第四話:真実への一歩
───騎士団本部前───
「はぁ…」
「お疲れ様、お兄ちゃん。」
ミカが階段に腰かける。
彼らは騎士団本部の入り口、外から重厚な扉へと至る大階段のなかばにて、座り込んでいた。
サウザンウルフの群れは無事掃討され彼らは帰宅することを許可されたのだが…
サウザンウルフのボスを討伐したはずのルーセルは、何故かとても落ち込んでいるようである。
「はぁー…あれはどうすればよかったのだ?」
「あれは仕方ないわ、補助輪を付けた自転車で最高速は出ないもの。」
「しかしトロイアならやってのけたであろう。」
「だから憧れるんじゃないの?」
ルーセルがバンッと手を突き立ち上がる。
「うむ、そうである!だから我々は目指すのだ!彼のような英雄を!」
「その通りね、なら落ち込んでる暇は無いわ。」
ミカもまた立ち上がり、
二人は夕日の照らす大階段を一段一段降りて行く。
彼らもまた夕日に照らされ影に染まっていた。
「諸君、少し時間を貰っても良いかな?」
その影を更に大きいヒラヒラとした影と、
それに反して凛と形の崩れぬ冠の影が覆った。
「国王陛下…」
「君達とお話をしたい御方が居てね、
紹介させて頂こう、ウィンドファイア王国現法王、
【リンク・ラインハルト・スーベリア】
の、直系の孫の息子のズバイル殿だ。」
国王のマントの裏より、セルニカ兄弟より一回り程大きいくらいの背丈の者、しかし年齢で言えば彼らより
幼くも歳上にも見える。
「ご紹介に預かりました、
【リンク・ラインハルト・ズバイル】です。
以後よろしくお願い致します。」
ニコっとこちらに笑い掛ける。
「それでは、国王と法王のご子息が、
白昼堂々と歩き回っていては民が混乱致します、少し場所を移しましょう。」
国王がマントに飾られた宝石を一つ剥がす、
例のテレポートだ。
風が彼らを覆い尽くす。
「こ…国王陛下?これは一旦………」
ズバイルが狼狽えるが、国王はそれが楽しいようだ。
「私の開発した魔法の一種です、詳しくは後程。」
風が晴れ、夕日を更に身近に感じる。
「ここであれば誰にも迷惑などかかりません、
法王陛下からの伝言が漏れることもありません。」
王城のてっぺんに作られた物見やぐら、しかしてそこに至る道は無く、恐らくはこの手段以外で来る方法は無いようになっている。
ズバイルは少し動揺と恐怖を感じているようだが、
それを圧し殺した青い顔で笑顔を作っている。
「えぇ、そうですね国王陛下、それでは法王陛下から預かりました伝言の詳細をお伝え致します。
『入隊お祝い申し上げる、
ルドット・セルニカ殿、我がウィンドファ……
──────
より、貴殿の魔法の実態の報告を義務付ける。
それによって本格的に貴殿の処遇を検討させて頂こう。』とのことです。」
「はい…」
長かった…というか最後だけでいいではないか、
連絡とはもう少し端的で纏まった物を寄越せと…
「国王陛下より戦闘のことはお聞きしております、
実物を見せて頂ければ結構です。」
「お兄ちゃん、光魔法使える?」
「合成だけならば。」
「お願い。」
「ジ・オールマイティー…」
いつも通りの手順で手のひらに光球を作り出す。
ズバイル殿はどうも興味深そうにそれを眺める。
「ど…どうですか?…」
「ふむ…若干違うものですね国王陛下。」
「やはりか。」
違う?
