第三話:参上!ルドット・セルニカ!
「ハーハッハッハ!ルドット・セルニカ!ここに参上!」
ルーセルの声が広い食堂に響き渡る、ルーセルが着地し終わった頃には食堂内の全員が彼に目線を奪われていた。
「見ろよ、見栄っ張りのルーセル様だぜ?w」
誰かが言う、人混みの中から。
その言葉に一斉に食堂内部に笑いが起きる。
「ハハ!英雄とは常に傲慢で見栄っ張りなものよ!」
だがルーセルもまたそれと同じくらいに大笑いしていた、だがそれを面白くないと思う連中も当然いる。
「ファイアボール!」
ルーセルの背後からファイアボールが飛んでくる、
ルーセルは咄嗟にそれを防ぐ魔法を放った、
完全無詠唱のアクアベールを。
「俺はファイアロンド・ベキシス!
言わずと知れた二大貴族ファイアロンド一族の者だ!
俺はあの歓声の最中に完全詠唱のファイアボールを
放った、それなのにこいつはそれを防ぎやがった、
それも完全無詠唱のアクアベールでだぁ?
ズルしてイキってんじゃねぇぞ 自称 英雄。」
赤い服を着てスキンヘッドをしたガタイの良い男が
ルーセルを煽る。
そうだ、あの時喧嘩を吹っ掛けてきた男だ。
「そうだそうだ!」
「早いとこ正体晒せや!」
その発言を皮切りに輩どもからの怒号が四方八方から
ルーセルに飛んでいく、
幾人かはそれに良い顔をしなかったが今のルーセルはそれを見つけられるほど冷静では無かった。
「なんだ?また恥を晒すつもりか?」
あまり大きくはない声、それは付近の数人だけが気づくような声だった。
しかしその声を聞いた一人が黙り、またそれに気づいた一人が黙り、それを繰り返した末、
また食堂に静寂が戻った。
「そこまで言うならば良いだろう!
貴様らの全身全霊でかかって来るが良い!」
ルーセルの興奮が限界まで溜まり、
体の節々からあらゆる属性の残滓が漏れだしている。
「さぁどこからでも…」
ルーセルが背中からの奇襲を受け倒れる!
「お兄ちゃん、ストップ。」
「ッ!?」
なんだ…?視界が…安定しない…ミカ…
「このお馬鹿さん、勝てるわけじゃ無いんだから
ほんとにイキってどうするの。」
「…ごめんなさい。」
ルーセルの背中に激痛が走る。
「痛ッ?!」
「私じゃなくてあっちに。」
「皆さん…ごめんなさい…」
食堂にしんみりした雰囲気が満ちる。
ミカはルーセルを引きずりステージから降…
「うわぁ!?」
ルーセルの情けない声が食堂に響く、
ミカがルーセルを引きずってステージから降りる時にミカが階段を踏み外し、ルーセルもろともスッ転んだのだ。
しかし幸運なことに、
これがしんみりした雰囲気を吹っ飛ばし食堂に笑いが巻き起こった!
「ガハハ!なかなか愉快なヤツじゃねぇか!こっち座れよ!」
ステージ近くに座っていた男がルーセルの襟を掴み、
強引に隣の席へ座らせる。
「おぉ、すまぬな…情けないところをお見せした。」
「そんな引きずんな!実は俺もアイツは気に食わねぇし、お前はなんも間違っちゃいねぇさ。
そんなことより!せっかく雰囲気が明るくなったんだしよ!もっと交流増やしてけ!」
「うむ!確かにその通りであるな!僕はルドット・セルニカ!そなたの名は?」
「俺はクーデンだ、よろしくなぁ!」
クーデンと握手を終えた頃、
どこから沸いてきたか同期と思われる騎士が机から身をのりだしこちらに話を掛けてくる。
「待て!抜け駆けは許さんぞ!俺はシャンバル!」
「私も聞いてくれ、デモニスという。」
「マーシャでーす!」
全員分の挨拶と握手を終えると、
ミカが袖を引っ張ってくる。
「どうしたミカ?」
「ここが食堂なら購買とかは無いのかなって。」
ルーセルの代わりにクーデンが答える。
「入り口から右にある、あそこの飯はどれも絶品!
