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第六話:万雷帝王

──遠征区域外縁ライボルト王国方面──


かつては一面黄金と比喩される砂漠であったここは、遠征領域から北上して約100キロ地点の遠征隊旧中継拠点。

『かつて』の言葉通り今は砂が黒く変色し、強力無比な魔法の使用痕跡として黄色の亀裂のような模様が、地平線の先の大地までびっしりと敷かれている。

そこに一人、胸部から首を密着する薄生地で包み、

肩の白い肩当てとそれに縫い付けられた白いマントがヒラヒラたなびく。

ズボンは通気性を確保するため風で膨らむほど薄くてブカブカしたデザイン、露出した腹部から相当な鍛練を積んでいることが垣間見える男がたたずんでいる。

頭には冠と同じ意味を持つ装飾、

白いターバンを束ねる青い角形をした装飾をターバンと共に頭に巻き付けていた。

その男が地平線の先、より詳しく述べるなら遠征区域の中心部のある方角をジッと静観していると、

彼の忠実で賢い部下が小走りで、彼の居る魔物の死体の山を駆け登って来た。


「ザードロオ様、魔方陣が完成致しました。」


地平線を見つめる男、ザードロオは腕を振り払いながらマント巻き上げて振り返る。

とても威厳あるお姿、話し方も高貴に違いない。


「うむ!荷物の運搬を優先するのだ!

普段使わぬからと言って馬車を忘れるでないぞ!」


ザードロオの出した指示に従い部下は来た道を引き返していく。

そこに彼のマントの内ポケットから、ピピッと通知が送られてきた。

彼は内ポケットから端末を抜き出し画面を覗く。


「アクアモルクスからとは…

『貴方様ならご無事でしょう、それを前提としまして そちらに人を二人送りました、活用してください、名をルドット・セルニカ、ミーガン・セルニカと言います。』

…なるほど、活用とは、相当な人材と見た!

良いだろう…来たれ訪問者よ!!」


男が笑顔で高笑いをしながら空を仰ぐ。


…………

───遠征隊 旧 中継拠点入り口───


土嚢が積まれただけの簡素な防衛、その内側はテントが張られていたり荷物が置かれている、そこを数名の騎士が入り口を警備していた。

彼らは緊張感を持ちつつも何事もない今を暇とも感じている、ザードロオが見ていたら背中をひっぱたかれるほど緩い面持ちをしている。

だが安心するが良い、異変は何時でも起きるものだ。


入り口から数メートル離れた所に暴風が巻き起こる!


気の抜けた騎士達はすぐに陣形を組み立てる、

前衛3名後衛2名、前衛が槍を構えながら暴風を静かにジーッと見つめていた。


「ハーハッハッハー!!ルドットセルニカ!」

「ミーガンセルニカ!」

「「ただいま参った!!」」


暴風の中から聞こえる声に後衛の騎士は安堵する、

けれども前衛は警戒を解かない、声を真似する魔物、偽物、そのような可能性を警戒している。

そんな彼らも、暴風が晴れる頃にそれを完全に解いていた、彼らは見たからだ、暴風の中から現れる鎧、それは紛れもない騎士の証、威風堂々を主題に過去の名工によってデザインされた万国共通の騎士の鎧。

後衛含めた警備の騎士は姿勢を正し、セルニカ兄弟を迎え入れた。


「よくぞお越しになりました!セルニカ様!

ライボルト帝王からお話は伺っております、どうぞ

こちらへ!ご案内致します!」

「うむ!頼んだ!」

「お願いします。」


騎士達がセルニカ兄弟を守護するため囲み、

そのまま拠点奥、ライボルト帝王とやらの所へ連れて行った、ちなみに見た目は完全に連行中であった。


───死体の山───


ザードロオは変わらず地平線を眺めていた、

それでも騎士達の接近に気づいたことで振り返りそれらを快く迎え入れる。


「要件を申してみよ!」

「セルニカ様を連れて参りました!」

「うむ、苦しゅうないぞ!下がれ!」


死体の山から飛び下りてきたザードロオは胸を反らし腕を目一杯広げ、バチバチと体に稲妻を走らせながら高らかに宣言する。


「我はライボルト帝国現帝王!!!

ライッボルトォッ!!!ビルバァーン!!!!

ザードロオォであぁる!!!

