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第一話:英雄譚の始まり始まり。

かつて、大いなる戦いがあった。


今はおとぎ話として語り継がれるような、

あるいはフィクションと切り捨てられるような。


だが今日までそれが語り継がれるのは、


誰もが一度は『最強の英雄伝説』に憧れたから。


─────────

…………

…………

…………


「初めまして!僕はルドット・セルニカ、

ルーセルの愛称で親しまれてる未来の英雄です!」


「同じく初めまして、私はミーガン・セルニカ、

愛称はミカでこの馬鹿の妹よ。」


「よし!今回も生きの良い者が揃っているな!

それでは、これよりウィンドファイヤ王国騎士団の

入団歓迎会の幕開けとする!」


「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!」」」


ようやく始まった!

ここから僕の英雄譚が幕を開けるんだ!

16歳の誕生日が来るまで待ちぼうけしてた頃から

ずぅぅぅぅっと夢にみてた、

この【ウィンドファイヤ王国騎士団】への入隊!

しかも【大聖堂】で入団式をしてくれるなんて!


だ…団長はどこかな!?

一度はあってみたかったんだ!

王国最強の騎士であり!王国騎士団の団長!

    !【ファイヤロンド13世】!


「お兄ちゃん、今日は団長出席してないよ。」

「ぇぇえええええ!?なんで?!」

「今期の遠征に団長が派遣された新聞を昨日読んだ

じゃない、ほんと、とことん馬鹿ねお兄ちゃん。」


くそぉ…すっかり頭から抜けてた……

いやいや!英雄譚の最初がこんなんじゃ駄目だ!

他の今期入隊の人達に話しかけに行こう!

英雄に信頼できる仲間は必要不可欠だからな!


「よぉよぉ、さっきの生きの良い小僧じゃねぇか?」


おぉ、ずいぶんと大柄な男だな、僕より20センチは

大きいうえにスキンヘッドで威圧感マシマシだ。

それにその胸に付いている真っ赤な竜の紋章……

【ファイヤロンド一族】か!

そっちから話しかけてくれるとは!


「そうだとも!僕は未来の英雄ルドッ…」

「あぁ要らん要らん、しっかり自己紹介は聞いてたさ、未来の英雄ルドット・セルニカさんよぉ、


 

     悪いが英雄は一人で良い。」



「ハッハぁ!やる気だな?」


「今年も始まったかぁ!やったれやったれ!」

「俺は貴族のガキに掛けるぜ?」

「俺はあの生意気小僧だな!ガッツがありそうだ。」先輩たちがなにやら騒いでいる。


「容赦しねぇぞ!」


         炎神の伊吹

    『ドラグ ファイヤブレス!』


その男の手のひらからルーセルの視界すべて覆うほどの炎が吹き出し、

ルーセルを今焼き尽くさんと襲いかかる!


これが噂に聞いてた新人王争いか!

初っ端無詠唱とは恐れ入った!!


「だがあまいぞ!!!」


炎がルーセルを包み込んだ!


「雑魚が威勢よく吠えるからこうなるんだ!

燃えかすも残らねぇだろ!」


「おいおい、今回も死者が出るのかよ。」

騎士団の先輩たちがいつものことのように話に

花を咲かせるが、幾人かの騎士は気づいていた。


  """炎がある一点で書き消されていることに"""


「ば…!馬鹿かよ!?なんで生きている?!」


炎が完全に消えた時、そこに立つのは人型の灰塵でも

死にかけの雑魚でもなく、



無傷で高笑いをあげるルーセルだった!!



「ハッハッハ!もう一度よく聞けこの愚か者!

僕は未来最強の英雄!

ルドット・ガ・オール・セルニカだ!

今度はこちらの番である!喰らうが良い!」


       全属性解放

    「ジ・オールマイティー」

       断罪の光剣

     「ライトリレイザー」


炎、水、風、土、雷、

正にこの場に、世界の原初の属性が揃った。


ルーセルの両手が合わさり、集められた五大属性の光が混ざり、完璧に調和した時、


   """全てを焼き尽くす光の剣となる"""


「く!!!来るなぁァァァァァァァ!!!」


男の眼前に大聖堂の天井を突き破って、なお先端の

見えない光剣が振りかかる!!