弁当を持ってこないならあそこで買ってけ!
って教官が言っていたぞ。」
ミカがペコリと頭を下げルーセルを引っ張っていく、
「どうしたミカ?そんなにお腹空いてたのか?」
ミカがため息をつく。
「お兄ちゃん、なにか忘れてない?」
なにか忘れている?
そんなことあっただろうか…
食堂入り口付近まで来ると、見覚えのある男が居る。
「ルーセル!ようやく来たか!」
あ、トミー先輩…完全に忘れていた…
「すいませんトミー先輩…」
「はぁ…まぁいい紹介しよう、ここが食堂だ。
あそこを見てくれ、あれが購買で使い方は…実際に見てもらった方が良いだろうな。」
トミー先輩は購買へ歩きだし店員に話し掛けた。
購買は壁に埋め込まれた形で作られており、かなりのスペースを取った大型な設計だ。
受付は5個ほどあるが今は一つだけ開いている。
「やっほ、フーカ、注文良いかい?」
店員がトミー先輩へ向き直る。
「あぁ、トミーか、ご注文をどうぞ、売り切ればっかだけどね。」
トミー先輩がメニューに目を向ける。
「これ…は売り切れか、ハンバーガーある?」
店員が首を縦に振る。
「ドリンクにコーラつけてくれ、以上だ。」
「ハンバーガー一点、ドリンクのコーラ一点で670アンになります。」
トミー先輩が財布からお金を渡す。
店員はトミー先輩に一枚の紙を渡し、
購買奥のキッチンへ入って行った。
……数分後……
「お待たせしました、1番でお待ちの方どうぞ。」
トレーに載せられた料理をトミー先輩が受けとる。
「こんな感じだ二人とも、使ってみるかい?」
「もちろんだとも!」
「私も、少しお腹が空いたわ。」
ルーセル達が受付前に並ぶ。
「ご注文をどうぞ。」
………
購買近くの席に座り、ルーセル達は提供された料理を食べながら話している。
「旨いッ!」
「あら、美味しい。」
ルーセルは鶏胸肉のトマトソース煮、
ミカはポテトとナゲット。
ミカと多少シェアしてもらったがかなりの絶品と言えよう!これは常連にならざるおえん。
全て完食し食器をカウンター横の棚へ戻す、
すると、タイミングを見計らったようにトミー先輩がこちらに向かってくる。
「さて、次の予定なんだが…」
「よぉ!ルーセル、飯は旨かったか?」
クーデンがルーセルの肩に手を回し話し掛けてくる。
よく見るとほかにも3人程クーデンに着いてきているようだ。
「クーデンか!あと…ええと…」
僕が名前を思い出すのに苦戦していると、
ミカがすかさずフォローを入れる。
「シャンバルさん、デモニスさん、マーシャさん、四人揃ってどうしたんですか?」
「どうせならお前達を誘って皆で行こうってことになってな!それでお前らを探してたってわけだ。」
トミー先輩がクーデンに近づく、
「じゃあセルニカ兄弟にこの後の予定とか話してあげてくれるかい?」
クーデンはようやく先輩の姿を認識した、敬礼し胸を張りながら威勢よく返事する。
「おう!任せてくれ!」
トミー先輩は微笑んでいる。
「じゃあ最低限これだけ受け取ってくれ。」
トミー先輩は僕とミカに一枚ずつカードを手渡す、
そのカードにはそれぞれの顔写真と二桁の番号、
あとは細くて黒い線が無数に羅列されたスペースもあったが、用途がわからん。
「それじゃあ行ってらっしゃい!セルニカ兄妹!
それにクーデン君達も。」
ともかく、トミー先輩に手を振り食堂から出る。
さて、クーデンに次の予定を聞くとするか。
「クーデン、次の予定はどうなっているのだ?」
クーデンが少しニヤケる。
「それがよ、聞いて驚くなよ?
