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魔王の嫁でございます ~僅か8歳で魔王の後宮に入内した元王女ブリジア妃の数奇な人生~  作者: 西玉
第2章 皇后デジィのお茶会

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31 人形の正体

 〜永命殿〜


 皇后デジィは宮殿の主人として、義理の弟と妹にあたる魔王軍大元帥ダネスと大参謀ダキラの部屋を見て回った。


「ご配慮ありがとうございます、皇后様」


 部屋が快適かどうかを見回るデジィが訪れ、部屋を与えられた大参謀ダキラが膝を付く。


「私たちは義理とはいえ姉妹だもの。遠慮は無用よ」


 デジィが手を上に向けて軽く動かすと、感謝を述べてダキラが立ち上がる。

 デジィが背を向けて部屋を出ると、背後からダキラが付いてきた。

 女性のダキラは、後宮での行動は規制されていない。

 ダネスは男性のため、ダキラと一緒でなければ、永命殿からの外出は禁じられている。


「兄のところには行かれたのですか?」

「ええ。もう行ってきたわ。机に向かって本を読んでいたわ。相変わらず、勉強熱心だこと」


 ダネスとダキラは双子で、魔族の出産形態からどちらが先かは判然としないが、ダネスが兄だと一般的に認識されている。


「私は本を好みませんが……こちらの方が、頭を使うのには向いていますし」


 言いながら、ダキラは右手で摘んだものを置く動作をした。

 本来の肩書であれば、大参謀のダキラこそ知識が求められる。ダキラはその役割を、高い情報収集能力と記憶力で賄っている。


「最近流行りの盤技? 魔女たちが地上の世界を縮小した盤だと言われているけど、本当なのかしら」

「そのようですよ。最近では、縦9マスの横9マス、81マスの盤に、同じ駒を並べて王を取り合う遊びも流行っているようですね。そちらは、魔力がない者や魔女の力を借りなくても遊べるとか」

「戦力を整えることからが戦争でしょう。互いに同じ戦力で争うことなど、そもそもあり得ないわ」


 皇后デジィも流行りに釣られて何度か挑戦したが、寿命をもたない絶対的な存在であるためか、小さな盤の上で駒を動かすことの楽しみ方がわからず、投げ出したことがある。

 デジィはダキラに与えた部屋を出たが、そのままダキラはデジィに追随した。

 ダキラと連れだって正殿に入り、庭を見下ろす高みで、設えられた調度品の机に向かって腰掛けた。


「お茶をお持ちしますか?」


 蛇身族のパメラが腰を折って尋ねた。


「ダキラは、マグマは飲める?」


 立ったままのダキラに、座るよう促しながらデジィは尋ねた。


「いえ。陛下や皇后様のようにはいきません」

「では、水銀はどう? 私は、黄金を溶かして飲むわ」

「それなら、私はストレートでいただきます。ニトログリセリンが好きですが」

「ああ……錬金術師が時折生成する、爆発する液体ね。ダキラにはそれを用意しなさい」

「承知しました」


 パメラが下がる。本当にニトログリセリンが用意できるのかどうか、デジィは疑いもしなかった。

ダキラが腰かけながら話題を変えた。


「最近では、陛下も盤技をなさるようですね。私たちがご挨拶に伺った時、盤技が地上の地形を反映させた状態で置いたままでした」

「陛下が? 誰がお相手をしていたのかしら? 親衛隊の誰か?」


「存じません。私と兄が伺った時には、陛下はお一人でした。あるいは、1人で戦術の研究をなさっていたのかもしれません。陛下が使用する盤技でしたら、魔女シレンサが全力を出すでしょうから」


 魔女シレンサは、魔王親衛隊第四部隊の総督で、魔女としても破格の能力を持っている。

 普段は小さな老婆だが、魔女シレンサなくして盤技は生まれなかったはずだ。


「きっとそうでしょうね。陛下が戦場に立つときは、魔王軍全軍を引き連れているはずだもの。陛下が盤技で駒を動かしている姿なんて、想像できないわ」

「そうでしょうね」


 ダキラが楽しそうに笑った。赤い目が歪み、牙がより現れる。

 デジィは、全身が金色であることを除けば、比較的人族に近い造作をしている。


「皇太后様が目覚めるまで、ゆっくりしていられるの?」

「陛下はそのように仰せです。魔王領に問題が生じなければ、ゆっくりしようと思っております」

「それはいいわね。純粋な魔族同士、語らいましょう」


 パメラが茶碗に入った水銀とニトログリセリンを持ってきた。

 2人の前に置く。


「永命殿で勤めているのは、いずれも純粋な魔族ではありませんか」

「いいえ。実は、純粋な魔族とは言えないのよ」


 デジィが言うと、パメラは恥ずかしそうに口を開いた。


「純粋な魔族様は、生物や他の魔物の血が入り込んではいないはずです。私のように蛇族の血が入った魔族は、紛い物ですので」

「もういいわ。パメラ、決してあなたたちを卑下したいのではないわ。下がっていなさい。ダキラはまだ知らないのね。純粋な魔族は、陛下と私を含めて、世界に百人とはいないわ。だから、動物と人族の特徴を持つ者を獣人、動物と魔族の特徴を持つものを魔族と呼び分けてはいるけど、大部分は、その意味での魔族ね」


「なるほど……そういえば、人族といえば、陛下のところで大変素晴らしい人族の人形を見ました。人族は嫌いですが、人形を作る能力は大したものですね」

「……へぇ。陛下が人形を持っているなんて、初めて聞いたわ。盤技をしている以上に想像できないわね」


 ダキラは、ニトログリセリンを嚥下し、腹の中で爆発する感覚を楽しみながら首を傾げた。


「陛下は、預かったものだと仰っていました。私が人形を気に入ったことにお気づきでしたが、預かったものなので下賜するわけにはいかないと仰って……陛下がそれほど言うのなら、きっと預かった相手は皇后様なのだろうと思っておりましたが」

