第二話:英雄トロイアとは
「痛てて…」
「動かないでお兄ちゃん、回復痛が進行するわ。」
あのあと、いとも簡単に競り負け風剣を喰った。
幸い手加減してたようだ、深手ではないが…
「すまぬな、回復魔法の類いは得意ではないのだ。」
「良いんです、僕の力量不足ですから。」
剣技は独学だったからな、まだ改善の余地があると言うことであるな!
「ひとまず君たちを本部まで送ろうか、ワープしても良いかい?」
「はい!お願いします!」
国王様は宝石をまた1つ剥がし、潰す。
さっきと完全に同じ手順でさっきの高価な物だらけの部屋まで戻ってきた。
「!ご帰還ですね国王様、予定に変更はないですか?」
「あぁ、変更はない、予定通り動いてくれたまえ」
トミー先輩がこちらに向き直る。
「よし!セルニカ兄妹、これから騎士団本部の内部を案内しよう、着いてきてくれ!」
「うむ!頼んだ!」
「お兄ちゃん、まだ国王様後ろにいるよ」
国王様は満面の笑みを向けている。
「さすがに緊張も解けたのだろう?好きな態度をとると良い。」
ミカと共に感謝を告げ部屋から出ると、
先に部屋から出たトミー先輩と合流する。
「それじゃあ行こうか!まずは西館の図書…」
「少し良いですかトミー先輩!」
「なんだい?」
「他の同期入隊者はどうしているのだ?」
トミー先輩は元居た部屋から見て右側にゆっくり歩きながら話をしてくれる、
僕たちもそれに着いて行きながら聞く。
「あぁ!言い忘れてたよ、
本来なら入隊初日は9時20分から中庭の訓練場で
基礎体力訓練と称した教官の洗礼があるんだよ。
そこで色々基本を学んだり評価が着くんだけど…
今回君は呼び出しが有ったからね、免除になったん
だ。」
「ふむふむ…」
洗礼か、多分新人イビりに近いものだろうか、
少し体験してみたい、
苦難や理不尽を仲間と共にするのは中々に面白いだろうなぁ…
「それでは図書室へ行くよ!」
待ちかねた様にトミー先輩が進行方向へ向き直り、
風を切るほどの速度で走り出した!
「えぇ?!ちょっとトミー先輩?!」
速い!?ただ走ってるだけなのにこっちまで風が吹いてくる!?これは燃えてきた!
「遅れるなよ!ミカ!」
「お兄ちゃんもね。」
だがミカ、今回こそお兄ちゃんが勝ちを得るのだ!
心のなかでこう唱える。
昇風々脚
スリップストリーム
足裏に風を凝縮し放つ魔法!
そして今!凝縮された魔法が放たれる!
「痛い!?」
めっちゃ盛大に転けた…
なんだ?魔法が発動しなかった?
急いで立ち上がり前を向くと…
扉に手を掛け、今年一番口角の上がった嘲笑の笑みでこちらを見下してくるミカが居る。
「遅れちゃうよ、お兄ちゃん。」
そう言って扉の中に消えていく、
その扉へ走り、その中へ入ると、この中は大きな廊下であったが、すでにミカはおらず、廊下の最奥の扉が閉まった音がするだけだ。
大差をつけられたか!
遅れて堪るか!全速力だ!
魔法は使わず身体能力だけで廊下を駆け抜ける、
廊下の最奥の扉に手を掛け、扉を勢いよく開けると…
「また?!」
先ほどと全く同じ廊下に出た。
また全力で廊下を駆け抜ける、そして再び扉を開けると、先ほどと全く同じ廊下に出た。
「………」
また全力で廊下を駆け抜ける、そして再び扉を開けると……
「お!ようやく来たかルーセル!」
トミー先輩の声だ、よかった…というか愛称覚えてたいたのか。
さてと、多分無限回廊の犯人はアイツだ。
「ミカ、なにかイタズラした?」
「さぁね?」
ミカは含み笑いを僕に向ける。
「さぁ、二人揃ったところで紹介しよう!
