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魔王の嫁でございます ~僅か8歳で魔王の後宮に入内した元王女ブリジア妃の数奇な人生~  作者: 西玉
第2章 皇后デジィのお茶会

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34 皇后デジィのお茶会1

 〜遊食園〜


 地下後宮の中央近くに、美しい庭園がある。

 地下後宮は天井が高く、輝くスイカが地面を照らすために植物の生育も旺盛である。

 遊食園には、世界中から美しい植物が集められ、妃たちの憩の場となっている。

 ただし、注意が必要なことがある。


 美しいという基準だけで集められた植物たちの中には、動物に蔓を巻きつけ、締め殺す植物も、根を足のように動かして位置を変える植物もいる。

 その多くは魔物として分類されており、知らずに立ち寄った妃が、寛いでいる間に栄養にされた例が年間に数件は発生している。


 しかし、注意を怠らず、自らの身を守れる者達にとっては、地上では見られない美しい場所である。

 園には屋根付きの休憩所があり、遊食園の華宮、あるいは単に華宮と呼ばれている。

 来奇殿と獣雷殿のお茶会は、華宮において催されることになっていた。

 ブリジア傑女は、コマニャス公妃に連れられ、ドロシーと共に初めて遊食園を訪れた。


 まるでダイヤモンドを集めたような輝く花に手を伸ばし、レガモンに止められた。

 お茶会に皇后デジィが出席する予定だと聞き、死刑を命じられたことがある侍女テティには留守番を命じた。

 代わりに、元王国騎士団長だったレガモンが随行した。


「あの花は、素晴らしい研磨剤になるわよ。輝いている状態だと、積まれるのが嫌で手に突き刺さるわ」


 レガモンがブリジアを押さえつけたところで、少し離れたところに立っていた来奇殿の主コマニャスが言った。

 ブリジアは震えあがる。


「怖い花ね。コマニャス様なら、怪我をせずに摘めますか?」


 エルフ族は、植物の扱いに長けている。


「私たちエルフ族は、嫌がっている花を積んだりはしないわ」


 コマニャスに従う侍女のリーディアは、大きな籠を抱えている。

 お茶会で供するための食べ物らしい。

 魔物に任せればお茶会の会場まで運んでくれるはずだが、そうはしなかったのは、理由があるのだろう。


「さあ、ブリジア様、遅れますから急ぎましょう」

「うん。わかったわ」


 レガモンには聞き分けのよい返事をしながら、ブリジアは何度も珍しい植物に目をとられ、足を止めた。

 その度にドロシーが講釈を述べ、コマニャスが反論する。

 最後には、ブリジアは侍女レガモンに荷物のように抱えられることになった。


「ついてきたのがレガモンでよかったわ。テティだったら、一緒になって道草を食べていたでしょう」


 コマニャスが言うと、ドロシーが頷く。


「道草に食べられる前に、華宮に行きましょう」


 ブリジアは冗談かと思って聞いたが、道に生えている草の間に、どうやら人骨らしいものがある。

 ブリジアが荷物のように抱えられて見ている間に、人骨に植物の蔓が巻きつき、粉々にしてしまった。


「レガモン、早く行きましょう。ここ、怖いわ」

「どうしました? さっきまで、あんなに楽しんでいたのに」


 ブリジアは答える気にならず、ぶるぶると首を振った。


 ※


 コマニャスたちがとてものんびりと移動したため、華宮についた時には、獣雷殿の妃たちはすでに到着していた。

 長いテーブルがコの字型に並べられ、コマニャスが獣雷殿のランディ公妃と向かい合う位置、来奇殿の中で上座にあたる場所に腰掛けた。


 今日は、ポリン伯妃は欠席した。出席が強制される会でもなく、獣雷殿の妃たちと懇意になる必要もない。

 小さな公子を抱えるホビット族のポリンには、コマニャスも参加を勧めなかったのだ。

 公妃である獣雷殿の主ランディに続き、ドロシーの上の、名妃と呼ばれる階級のトモア、ブリジアと同じ傑女のブラストが並んでいた。


 ブリジアは、ランディを見たことがあった。

 道ですれ違った時、輿に乗った虎の夫人に声をかけられていた。

 鮮やかな翠の衣を肩にかけているが、衣をかけないと全裸に近い姿だから体を覆っているというだけに見えた。

 獣人族は、最大で体の七割が近親の動物の毛皮に覆われている。


 残りの三割が滑らかな皮膚ではなく鱗や棘で覆われていれば魔族だが、ランディは辛うじて獣人族である。

 滑らかな肌も、黄色と黒の縞模様が浮き出ている。

 毛皮に覆われていない三割が顔と胸元でなければ、二足歩行の虎だと言われても不思議ではないだろう。


 ブリジアは、不躾だと思いながらも、初めて見る2人の妃に視線を向けた。

 ランディの隣に座っているトモア名妃は、両腕を出して体を薄い衣で覆うというスタイルだったが、剥き出しのはずの腕は桃色の羽で覆われていた。

 細く長い首の上に、とても小さく見える頭部が可愛らしい。


