第五話:救援ルドット・セルニカ
「通信途絶?!ミカ、行くぞ!」
「もちろんよ。」
急いで訓練場から二人は飛び出した、食べていた食事も食器もデモニスも報告に来た騎士も置いて。
青空の下へ飛び出すと、ルーセルがミカを抱え………
風の翼が彼らを厚く抱擁する
無論ルーセルの魔法、
風土 ノーマルウィング
『複合魔法 もっとも軽く最も鈍重な翼』
風の翼は土の外装を身に付け大きく広がる、
動かすのに力はいらないただ魔力で動かすだけ、
それにも関わらずそれは恐るべき推進力と風圧を地へと叩きつけ彼らを飛翔させた。
だがルーセルはそれでは終わらない。
足裏に土魔法五の水魔法一を配合し出来る物質、
その名も化石燃料イコール石油!
更に炎魔法を重ね特大の爆発を引き起こす!
爆風を翼が受け止め更に速く速く速く飛行し、ついに目の前の王城まで目前!
ミカが手を振り払う動作を見せると、とある窓が中で押されたかの様にガバッと開き、そこに燕かのごとき飛翔体が入り込んだ。
丸く彼らを抱擁していた翼が、再びはばたき床に風を叩きつけ、それに乗ってセルニカ兄弟が舞い降りる。
「ルドット・セルニカ!」
「ミーガン・セルニカ、」
「「ただいま参った!」」
珍しくミカがルーセルに合わせる、今回はしかるべきタイミングで彼らは参上したようだ。
場所はあの謁見室、もちろんあのお方がいらっしゃる
「良いタイミングだルドット・セルニカ!
緊急故詳細は省く、君を要救援区域に転送させて貰うが、敵は魔物だ、間違えるなよ。」
「もちろんです国王陛下!」
「よろしい、これを持て、」
国王が器用に手紙を投げつけてきた。
「それは現地で開けよ、転送準備!
ミーガン・セルニカは巻き込まれるな!」
「国王陛下、お言葉ですが、ミカは必ず役に立ちます連れていくのが得策のはずです!」
国王は躊躇いの顔を見せたが、事態は一刻を争うようであった。
「…許可しよう、
数千里の彼方に愛しき眼求め、
不浄の大地それすら些細なこと。
見せよ雄大なる大地、その眼に写らずとも。
万物転送
テレポート 」
──────────城壁正門─────────
少し曇り気の強い城壁正門、正門前は草原でそこでは隊列を組んだ騎士達が地平線を埋める波のように押し寄せる魔物を迎え撃っていた。
だがそれもついさっきのこと、既に前線は崩壊し、足の早いウルフやワイバーンが後衛に進撃する。
「ドラグ ハイアクアバースト!」
両手あわせて10本の指先から高圧の水が噴射される、
それらは数体の魔物を貫通した、だが細すぎる。
やつらは止まらない。
「怯むな!一斉掃射!」
「「「ストーンボール!」」」
正門の横幅より広くに巨大な岩石が並べられる。
それらが射出されると、魔物達の後衛がごりッと数を減らす、だが悲しきかな、ウルフやワイバーンは軽やかに避け彼らに進撃を続けた。
「っ!!仲間を見捨てるわけには…」
その時、空にこの地を輝かし、水滴の滴る彼らの鎧を煌めかせる正に太陽のごとき光が舞い降りる!
