表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の嫁でございます ~僅か8歳で魔王の後宮に入内した元王女ブリジア妃の数奇な人生~  作者: 西玉
第3章 外の世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/64

54 巨大生物と戦う人族

 ブリジアは、広い座敷にいた。

 床は、草を編み込んだ不思議な高い絨毯で覆われていた。ヤマトの国では畳と呼ぶのだと、後で知ることになる。

 背後に勇者ナギサがいた。


 勇者ナギサに連れられて転移した先が、畳のある広い座敷だったのだ。

 一面が畳で覆われているが、ブリジアとナギサが転移した場所だけ滑らかな石が嵌め込まれ、魔法陣と思われる紋様が刻まれている。

 ブリジアは、これが転移の魔法陣なのだろうと推測した。


「ナギサ、遅いぞ」


 座敷の奥から、年季の入った顔をした人族が言った。


「間に合っただろう? どんな状況だ?」


 ナギサは普通に話しかけている。ブリジアは、その人物を凝視した。


「上陸された。すぐに出撃して、直接叩け」

「この子を頼む。頼めないなら、連れて行く」

「連れて行かせるはずがないでしょう。子どもに危害は加えないわ。あなたがブリジアね?」


 ナギサのそばに立った、黒髪の細い女性が話しかけた。

 ブリジアは上を向き、問われたことに女の視線で気づいた。


「……はい。あの、ここは……」

「説明していないの?」

「ヤマトだということと、魔王軍と戦うための基地だとだけ言ってある」


「そう。なら、詳しい説明はしておくわ」

「頼みます。キキョウ博士」


 ナギサはブリジアの頭に手を置いた。


「ちょっと行ってくる。心配はいらない。僕のことも、君のこともね。ここにいてくれ」

「……うん」


 ブリジアの返事に笑みをこぼし、ナギサが走り出した。

 ブリジアは、ナギサを見送らず、首を巡らせた。

 場所は広い座敷だが、壁も天井も、全て大きな画面に囲まれ、外の光景を映し出している。


 画面の外側にある枠線が見えていなければ、露天と勘違いするところだ。

 いくつもの人影があり、手に持てるサイズの箱に話しかけている。

 ブリジアは、キキョウと呼ばれた人物を見上げた。


「どうして……」


 あまりにも突然のことに、何を聞いていいかわからなかった。ブリシアは尋ねようとして口ごもる。キキョウが察した。


「この場所は、ヤマトを魔王軍から守るための前線基地で、ナギサはこの基地の最高戦力よ。ほらっ、これから出撃するわ」


 キキョウが手をかざし、画面の一部が切り替わる。

 その画面の中では、勇者ナギサに人族の人々が何かを貼り付けていた。

 人々が離れた。

 ナギサが、金属的な覆いに包まれていた。


「凄いわね。身長10メートル、人型……これまでの最高記録ね」

「目的を果たしたことが大きいのでしょう」


 キキョウの呟きに、近くの画面を覗き込んで指示を出していた男性が振り返った。

 何やら嬉しそうだ。


「そうかもしれないわね。これから、ナギサはまだまだ成長するわ」


 キキョウが、ブリジアに笑いかける。どうして笑いかけられたのか、ブリジアには分からなかった。


「成長してもらわなければ困る。魔王は、こんなものではない」


 座敷の奥に座っていた、年老いた男が評した。


「どうして……」


 ブリジア再び問おうとした。さっきは、何を聞いていいかわからなかった。今度は尋ねたいことがあった。キキョウの意識は、ブリジアには向いていなかった。


「ナギサ、標的は衝撃に強いわ。100ミリ砲の榴弾で傷も付かなかった。装備は5番にしなさい。消耗が激しいでしょうけど」

『了解しました』


「それから、ナギサの前世の情報から、標的をジーラと呼称します」

『ははっ。そりゃいい』


 ナギサが笑って返した。ナギサの前世は巨大生物なのだろうか。

 ブリジアのことは、誰も気に留めなかった。

 それどころでないのだろう。巨大生物とは、それほどの脅威なのだろう。


 ナギサは、身長10メートルの巨人となって基地から飛び出した。

 まるでロボットのようだとは、ロボットを知らないブリジアは思わなかった。

 ただ、似ているのはブリジア人形を作ろうとして失敗した、ドワーフ族のドロシーが作成した人形だ。


「ナギサが出たわ。一斉砲撃。10秒後に砲撃やめて。ナギサ、聞いているわね」

『了解』


 ナギサの答えと同時に、画面上で人型が武器を取り出した。

 長い鉄の棒のように見えるが、その先に、紫色に光るヤイバが出現している。


「支援部隊、出なさい」

『支援部隊、出ます』


 キキョウの呼びかけに、先ほど返事をした男が繰り返す。

 ナギサの足元に、体長2メートルほどの、無数の足をもった昆虫のような物体が10体ほど、わらわらと歩いて移動している。


「あれでも、この国のエリートたちなのよ。ナギサが規格外なだけで、普通の人間では、あれ以上の形状にも、大きさにもできないわ」

「……蜘蛛型ですか?」


「ええ。そう見えるでしょうね。アームスーツって呼んでいるわ。体に埋め込んだ魔力石に魔力を流すことで、全身を覆うスーツを作り上げる。普通は、自分の体を鎧のように覆うので精一杯よ。ああして別の姿に成れるのは、一部の限られた人だけなの。普通の魔物相手なら十分な戦力でも、相手が魔王軍では、力不足だけどね」