城の本殿、国王の謁見室へ行くんだとさ!」
「謁見室とな、何をするかまるで想像がつかん。」
他三人も会話に入ってくる。
「俺は魔法の抗議だって予想してる!」
「バカを言うな、激励の言葉だとかその辺りだろう。」
「一周回ってただの説教とか?」
僕含め全員が手と顔を振り「イヤイヤ…」という反応を示した。
そうして暫く談笑しながらクーデンについていくと、
無機質で広いトンネルのような通路に着いた。
そこは天井に等間隔に証明があり、最奥には大きな扉とそれを警備する騎士が直立不動している。
全員でその警備の前に行くと警備がクーデンに話し掛ける。
「番号と名前を言い、カードを差し出せ。」
「第516期89番のクーデン。」
そう言いながら先程貰ったのと概ね同じカードを警備に差し出す、警備はそれを何か赤い光の出る機械で触れるとクーデンを扉の先へ通した。
あれで何かを判別してるのか、あれも魔道具の一種なのであろうか?
「第516期67番のシャンバルです。」
…
「第516期203番のデモニスだ。」
…
「第516期120番のマーシャです。」
…
「第516期25番のミーガンよ。」
…
ルーセルの番が回ってきた。
「第516期…ええと…」
チラッとカードの二桁の番号を見る。
「第516期24番のルドットである!」
警備は他と同じようにルーセルを奥へ通す。
「おぉ!これが城内であるか!」
扉の先は煌びやかに輝く装飾をあしらった石像が多く見受けられ、壁もシミ一つない純白の状態、
随所に付けられた照明のお陰でそれらが非常に明るく照らされていた。
それなのにも関わらず、左右に広い一本道の構造であるところを見るにただの廊下のようだった。
「誰か城内を案内できるヤツは居るか?」
………皆が沈黙する、無論それを発したクーデンもだ。
「地図とかあるだろ普通。」
「俺は持っていない。」
「私も…」
「だぁぁ!しゃらくせぇ!歩いてりゃどっか着く!」
クーデンが吹っ切れたように廊下を歩き出し、皆もとりあえずそれについて行く。
ここからまるで迷路のような城内を彷徨い歩くのだった……
「着いた。」
着いた、あのあと特に迷うことも無く着いた。
謁見室の前は廊下と違い暗さが目立つが、それをより引き立てるのが扉だ、あまりに巨大なので一番上が見えない。
その扉の前には既に多くの騎士が整列している。
「遅いぞ貴様ら!減点だ!」
「「すいません!」」
ルーセルは驚いて怒号の方向へ首を回す。
顔に大きい傷、サングラスにオールバック、
堅気では無い雰囲気が漂う男が居る。
「貴様…訓練には居なかった顔だな、
つまり貴様がルドット・セルニカで、
そこの女がミーガン・セルニカだな。
話しは聞いている、私の名はワゴクドゥ、
ワゴクドゥ教官と呼べ!分かったか!」
「「はい!ワゴクドゥ教官!」」
ルーセルはのけ反りながら返事をし、
ミカは姿勢を正した状態で返事をする。
…こういうことやってみたかったんだ!
「これからは貴様らを番号で呼ばせて貰う!
24番!25番!お前らは23番の後ろに並べ!
23番はどこだ!」
「はいッ!」
「よし、そこに並べぇ!」
「「はい!」」
ルーセルとミカは速やかに並び、
それを確認した教官は再び声を張り上げる。
「これより謁見室にて国王様にお会いになる。
決して不敬の無いように、騒いだら殺す!」
「「「「 はいッ! 」」」」
騎士達が声を張り上げ返事を返す、
教官は踵を返し扉に三度ノックをした。
扉がゴゴゴゴッと重厚な音をだしゆっくりと開く、
教官が一歩踏み出したのを合図に騎士達全員が歩きだして行く。
ルーセルは歩きながら周りを見渡していた、
天井は聖堂の様に高く、五つ程度のシャンデリアが
ほのかに空間を照らすが、広さが広さだけに暗さの方が強調され、儀式でも執り行うかのような様相だ。