 顔の作りは人族そのものだったが、目は黒目一色だった。

 コマニャスから、トモア名妃は鳥人族で、フラミンゴという鳥の一族だと聞かされていた。

 さらに隣、ブリジアの正面には額から黒い触覚を生やした妃が腰掛けていた。

 黒一色の目をしているが、大きな目は明らかに複眼だ。


 目以外の肌は白く、少し膨らんだ鼻や柔らかそうな唇は人族に似ている。

 女王アリと呼ばれる種族のブラスト傑女だと聞いていた。

 テーブルについているため上半身しか見ることはできないが、首から下はほぼ完全な人族だという。

 虫族は魔族に分類されることが多く、魔族は皇后のデジィを除いて妃になることはできない。

 ブラストが魔族に分類されていた場合、デジィの侍女になっただろうと噂されている。


「あなたがブリジアね? ランディ様から聞いているわ。傑女どうし、仲良くしましょう」


 ブリジアが観察していることを察知したのか、ブラストが先に口を開いた。


「はい。よろしくお願いします」

「謙らなくていいわよ。同じ階級なのだから」

「私の方が後輩でしょうから」


 ブリジアが言うと、ドロシーが付け加えた。


「ブリジアはすぐに昇格するわ。今ぐらい、ブリジアに敬われる気分を味わうといいでしょう」


 ドワーフ族特有の長いひげを、今日は三つ編みにしている。

 ドロシーは、髭を撫でながら言った。ドワーフが髭を撫でるのは、手の脂をつけて髭の光沢を増すためだといわれている。

 事実、ドロシーは髪にかける数倍の時間をヒゲの手入れに割いている。


「なら、あなたもすぐに追い抜かれるでしょうね。穴の中の小汚い種族が」

「なんですって」

「ご実家は大丈夫? 金属泥棒が出て、大変みたいじゃない」


「まさか! あんたの仕業?」

「ドロシー姉さん、どうしたの? 金属泥棒って?」

「まあ! ブリジアは人族の王女様でしょう? こんな穴熊を姉さんなんて呼ぶの?」


 ブラストは、短い触覚を揺らして笑った。


「ブリジア、人前では『姉さん』って呼ぶなって言ったじゃない」

「ごめんなさい。ドロシー姉さん」

「あんた、言っても治らないの?」

「ま、間違えただけじゃない。痛い、痛い……」


 ブリジアが叫ぶと、コマニャスが困ったように口を挟んだ。


「ドロシー、ブリジアの頬をつねるのをやめなさいな。将来、ブリジアの顔の張りが無くなった時、恨まれるわよ」

「ブラスト、いい加減にしな。騒ぐと腹が空くだろう。さっきから、トモアが目を回しそうになっているんだ。大人しくしていな」


 ランディが嗜める。同じ宮殿の主人である。さすがにブラストも小さくなった。


「コマニャス様、お腹が空きました。お茶はまだですか?」

「ブリジア、皇后様が見えるまでは我慢よ。あなたより、獣雷殿の方々の方が辛いのですから。ねぇ、ランディさん」

「ああ。あたしらは、腹が空くと凶暴になる。気をつけな」


 ランディは言いながら、牙を見せるためかのように唇を持ち上げた。

 意味がわからずブリジアが首を傾げると、背後に控えていたレガモンが耳打ちした。


「獣人族は、旺盛な食欲で知られています。食べる、寝る、後尾する以外の目的が存在しないと言われる者たちです。お茶会と聞いて、ご馳走を期待したのでしょう」

「レガモン、詳しいわね」

「トボルソの城下町にも、傭兵として雇われる者たちがいますから」

「へぇ」


 現在は侍女のレガモンは、宮廷付きの騎士団長だったはずだ。市井の傭兵との付き合いもあったのだろう。

 さすがに、宮殿の主人たちに反論する者はいなく、誰も口を開かなかった。

 まるで静かになるタイミングを見計らったかのように、あえて自分の肌に合わせるような鱗模様の服を着た蛇神族のパメラが姿を見せた。


「皇后デジィ様がお見えです」


 その瞬間、コマニャスとランディが真っ先に立ち上がり、やや遅れて他の妃が、最後にブリジアが慌てて席を立った。

 皇后が静かに、パメラとは別の侍女に手を引かれて訪れた。

 全身が金色の肌で覆われたデジィは、今日はサファイアを縫い付けたような青く輝く衣を着ている。


 どんな衣より自分の肌の方が美しいと自覚しているデジィは、着る服は簡素なものが多い。

 作りが簡素なだけで、使われている材料は人族の国家予算に匹敵するほどのものだ。

 デジィが姿を見せると、全員が一斉に跪いた。

 この時は、ブリジアも遅れずに膝をついた。


「楽に」


 デジィが静かに言うと、コマニャスとランディが礼を言いながら椅子に腰掛けた。

 ブリジアも真似しようとした時、ドロシーが振り向いてブリジアの口を塞いだ。


「全員で言うと、騒がしいでしょう。こういうときは、宮殿の主人に任せればいいのよ」

「はい。姉さん」


 思わずドロシーを『姉さん』と呼んだために、ブリジアは額を指先で弾かれた。


 怪訝な顔をしていたコマニャスの視線に促されるように、ドロシーとブリジアは急いで椅子に腰掛けた。

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