「今持っている疑問は分かります、
それに答えるとするならば、あなたの光魔法と、
法王一族が扱う光魔法は生成の原理が違います。
あなたのは全元素を合わせて作られているように見
えました。
しかし我が法王一族が扱う光魔法というのは直接に
光魔法を生成する物です、このように。」
ズバイルが手を出し、その上に光球がポンっと出現、
ルーセルは呆気に取られていた。
「しかし話はここで終わりません、」
ルーセルが顔を真剣な面持ちに戻す。
「我らの使う光魔法は放出が限界、
形成や性質変化などもってのほかなのです。
一体なんなのでしょうかあなた方?」
ズバイルが少々ドスを効かせてセルニカ兄弟を脅す、
「「わからん!(わからないわ)」」
ズバイルずっこける。
だがセルニカ兄弟の顔は冗談を言っている顔では無かった、ズバイルは真剣に質問を投げ掛ける。
「親御さんの情報を頂いてもよろしいでしょうか?」
「物心付いた頃には居なかった!」
「何か特別な書物などの所持は?」
「家に本など無い!」
「高名な方との面識などは…」
「近所のおじさんがそうならそうであるな!」
ズバイルが頭を抱える、
国王は「だろうな」とでも言いたい顔だ。
だが嘘では無いことくらい分かったようだ。
「私からお聞きしたい事は以上です、ご協力ありがとうございました。
私は法王陛下に今回の件を報告しなければならない
のでお先に失礼します。」
「ご苦労様ですズバイル殿、後方にある魔方陣は転移が刻まれておりますのでそれでご帰還ください。」
ズバイルがペコリと頭を下げ魔方陣へ立つと、
光にパーっと包まれ消えてしまった。
国王はそれを見送ると、踵を返しこちらに話を降る。
「セルニカ兄弟、少し世間話でもいかがかな?」
「ええ、」
「うむ!」
国王はやぐらの床に座り、彼らにも座るように促す、全員が座ったところで話をはじめた。
「君達は600年前の事について知っているかな。」
「はい!大体ウィンドファイア王国建国の時期です!」
「その通り、今年で建国約500年だ。
では、それ以前の記録に付いて聞いたことはあるか
ね。」
「ない!」
国王が微笑む、
「当然だな、城の書物庫どころか国庫を荒らしたところでそれは見つからなかった。
更に不可解なことに初代ウィンドファイア王国国王
の在任時についての文献は何一つ残ってはいない、
国王の名も詳細な建国日もウィンドファイア王国と
名付けたのもどういった経緯で建国されたかも…」
国王が息を吐き、新鮮な空気を目一杯吸うと…
更に興味深い情報を息と共に吐き出す。
「地質と気候の関係もおかしい、
雨が多く降る地域の地下で膨大な砂が見つかり、
その砂の中から砂漠特有の植物の化石が見つかった
こともある、しかし海岸に近づくほど地質と気候が
一致し始めることも分かった…
これ以外にも数えきれない程の不可解な現象が確認
されている、そこで一つの仮説を立てた。
この大陸は元々は別々の大陸だったのではないか?
もちろん憶測の域を出ない、それに学者もそれは
あり得ないと否定をする。」
…僕らにしてどうするという話であるな、
国王もそれを分かっているはずなのだが…
本当にただの世間話なのか?
