええええ!!!!」」
クリィィィィイイインヒット!!!
ルーセルの額にザードロオの額が叩き込まれた!!
それをザードロオの額がルーセルの額に叩き込まれたとも言うのだ!!
バサッと互いに倒れ地に伏した。
これはァ!?????!!
「……フフッ……引き分けよ。」
ミカの審判に間違いはない。
彼らは間違いなく引き分け、選手達に平等にも訪れた結果である。
「……ハハッ!」
そう、
「ハーハッハッハ!!」
「ハハハハハハ!!」
平等に訪れた結果だ。
「凄いな!!ルドットセルニカ!!」
「貴様もだザードロオ!!」
二人とも鼻血を垂らしながら笑い合う。
興奮の余り声もかすれるほどに笑った。
ミカがそこにやってきた、ミカは呆れながらも彼らを誰よりも楽しそうに見つめていたのだ。
「満足した?」
「あぁ!僕は満足である!」
「我も賛同だぁ!!」
笑い声が拠点中に響き、その声に誰もが安堵を覚えたという。
………30分後………
「「「「「「「「
\\\\\\\\\!!!乾杯!!!/////////
」」」」」」」」」
宴だ、まだ昼間にも早いくらいの時間だが、
それでも帝王が宴だと言えば宴、それが万雷帝国という国である。
「ハハハハハハ!!
紹介しよう!!こやつが我が盟友!!
ルドット・セルニカである!!!」
「「フォー~ー~!!」」
「良いぞー!」
「最高だぜぇー!」
「飲め飲めぇ!!!」
「ハーハッハッハ!!」
ルーセルもこの場を全霊で楽しんでいる。
飲んで食べて、宴となればドンチャカ盛り上がれる国民性の騎士達は今のルーセルにとっては大変ありがたかったであろう、ならば彼らは放って置くべきだ。
しばらくすれば飲んだ暮れにもみくちゃにされるルーセルを数時間眺めることになるゆえ。
───旧中継拠点外周───
「ふぅ……」
「お疲れ様です、トーマさん。」
外周に置かれた土嚢に腰を降ろすのはミカとトーマ、何気にまともに会話を交わすのはお互い初めて、
なかなかに気まずいことが想像できる場面である。
「ザードロオさん、腕治ったんですね。」
「ええ、腕の良い回復騎士が居るもので。」
「……」
「……」
彼らは互いに相手の言葉を待つタイプだ、会話が弾むことはなくしばらく静寂が流れる。
だがこの状況話題には事欠かない、一度口を開きさえすれば展開は早い。
「さっきの状況…見ていましたか?」
「乱闘の件でしょう、もちろんです、隙間から拝見させていただきました。」
「そうですか…トーマさんはよかったんですか?」
「何がです?」
「その…兄の行動について…」
「あぁ、そういうことですか。」
トーマの顔に柔らかい笑みが浮かぶ。
「感謝していますよ、ザードロオ様は馬鹿で、難しい話も礼儀作法できませんから、あれぐらいシンプルな方がいいんです。」
「でも……」
「ルーセルさんがおっしゃってました、
『我らこころざしを同じくする騎士!何を遠慮するか!』って。
ルーセルさんはライボルト王国の文化に、ザードロオ様はルーセルさんの教義に、不器用でも互いに歩み寄ろうとした結果、そうは思いませんか?」
トーマは少し小っ恥ずかしい様子を見せた、
ミカはその言葉を噛み締めながらこの国について理解したようだ。
フフッと笑いを溢しながら感謝を述べる。
「そうですね、ザードロオさんもお兄ちゃんも、
あれが二人の中の正解なんだと思います。」
今度はトーマがその言葉を噛み締めた、ただの同意、それでも共感というのは嬉しさを感じるものだった。
「ふぅ……はい!
辛気臭いのはここまでにしましょう!
せっかく問題の二人があんなに笑顔で笑ってるんで
す、こっちが湿っぽくてどうするんですか!」
「……フフッ、ザードロオさん、良い腹心を持ってますね。」
「ルーセルさんこそ、良き理解者をお持ちですね。」
彼らは後ろの宴の音を聞き、後片付けや酔っぱらいの介抱のことを多少憂鬱に思いながら。
それを少し楽しみにして待つのであった。
第七話:これぞ万雷帝国!! 完