「ハーハッハッハ!ルドット・セルニカ!参 上!」
後衛部隊の前に黄金の鎧が轟音を立て落下する。
「ミカ、前衛に守護を、後衛と自分の保護もだ!」
「うん、バックアップは任せて。」
黄金の鎧は再び宙へ飛び立つ、輝く軌跡と、たった一人の少女を残して。
「お、おい!お前達が救援か!?」
「ええそうよ、私とお兄ちゃん。」
「…それだけか!?お前達だけで何が出来る!これだけの騎士が集まっても、この私が居ても押し返せないのだぞ!終わりだ!!!」
彼女の叫びが魔物にも届いたようだ、ウルフは咆哮を上げ、ワイバーンは口から炎を吐きながら進軍を続ける。
ミカの首にその牙が届く一歩手前、魔物は勢いをそのままにそれに飛び付く。
頭からそれに突っ込んだそれは、壁に阻まれたように空中で何かにぶつかり、自身の速度と質量に押し潰され絶命した。
「あえ?………ど、どういう事だ?」
それからもワイバーンの炎もウルフの噛みつきも後衛の魔物から放たれる様々な魔法もその 何か に阻れれ続けた、ミカは魔物を嘲笑するように笑みを作りながら振り向くと、彼らに片手をかざす動作をしながら…
「セレクト、」
辺のみが描かれた5×5×10の立方体が手の先に出現、
それはミカの手を5メートル毎に追従し、追従前のそれはフェードしながら消えて行く。
ミカの手が魔物へ向けられた。
「グラブ、」
ミカが手を振り上げる、
立方体がそれに合わせ上空へ移動、その範囲内に居たすべての物質、生物が同じように動く。
「カット、タイプグリッド、」
空中の箱庭が更に細かい立方体へ分割された、
もし落ち着いて数える時間があれば、それは16000個の立方体で構成されていることがわかるだろう。
「リリース。」
ミカの手を下ろし、
空中に描かれた線が消える、
それと同時に、細切れとなった肉と毛皮と鱗が、
鮮血を纏って落下した。
ミカがクルッと振りかえって見せる。
「文句はないかしら?」
「……あぁ、もちろん…」
ミカはなにも言わず踵を返し、今度は両手を後衛へと向けて言った。
「セレクト、」
今度は何も出現しない………
「………なんて広域に魔法を…」
今度のセレクトは先とは比較にならなかった、
何せこの戦場を埋めるのではと思えるほどの大きさの範囲で発動した、空を高く見上げなければそれを構成する線は見えないであろう。
「セレクター『ヒューマン』、グラブ、」
ミカが手をまた振り上げると、前線にて倒れ伏していた騎士だけが持ち上げられた。
総数にして30人ほどである。
「フィックス、」
持ち上げられた騎士達を囲う線が柱と呼べる形状まで太くなる。
──────
遥か上空、国を一望できるほどの高度にて、鎧はただそこにたたずんでいた。
持ち上げられた騎士達を囲う線が柱と呼べる形状まで太くなる。
よくやったぞミカ!これならいくら広域攻撃をしようが問題はない!
土火 炸裂する火種
「複合魔法、クラスターファンク!」
ルーセルの背後に、30はあろうか炎の玉が浮かび、それらを次々岩が包み込んだ、それを炎が包み、また岩がそれを包み…それをあと3回繰り返し、最初の小さい炎が嘘のように、赤い亀裂の入った頭より一回り程大きい岩の玉が完成した。
「発射ァ!!!」
岩の玉が地に向かって射出され、と言うにはいささか不恰好、投下と言っておこう。
それはたちまち米粒ほどの大きさになるほどの距離を落下し、見えなくなった。
「まだまだぁ!もういっぱぁつ!!」
また岩の玉が投下される、
「まだまだ!
まだまだ!!
まだまだ!!!
まだまだ!!!!
まだまだ!!!!!
まだまだ!!!!!!
まだまだ!!!!!!!
まだまだだぁぁ!!!!!!!」
合計20発の複合魔法!しかし魔物の数はあまりに膨大で、恐らく城壁内を埋めつくせる数、今のルーセルはただ無意味に魔力を消費しただけ………か?
魔物の軍勢のど真ん中、大爆発と表現するにはすこし威力の足りない爆発が起こる、
大体全体の500分の1くらいか………
「我々の勝利である!」
直後更に爆発が起きる、それも先程よりまばらで広域に、更に爆発が起きる、更にまばらで広域に………
何を隠そうクラスターファンク、五回爆発を繰り返し岩の破片で相手を貫く魔法、しかも爆発前の耐久力がこれまた異常であり、クラスターファンクがクラスターファンクの爆発を超至近距離で耐える、つまりそれはどういうことか。
四回目の爆発、既に敵全体へ爆発が広がった。
つまりそれは、爆発によって岩の玉が飛ばされ、更にその先で爆発、それによってまた岩の玉が飛ばされ……
たとえ一発でも被害は半径100mまで届くとされる。
そんなものを20発1ヵ所に放ったらどうなるか?