ここが俺達ウィンドファイア王国騎士団の全てが
記録される場所!
君たちのこれからが全てが残される場所でもある!
好きに見ていってかまわないよ!」
「全てが記録される…
まさか!英雄トロイアの記録までもが?!」
トミー先輩が自慢げな顔をする。
「あぁ!もちろんさ!
ただ、わかっていると思うけど公式な記録かどうか
は不明、もう500年も昔だからね。」
「問題なし!それもまた英雄の定めよ!
それでそれで?どこにあるのだその記録は!」
「そこを見てくれ。」
トミー先輩が指差した先にあるのは、
白く縁取られたガラスの板。
「書物捜索用端末だ、ここを押すと…」
端末の端に付けられた突起を押し込むと、
書物しょ…書物捜はく…書物捜索用端末のガラスに文字やら絵やらが浮かび上がる。
「これを操作するとお目当ての本が探せる、早速やってみてくれ。」
「はい!」
「……」
「……」
「どうやってやるんだ?」
「…まずはここに触れてくれ。」
トミー先輩が端末表面にある青い文字を指差した。
「これであるな」
その文字に触れると、表面の絵が差し変わった、
おそらく本の名前の一覧と本の表紙が描かれた絵に。
「移り変わる絵とは面白い!」
「ここにキーワード、今回はトロイアの名を打ち込めばおそらく探せるだろう。今度はここに触れてくれ、そうしたらまた画面が変わる、そこには文字が記されているから……」
それからも順を追って説明され、ようやく!
「見つけた!トロイアの戦績記録書!
E-12番の下から5段目!通路側から32冊目!
ミカ、行くぞ!トミー先輩行ってきます!」
「あぁ!行ってらっしゃい!」
もう待ちきれない!英雄トロイアの公式な記録!
いや公式かどうかは不明なんだけど!
それでもそんじょそこらの酔っぱらいが語るような話とは訳が違う!
早く読みたくてたまらない!全力で脚を動かせ!
ルーセル!もっと速く速く速……
「お兄ちゃん、図書室では走らない。」
ルーセルは後方へすっころんだ。
ミカに首根っこを捕まれたのだ。
「ハハハ!そうだったそうだった、それでは全速力で歩くとしよう!」
宣言通りルーセルは早歩きくらいの速度で進む、
「A…B…C…D………E!ここだ!ええと5段目の…32…32…これか?」
日焼けや角が掠れたりしているが完全な状態の本、
本というより紙のパンパンに詰められたバインダー、その表面にこのように記されている。
『ウィンドファイア王国騎士団第12期騎士トロイア』
「本と言うより記録ね、
下っ端時代から使われてるならこの厚みと傷も納得いくわ。
もっとも、これが本物ならだけど。」
僕もミカに賛同するが、
今はただただ読みたい気持ちでいっぱいなのだ!