が、その光剣は男を切り付けるまえに

ガラスのように打ち砕かれる。


「お兄ちゃん、こんな人に使う魔法じゃないよ。」


その男の前にはミカの姿があり、

砕かれた剣の破片は彼女に振りかかっている、

まるで女神のように神秘的だ。


「えぇ!でも新人王になるなら圧倒的な力で…」

「ちょうどよく加減するのも強さよ、

それに大聖堂壊してどうするの、借金じゃすまないかもよ。」


そういわれてルーセルは天井を見上げると、

壊れた天井のかけらが目に入った。


「ハ……ハッハ、え…英雄にはハチャメチャな逸話が

ひとつやふたつ珍しく……

痛い!痛い!痛い!、ごめん!ごめんって!!」


ミカは思い切り僕の頬をつねった、

はは……ミカには頭が上がらないな。

おや?


「な…なぁ、どうやってあんな魔法を覚えたんだ?」


「ドラグファイヤブレスをなんで無傷なんだよ!」


「「「なぁ教えてくれ!!!」」」


先輩方から教えを乞われるとは、

うむ!よいだろう!


「まぁ待て、順を追って話してやろう!まず

ファイヤブレスは完全無詠唱のアクアベールで…」


「「「【完全無詠唱】で?!?!?!」」」


「待て話しは最後まで…」


しかし先輩方は止まらなかった。


「完全無詠唱って言ったら、

 完全詠唱の20%の出力で、

 無詠唱とも3倍近く出力が劣るはずだ!

 何をしたんだ君は?!」


「あ…あぁ、アクアベールと同時にストーンウォール

 を展開して…」


「「「同時にスト…」」」


「話しは最後まで聞かんかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」



聖堂に響いた叫びが、彼らのざわめきを拐って天井の穴から逃げていった。



「はい…最後にファイヤブレスで出来るだけ威力を

 相殺しました…」


しばらく皆が黙りコクったあと、一人が言った。

「みんな、言いたいことはひとつだね?」

ルーセルの先輩達が頷きあい、示し会わせたように

全員が大きく息を吸うと…



「「「「「それがおかしいんだ!!!!!!」」」」」



「はい…すいません……」

先輩方からの総ツッコミを喰らい意気消沈のところにミカがこちらに歩いて来た。


「お兄ちゃん、属性は今は二個が主流で

なおかつ使っても複合魔法なの、そんなに当たり前のように同時に魔法使うなんて変態以外の何者でもないから。」

「で!でも!同系統の魔法は出力する所が同じだから同系統は同時に発動出来ないの!

だからこれはとても合理的で、って痛いッ!」


ミカの平手打ちが飛んできた、次はため息をついて

すごく軽蔑した目でみてくる


「すいません騎士団の先輩達、聖堂の件といい多大なご迷惑をおかけしました。

次なにか、この馬鹿がしでかしましたら

私、ミーガン・セルニカが全責任を追います。」


「ちょっと!?なんでミカが責任を…」

「お兄ちゃんはこっちの方が反省するでしょ。」


うう、反論の余地も無し…


「と、とりあえずだね君たち!もう歓迎会お開きの時間なんだ!

聖堂の話しはこっちで通しておくから今日は帰ってくれ、明日は騎士団本部に9時集合だから!」


「帰るよお兄ちゃん」

「はい…」


すっかりしょぼくれたルーセルは妹ミカに連れられ

大聖堂を抜けた。


その後聖堂内の先輩の内の誰かがポツリと、

「あの妹も相当やばいやつじゃないのか?」



────セルニカ宅────


王国城下町の隅の方、城壁付近の2階建てで紫の屋根の家がセルニカ宅。


「英雄!ただいま帰還である!」

「ただいま、」


家の中からは何も言葉は返ってこない。

玄関から入ると付く最初の部屋はリビング、

二人はリビングに荷物を置き、ルーセルがソファに

寝転び、ミカはルーセルの上に体を預ける。


「お兄ちゃん、今日の反省点を考えて。」


反省点か、そうだなぁ、


「簡潔にまとめるならば、興奮しすぎた。

事前共有していた情報も頭から抜けてしまった。」

「それは仕方ないよ、むしろ16歳になるまで我慢したんだから十分でしょ。」


でも情報が抜けたのは不味かったといえる、

僕の悪い癖だ、

もしこれが原因で死んだら英雄として頂けない。


またミカが口を開いた。


「じゃあ情報のおさらい。

光を放つ魔法は本来 法王 一族しか使えないらしいの、だから使うこと事態タブーね。」

「わかった。」

「次に、完全無詠唱は不意打ち以外で使わないで、

あの時色々弁明してたけど、お兄ちゃんアクアベール単体で防いでたじゃん。」

「…」


ばれてた、ミカには心を読める魔法でもあるのか

いつも気になる。


「わかった?」

「うん、わかったよ。」

「明日から光を放つ魔法…面倒だから光魔法って読んでいい?」


僕は静かに頷く。

「光魔法について聞かれたら魔力消費が凄い設定でよろしくね。」


「しょうち~」


「眠い?」


「うん…」


「うん、お休み」


………………


おはよう!世界よ!英雄は今起きた!

