化狐と猫又
日の当たる草原の只中でうとうとと夢と現の間にいたキツネの耳に、柔らかな足が草を踏む音が聞こえてきた。
また今日も彼が来たのだろう。目を覚ましたキツネは、しかし体を起こすことなく寝そべったままだった。
「ようよう、キツネよぅ」
やがてキツネのすぐそばに、とすっと軽い音がして何かが座った。そこに来てようやくキツネは片目を開く。
そこには艷やかな黒毛のネコが、二又の尾を振りながら座っていた。
「なんの用?」
「ご挨拶だねぇ。分かってるくせに」
ネコは楽しそうに笑いながら片方の尾でキツネを叩く。キツネは鬱陶しそうに体を振って尾から逃れた。
そんなキツネに対してネコはある人間の女性の特徴を伝えた。
「今度はこんな娘に飼われたいんだよ。あんたは何度となく人間騙したキツネだろ? 人間の心理とかよく分かってんだろ? 人を騙して夫婦になったこともあるんだろ? だから飼われるためにどうすれば良いのか教えてくれよ」
何度もしつこく頼み込んでくるネコに根負けしたのか、キツネは仕方なくそういうタイプの人間に拾われるための出会い方や、飼われるために必要な作法を教えた。
ネコはぱっと立ち上がると、キツネから離れる。
「ありがとよ、いじわる女狐さん! 今度礼にいなりでも持ってくる!」
「その尾は片方隠しなよ、色ボケ猫」
去っていくネコの背に向かいそう言うとキツネはまた目を閉じる。そしてふんと鼻を鳴らし、独り言を呟いた。
「礼だって言うならもっと会いに来てくれよ。こっちの気も知らないで人間の女のことばかり」
そうして艷やかな黒毛を思い出しながら、再び眠りについていった。
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