受けとれッ!餞別だぁ!!!!!」


いきなりの怒声とも取れる大声にセルニカ兄弟は少し怯みを見せた、だがルーセルは自分が今出来るだけの最速で魔法を使用する、フルアーマーだ。

彼がそうした理由はすぐにでも分かった!

ザードロオが拳を突き出す!身体中にほとばしる稲妻が足を通り腰を通り腹を通り胸を通り二の腕を通り肘を通り前腕を通り手首を通り、

ついに突き出された拳を通り飛び出し、目にも止まらない速度でセルニカ兄弟を襲う!

それはまさしく稲妻の如し!

すぐさまセルニカ兄弟に着弾し、放射状に電流が流れ黒い煙が少量発生した。

隙を潰すように更に反対の腕を突きだし、稲妻を全身に走らせながら稲妻をぶちかましていく!

更に着弾、まだまだまだまだ止まりはしない!

何せ今の一連の動作は0.5秒に満たないのだ

繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し更に更に更に更に速く雷撃をぶち当てる、

10秒が経過、今までに放った雷撃の総数:248発!!

ザードロオはここに最後の2発を加えようやく、

静かに腕を下ろした。

さて、セルニカ兄弟はいかに。


黒い煙が徐々に晴れ、その姿を表す……かと思われた。


黒煙を突き破り漆黒の光線が飛び出した!!

ザードロオは当然といった具合で軽々と躱す、躱した後は彼らの動きを見るため視線をそれから外した。

次の瞬間ザードロオの右肩が吹き飛んだ、肩当てごと吹き飛んだゆえにマントも激しくたなびく。

肩を見れば、躱したはずの漆黒がしっかりと肩を貫通していたのだ。


  闇が連なる空間

「デモンズブラスター…操作可能な貫通特化魔法よ…」


黒煙の晴れたそこから、

ミカは息も絶え絶えでその言葉を伝え、力無く倒れたその体にはザードロオのように稲妻が走っていた。

しかしザードロオが気にするのはミーガンでも自身の吹き飛ばされた肩でもない、



       ルドットが居ないことだ



ミーガンは正方形のバリアか何かで自身を覆っているのが見て分かる、それもかなり広いものだ、

ならばルドットが消し炭になるはずもない、せめて死体なりなんなりあるはず……


         断罪の最終幕

      「エクスキューション」


背後からの声、

ザードロオは背後に渾身の裏拳を左手で叩き込んだ、されど、それはピタッと動きを止めた、裏拳を放った腕どころか体から首に至るまで鎖が巻き付いている。

その鎖を破ろうと力をいくらいれようと関係ない、

光魔法エクスキューションは光の鎖で拘束する魔法、身体強化魔法で強化した体では揺することも出来ない代物と化している。


「ライボルト・ビルバーン・ザードロオ、お前は敵か?」

「敗者に何を求めるつもりだ、ルドット・セルニカ。」


ルーセルは手に持っていた光の斧を振り上げながら、もう一度繰り返す。


「ライボルト・ビルバーン・ザードロオ、お前は敵か?」

「殺せ!敗者に生きる資格はない!!!!」



「ザ ー ド ロ オ ォ ォ!!!!!!!!


 お ま えはァ!!


 敵かって聞いているのだぁぁぁ!!!!!」



振り上げられた斧が軌跡を残しながら、ザードロオへ振り下ろされる。



ガキンッという音と共にそれが接触した。



「……なんだ、情けのつもりであるか?」



砕けた鎖が光となって蒸発するように消えた。

ザードロオは膝から崩れ落ち、そのままの体勢で先程の言葉を吐き捨てた。

ルーセルが更に言葉を畳み掛けようとする、が、

先にどうしても気になる出来事があった。

大きな土煙が近付いてくる……爆走している何かが近づいてくるということだ。

それは突如飛び上がりこちらへ落下して来た!


「ザーーーー!!ド!ロオ!様ぁぁ!!」


それは、伝説の技を構えた。

落下からの攻撃その条件においてもっとも最強に強くパワーな破壊力を生み出す奥義、

腕を振り上げ人差し指から小指ピンと張るとスペースの空いた手のひらに親指を折り込む、

手の側面、小指側をザードロオへ振りかざした!


お察しの通り、チョップだ。


「あ痛ダァ!!?」

「なぁにを威張ってらっしゃるんですか!!