リビングのキッチンで先に起きていた妹がなにやら

作っているようだ。


「おはよう、お兄にゃん…」

……お兄にゃん?


「噛んだ?」

「噛んだ……」

少し頬を赤らめたミカは話をそらすためか

朝食の入った皿を差し出した。


「今日も美味しそうな物を作るねぇ」

「そんな呑気に話してないで机に運んでよ、」


言われるがまま料理を運ぶ。


「「いただきます。」」


オムレツとウィンナーをケチャップで食べる一般的な朝食だ、付け合わせに妹特製の絶品シュガートーストも付いてくる。

シュガートーストを作らせたらミカの右に出るものはいないともっぱら僕の中で噂である。


「「ごちそうさまでした」」


食器の片付けは僕の仕事だ、ミカの分を持ってシンクの水に付けスポンジで洗う。

その間にミカが話しかけてきた。


「ねぇお兄ちゃん、そういえばなんだけど、

私の魔法も隠した方が良いのかな?」

「あ!確かに、少なくとも珍しい魔法ではあるもん

ね、出来る限り使わない方針で行こう。」

「うん、賛成。あと本部に行く前に雑貨屋に行ってくれる?」

「問題ないよ、じゃあ早めに出ようか。」


皿を洗い終わり時計を確認すると今は7時37分、

本部まで歩いて30分だから、

途中の買い物も含めてちょうど良いだろう。

その旨をミカに伝えると「うん」と頷いてくれた。


「「行ってきます」」


玄関を開けて目指すは城のすぐそばに建てられた

騎士団本部だ、さぁ行こう!


とその前に雑貨屋だね。

……15分後……


「これとこれ、あとそこの白紙のページも頂戴。」

「はいよぉ、合計1260アンね。」


ミカが財布からお金をだし、店主からお釣りを受け取って店からでた。


「何を買ったんだ?」

「妖精瓶2種と白紙のページ。」

「また何か見えたんだな。」

「うん、でもお兄ちゃんは自分のしたいように行動すればいいよ、そっちの方がいいの。」


いつものだな。


……40分後……

「到着!時刻もちょうど良し!」

「入っちゃおうか。」


重く重厚な扉を抜けた先には大聖堂にも引けを取らない広々としたホールが我らを出迎えた。

正面にはカウンターがあり、

ホールの八角形の頂点の位置にそれぞれ扉がある構造だ。


「お!君たちは昨日のデタラメ兄弟じゃないか!」

「デタラメ兄弟ではない!セルニカ兄弟だ!」


昨日我らを聖堂から帰してくれた先輩だ、昨日は助かったからな、どこかでお返しがしたい。


「貴方は名をなんと言う!」

「俺はトミーだ、もっと自己紹介をしたいところだけど、君たちの案内を頼まれてるんだ。

出来るだけ早い方がいいから今来てくれるかい?」

「もちろんだとも!」

「うん、いいよ。」


トミー先輩はそのまま我らの入った扉から対角線上に存在する扉へと入っていった。

その扉は他の6つの扉より豪華に作られている。

ルーセルはトミーに付いていき、

そのまた後ろのミカはルーセルに付いて行く。


笑みで目が閉じるほどの笑顔をしながら扉を開け、

大声で名乗りをあげる。


「ハーハッハッハ!僕は未来の英雄ルドッ……」


部屋は高い天井に天窓があり、

中央には三人ほど座れそうなソファが二つ向かい合って置かれており、その間に机がある。

他の場所も、どうみても高価にしか見えない物品でうめつくされており。

そんな部屋の中央に座る者は、

紫色で白色のファーが端に付き宝石のちりばめられたマントを羽織り、その内側にはスーツを着て眼鏡をしている。

年齢はそれほどいっていないようで30代前半に見えた。


そして彼の前には立派な王冠が置かれている。



「はじめまして、

私は『ウィンドエルム13世』

もとい『ウィンドエルム・F・ガルムンド』だ。」


     """『ウィンドエルム13世』"""


