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魔王の嫁でございます ~僅か8歳で魔王の後宮に入内した元王女ブリジア妃の数奇な人生~  作者: 西玉
第1章 魔王の嫁でごさいまちゅ

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17 勇者に連なる者たちの行方

 〜憩休殿〜


 魔王ジランは、次々に現れる配下の魔物たちから報告を受けていた。


「では、リディオスと行動を供にしていた親衛隊第一三部隊は全滅したというのだな?」

「はい。リディオス公子がそう証言されています。最後に生き残り、手足を両断されたと」


 報告したのは、魔王親衛隊第二部隊、主に後宮内の雑役を司るハーフノームたちの総督バブルだった。

 あらゆる隊員の中で、もっとも醜いのが特徴だ。片親はノームだが、もう片親は不明だと言われている。


「それでは辻褄があわん。リディオスを運んできた者たちは、リディオスの配下だと名乗っていたはずだ」

「あるいは、戦闘に参加せず、別働隊として動いていた者たちがいたのかもしれません」


 バブルの言葉に、魔王は頷いた。


「ただ……奴らはリディオスを母親であるリルトに届けるため、地上から後宮に入った。もし、リディオスの配下の者たちでなかったとしたら、目的があったのだ」

「全員が女でしたな。陛下の後宮に目的があるとは思えませんが……」

「たわけが。だからこそ怪しいのだ。それに確か……一人性別を持たぬ人族がいたはずだ。うん? 確か、そんな人族が他にもいた気がするぞ」


「現在、罪人庁に一人収監されております」

「同じ奴か?」

「申し訳ございません。妃様たちや主だった侍女たち以外の見分けは、不得手としております」

「……ふむ」


 他の種族にとって、人族は個々の見分けが難しいものだということは、魔王も承知していた。

 純粋な魔物に近いほど、人族は全て同じに見えるのだ。


「シレンサを呼べ」

「はっ。ところで陛下、外に皇后様が来ております」

「承知しておる。用がないのなら、入っても構わんと伝えよ」

「はっ」


 バブルが去ると、入れ違いに皇后デジィが憩休殿の魔王の間に入ってきた。


「『用がないのなら入れ』とは、どういうことですか? 用があるから来ているというのに」

「現在は仕事中なのだ。皇后のたわい無い話を聞くぐらいはできても、難題を持ち込まれると対処している暇はない」


 相変わらず、皇后デジィは輝く肌を光る衣で覆っている。肌そのものが金色をしているので、顔の造形がわかりにくいのは欠点かもしれない。


「私が、陛下を困らせるようなことを持ち込んだことがありましたか?」

「ない。朕が、皇后を遠ざけるような命令をするはずがあるまい」

「つまり、私が用もなくきたのだと、断定したわけですね」

「そういうことだ」


「もう。私だって陛下のお邪魔をするのに、多少の用ぐらいは用意してきますよ」

「ほう。例えば?」

「地上では休まらないから後宮にお降りになったのですから、執務はお辞めになったらいかがです?」


「それを言いにきたのか?」

「いけませんか?」

「深刻な要件を持ち込まれるより厄介ではないか」


 皇后デジィはにたりと笑い、魔王に自分の体を押し付けるようにすり寄った。


「地上では、勇者による被害が相次いでいる。早急に対処しなければならないのだ」

「もうしているではないですか。陛下が従える八軍八将、四魔親王に号令を済ませているというのに、陛下が忙しく働かなければならないほどの相手ですか? 一度は、新参の将軍に退けられたのでしょう?」


 全軍と魔親王たちには、勇者を発見した時の対処を命じてある。

 同じ人族からも追われるように、懸賞金を出すことまで命じたのだ。

 それ以上の命令をしていないのは、魔王にとって現在の勇者が脅威ではないことの表れである。

 特に魔王軍は、勇者を発見したら対処せよと命じられているだけで、積極的に探せとは命じられていない。


「うむ。直に戦えば、潰すのは容易い。少なくとも、今のところはな。だが、勇者が暴れ回れば、軍に所属しない他の魔物たちは狩られるだろう。朕の軍門に下ろうとする者たちに迷いが生じる。この世界に存在を許されたければ朕に下るしかないと、絶望させることが難しくなる」