ザードロオ様から仕掛けておいて謝罪の一つも無い

んですか貴方は!ほら、私も一緒に謝ってあげます

から謝ってください!」

「嫌だ!我は謝らん!」


怪人チョップマンはザードロオを蹴り飛ばした、それを受けたザードロオは呻いているが、チョップマンはフルシカト、ルーセルに視線を向けた。


「誠に申し訳ございませんルドットセルニカ様!

並びにミーガンセルニカ様!

ザードロオ様に代わりまして私トーマが責任を持っ

て謝罪を致します、が、もちろんお許しになるとは思っておりません、全身全霊をもってお詫びを致します!

何なりとお申し付けください!」


ルーセルは彼の完璧な謝罪を聞き入れると、思考整理のため一瞬間を開けてから言葉を連ねる。


「ミカとあのバカを治療、勿論ミカが優先、次に休憩のための場所を用意しろ。

最後に、明日ザードロオとの話し合いの場を設けろ

いいな。」

「直ぐに取り掛かります!」


トーマはザードロオを爆速で引きずりながら死体の山から中継拠点へと走っていく。

その際にミカも抱えようとしたが、ルーセルの唸り声が聞こえたため中断し、再び疾走を始めた。

対してルーセルは一歩一歩黒砂の大地を踏みしめながらミカへ近づくと、倒れていたミカを優しく抱き上げていた。


「ミカ……ごめん……守れなかったよ……」

「なに言ってるのよ…初撃を防いでくれなかったら…

私じゃ間に合わなかったよ…

かっこよかった…お兄ちゃん…」


ミカはルーセルの頬に手を当て優しく微笑んだ。

ルーセルもコクリと頷き、抱き抱える腕に更に力が入っていた。

彼らはこのまましばらく余韻に浸る。


───旧中継拠点内部───

黒砂を巻き上げながらトーマが拠点へ飛び込んだ。


「最上級の治癒を使える者はすぐに死体の山へ!

ザードロオ様には適当に応急処置でもしておいてく

ださい。」


それを言い終えると、条件に該当する騎士が一人、

まだ黒砂舞い散る道を走り抜けていく。

トーマはそれを見届けるとザードロオを放り投げて、次の指示を出すため顎に手を当てる。


そこに何やら野次馬、というには邪悪な意思を持って近付いてくる5人の者達がいた。

彼らはセルニカ兄弟を護送した騎士達である。


「良い気になってんなぁトーマぁ?

王の付き人にしちゃあ出すぎた真似なんじゃねぇか 

と思うんだが?」

「…世間話なら受け付けておりませんよ。」

「いやいやこりゃ失礼!

なんせ王の付き人様だぁ、俺等みたいな下賤な騎士

なんか相手にしないらしい。」

「自己評価が出来てるじゃないですか。

私から高評価でもお送りいたしましょうか?」

「いらねえよ、運頼りの雑魚のはな。」


わざとらしい声でそう言い振らす、当然耳を貸さない騎士は居る、それでもこういう時に便乗する輩は案外多く居るものであった。


「そうだそうだ!実力もねぇ癖に!」

「王に恥をかかせたな!」

「決闘は死ぬまでが決闘だろ!!」


会場がずいぶんと賑やかになってきた、悪口で盛り上がっているので無ければなおよかった。

拠点トーマは慣れているようで何も言い返しはしない、罵声のなか、場所の手配をしながらザードロオの手当てをし続け数分…

ようやく罵声のストックも尽きたのか騎士達は舌打ちをしながら散っていく。

彼もまた、自分のテントへ戻っていった。


治癒を終えたセルニカ兄弟と、治癒を担当した騎士がいつの間にか戻ってきており、トーマ達の問答を見届けていた。


「…トーマさん、あまり馴染めて居ないんですか?」

「トーマ君は悪くないんだよ、ただ…仕事と役職、

就任したタイミングと経緯、全部が悪い方向に噛み

合っちゃったんだよね…」

「それは不運な、後で声をかけに行くとしよう。」


いつの間にか仲良くなっていた治癒の騎士とセルニカ兄弟、立ち話もそこそこに拠点内へ踏み入る。


そこに一人の騎士が割って入った。


「おまえ!ライボルト王に勝ったんだってな!」


収まっていた喧騒がとたんに再燃し、先程の騎士達が彼らを取り囲み騒ぎを大きくし始めた。


「なぁなぁ!今からでもうちの分隊に来ねぇか!」

「なんならコイツが新帝王でもいいんじゃね?」

「強ええしな!」

「現帝王が弱かったんじゃ無いのか?」

「「「「「無い無い!」」」」」


…………はぁ……


「……ハーハッハッハ!!