ワゴクドゥ教官が足を止め、それに合わせて行進する
騎士達も足を止める。
そして目の前にはこの部屋でもっとも目を惹く物、
それは軽く30段はありそうな階段の付いた台座の上に置かれた玉座である。
その上に座るは王冠を被りスーツを決めた者。
「ようこそ騎士達、私はウィンドエルム13世、またの名をウィンドエルム・F・ガルムンドだ。」
そう、ウィンドエルム13世だ。
セルニカ兄弟を除いた騎士達は感嘆の声を漏らす。
「長い前置きは苦手でね、早速本題に入らせていただこう。ウィンドファイア王国北部に魔物の大群が観測されている、そこに君達を送り討伐を頼みたい。」
「待ってくれ!」
「口を慎め89番!」
ワゴクドゥ教官がクーデンの首を掴もうとするが、
国王がそれを静止し話の許可を出す。
クーデンは咳払いをしてから話を始めた。
「俺は魔物は愚か対人ですら戦ったことがねぇ、
ここに居るヤツは大抵そうな筈だ。
それならいきなり魔物、それも大群なんて…
言っちゃ悪いが死者が出ると思うぜ。」
「それはごもっともだ、だが案ずるな、解決策は用意している。これを見てくれたまえ。」
国王が頭から王冠を手に取り、こちらには聞こえないほどの大きさの声で魔法を唱える。
すると手に取った王冠の周りを翠緑色の風が取り囲むと、それはやがて静まり、薄い膜をピッチリと張る。
国王はそれを宙に放り投げ、それに指を差す、
「ボルト」
国王の指先から稲妻が一閃、冠を撃ち抜いく。
すると冠を覆う膜が膨張し、破裂し、視界を遮るほどの風が発生した。
「こちらを見てくれ。」
国王が腕を上げる、その先にはさも当然のように、
何も無かったような無傷の冠が掲げられている。
なるほど、攻撃を受けると特定の場所にワープさせる魔法と見ていいだろうな。
なかなか面白い!
「他に質問のある者は?」
「「「………」」」
「居ないようだな、【魔幻の四使】はテレポートを、私は付与に集中する。」
いつの間にだろうか、騎士達がローブをまとった四人の者達に囲まれている、だが敵意の無さは火を見るより明らか、誰も驚きはしない。
次は国王が立ち上がり詠唱を始める。
「纏い、凝固し、見つめる、
守護せよ、反発を穿ちて返り、我に尽くせ。
守護天使
アンデッド
」
「「「「
数千里の彼方に愛しき眼求め、
不浄の大地それすら些細なこと。
見せよ雄大なる大地、その眼に写らずとも。
万物転送
テレポート
」」」」
足元が光を放ち、やがて視界を奪う。
──────
「おぉ!本当にテレポートした!」
「目がぁ…目がぁ!」
先程の謁見室の暗い雰囲気とは違い、
目の前には清々しいほどの広大な草原が広がる、
少し傾斜のかかった地形で
背後には無機質なコンクリートの壁、多分城壁だ。
周りの騎士達を見るとキチンとあの膜が張られているようだ、無論僕にもだ。
次はワゴクドゥが騎士達の前へ立ち次の指示を叫ぶ。
「全員散解!
敵を観測次第攻撃を開始せよ!」
「「「 はい! 」」」
騎士達が一定の間隔で離れる、
僕は真ん中に居るのに端と端が見えない、それだけ
人数も多いのだ。
そして次の瞬間、自分の真後ろより少し上の方向から声が聞こえてきた!
「敵を確認!前方約200m!
約4000体ののサウザンウルフです!」
ミカがルーセルの方を見る。
「こんな偶然ってあるのね、お兄ちゃん、
お兄ちゃん?」
ルーセルは肩をプルプルと震わせ、少し口から笑いが漏れている。
「ねぇお兄ちゃ…」
ルーセルが高く空中へ舞い上がる!
「ハーハッハッハ!
僕は未来の英雄ルドット・セルニカ!
その身にこの恐怖を焼き付けてくれよう!
地炎 炎纏う隕石
複合魔法 ブレイズメテオ! 」
ルーセルは両手を天に掲げ、巨岩と言うのに相応しい大きさの隕石をその手から呼び出し、サウザンウルフの大群に投げつける!