「そう。でも、私ではないわね」


 皇后デジィは言いながら、金を溶かし入れた水銀を口に含んだ。


 〜憩休殿〜


 魔王ジランは、各地から送られてくる奏上に目を通していた。

 世界には、魔王の直轄領の他に、魔親王の治める魔親王国が四箇所にあり、4人の魔親王がいる。

 いずれも魔王ジランの血縁が治める国だが、広義では全てが魔王領となる。


 つまり、魔親王国は魔王領の属国である。そのため、魔親王国で起きた懸案事項を逐一知らせてくるのだ。

 各国で起きた問題の中身が、奏上という形式で魔王の手元に届くのである。


「陛下、皇后デジィ様と大参謀ダキラ様がお見えです」

「通せ」

「はっ」


 魔王親衛隊第一部隊の総督ガギョクが下がり、代わりに全身を光らせた皇后デジィと、勇ましい出で立ちの美女、魔王軍大参謀ダキラが入ってきた。


「魔王陛下にご挨拶申し上げます」


 大参謀ダキラは颯爽と片膝をついて平伏し、皇后デジィは両手を腹の上に乗せて膝をかるく折った。

 態度の違いは、2人の立場の違いである。

 魔王を前に膝をつかずに挨拶できるのは、皇后の特権でもある。


「ダキラ、立て。どうした? 皇太后がお目覚めか?」


 魔王の言葉に従って、ダキラが感謝しながら立ち上がる。


「母様はまだお起きになりませんが、日ごとにいびきが大きくなっているようです。時間の問題かと」

「ダキラは初めてお会いするのだ。緊張しているか?」


 魔王は奏上から目を上げずに尋ねた。


「はい」

「陛下、お尋ねしたいことがあって参りました」


 2人の会話を遮ったのは皇后デジィである。魔王の言葉を無視して話ができるのも、皇后だけだ。


「構わぬ」

「はい。ダキラから聞きましたが、何やら素晴らしい出来の人形をお持ちだとか」

「そのことか」


 魔王ジランは、奏上の書かれた巻物を置いた。

 皇后デジィが頷いた。


「はい。なんでも、誰かから預かったもので、実の妹といえども下賜できないとか。私も女でございます。どのような人形か、興味がございまして」

「今はない。すでに持ち主に返却した」

「ダキラ」


 魔王の言葉に、デジィが振り返る。ダキラは、魔王の背後に設られた棚に目をやった。


「先日は、そちらに置いてありましたが、確かになくなっているようです」

「あの棚の上にあったのなら、あまり大きな人形ではないでしょうね」

「はい。人族の子どもぐらいの大きさでしょう」

「2人とも、どうしてあの人形に固執する? 朕を疑っているのか?」


 女性2人の会話に魔王が割って入ると、デジィは厳しい視線を向けた。


「疑われるようなことをなさっているのですか?」

「だとしても、皇后に知らせる必要はない」


 魔王と皇后の視線がぶつかり、具体的に火花が散った。魔王を睨みつけて罪に問われないのも皇后だけだが、本当に火花を飛ばせる魔族も限られている。

 魔王をいさめるかのように、再びダキラが口を開く。


「私は、あの人形が大層気に入ったのです。デジィ様も見てみたいと仰ったのでお連れしたのですが、もう地下後宮にはないのですね」

「いや……」


 魔王は反射的に口に出してから、失敗したと自覚した。


「どなたに返したのですか?」


 皇后デジィが尋ねる。魔王は、高温を発する大理石の碗から、煮立つマグマを一飲みし、大理石を齧り割ってから答えた。


「来奇殿だ」

「また、あそこですか。ダキラ、どのような人形だったのですか? 陛下は人形の特徴など興味ないでしょうが、あなたが気に入ったのなら、覚えているでしょう」


 魔王は苦虫を噛み潰す思いで皇后デジィの後頭部を見つめた。

 皇后の後頭部は、金糸でできているように輝いている。ちなみに、魔王が苦虫を噛み潰したところで、苦くて食べられないということはない。

 ダキラが答える。


「人族によく似ていました。肌は白く、とても可愛らしい人形でした。髪は豊かな紫色で、触ると柔らかく、暖かかったのを覚えています。その上、涙を流しました」

「……へぇ」


 皇后デジィは、感心したように頷くと、魔王に視線を向けた。

 魔王は口を開かなかった。デジィが尋ねる。


「その人形なら、私にいささか心当たりがあります。持ち主と相談させていただいても、構いませんね?」

「あの人形、手に入るのですか?」

「お待ちなさい。そうとは決まっていないのですから」


 デジィがダキラを落ち着かせる。魔王が口を開いた。


「好きにしろ」

「感謝いたします」


 皇后デジィが膝をおり、ダキラを伴って出ていく。


「ガギョク」

「はっ」


 部屋の隅に控えていたホムンクルスに魔王が命じた。


「至急、来奇殿のブリジア傑女に連絡を。デジィが人形を探しに行った。避難せよ。と伝えよ」


 魔王は離れた相手とも思念で会話できる。だが、それはしなかった。途中でデジィに聞かれる恐れがあったのだ。


「承知いたしました」


 ガギョクは平伏しながら、命令を実行するために出ていく。


 魔王は、マグマの入った大理石の碗を握り潰し、手に付着した岩石をかじり取った。

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