Epilogue
私は今でも毎日、デフレクタ発生装置を身に付けている。
このことを知っているのは樋口さんだけだ。
大好きだった親友の形見のネックレス。
キャンサーの攻撃で破損したそれを修復してもらった際に、砕けてしまった宝石の代わりにデフレクタ発生装置を付けてもらったのだ。普段は士官用の制服で、首元まできっちり覆って見えないようにしているけれど、あれから片時も手放したことはない。
何かがあれば、すぐに戦えるように。
いや、違う。
何かがあっても死なずに済むように。
「世界が平和になりますように」
部屋で一人、口に出してみる。
当然、今日もセラフは出てきてくれなかった。
「世界が平和になりますように」
そう思えなくなってしまった私が悪いのだろうか。
みんな変わっていく。成長していく。
変われない私を追い越して、ぞれぞれの未来に向かって前進していく。
「世界が平和になりますように」
いつかまた、心からそう思える日が来るのだろうか。
大切な人たちの居なくなった世界を、それでも大切だと思える日が来るのだろうか。
自分の命を賭してまで、救いたいと思える日が来るのだろうか
答えはきっとすぐには見つからないだろう。
それまで精々、死なない程度に頑張ってみようと思う。
安全地帯で一生懸命働いて、たまに美味しいものでも食べて悲しい記憶を洗い流して、孤独な夜は楽しかった思い出で埋め尽くして、そんな平凡な繰り返しの中で答えを探してみようと思う。
願わくば世界が、たとえ平和にならなかったとしても、今よりひどくなりませんように。