サウザンウルフの大群ど真ん中に命中した。
「ストライクである!総員とつげ…き…」
ルーセルが地面にうつ伏せに倒れる。
「ルドット?!大丈夫か?!」
ミカがすかさずルーセルに駆け寄り、クーデンを牽制するように言う。
「またこの馬鹿がやらかしただけよ、気にしないで。」
「お、おう!任せるぜ!」
クーデンはそう言って戦場へ走り去っていく。
他の騎士達も既に前線へ走り去り、周りにはだれも
居なくなっていた。
「はぁ…忘れてるかもだから言っておくけど、
お兄ちゃんは昨日手加減無しの光魔法を一発、
今日は朝から国王との全力戦闘、
そこからノンストップでここまでやってきて追加の
複合魔法…魔力切れよ。」
「むぅ…せっかくの晴れ舞台が…」
ミカが淑やかに座り、ルーセルの頭を膝に載せる、
その顔は満面の笑みであった。
「そう、せっかくの晴れ舞台を
無駄にするわけにはいかないでしょ?
私が手を貸してあげる。
代 わ り に
今日はお兄ちゃんがお夕飯作ってね。」
ミカはルーセルの額に手を当て、自身の魔力を注ぐ、手と額の間から紫の光が漏れだしている。
「…ありがとう、ミカ、どれくらい回復した?」
「私の魔力の10%を注いだわ。」
「ケチ!」
ミカがチョップを喰らわせる。
「光魔法やら複合魔法やらを連発する馬鹿でも無かったからこれで十分よ、これを機に魔力の節約を学んで欲しいものね。」
「うう…正論は効くから止めて…」
「ほら、行ってらっしゃい、戦果が消えちゃうよ。」
「あぁ、そうだな、行ってくる。」
ルーセルが前線に走り出す。
前線は騎士達により押し込まれ、ルーセルの側からは戦闘が直接見えない。
ルーセルは魔力の節約について考え始めた。
「魔力の節約か…」
節約するとなると、発射するようなのはだめだ。
一回で長く効果が続くもの…付与魔法だな。
ルーセルは持ってはいたものの持て余していた剣を腰から抜く。
炎の剣
ファイアソード
炎を剣へ纏わせる魔法、
別に拳でも靴でもなんでも纏わせれるけどね、
拳だったらファイアフィスト、
靴なら…ファイアブーツ?
まぁいい、まだ掛けておこう。
昇風々脚
スリップストリーム
脚に高圧の風を纏わせ地面を滑走できる魔法だ、
解放すれば好きな方向にぶっ飛べる!
雷の如く
ライサンダー
原理は知らんが微弱な雷を体に流して…流して…
とにかく身体能力を上げる魔法だ、
ひとまずこれくらいで良いだろう。
ルーセルはスリップストリームで地を滑り、
草原の傾斜の先へ到達する、登った傾斜分の下り坂の先には激しい戦場と化した草原が広がっている。
ルーセルは一番近くの戦闘へ真っ直ぐ突っ込む!
「すまぬ!遅れた!」
「はぁ?誰だおまえ!」
ルーセルは下り坂から跳躍し30匹程度のウルフの群れに突っ込み着地点を剣で凪払う。
「前衛は僕が請け負おう、後衛を頼んだ!」
ルーセルはそう言うと、他の音をシャットアウトする程の集中状態へと入っていった。
ウルフ達はようやく状況を飲み込むが、
サウザンウルフ本来の生態とは違い獲物に直ぐに飛び付かない、サウザンウルフは本来人間の腰ほどしかない体高で自身の倍以上有る獲物に飛び付く。
しかし、体格差が5倍を越えた所で恐怖を感じるようになっている。
つまりウルフ達には今のルーセルが自身よりも5倍の体格を持つ驚異に写ったのだ。
ルーセルは剣を構えたまま動かない。
先に痺れを切らしたのはウルフの方だ!
ウルフの一匹が背後から飛び付く、
ルーセルは体を右に回転し剣を振り頭部を一閃する。
次は左、横に一閃することで腹部を両断、
再び背後、体を捻りながら脇を締め剣先で刺突、
頭から串刺しにする。
刺さった肢体を振り払い剣を握り直す。
「ガウッ!」
八匹ほどが一斉に飛びかかってくる!
全方位の同時攻撃…もしやあれができるのでは?!
ルーセルは剣先を横に下げ、力の限り思い切り剣を横に振り抜く!
「回転切りぃ!」
炎の軌跡が円環を成す、その軌道上の八匹のウルフの頭が綺麗に切られている。
「ストーンボール!一斉掃射!」
城壁の方向から大きな岩石が転がってくる、
それは残りのウルフを引き潰しながら地平線の奥に姿を消した。
「おお!よくやったな、君達!」
五人ほどの騎士がこちらに駆け寄る、
先程のストーンボールを放ったのも彼らだ。
「前衛を任せられたお陰だよ、早く別のところへ援護に行こう!」
「当然だ!」
ルーセルは踵を返しスリップストリームで五人の騎士を置き去りにする程の速度で走り去る!