その名前はこの国に住む誰もが知っている。

この国の現国王であり、

ファイアロンド一族が5世代間王を独占するなか、

若くして約100年ぶりにウィンドエルム一族から国王となった歴史的にみても特段天才と噂される人物。

そんな御方が 今 目の前にいる、僕は緊張と自分の行動への羞恥心でしばらくフリーズした。


「お兄ちゃん、落ち着いて、

はじめまして、ガルムンド国王陛下、

私はミーガン・ガ・ワン・セルニカと申します。

この男はルドット・ガ・オール・セルニカ、

私の兄です。」

「はい…ルドット・セルニカです。」


「はは、兄の方は緊張しているみたいだね、それでは要件をまとめて話そうか。

今回用事があるのは君だよ、ルドット君

騎士団の新人歓迎会の時、目撃証言によれば煌々と

光る魔法を使ったそうだね?」


まさか本当に禁忌の魔法だったのか?!

まずい、もしそうなればどうなるか分からない!

ましてや目の前におられるのは国王、

それも希代の天才!

逃げることもままならなないはず…


「い…いえ、見間違いでは?…」


「おや、おかしいね、当時私もその場にいたのだが。

君は私が間違いをしたとでも言うのか?」


高圧的な質問に緊張が最大限に高まる。


「す、すいません!使いました!!!」

「待て待て、落ち着きたまえよルドット君、この話は続きが有るんだ。」

「はい…」


「君を国の戦力の要としてスカウトしたい。」


「はい?!」


「実のところ、急ぎで戦力の必要な状況でね、

強ければ大歓迎、すぐに最前線だ。

活躍によっては今回の聖堂破壊の件も目を瞑ろう」


嘘だろ!?国王自らのスカウト宣言?!

た、確かに僕は強くて完璧で天才で向上心もあって

英雄にふさわしいけど…


受けるべきだよな…



でも…


「ごめんなさい、その提案は受け入れられません…」


「…理由を聞いてもいいかな。」

「僕が憧れた【英雄トロイア】は、騎士団の下っ端からのしあがった英雄なんです!

その道中は確かな実力を認められても簡単に英雄の

称号を得られたわけではなかった!

仲間からの信頼に、積み上げた実績と経験!

それこそが後世まで語り継がれる英雄の条件なんで

す、ただ前線に出てパッと戦果を出しただけでは誰もルドット・セルニカを覚えないでしょう?それに、最前線にて戦うことは全騎士の憧れ………それに人生を捧げた者達も多くいるはずです!


だから…僕が簡単に請け負える話でも無いです…」


プレッシャーに耐え全てを吐き出したルーセルの目には涙が浮かび、最後に一言を付け加えた。


「一番の理由は…騎士団に居たいです…」


騎士団に入ることは生まれてこの方変わらない夢、


いつまでも魔法の訓練しか出来なかった僕の退屈な日々をしのいだ希望。


たくさん友達作って、一緒にご飯食べて、くだらない話で盛り上がって、一緒に苦難を乗り越えて、その話をミカと笑いあって、


そんな青春がどれだけ楽しみだったか。

それを想像した僕の目には大粒の涙が溜まっていた。


「すまなかった、謝罪をさせてくれ、

利益のみを重視し、君たち若者の気持ちを考えてい

なかった、国王としての失態だ。

重ねて謝罪を申し上げたい。」


その言葉に安堵したルーセルは感謝を述べ涙を拭う。


「じゃあ、ここからは現実的なお話をしましょう。」

ミカが臆せず国王へ話を振る、


「なんだい?言ってごらん。」

「お兄ちゃんが破壊した聖堂のことなのだけれど……」

「あぁ、あれのことかい?

最初からこちらで負担するつもりだったよ。」


ミカが鳩が豆鉄砲でも食らったようにポカンとする。


「大聖堂で歓迎会をすることは歴代でも何度かあったが、そのなかで今回は大分被害の少ない方だよ。

大人数が暴れるより君たちみたいなのが一発派手に

かましてやる方が被害は格段に少なくなるのさ。」

「それじゃあ無罪放免ってことかしら?」


国王が顎をさすり少し考える素振りを見せた。


「どうせなら君たちの魔法を見せて欲しい、

こちらも目的を達成できる、君たちもつぐないが

出来る、いいアイデアだと思わないか?」


当然僕は顔を縦に振り、ミカも賛成の意を見せた。


「そうと決まれば移動をしようか。」

国王がマントに飾られた宝石を一つ剥がし、

こちらに手招きをした。

それに従い国王に近づくと…


「気をしっかり保ってくれ。」

国王が親指サイズの宝石を砕くき、

国王と僕たちを取り囲むように緑と白色の風が巻き起こる、


「うわぁ?!国王陛下?!使うなら言ってください

よ?!」

トミー先輩の声?