それにしては内容が専門的過ぎる上になにやら庶民が知るよしもない話のようだし…
「さて、本日はこれで本当に終わりだ、帰って英気を養いたまえ若き騎士達よ。」
国王が宝石を手に取る。
───セルニカ亭───
「英雄!ただいま帰還である!」
「ただいま、」
剣を玄関に立て掛け、リビングへ上がる。
ルーセルはソファにドカッと座るが、ミカはリビングに姿が見えない、しばらくしてリビングへミカがやって来た、大きい荷物を持って。
「それは?」
「この世界の地図、正直必要かも怪しいくらい単純な地形だったから、物置の奥底で埃を被ってた。」
地図の埃を払い、ソファの前のテーブルへ広げた。
「丸いな、」
「丸いよ。」
地図の上には型でも取ったようなまーるい大陸が描かれている、正直誰でも書けそうだな。
「あの話、もし本当なら合点がいくわ。
あまりに人工的過ぎるもの、この大陸。」
「たしかにな、ケーキでも焼く型みたいだ。」
「お兄ちゃん?」
「冗談だよ、国王が言ってたことが本当ならば、
いるんだよな、大陸をこうしたやつ。」
、、、まぁわからないけど。
「神か悪魔かはわからないけど、どちらでも変わらないわね、強いことは。」
神か悪魔か…ふふっ…
「口角戻してお兄ちゃん、あと、夕飯の件忘れてないからね、頼んだよお兄ちゃん。」
「はいはい、何が食べたい?」
ルーセルがキッチンへ立った。
「パスタが良いわ。」
手際よく材料を揃えていく、
オリーブオイル、ニンニク、ベーコン、バジル、
塩、胡椒、唐辛子にパスタ。
鍋に水を注ぎ沸騰まで待つ、この隙に塩を一つまみ、パスタは一掴みが一人前だから袋から二掴みだす。
水が沸騰したらパスタを入れる、決して折ってはいけない、誰が見ているかわからないからな。
フライパンを火に掛けオリーブオイルをたっぷり注ぎまな板をステンレスの台に寝かせてバジルを刻む、
ベーコンは1cm毎に、唐辛子は輪切り。
ニンニクは包丁側面でおしつぶし熱々のフライパンに落とし込む。
オリーブオイルにニンニクの風味を映したら唐辛子をとベーコンを加えてかき混ぜる。
十分乳化したらパスタをトングで引き上げフライパンにぶちこむ、フライパンに焦げ付いたニンニクをこそげとるように混ぜ合わせ塩で味付け、二人前なら手のひらで少し山が出来るくらいを入れる。
このタイミングで胡椒もだ、細かく砕いた胡椒を塩の五分の一くらいの量だけ加える。
味を整えたらバジルを加えて再び混ぜ、
味の調整で茹で汁をお玉一杯分注ぐ、
後は盛り付ければ…
「はい、ペペロンチーノ完成。」
「いただきます。」
「僕もいただきます。」
チラッとミカの顔色を伺う。
「………」
不味い、黙って口動かしてる、表情筋が鉄みたいだ。
「ど…どうですか料理長。」
「お兄ちゃんは黙ってて、」
「アッハイ」
黙々と食べ進めている…
全て食べ終えたところでようやく固まった表情筋が動き出した。
「美味しいよ、お兄ちゃん。」
うっ、笑顔がまぶしいぞミカ…
「あ、ありがとう…」
「どうしたのそんなに怯えて、」
「どんな文句が飛び出すものかと…」
ミカが無言のまま食器を持ち、
台所へ向かうとシンクへ水をながし始める。
「皿洗いはしてあげるから、お兄ちゃんは洗濯物取り込んでてちょうだい。」
「あいあいさー」
ささっと洗濯物を取り込み、畳む、
ミカ用と僕用で別けて…よしできた!