その道中はまばらなサウザンウルフの大群の中を走っていったが、その先で戦闘を行っているのが見えたため全力をもって走っていく。
さらに距離が近くなると、炎魔法を乱射する男の姿が見えてきた!
「ドラグファイアブレス!ドラグファイアブレス!
クソッ!!?何体いるってんだ?!」
男の背後から一匹のウルフが飛び付く!
「?!ドラグファイア………」
急いで詠唱するがウルフの方が速い!
ウルフがその手に噛みつこうとしたその時、
バシュっと首を切り落とされ、死骸が力無く男にぶつかっていく。
男は腰を抜かして地面に尻餅をつくが、
すぐに立ち上がりルーセルに声を掛ける。
「ありがとよ、誰か知ら…ねぇ…が…」
「む?貴様、忘れたとは言わせんぞ、ベキシス。」
確かにその男はベキシスだ、
その顔はみるみる内に青ざめていく。
「へ…へへ…なぁルーセル…あれはじょ…冗談だったんだよ、なぁ?…」
ルーセルは構わず剣を強く握り、振り上げる。
「わ、悪かった!謝るから!!謝るから!!!」
ベキシスは頭を地面に着きそうなほどに下げた。
しかしルーセルは構わず剣を振り下ろす!
空気を切る音と肉を切る音が同時に鳴り、
血飛沫が空中へ霧散する。
「はぁ…はぁ…死んで…ねぇだと?…」
ルーセルはベキシスの背後に迫るウルフを切り着けただけだ、ルーセルは剣に付いた血が燃え尽きたのを見てからベキシスに話かける。
「僕は戦場に私情を持ち込む気はない、お前も構えろ、来るぞ!」
ベキシスはその言葉には最初に安堵を覚えた、
翠緑の膜が有ることも忘れ、このまま殺されると、
本気でそう思っていたからだ。
しかしその緊張が解けたことで安堵に支配された、
さらに呑気なことに次はルーセルへの謝罪の言葉などを考え始めた。
ルーセル後方の驚異に気づいたのはその後だった。
「サウザンウルフの…ボス?!」
サウザンウルフを束ねるボス、群れに一頭しか存在しない生まれながらのボス。
体高は通常の6倍、それに合わせ防御力や脚力が遥かに向上している個体。
「退け!ベキシス!後衛は任せた!」
ベキシスはルーセルの声でようやく動き出す。
その頃にはボスウルフの前足が上がり今にもルーセルにそれを振り下ろそうとする。
ルーセルは前へ一歩だけ瞬時に進み攻撃を外す、
躱し際に前足を切り付けるが…
「固いな!」
分厚い毛皮のせいか、全然刃が通らん!
ボスウルフはそのルーセルに噛みつこうと牙を見せた口を近づける。
「ドラグファイアブレス!!」
ボスウルフの頭から背中に掛けて真っ赤な炎が燃え盛り、直撃した顔は焼け爛れ声も出ないようだ。
ルーセルには体格差で当たらない。
「素晴らしいぞベキシス!」
「…当たり前だ!」
ベキシスは別に謝罪を忘れていたわけではない、
ただ今はまだ、ルーセルと対等で居たかったらしい。
グシャ
先に訂正するべき情報がある、
『直撃した顔は焼け爛れ声も出ないようだ。』
ボスウルフはたとえ声が出せたとて鳴き声のひとつも上げなかったであろう。
やつらにはやつらを魔物足らしめる生態があるのだ。
「嘘…だろ?」
ボスウルフはそばに居たサウザンウルフを一口で食べてしまった、その光景に驚いた二人は呆気に取られ、
その隙にボスウルフの傷は、回復魔法顔負けの速度で消え去ってしまった。
それが彼らサウザンウルフの生態、
それが彼らサウザンウルフの生存戦略だ。
「ファイアボール!一斉掃射!」
先程置いていった五人の騎士がボスウルフに対し一斉にファイアボールを放った、
無事それらはボスウルフに着弾する。
「"ヴ"ァ"オ"ー"ー"ー"ー"ー"ー"!!!」
なんてこった無傷で元気いっぱいだ。
「撤退!てったーい!!」
五人の騎士がボスウルフに背を向けたその時、
ボスウルフが姿を消し、五つの翠緑色の爆風が彼らの居た場所に巻き起こる。
「持っていかれたようだ。」
ボスウルフは爆風と見当たらない騎士に困惑しているが、じきにこちらへ向かってくるだろう。
「おしまいだ…いくら当てても回復されちゃいつか
力尽きる、俺たちが勝てる相手じゃねぇ。」
確かにこいつは強敵だと言えよう、
これに加え大群のサウザンウルフを全て撃破、
これは偉業だと言って差し支えんな。
正直サウザンウルフ4000体は嘗めていた節がある、
ここで認識を改めるとしよう!