そういえばどこに居たんだ?


もと来た扉の方を見ると扉の横で風圧に耐えるトミー先輩の姿が!


そうか死角になってて見えなかったのか。

そうこう考えているうちに視界が完全に風に覆われ、

直後に弾けるように風が霧散した。


「ククルカン訓練場という場所さ、私の私有地だから好きなだけ派手にしてくれ。」


辺りを見渡すと先程の豪華な部屋は無く、

草の生い茂った広大なフィールドが広がっていた。

国王は広大な地形に圧倒される僕を尻目に僕からかなりの距離を取る。


「それでは、私に向かって魔法を放ってくれるかな

ルドット君。」

「…いいんですね?」

「もちろんだとも、仮にも国王だ、騎士の魔法一つや二つ簡単に防ぎ切って見せよう。

全身全霊を持ってかかって来たまえ!」


自分の全力をぶつけられる?

それも国王様程の実力者に?

これほど嬉しいことはない!全騎士の前で堂々と誇り誰もが羨ましがる栄光を得られる!そして、

今まで使ったこともない魔法が全力で使える!

楽しみで堪らない!だが…

「ミカ、自分の身は守れるな?」

「当たり前でしょ、お兄ちゃん、」


ミカは僕から離れ簡易的な魔方陣を地面に書く、

多分結界だろうな、ミカが親指を立てこちらに合図を送る。


「では…行きます…」


ルーセルが両手を前にかざす。


「ジ・オールマイティー!!!」


右手に炎と風!左手に水と地と雷!

それぞれが絶対に混ざらぬよう繊細に操作され、

手のひらの上で互いの領域を侵さぬよう球体へと変化する。

ルーセルが両手をぶつけたその時!


再び煌々と手から光が溢れだす!


      雨の如く降り注ぐ光の矢

    「レインフォール・ライトアロー」


手のひらの光が広がり魔方陣を形成する、

魔方陣から国王へと無数の光の矢が放たれる!


「色々試させていただこう!ストーンウォール!」


国王が地面へ手を付き魔法を発動する。

国王の前方へ五枚の石の壁が地から生えてきた、

厚みはかなりのものだったが、光の矢はそのすべてを突き抜け、砕き、跡形も残さない!


破られた壁など気にも止めず国王は毅然とした態度で待ち構える、国王は次なる魔法を口にした。


         風陣封殺

      「ウィンドジェイル」


国王の目の前に突然暴風が吹き荒れる!


その暴風は光の矢をも巻き込み次第に収縮してゆく、ついには手のひら大にまで縮むが、そのなかでは何者をも寄せ付けない暴風が変わらず吹き荒れる。


光の矢を巻き込んだせいかその風の玉は輝きが漏れだしている。


「もう一発行きます!」

「遠慮はいらないぞ!もっと殺す気で来い!」


ルーセルが体に力を込め始める、

するとルーセルから後光が差し、その光にルーセルが飲み込まれる。

光の神々しさでルーセルの体を認識出来なくなった、


その強大な光から何かが飛び出す!

  

「ウェポンズ…フルアーマー!」


全身に光の鎧を纏った巨人が飛び出す!

金属に近い光沢が国王の目に刺さる。


ルーセルは背中から光をブースターとして放出することで高速で移動を可能とした!

国王への道を最短でぶっちぎり、国王の眼前まで迫る、国王は眼前のルーセルに対して、静かに最小限の動きで手をかざす、その手には先の風の玉が待ち構える!


「暴れろ自由の風達よ!」


圧力の解放された風達は取り込んだ光の矢と共に周囲に爆散し、光の鎧の全面が大きく弾けとぶ!

中にいたルーセルはダメージこそないが、その圧力をもろに受けはるか遠方にぶっ飛んだ!