その本を持ち、近くにテーブルのある椅子に腰かけると、ゆっくりと一枚ページをめくる。
─────
西暦2136年4月上旬:入団
西暦2137年4月下旬:今期遠征メンバーへ編入
西暦2137年5月上旬:消息不明
西暦2137年5月中旬:自力にて帰還、北西部より魔物の大群を観測したため撃退に向かったと報告、現場検証の末事実と断定。
検証の結果、約4000のサウザンウルフの群れと推測。
西暦2137年6月上旬:遠征開始
西暦2137年6月下旬:負傷により騎士団本部へ帰還
西暦2138年4月下旬:遠征メンバー加入拒否
ここからしばし通常任務の戦績が続いた。
……………………
西暦2140年4月下旬:討伐遠征メンバーへ加入
西暦2140年7月下旬:第3小隊の位置消失と共に消息不明、これを受け遠征部隊一時撤退。
西暦2141年1月中旬:自力にて帰還、
遠征討伐目標『ドールケミストラ』の心臓部を回収、
功績を称え【ソロマスター】の称号を授与。
……………………
西暦2145年4月下旬:消息不明、城門にて最後の目撃を確認
西暦2145年7月下旬:討伐遠征本隊により発見、
遠征討伐目標『ベヒーモス』(後日命名)の討伐を報告
、本隊の隊長ファイアロンド1世により討伐を確認。
……………………
西暦2150年4月下旬:またしても消息不明
西暦2150年7月下旬:今期討伐遠征隊により
遠征討伐目標の討伐を確認、血溜まりとその他消し炭のみが戦場に残されていたため名称不明。
備考
トロイア騎士の姿は戦場にも本国にも
確認されなかった、諜報員ガルバニによる
ガルバニ調査隊を結成。
西暦2150年9月下旬:消息不明
2150年:消息不明
2151年:消息不明
2152年:消息不明
2153年:消息不明
2154年:消息不明
2155年7月下旬:遠征隊により遠征討伐目標の討伐を
確認、現場の隊員によれば「激闘の痕跡のみが残り、討伐目標の姿は確認されなかった」とのこと、
トロイア騎士によるものと推測、次回討伐遠征を早めることでトロイア騎士との接触を図る。
2156年:消息不明
2157年:消息不明
2158年:消息不明
2159年:消息不明
2160年7月中旬:遠征討伐隊共々消息不明、
タイミングをずらして到着した第1小隊により討伐のみ確認。
……………………
2236年:捜査を打ち切る。
─────
「ほう…」
「どう思う、お兄ちゃん?」
巷でささやかれるトロイア伝説とそう変わりはない、
むしろ年代が細かく書かれていること以外に違いが見られない。
むしろそれ以外に注目すべきところがある。
「【討伐遠征】が何か気になるな。」
そう、【討伐遠征】普通の遠征と何が違うのか、
そもそも遠征の理由は他国との小競り合いだと聞いているし……
「他の資料も読んでみたけど、討伐遠征なんて文言が使われてるのはトロイアの戦績書だけだったわ、
古い言い回しなのかな。」
「むー……わからん!考えてもわからん!
早いところ戦果を上げて国王にでも聞こう!」
しばらく周辺の資料を読み漁っていると、
トミー先輩が声をかけてきた。
「お、居た居た!そろそろ次の予定が近いから、
本を片付けて先程の扉の前まで来てくれ!」
「はい!」
トミー先輩がそう言って来た道を帰っていく。
僕はその辺に置いた本を適当な棚に戻そうとしたが……
「あれ、入らない?」
明らかに本の一冊や二冊余裕で入る隙間に本が入らない、これは何かのセキュリティか?
「お兄ちゃん、捜索用端末を思い出して。
あれは多分指定の位置に本を返すように誘導してるからあんな機能が実現してるはず。」
なら…これはここか、
トロイアの活動記録をもとあったE-12番の下から五段目、通路側から32番目に戻す。
入った。
「これも魔法か、こんなに細かい設定が出来るとは凄い騎士がいるんだな。」
「多分魔道具の一種だと思う、道具と言うにはとても大きい装置だろうけど。」
この場では真実はわからないためさっさとトミー先輩のもとへ向かうことにする。
扉へ向かう途中、図書館中央にある円形の穴に付随する手すりに寄りかかるトミー先輩を見つけた。
「トミー先輩!」
「おや、見つかったか、ちょうど良い。
下を見てくれ。」
トミー先輩は穴の下に指を指す、
そこでは大勢の騎士団員が食べ物を持ちより談笑しながら食事をとっている。
「いわずもがなここは食堂だよ。
団員はここで食事をとれる、街の警備任務の時とかは重宝するだろうね、あの扉から左に階段が……」
トミー先輩、すまない、我慢出来ない!
「ハーッハッハッハ!
ルドット・セルニカ、ここに参上!」
ルーセルは手すりを乗り越え、風魔法を用いて下の階中央のステージへフワッと着地する。
「おい何してるルーセル?!」
「はぁ……お兄ちゃんったら。」
ミカは口では悪態をつくものの、顔には笑みが浮かんでいる。
第2話:英雄トロイアとは 完