 ブリジアに教えるように、キキョウは説明する。


「でも、どうして……」

「砲撃が止んだ。始まるわ」


 キキョウが画面を指差した。

 ジーラと呼称された巨大生物が、砂浜に上がろうとする。

 勇者ナギサが身につけたアームスーツは、銀色の肌をした人型で、10メートルほどの巨人だという。モニター越しでは、大きさまではわからない。


 巨人には亜人と魔物がいると言われている。亜人としての巨人は身長が3メートル近いが、それ以外は人族と変わらず、文明を持ち魔王領の西側の集落にいる。

 魔物としての巨人は身長10メートルを超え、人族に似た風貌をもつが知能は猿に劣ると言われている。


 魔王領の低い場所に住み着いており、巨人の集落は魔王領の難所の一つとなっていると、ブリジアは聞いていた。

 変化したナギサの周りに、数十を数える蜘蛛型のアームスーツが展開した。

 ナギサが持っているのは、長い棒だった。


 アームスーツの一部なのだろう。先端がヤイバではなく、赤い光が明滅していた。

 ナギサが突進する。

 巨人級の大きさになっといっても、ジーラの体高は50メートルある。


 ナギサが砂を蹴った。

 ジーラの頭部に迫る。

 空中で姿勢を変え、ナギサが巨大生物に持っていた棒を叩きつける。


 ジーラの皮膚が裂け、血が流れる。

 ジーラが口を開けた。


「あっ……危ない」

「ブリジアちゃん、どうしたの?」


 ジーラが大きく口を開けた。ナギサが立ち向かう。

 その瞬間、ジーラの口から吐き出された青白い炎に、ナギサが貫かれた。


『うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

「嘘! 火を吐いた? 生物じゃないの?」


 キキョウが絶叫していた。


「ナギサの生命維持を最優先だ」

「了解。生命維持に全魔力を回します」


 奥に座っていた年嵩の男が命じ、石板で操作していた若い男が応じる。


『待って下さい! 僕は大丈夫です』


 画像の中のナギサが答えた。ブリジアがいる部屋の音声が聞こえているかのようだ。


「危険よ。一旦下がりなさい」


 キキョウが命じる。どうやら、本当に聞こえているらしい。

 だが、ナギサは下がらなかった。

 ナギサの接近に、ジーラが足を止めていた。

 蜘蛛型のアームスーツが、3人まとめて吹き飛ばされた。


 ジーラが長い尾を振り回したのを、ブリジアは見ていた。

 ナギサは尾を回避する。

 背中に回り込んだ。

 ジーラはナギサのみを敵と狙い定めたようだ。

 ナギサの動きを追い、首を動かした。


「ナギサ、炎が来るわ!」

「ううん。こないよ」

「ブリジアちゃん、どうしてそんな……」


 ブリジアが答える前に、ナギサをジーラが噛みつこうとして、空振りした。

 上下の顎がけたたましい音を立てる。


「スパイダー部隊、目標に張り付きました」

「始めろ」

「注入開始」


 男たちのやり取りの意味を、ブリジアは画面で理解した。

 ジーラの体表に、蜘蛛型のアームスーツが張り付いていた。

 しかも、一体ではない。


 出撃した蜘蛛型が、ほぼ全てジーラの体表に張り付いたのだ。

 蜘蛛型たちが大きく尻を振り、しがみついたジーラの皮膚に叩きつける。


「何を注入しているの?」


 叩きつけた尻の先端に、針が見えていた。本物の蜘蛛であれば、糸を出しているのだろう。


「毒よ。どんなに大きな生物でも、致死量はあるはず」


 キキョウは冷酷に言った。

 ナギサがジーラから離れる。

 ジーラは動きを止めていた。


 遠くを見ているように動かない。

 ナギサは、武器を変えた。

 持っていた棒を真ん中で折り、2本の光のヤイバに変化させた。


「ナギサ、やめなさい。決着はついたわ。無理をする必要はない」

「いえ。やらせて下さい。毒で死ぬ前に逃げるかもしれない。ここで殺しておかなければ、いつまたチャンスがくるかわかりません。司令、お願いします」

「許可する」


 奥に座っていた男が言った。キキョウが振り返って睨んだが、男は表情を変えなかった。


「トウヤ、ナギサに魔力を注入」

「やっています」


 どういう仕組みか、現在のお座敷から魔力を注げるらしい。

 ナギサの持つ光の剣が、剣の光が、眩いほど輝き出す。

 ナギサが砂浜を蹴った。


 ジーラは動かない。

 ナギサの剣が、ジーラの腹部に吸い込まれる。

 血が飛び散った。


 ナギサは、突き立てた剣をさらに動かそうとした。

 ジーラが向きを変える。

 海に飛び込んだ。


「全員離脱!」


 キキョウが叫ぶ。

 ナギサが飛びすさり、ジーラに張り付いていた蜘蛛型スーツが離れた。

 ジーラが飛び込んだ海面が暴れる。

 アームスーツは水に浮くらしく、海面に蜘蛛型が浮き上がっていた。


「勝ったな」


 司令と呼ばれた男の声が、座敷に響いた。


「……ねぇ、どうして……」


 全員が安堵していた。その空気を察し、ブリジアは何度も尋ねようとして、遮られていた質問を投げかけた。


「どうしたの、ブリジアちゃん。さっきから、何を聞きたかったの?」


 先ほどまでの厳しい表情とは別人のように、キキョウが柔らかく尋ねた。

 ブリジアは聞いた。


「どうして、魔族の方が人間のふりをして、魔物でもないただの生物と戦っているんですか? 魔王様にお願いすれば、すぐに片付くのに」

「ブリジアちゃん、ちょっと、お話しましょうか」


 キキョウの笑みに、ブリジアはなぜかデジィを思い出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