Day4
Day 04 (木) 18:00
「手塚司令官。相席させて頂いてもよろしいでしょうか」
「あら古谷さん。もちろん構わないわよ」
ありがとうございます、とお礼を述べて、円卓の対面に座らせてもらった。司令官の今日の夕飯はカツオのお刺身定食だった。やっぱりお肉は食べないようである。いつかは理由を訊いてみようと思った。
「先日はご無礼な態度を取ってしまい、申し訳ございませんでした」
「そんなに畏まらなくてもいいわ。その後調子はどうかしら」
「もう平気です。あれから逢川さんと話をして、少し落ち着きました」
「逢川さんと? なんだか意外ね」
司令官にとっての例外中の例外がどんな人なのか確かめたかったんです。そう言いかけたけれど、肉うどんと一緒に飲み込んだ。変に嫌味を言っても仕方ない。私も例外の一人なのだ。司令官の温情には感謝しないといけない。
四つほど隣のテーブルでは31Aのメンバーが怒号を撒き散らしながら食事をしていた。逢川さんも随分賑やかな人だったけれど、こうして傍から見ると31Aの中では静かな方に見える。特にパーカーの人と金髪の人とメガネの人がうるさすぎて店内の治安が終わってるように感じてしまう。カフェテリアで食事するのは当分控えようと思った。
司令官はそんな31Aにすごく思い入れがあるらしい。それに、七瀬さんもだ。最近はフロートバイクに跨って31Aと一緒に実戦にも出ているようである。
「司令官は、七瀬さんを戦場に出すこと、怖くないんですか?」
「‥‥‥怖くないと言えば噓になるわね。けれど、31Aが一緒だから、ある程度は安心しているわ」
「それでも、デフレクタのない生身の人間です。万一のことだってあり得ると思うんです。私は、私の大事な人がフロートバイクで戦うと言ったら反対してしまうと思います」
「そうね。もちろん司令官命令で彼女を縛ることはできるけれど、私は七瀬の意思を尊重するわ」
「もしそれで、七瀬さんが亡くなるようなことになっても、後悔はないですか」
「ええ。別れは悲劇だけれど、共に過ごした思い出に比べれば、取るに足らない些細なことよ」
「‥‥‥‥‥‥」
それは司令官らしい意見だった。
数々の別れを見てきた、いや、導いてきた司令官だからこその意見。
私は、まだそうは思えない。
28Eの仲間たちと出会えて良かったと思う。
でも、できればもっと長く一緒に居たかったし、死なせたくなかった。
しばらく無言が続く。
すると31Aが夕食を食べ終えたようで、出口側のこちらの席に歩み寄ってきた。逢川さんの姿が見えたので、お礼を言わなければと思い、立ち上がって会釈をする。
「あ、逢川さん。昨日はありがとうございました」
「最後走り去られたのに謎に感謝されとる!」
逢川さんは控えめにツッコミを入れてくれた。茅森さんと國見さんも私の顔に気付いて、「あの時はありがとうございました」と丁寧に挨拶してくれた。その他のメンバーは、奇しくも先程うるさかった人たちである。絡まれなくて少し安心した。
「それじゃあ、づかっちゃん。おやすみ!」
茅森さんは軽快に手塚司令官をづかっちゃん呼びして、笑顔のままカフェテリアを後にしていった。あの人、司令官の眉間に皴が寄ってるのが見えてないのだろうか? 破天荒で不思議な人である。
司令官は残りお刺身をテンポよく食べ終え、ごちそうさまでした、と手を合わせて席を立った。
「私もそろそろお暇するわ。おやすみなさい、古谷さん」
「ありがとうございました。おやすみなさい、づかっちゃん」
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
一瞬、時が止まった。
言わなきゃ良かった、とすぐに後悔した。
なんでこんなこと言ってしまったんだろう。31Aの雰囲気に中られて、つい柄にもない真似をしてしまった。
絶対に怒られる、嫌われる、再教育期間に戻される、とか様々な絶望の未来が瞬時に脳内を駆け巡った。
けれど。
「‥‥‥ふふ。おやすみなさい。古谷さん」
その時の司令官の顔。
ちょっとだけ、忘れたくないなと思ってしまった。