「トボルソ王国のようにということですか?」


「あの国は、朕に従うためというより、周囲の人族の国から守るためだがな。国を継ぐと目されていた王女を朕に差し出したのだ。結果は同じことだ」

「でも、かの国から勇者は出ました。陛下のお気に入りとは存じますが……あの妃、血祭りにあげてはいかがですか?」


 デジィが魔王の胸に頬を押し当てながら、上目遣いに見上げた。

 後宮にいて、本当の意味で魔王を恐れない唯一の存在が、生粋の魔族であるデジィである。

 魔王は、デジィの輝く滝のような髪を撫で、首を振った。


「もし、勇者とかの人族の王国につながりがあるなら、ブリジアを傷つけてはならん。勇者をおびき出す餌に使えるかもしれん」

「生きてさえいればよろしいでしょう。どうせ、傷ものではありませんか」


 デジィは、魔王が来奇殿で何をしているのかまでは知らない。魔王は、まだブリジア本人とは伽をしていない。

 魔王は、少しだけ緊張した。もし、侍女たち相手に遊んでいることが皇后に知られれば、来奇殿への逢瀬が禁じられるかもしれないのだ。


「殺さぬのであれば、傷つける必要はなかろう。罪なきものを罰しては、後宮は窮屈になろう」

「そうですね」

「陛下、お呼びにより参上いたしました。皇后様にご挨拶を」


 這いつくばるような姿勢で、腰の曲がった魔女シレンサが入ってきた。

 魔王親衛隊第四部隊、魔女と魔法使いたちで構成された部隊の総督である。


「本当に公務のようですから、私はお暇しましょう」

「なんだと思っておったのだ」

「冗談です。公務もほどほどになさいませ。勇者など、魔王軍全軍を動かせば、すぐに片付くのでしょうから」

「それでは、世界が火の海になる。勇者一人のために、世界を滅ぼせるものか」

「それと、リルト公妃の件ですが……」


 リルト公妃は、ブリジアを根拠無く貶めたために外出を禁じられている。


「勇者とブリジアの関係が明確になるまで、今のままだ」


 それは、ブリジアと勇者が何ら関係がなかった場合も含まれる。


「承知いたしました」


 皇后も、本気でリルトを助けるつもりがなかったのだろう。簡単に承諾し、腰を折った。

 デジィが退出すると、跪いたまま、魔女シレンサが滑るように魔王の前に移動した。


「リディオスの容態はどうだ?」

「手足の再生には時間がかかりますでな。純粋な魔物や魔族のようには参りません。ようやく、肉が盛り上がってきたところでございます」


「ああ。再生の件は任せる。すでに話はできる程度には回復しているのだろう。配下の者たちについて、言っておらぬか?」

「リディオス総督配下の第十三部隊は、全滅ではないのですか?」


 魔女シレンサが首を傾げてから、視線を伏せる。魔王の意に沿わなかったのだと理解したのだ。魔王に従う人族と半人族の部隊である第十三部隊だけは、総督が複数いる。全滅した者たちについての情報が必要なのかと、魔女シレンサは不思議に感じたのだ。


「全滅した者たちが、どうしてリディオスの体を運んでこられたのだ?」

「……ゴーストでしょうか? 私は、その場にはおりませんでしたので」

「奴らは、母親に報告するためにと言って、許可を得て後宮に入っておる。後宮になんの用があったのだ?」


「リディオス様のご母堂に報告するためでしょう」

「本物の配下であればそれでよい。だが、全滅しているのならば話は変わってくる」

「現在、その者たちはどうしているのでしょうか?」

「すでに後宮は出ている。一度見失えば、人族たちの見分けなどできるはずがない」


 妃たちは別だ。魔王が見分けられるように、妃には特別なマーキングをしてあるのだ。


「そいつらの目的や居場所を占うことはできますが、占いは所詮不確かなものですので」


 魔女シレンサが水晶玉を取り出した時、シレンサと共に魔王の間に戻っていながら視界に入らないよう控えていた、魔王親衛隊第二部隊の総督バブルが進み出た。姿勢は這いつくばったままである。

 魔王の視界に入らないように部屋の隅に控えるのは、おのれの外見が不快を催すほど醜いことを承知しているためだ。


「どうした?」

「罪人庁の役人が羽振り良く酒を飲んでいましたので、問いただしたところ、ブリジア傑女様に施しを受けたそうです」


「ああ。ブリジアには、罪人庁に珍しい人族がいるから、気が向いたら見物に行くように言ってあったのだ。そなたの配下であればハーフノームだろう。人族からは醜い容姿だという話だが、ブリジアに気に入られたのか?」

「陛下、そのハーフノームは、性別を持たない人族のところに、傑女様をご案内したそうです」

「後宮に入り込んだ人族の一人と特徴が同じです」


 魔女シレンサも報告を受けていたのだろう、バブルに口添えした。


「……そうか。朕が勧めたことだ。見に行ったのは何ら不思議ではないが……ハーフノームに施したというのが解せんな」


 魔王が吐き出すように口にした時、今度は魔王親衛隊第一部隊の総督ガギョクが姿を見せた。


「陛下、ブリジア傑女がお見えです」

「わかった。通せ。シレンサ、下がれ」

「はい」


 魔女シレンサが忽然と消えたところで、人族にしても小さな体をした、紫色の豊かな髪を波打たせた子どもが入ってきた。


「ブリジア、よく来た」


 魔王が微笑む。


「魔王様に、申し上げたいことがあって参りました」


 ブリジアが膝をついた。


「よかろう。立て」

「ありがとうございます」


 いつものように可愛らしく微笑むのではなく、ブリジアは挑むように魔王を見据えた。

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