「部屋においてといて良いか?」
「うん、お願い。シャワー先に使っていい?」
「問題なし。」
ミカは最後の食器をふき終わり、スタスタと浴室へ歩いていった。
…………
よいしょっと、運搬完了だ。
「お兄ちゃん、上がったよ。」
一階からミカの声が聞こえる、俺も浴びるか。
…………
「ふぅ、さっぱりした。」
シャワーを浴びたルーセルは2階へ上がる、私室へ戻るつもりだ。
2階のとある一室の扉からミカが顔を覗かせる。
「おやすみ、お兄ちゃん。」
「おやすみ、ミカ。」
扉をバタンと閉め、ベッドだけの置かれた立方体形の部屋に向き直る、そのベッドに飛び込み目を閉じた。
おやすみ…
───ミカ視点───
………今日は普通の夢ね、
ミカは今、王城頂上の物見やぐらに立っている。
もちろん国王と話したあのやぐらである。
ミカはやぐらから身をのりだし、空中へ足を運ぶ、
空気に足をつけその身は夕日に照らされる。
相変わらず暇なだけなのだけれど、
国を上から一望できるのは少し気分がいいわね。
そのまま足を前にだし空中を踏破していくミカ、
城壁が真下に見え、その境界線を跨ごうとした時、
…真っ暗、やっぱり空からでも行ったことない場所は行けないか、それもそうよね、ただの夢だもの。
夢とは自身の記憶を整理しその過程で生み出されるもの、当然記憶にない物を見ることはできない。
…暇ね
……
………
…………
……………………………
「…朝…かぁ…」
ミカはルーセルとは対照的に家具の多く置かれた部屋で目が覚めた。
───ルーセル視点───
………20日後………
「本日の訓練はこれにて終了とします。
定刻に各員防衛位置に付き監視に当たるように。」
「「「はい!!」」」
騎士団西訓練場、時刻は12時、
8時に訓練が始まり12時に終わる、14時から防衛の任務に着くためその間に昼飯を終わらせ、
そこからは20時まで王城警備に着く、
それがここ20日間で慣れ親しんだ騎士団の仕事。
「はぁ~疲れた~。」
「その割に顔に余裕が溢れているぞルーセル殿」
「お兄ちゃん、デモニスさん、ご飯行きましょ。」
「うむ!今日こそは絶品牛すじ煮込みカレーに間に合ってみせるぞ!」
ちなみに食堂は訓練場一つ一つに着いている。
西訓練場は流石に本部ほど複雑で広くないためすぐに食堂に行ける、ゆえにカレーは争奪戦なのだ!
「お~いそこの三人組!
そっちの人形こっちに持ってきてくれ。」
「うむ!わかった!」
「承知した」
「ええ」
と言っても、このように訓練場の片付けを終わらせぬ限り食事の時間は訪れない、全員で協力して早く終わらせるのが好ましいのだ。
…いまさらながら号令前にすればいいのでは?
「それを入れたら終わりだ、貸してくれ。」
「おお、ありがとうデモニス。」
倉庫から出て教官の前に集まる。
「すばらしい手際です、その初心を忘れないよう
これからも頑張ってください、号令。」
「気をつけ、礼!」
「「「ありがとうございました!」」」
育ち盛りの者達はぞろぞろと走り出す。
「飯だー」
「おれラーメンたべたーい」
「ギョウザつけるぜ」
「乗り遅れるなよミカにデモニス!」
「ふっ、さらさらそんなつもりは無い!」
「馬鹿な人達ね、」
そんなミカも笑っている、当然僕とデモニスも。
訓練場から扉を抜け廊下を突っ切り食堂まで一直線、流石にダッシュだと前にはほとんど人がいない、これならカレーは確実!大盛りまで行けるのでは!
希望に溢れた手で扉を勢いよく開ける!
「おや?」
既に列に10人は並んでいる…
席にもまばらながら人が座っているではないか…
いやまだだ!カレーは限定15食!それにあれらが全員カレーを頼んでいるとは限らぬ!急げ!
「ルーセル殿…これは無理なのでは?」
「諦めるなデモニス!まだ決まった訳ではなぁい!」
先に並んだルーセルの後ろにデモニスが並ぶ。
一人、二人と列が減り、ルーセルの番まであと一人!
「牛すじ煮込みカレー一つ。」
「はいは~い、牛すじカレーこれで完売で~す。」
ぐはぁ…
「今日も駄目だったなルーセル殿。」
「ぐぅ…次こそは…」
適当な料理を注文し、席に着く。
「あ、居た居た、注文してくるね。」
ミカも着いたようだ。
………………
「「いただきます!」」
「いただきます」
「旨い!」
「相変わらずの絶品だ。」
そんなこんなで飯を食べ進めていると、
なにやらとんでもなく慌てた男が食堂に入ってきた。
男は息を切らし膝に手を付くが、すぐに表を上げ声をひねり出して言った。
「今期遠征隊からの通信途絶!
成績上位20人は即刻騎士団本部へ集合せよ!」
第四話:真実への一歩 完