落ち着きたまえよ諸君!僕には先約が有るのでな!

そのお誘いは断らせて頂こう!さらばだ!」


ルーセルはミカの手を引きながら拠点外へとすっ飛んで行ってしまった。


「あぁ…!行っちゃった…」

治癒の騎士は着いて行けず、彼らを見送るばかりだ。


「くっそ…惜しいやつを逃したぜ…」

「部隊順位上げに熱心だなぁ?」

「雑用に落ちるのは勘弁なもんでな。」

「なったら俺が可愛がってやるよ。」

「そっくりそのまま返してやる。」


軽口を叩く彼らのことを、トーマはテントの幕越しに見つめていた。


「……行かないと。」


ちなみにだが、ここまでの会話はしっかりザードロオの耳に入っていたらしい。

ザードロオは彼らの後ろでムクっと起き上がった……


───旧中継拠点外周───


「ふぅ……」

「お疲れ様、お兄ちゃん。」


彼らは防衛用の土嚢に腰かけていた。


「あいつら…随分調子がいいな。」

「そうね、そういうグループ…でも無さそう、あの騎士団自体の気風みたいに見えたわね。」


彼らはしばらくの長考の末唸り声を上げるだけ、

とくに具体的な結論も出ずに時間が過ぎていった。

そこにちょうど背後からトーマがやって来る。


「お疲れのところ申し訳ありません、お部屋の準備が出来ました、どうぞこちらへ。

ご安心ください、裏道を通りますので、他の騎士と

出会うことは無いでしょう」


そう言うとトーマが手招きをする。


「ありがとうございます、トーマさん。」

「いえいえ、元はと言えばこちらの責任ですので、

このくらいは当然償わせていただきます。」


そう言ってトーマは踵を返し戻っていく、

セルニカ兄弟も着いていき、テント裏の道を共に歩いて行った。

道中ではテントとテントの隙間から、何やら足蹴にされている騎士達と足蹴にしているザードロオが見えたものの、声を掛ける義理も無いのでそのまま足を止めること無く通り過ぎて行った。

しばらくしてトーマが立ち止まり、テントの入り口の布を除けてセルニカ兄弟に手招きをする。


「どうぞこちらへ。」


ルーセルがテントの中を覗く。

内装は簡易ベッドと机、椅子が一対置いてあるだけ、


「随分と簡素だな?」

「もともと緊急でここを利用しているだけでして、

あまり物資に余裕が無いんです。

昨日本国に資源要請を致しましたので、早ければ

明日にでも物資が届くでしょう。」


少し嫌味っぽく言い捨てたつもりだが…

笑顔は崩さずに冷静に説明できる、こんな人があんなに嫌われているとは…なにがあったんだ?