決まっている。
「………敵存在…全………滅?………嘘でしょ?………」
敵は四方八方の弾幕を受け、仲間から仲間に引火する地獄、たとえ生き残ったとして、回りは火の海、
決して生き残ることは出来ない、つまりクソ技ということなのだ。
最後のだめ押しと言わんばかりに5回目が炸裂した。
上空からルーセルが落下してくる、彼は着地する直前にスラスターを吹かすことでサッと着地した。
「無事かミカ!」
「あんなのぶっぱなした本人が良く言えるね?」
「ハーハッハッハ!心配はくらいは良いだろう?」
あの爆発を受けてなお、前線にて持ち上げられた騎士達には傷どころか埃もかかっていない。
当然ミカ達にも。
ルーセルとミカが気さくな会話を繰り返していた所、
先ほどから醜態をさらしていた女性が近づいて来た。
「君たち…」
ルーセルとミカが話を止め彼女に向き直ったところで、彼女は深々と頭を下げ言った。
「本当に…ほんっっ!とうに…ありがとう…!
そして…本当にすまなかった………」
彼女の顔からはボロボロと大粒の涙が、すっかり乾いた鎧に滴り、日差しが雲の間からそれに差し込む。
鎧が煌々と光った。
「よい!どうあろうと仲間を守るのが英雄である!
それより早く前衛を勤めた騎士に治療を!」
それを聞いた彼女は涙を拭い部下に指示を出した、
ミカはささっと魔法を解く。
「本当に助かった、まだ救援が必要な場所があるかもしれない、また救援を頼めるか?」
「もちろんである!まずはどうすればいい?」
「私がテレポートと連絡を担当しよう、
着いてきてくれ、トレス、あれを取ってきてくれ、急いでだ。」
「承知致しました!」
そのトレスという者は急いで城門へ走って行く、
「私たちも行くぞ!」
「うむ!」「ええ」
トレスは足が早くすぐに見えなくなった、ともかく我らも城門へ走らねば、
城門まで着いたところでトレスが城門の扉から出てきた、手には………
「お待たせ致しました!どうぞ!」
「あぁ!ありがとう、それではお二方こちらに…」
ルーセルは固まっている、ミカも少し戸惑いを感じさせる表情が張り付いていた。
「あ…貴女は誰なのだ?」
「そうでした!申し遅れました、私はこの、
『 アクアアース 王国 現国王 ! 』
【 アクアモルクス・E・ドレディアンテ 】
と申します!」
彼女はトレスからマントを受け取り鎧の上からそれを羽織ると、そこから宝石をつまみ取る。
「セレクトグラブフィックス!」
「ジ・オールマイティー!ライトリレイザー!!!」
光の柱が天高く突き抜ける、それは振り下ろされ城門を軽く削りドレディアンテ国王へ向かって行く。
彼女は驚きで硬直し、動かない。
しかし、その光りは突然ピタッとやんだかと思えば、今度はルーセルから四角形に強烈な光を放ちだす!
「何をするミカ!?相手は敵国の王だぞ!」
ミカの魔法は女王ではなく、ルーセルへと向けられ完璧に彼を閉じ込めていた。
「お兄ちゃん!ガルムンド国王の言葉を思い出して!そこに答えがあるのよ!」
四角形に切り取られた空間、先ほどまで埃一つ見えなかった透明な壁にヒビが入る!
「お兄ちゃん!!!」
「知るかぁ!!」
更に深くヒビが入り、もう限界と見える。
「『敵は魔物だ、間違えるなよ』!!」
はぁ?
「なんで国王はわざわざこんな事を言ったのか!