「おっとっと!まだ慣れないな。」


ルーセルは背中のブースターを器用にブレーキに使うことで空中になんとかとどまった。

だがそれは当然大きな隙である、国王はこの数瞬の間に完璧な魔法陣を地に書き上げ、詠唱する。


「オーバーライド」


六つの魔方陣が国王を取り囲み出現する、

国王を中心とした六角形の頂点部分に位置するそれらは今はただ静かにそこに存在するだけだ。


「少し魔法の授業をしようか、ルドット君、

我が国を司る魔法属性である炎と風、一体どちらが重要だと思うかね。」


ルーセルは地に足を付け光の鎧を脱ぎ、

考える、だが出た答えは…


わからん!どこまで考えても泥沼で結論が出ない!

ええいままよ!


「炎です!風単体で効果的な攻撃を行うことは

難しい故、炎が本質的に重要だと思います!」


国王が高らかに笑う。


「残念ながら90点だ!

実演して見せよう、これが魔法の本質だ!」


そう言うと静寂を保っていた魔法陣から、荒れ狂う風の竜巻が巻き起こる!

国王の六方を囲んだ竜巻に、更に魔法を重ねる。


         炎王の伊吹

     「ドラグ・ファイアブレス」


昨日も見た爆炎とも言える程の広域攻撃、

だが国王の使う炎王の伊吹はまるで違う、竜巻に向かって放たれたそれは糸の様に細く、しかし竜巻の中で大きく拡散し竜巻を炎の渦へと作り替える!


「炎を使う者は!

炎を燃やすのは風であることを忘れるな!」


今度はその竜巻にフィールド全体から風が送り込まれる、次第に竜巻に付けられた炎が青い光を放つようになり、ついにはその全体が蒼炎へと燃え変わる。


「だが風を使う者も!

炎と共にある故に輝くことを、生涯忘れるな!」


蒼炎の柱達が六方に広がり、国王から離れて行く。

国王は、将軍が開戦を宣言するが如く手を差し向け、

僕に向かい高らかに宣言する。


「それゆえ我らウィンドエルム・ファイア一族!

そして好敵手ファイアロンド・ウィンド一族は!

その名に互いの力を示し!

片時も自惚れることなどはない!

受けてみよ!魔法の真髄!


  風炎    業火吹き荒らす風の杖

 複合魔法、バーンデッド・ウィンドロッド!」


柱達はルーセルへ一直線に向かう、その動きはまるで生きているようで、あっという間にルーセルの周りを蒼炎に取り囲まれた。


「さぁルドット君!特大サービスの

6本同時バーンデッド・ウィンドロッドだ!

どうにか攻略して見せろ!」


「はい!」


あれ自体がそう言う魔法ではないのか!6本同時とは

なんと面白い!今にも皮膚が焼ききれそうだ!

これは 攻略 しがいがある!



「ピラーストーンエッジ!」


ルーセルの無詠唱魔法、ピラーストーンエッジ!

六方向から迫り来る蒼炎の柱、器用にもその真下だけを狙い大地の柱を作り出した。

はるか上空に打ち上げられた蒼炎の柱。


「ようやく涼しくなったな、真似させて貰いますよ!あなたの技!


        光の榴弾

      バーン・ブラスト」


光が糸の様に細く、鋭く大地の柱へ入って行く。

直後、柱全体から光が漏れだす。


「攻略完了である!」


柱が勢い良く爆散しその破片と黒煙がルーセルを覆い尽くした。

蒼炎の柱は足場を失い、更には爆風を受け空中で霧散し、空一面をより色濃く蒼く染まる。


「完成されているなルドット君、次で終わりにしようか。」


ルーセルはそれに答えるように最後の魔法の名を叫ぶ、黒煙の中から煌々と天を突く光の剣が、天を貫いてもまだ足りぬと揺らめきを放つ。





        断罪の光剣

       「ライトリレイザー」





「ならばこちらも応えるとしよう」

       




         厄災の風剣  

      「ディザスターブレード」




国王の右手に風が集まり剣を成す。

国王が唱え終えるや否や、ルーセルが光剣を国王を振り下ろし、国王が風剣で打ち返す。

今度は光剣でフィールドを凪払った、

茂った草々を一閃、地平線の先まで刈り獲る、

ルーセルを覆った黒煙も完全に晴れた。

国王は一閃を避けると風剣を振り風の刃をルーセルに向け弾き出す。

ルーセルはいちいち空を覆うほど大きな光剣を振り回しその刃を掻き消す。


「それを街で使ってくれるなよ!」


軽口を叩くほど高ぶった国王は、

ルーセルのもとへあり得ない速度で跳んでいく。


「受け止めてください国王様!」


「良いだろう!全力で打ち込め!」


雄叫びと雄叫び、剣と剣がぶつかり合い、

強い輝きを放った!

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