まぁ、ひとまず休もう、最前線で魔力切れなんて洒落になら無い。


セルニカ兄弟が二人とも部屋に入った、トーマはそれを確認してから入り口を閉めた。


「あ、なにか入り用の物はございますか?」

「私は特に、」

「僕もな…。」グゥゥゥゥ…


トーマがクスッと笑う。

「お昼もすっぽかして来てくれたんですね、お食事をお持ちして来ます。」

「…ありがとう。」


ルーセルは照れ臭そうだ、ミカは少し笑っている。


スタスタと歩く音が聞こえ、次第に遠くなり、完全に聞こえなくなった、食事を取りに行ったのだろう。

ミカはそれを確認してからルーセルに話掛ける。


「お兄ちゃん、今魔力どれくらい残ってる?」

「詳しいことはわからないな。」

「体感でいい、教えて。」

「2、3割ってところ。」

「案外残ってるわね、もっとギリギリかと思った。」

「光魔法をあんまり使ってないからかな、あと、前回の魔力切れと比べてるなら…あれは前日

に張り切って特訓し過ぎたせいかも……」

「前日ってサウザンウルフの?」

「いや、入団の。」

「そんなことしてたんだ。」


ミカが椅子に腰かけ、背もたれに重心を預けた。

そして服のポケットに手を入れると……


「おいちょっと待てなんだそれ。」

「お昼のチャーハン。」


ミカの手には小さく縮んだチャーハン、それが今までよく見た四角い枠で囲まれていた。

手のひらに載せると縮んでいたチャハーンがチャーハンでチャハハハーン。

要するに元の大きさまで戻った。

いや…うん、そうなのだ、確かにチャーハン……

残すの良くないよね……


「あれ?使ったこと無かったっけ、この魔法。」

「多分まともに見たのは初めてなやつだ。

とにかくしまってくれ、トーマさんが見たら困惑しちゃうだろ。」

「わかった、セレクト、グラブ、ロック、リダクション。」


チャーハンが縮んだ、ミカがそれをポケットに戻したタイミングで、砂を踏みしめる音が近づいてくる。


「失礼します。」


テントの入り口から夕陽が差し込む、

トーマがトレーを二つ持って入って来た。


「パンとスープ、付け合わせの加工肉です、あまり味は期待できませんが栄養はたっぷり入っていますよ。」


固そうなパンと、もはや食事と呼べるか怪しい薄紅色の板の乗ったプレートと、スープの入ったカップの置かれたトレーを二人の前に丁寧に置いた。


「それでは、ごゆっくりどうぞ。」


配膳を終えたトーマはささっと退出していった。


「……お兄ちゃん、あげる。」

「待て、逃がさないぞミカ。」


ルーセルはプレートを掴むミカの手を掴み、威嚇ともとれる眼光で互いに見つめ合う。


「一口、一口食べてみよう。」

「…そうね。」


ルーセルは手を離し、椅子にどっかり座る。


ミカはその隙を見逃さない!!


「えい!!」

「あぁ!?おい!」


プレートを勢いよく持ち上げ逆さにし、

プレートの中身が重力に負ける前にルーセルのプレートに被せた!!

ルーセルは被せられたプレートを急いで外すが、無惨にも薄紅色の板は合板となりもはや元には戻らない。

パンの方は変形もしないようだ。


「グッ…食べるしか無いか…」


フォークフォーク…あった、トレーの横側だ。

頼むから刃は通ってくれよ…流石に通った、ふぅ……


「いただきます……」


ソーセージの中身みたいな固さだ、皮が無い分形が崩れやすい……よし、こういうのは思いきりだ……


ルーセルがバクッと行った、食感の悪さに顔をしかめつつ味を噛み締めている……


「旨い…旨いぞ、ミカ。」

「ふぉふぅふぁんふぁ」


ミカはチャーハンを貪っている。

ルーセルも思いのほか味の良い食事に気持ちが高揚して箸が…いやフォークが進む。

二人とも食事を終えると、二人とも靴を脱ぎミカはベッドにダイヴ、ルーセルは鎧を外し同じくベッドにダイヴ、まだ夜は浅いが、明日に備えるようだ。


「おやすみ、お兄ちゃん。」

「おやすみ、ミカ。」


    ……同刻……

───旧中継拠点内部───

死屍累々、ここはそんな言葉が似合うほど人の体が横たわる広場になっていた。

無論誰も死んではいない、電撃でもって気絶しているだけだ、犯人は…わざわざ言わずとも良いであろう。


「ザードロオ様…」

「………」


今は誰も足蹴にすること無く、ザードロオはただそこに立ち尽くしていた。


「……ありがとうございます。」

「また説教が飛んでくるかと思っていたぞ、貴様ももっと反撃なり何なりすれば良いものを。」

「それは私の仕事では無いですから。」

「貴様が良くても我が認めん。」


トーマが少し額のシワをムスッと寄せる。

「……なぜザードロオ様は私に嫌な顔一つもしないんですか、わかっていても嫌なものは嫌なんじゃ……」


ザードロオがトーマの右肩に手を置いた。


「我は世間知らずである、それを正してくれている

貴様を、誰が無下に出来ようか。

我はそれを理解しない連中を良くは思えない、躊躇うな、トーマよ。」

「…!…はい!」


砂漠の暑さのせいだろうか、夜だと言うのにトーマの瞳から汗が流れていたのだった。



第六話:万雷帝王 完

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