「ベキシス、勝機はある!もう一発だ!」
ベキシスが信じられないという顔をする、
だがルーセルの真剣な顔に押され手を前に構える。
「合図で打て、いいな?」
「わあったよ!」
ボスウルフがこちらを見つめている、
脚をゆっくりと動かしポジションを整える。
「来るぞ…」
後ろ脚に力を込め足がパンパンに腫れ上がり、
体を前傾に倒しこちらを見つめ吐息を漏らす。
ルーセルの目が行動の起こりを捉えた!
「撃てッ!ベキシス!」
「 ドラグファイア… 」
詠唱が終わるか否かの所でボスウルフが眼前から消えた、次の瞬間には吐息がかかるほどの距離まで距離を詰められていた。
だがボスウルフは本当ならルーセルら二人を轢き殺しているはずだった、だが想定外の事が起こった。
彼らを凪払う筈だった前足をルーセルが弾いた!
火事場の馬鹿力とでも言うのか圧倒的な瞬発力を発揮したのだ!
「 ブレス!!!! 」
ボスウルフは先程のような大きさの火炎に身を包まれるが、その程度では怯まない。
ルーセルがボスウルフに手をかざす。
ボスウルフに付いた火炎がより勢いを増した!
ボスウルフは体が火だるまとなりその場に倒れ込む!
「やったぞ!どうだ見たかルーセル!」
「あぁ、見てたぞベキシス、風魔法での補助が無ければ死んでいたな、それもお前の大好きな完全無詠唱のだ。」
ベキシスは顎が外れるのでは無いかという程に口を あんぐり開けて驚いてる。
ルーセルの種明かしが相当効いたらしい。
だがボスウルフはまだ立ち上がろうとしている。
「トドメは僕が頂こう!」
ルーセルは剣を振り上げ、ヨロヨロと立ち上がるボスウルフの頭部に飛びかかり剣を振り下ろす!
ボスウルフの頭が綺麗に二分され今度こそ力尽きた!
「ハーハッハッハ!これにて討伐完………」
ルーセルを視界を阻むほどの爆風が覆い尽くす、
爆風が晴れた頃、ルーセルはその場には居なかった。
「…あぁ…燃え移った炎に反応しちまったのか?」
───────
「おぉっとぉ?!」
ルーセルが姿勢を崩し尻餅をつく。
周りを見渡すと、転送前の謁見室に戻っていて、
ルーセルの他にも騎士が大勢居た。
「…?…!ルドットだ!みんな!ルドットが帰ってきたぞ!」
騎士の一人が大声を謁見室に響かせる。
「む?どうしたのだ?」
ルーセルは若干傷心だ。
「すげぇよ!お前の戦いっぷり!
正直あれ見るまで嘗めてた、すまん!」
他の騎士達も口々にルーセルを称賛する。
ルーセルは何が起こっているのか理解が追い付いて居ないようだった。
察した国王が話しかける。
「討伐おめでとうルドット君、あれを見ろ。」
国王が指を差し、この先に視線を移す。
そこには先程の戦場の写された巨大なスクリーンが
空中に浮かんでいる、無論ルーセルにはスクリーンだとは分かっていないが状況だけは察したようだ。
「重ねて、討伐おめでとうルドット・セルニカ、
今回の主役は君であったな。」
第三話:参上!ルドット・セルニカ!完