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素直になれない天使たち  作者: null
一章 お試し期間?
3/17

お試し期間?.3

お気軽にお読み頂けると嬉しいです!


読みづらい点などありましたら、ご遠慮なくご教授下さい!



「ねぇねぇ、結局どうだったの?」


 次の日、学校で顔を合わせた青葉は開口一番、そう私に尋ねてきた。


「え、あー…」


 私はなんと説明したらいいかも分からず、眉を曲げて困り顔を浮かべた。すると、私のそんな顔を勘違いしたらしい青葉が、「ははーん、そっかぁ。ま、どんまい!」と笑って背中を叩いてきた。


「あ、あはは…痛いよ、青葉」


 説明の手間が省けたことを喜ぶべきか、それとも、私の残念エピソードが増えたことを悲しむべきか…。


 まぁ、どうせ、『莉音くん、超絶美形の女の子だったんだけど、お試しで付き合ってみる?って言われちゃった♡』なんて言っても、可哀想ものを見る目で憐れまれるだけなんだろうな…悲しきかな、私の信頼度の低さ。


 唖然としていた私と夜重に対し、『まあ、ゆっくりと考えてほしい。夜重ちゃんと一緒にね』…なんて言葉を残した莉音からは、昨日のうちにお礼と驚かせたことへの謝罪メッセージがきていた。


 こっちも驚きっぱなしでごめん、とメッセージを送ると、莉音は無理もないことだ、と改めて共感を示し、とにかく、じっくり時間をかけて考えるように繰り返した。しかも、夜重と一緒に。


 どうしてそこで夜重が出てくるんだろう、と不思議に思ったが、莉音には以前から、夜重はしつこいし過干渉なんだ、と話していたからかもしれないと一人で得心する。


 っていうか、考えてみてって何を考えるの?私が同性でも好きになれるかどうか?それとも、莉音と付き合えるのかどうか?


(…いやー、分かんないよ。そもそも、どうやって考えるの?無理じゃない?ネットで調べるとか?いや、何を?SNSで…ううん、SNSから生まれた悩み事だもんなぁ…これ以上、考えることが増えるのは私の脳みそキャパ的に無理だぞぉ)


 そうこうして悩んでいるうちに、夜重が登校してきた。


 昨日は、夜重ともまともな分かれ方をしていない。というのも、彼女が帰り道は終始無言だったせいだ。うん、私は悪くない。声をかけられなかったのは、圧の強い夜重の綺麗な顔が悪い。


 私はどんな顔を夜重に見せたらいいか分からず、青葉が彼女に挨拶していても顔を向けられずにいた。


「祈里」


 鋭く尖った言葉が降ってくる。


 内心の動揺を悟られないように、微笑みを浮かべてから返事をする。


「あ、夜重、おはよ」

「おはよう」


 互いに無言の時間が流れてしまう。明らかに普段とは違う二人に、青葉だけじゃなく、何人かの友だちがこちらを窺っているのが分かる。


 な、なにか、言わないと…。


 夜重と気まずくなるのは、絶対に嫌だ。


 喧嘩も絶えないし、ムキー!ってなることも多いけど。


 夜重は、私の数少ない理解者だ。…保護者ではない。断じて。


 私自身、夜重のことを分かっている数少ない人間だという自負がある。というか、私以外、いないんじゃないかなぁ。夜重は一匹狼みたいな人だからね。


「あー…や、夜重。今日の宿題してきた?」

「宿題?」


 やばい、適当に走り出しすぎだ。


「え、あ、そう、宿題…」

「宿題なんて、今日は何もないでしょう」

「そ、そうだっけぇ?うぅむ、いつもの天然ボケが出ちゃいましたなぁ、あはは…」


 小ボケにして誤魔化そうとしたが、夜重の顔は普段通りの能面。いつもやめなさいと言っているでしょう、その顔は。心臓がぎゅっ、ってなるから。悪い意味で。


 その後も、私は何か言おうと口をパクパク、視線をキョロキョロとしていたのだが、ややあって、夜重のほうから核心に迫る言葉を向けられることとなる。


「祈里、昨日ことだけど」

「あ、ひゃぃ!」


 身構えすぎて変な声が出た。恥ずかしい。でも、それどころじゃない。


 じっと、こちらを見下ろす夜重を上目遣いに見返す。どんな言葉が吐き捨てられるか、予想もできなかった。


『よくもあんな奴の前に私を連れて行ってくれたわね、この駄犬。私の時間を返しなさい。今、すぐに』


『素敵なお悩み解決人だったわね、祈里。さぁ、みんなに今、話してみせたら?ほら、早くなさい』


『まだ妄想のほうが良かったと思うわ、私。だって、女の人だったうえに、お試しで付き合おうなんて言い出すやばい人だったのよ』


 ぐ、ぐぬぬ…どれもよくない。言い返したいのに、絶対に夜重には口喧嘩では勝てないという、実績に基づいた結果が分かっていて、負け惜しみしか出なさそうだ…。


 それで、実際に出てきた言葉は…。


「もう、あの人に会うのはやめなさい」

「え…?」


 意外な言葉に、私は面食らった。しかし、すぐにそうもいかないと思い、首を横に振る。


「で、でも、考えておいてって…」

「考えることなんて塵一つとして無いでしょう?たかがSNSで出会った人間に、義理など感じなくていいわ」

「そんなこと――」

「あのね、祈里、貴方は女なのよ」


 話は終わりだ、とでも言わんばかりに夜重が自分の席へと離れていく。


「ちょっと、夜重ってば!」


 私は慌ててその手を掴んだ。そうすると、驚いたことにすごい勢いで手を振りほどかれてしまった。


 元々、夜重はボディタッチが好きなほうではない。だが、私が手を繋いだりするときは、ため息と共にそれを受け入れてくれるような人間でもある。まあ、高校生になってからはつないでないけど。