それはあちらにしか知り得ない事情があったから!それ説明する時間がないから、最悪を回避するための言葉だったのよ!」
透明だった壁は、ひび割れにより光の漏れすら抑制するほどに濁っていた。
遂にパリパリと空間の裂ける音がし出した時………
「………話は…聞くべきだな。」
光りは収まり、それに伴い切り取られた空間も崩壊を免れなかった。
ドレディアンテ国王はルーセルを見つめる、ルーセルも国王を見つめる。
「ガルムンドさんから話を聞いていなかったか…
それなら今の行動も無理はないです、何せ今も戦争中である敵国だと教えられているのですから。」
そうだ、その通りだ、遠征だって敵国の進行を止めるためにわざわざ猛者を選定しているはず。
「ですが実態として、三国は同盟を結んでいます。」
「…なんのために…」
「平和のためです。」
「平和…平和?同盟を結ぶほど仲が良いならさっさと国を統合して…」
「ならない、決して。」
先ほどまでとは違う彼女の雰囲気に全員が息を飲む。
「敵の居ない平和は国家を腐らせます、遥か昔の王達はそれを避けるため国を分けました、互いが互いを驚異であると国民に認識させることで一致団結を図る、それを狙って。」
「それだけか?」
「もちろん違います、むしろこちらが本命。
五年毎にとある魔物が大陸中央へと出現する、
それの生み出す驚異への対応のために、三国はそれ
ぞれの分野を磨く。
それを急速に進めるためにも国を分ける必要があっ
た、例えば一国に纏まっていると、金になる魔法、生活に便利な魔法、国の利益になる魔法、どうしてもそれらばかりが発展する、そうして多様性を失った魔法ではいつか対応出来ない驚異に相対することになる。
…そうなれば人類は終わりだ………」
国王が拳を握りしめ、眉間にシワを寄せた、
しかしルーセルはそれどころでは無いようだ。
衝撃の事実とかいうレベルではないな…
盤上どころか地盤からひっくり返された気分だ。
だが合点が行く、確かトロイアの記録にあったあれ、討伐遠征、それは五年毎だった、
恐らく偉人の記録ゆえに情報統制の対象外となったのだろうな。
それに遠征に死者がでたなんて話も聞いたことは一回たりともなかった、これも戦争の擬装のための遠征であったからに他ならない。
さらに先の異常なほどの数の魔物、恐らく五年毎出現するそれから産み出される驚異がそれなのだろう。
「こんな事態の時に取り乱してすまなかった。」
「私も早く事情をお聞きするべきでした、とりあえずお話はここまでに、早く連絡を取らなければいけないですから。」
国王は手に取った宝石を砕き、風が彼らを包む。
こっちでも風なのだな。
───アクアアース王国謁見室───
「ああ国王様!よくぞご無事で!」
一人のローブ姿の男が彼らを出迎えた。
「ああ、ご心配ありがとう、すまないが至急転移の準備を頼む。」
「承知致しました!一応お聞きしておきたいのですがそちらの方々はどうされたのですか?」
「ウィンドファイア王国からの救援だ。」
ルーセルが右足を床に叩きつけ、足先を整える。
「ウィンドファイア王国騎士団第516期24番!
ルドット・セルニカである!」
「同じく、ミーガン・セルニカと申します。」
「救援感謝致します!」
男がこちらに礼を済ませると、
そそくさと魔方陣を書きに距離を取る。
国王はマントの内ポケットから青く縁取られた板を取りだした、手のひらに接する面は白、目線を向けている面が黒いガラスで出来ている。
彼女が板側面に付いたボタンを押すと、黒いガラスの部分が光る。
なるほど、それも端末か。
「救援…重大なのは…ライボルト王国は…問題なさそうです、元気に蹂躙してると報告が。
ウィンドファイア王国も防衛に支障はないようです
し、となると救援が必要なのは…
通信途絶中の遠征区域内…言い換えるなら、
『この世界の驚異の根源』です。」
「そこに行って何をすべきだ?」
「ライボルト王国方面へ飛ばします、恐らく遠征隊の中でもっとも人数が残っているはずですから。
そこで状況を知り、これで報告してください。」
彼女は内ポケットからもう一つ板を差し出す。
「それはよいが…それの使い方は知らんぞ?」
「ご冗談を、三国共通の通信端末ですよ。」
「………」
「………まさか本当に知らないのですか?」
「入隊してまだ20日未満である、知らぬことのほうが断然多い。」
ポカーンと効果音を着けたくなるほどの顔芸を見せ…本人は至って真面目か。
「ウィンドファイア王国騎士団第516期24番とさっ
き名乗ったばかりであろう?」
「そうでした…」
国王は思い切りため息を着き、その後大きく息を吸うと、恐らく数々の突っ込みを飲み込んだのだろう、その後は端末の使い方を丁寧に淡々と感情を圧し殺した顔で説明してくれた。
「国王様!救援のお二方!準備が出来ました!」
「ご苦労、」
国王は彼ら中心に描かれた魔方陣から抜け出す。
「それではご健闘を祈ります、ルドット殿、ミーガン殿。」
「………その眼に写らずとも、テレポート!」
───驚異の根源 西区域──
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第五話:救援ルドット・セルニカ か/ん
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「この我の出番を先延ばしにさせるものか!!
我の名はライボルト・ビルッ「止まりなさい!!
時間押してるんですから!!」
「次回!万雷帝王!見なければ極刑ぞ!」
「ま~た勝手なことを………」
第五話:救援ルドット・セルニカ 完