「ど、どうしたの?」


 ぽかんとした顔で夜重を見やれば、彼女は私の手が触れた右手をぎゅっと胸元に抱え、なぜだろう、顔を真っ赤にして驚いた顔を浮かべていた。


 いや、驚きたいのは私のほうなんだけど…。


「夜重、あの」

「…は、話があるなら放課後にでも聞くわ」

「放課後?別に今からでも」

「忙しいのよ」


 忙しいって…宿題もないのに、朝から学校でやらなきゃいけないことなんてないだろうに。


 でも、夜重がこういう感じで応対するときは、粘っていてもしょうがない。


 私は大人しく引き下がることにした。


「分かった。放課後だよ?約束だかんね?」

「分かったから…もう、いいでしょう」


 そうして、夜重は私との会話を一方的に打ち切った。


「夜重、どうしたの?」と心配そうに尋ねてくる青葉の声を耳にしながら、私は担任の教師が入ってくるまで、その美しい黒髪を目で追うのだった。



 放課後に聞くわ、って言ったくせに。


 私は流星の如き勢いで教室から出て行く夜重を追って、昇降口を飛び出した。


 私も夜重も部活はやっていない。夜重は基本的に家に帰って読書するか、勉強しているし、私に関しては一生懸命働いてくれているお母さんの代わりに、家事をしておかなければならなかった。


「あ、夜重!ストップ、ストップ!」


 桜並木の辺りでどうにか追いつく。私も夜重も一駅分ほど離れた地域から通学しているため、登下校にはバスを利用している。そのため、数分ずれただけで一緒に帰れないこともあるのだ。…まぁ、だいたい夜重は私を待ってくれるんだけど。


 声をかけられた夜重は、びくんと肩を揺らしてから立ち止まり、ゆっくりとこちらを振り向いた。その拍子に腰まで伸びた黒髪が、螺旋を描くように艶やかにうねる。


 黒髪美女の圧力に屈さず駆け寄った私は、肩で息をしながら、恨めしそうに夜重を見上げる。


「はぁ、はぁ…うー、なんで先に帰っちゃうかなぁ、夜重ってば」

「…別に、私がいつ帰ろうと勝手だと思うけれど」

「はぁ?話は放課後に聞くって言ったのは夜重じゃん」


 珍しく正論で返せた私に、夜重はすぅっと視線をそらした。


「そう、だったかしら…。ごめんなさい、忘れていたわ」

「ははぁん」と私は腕を組んで夜重を見返す。

「なによ、その顔は」

「記憶力抜群、頭脳明晰の蒼井夜重様が『忘れていたわ』ぁ?そんなことないでしょ」

「…私だって、人間よ。そんなこともあるわ」

「はいはい、幼馴染、舐めないでよ。今までだって、夜重が約束を破ってどっかに行くときは、だいたい怒ってるときか、いじけているときか、都合が悪くなって逃げてるときだもんね」


 これには夜重も苦い顔をした。私には通らない言い訳だったと今さら後悔しているのだろう。


 実際、夜重が私との予定をうっかりミスで反故にすることなんて、今まで一度もなかった。


 夜重が約束を守らなかったとき。それは…。


「私が夜重と遊ぶ約束してたのに、うっかり忘れて別の友だちと遊んだときは、次の日に慌てて立てたお出かけの約束をすっぽかされたし」

「…すっぽかしたのではなく、破ったのよ」


「小学校の劇でお姫様役に推薦されちゃったときは、放課後の練習を初日からサボったし」

「あぁ…推薦した人を本気で殺してやりたいと思った、あれね」

「そうそう――って、それ、私なんだけど…」


 だって、昔から夜重は綺麗だったんだもん。お姫様役に相応しい人間なんて、蒼井夜重を差し置いて誰もいなかったんだって。


「結局あのときも、追いかけてきた貴方に説得されたんだったわね…きっと、今後の人生を暗示した出来事だったんだわ」

「それどういう意味よ」

「貴方に振り回されっぱなしの人生ってことよ」


 そう言うと、夜重は小さく笑った。


(…やだ、きゅんときちゃうわー…)


 夜重はこうして、夜にしか咲かない月下美人の花のように、ひっそりと笑うときがある。


 決まって私と二人きりのときにしか見られない花だから、なんだろう、特別なものだって思えるんだ。


 これがツンデレのデレの部分ってことか。うぅむ…恐ろしい。世の中の男どもはイチコロリであろう。


「はいはい、振り回して悪うござんした」


 悪態を吐いて、夜重に見惚れていないアピールをした私は、そのまま続けて、「そうだ、この後、時間ある?」と尋ねた。


「読書と勉強で忙しいわ」

「おっけー、暇だね。さっきの話の続き、私の家でやろうよ。夕方に雨降るかもだから、早めに洗濯物取り込んでおきたいんだよね」

「だったら明日すればいいじゃない」

「明日にすると、綺麗な言い訳作っちゃうでしょ、夜重は。理論武装大好きっ子だからね」

「…はぁ、分かったわよ。諦めるわ」


 物憂げなため息。やっぱり、夜重がすると様になる。


「そうこなくっちゃ」

「…昔から、どうしてこうも祈里はしつこいのかしら。貴方、蛇年だったかしら?」

「あんたと一緒の犬年だよ!知ってんでしょ!」


 いつものテンポで会話が戻ってくる。


 うん、やっぱりこれだ。私と夜重はこうでなくっちゃ。


 …そうじゃないと、息苦しくて、おかしくなりそうだと思った。

次回の更新は水曜日となっております!


ブックマーク等が私のモチベーションになりますので、

よろしければお願い致します!

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