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魔王の嫁でございます ~僅か8歳で魔王の後宮に入内した元王女ブリジア妃の数奇な人生~  作者: 西玉
第1章 魔王の嫁でごさいまちゅ

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15 魔王来訪 ブリジアの対応

 〜来奇殿〜


 ブリジア俗女の前に、九つの髪留めが並んでいた。

 いずれも同じ意匠である。


「ようやくできたわね。さすがドロシー貴女の侍女たちだわ。いい仕事をするわね」


 並べられた髪留めを前に、ブリジアは大きく頷いていた。

 同じく来奇殿に住むドロシーはドワーフ族で、侍女たちもドワーフ族の女たちである。

 鍛治仕事を得意とし、髭がある。

 作成してもらったのは、八つの髪留めだ。


「魔法の髪留めをこんなに、どうするのですか?」


 髪留めがもたらされた理由を知るのは、侍女の中でもレガモンだけだ。

 ブリジアのお使いでドロシーのところから戻ってきたテティは、事情を知らずに尋ねた。


「もちろん、みんなで使うのよ。さあ、全員に配って頂戴」

「お揃いの制服のようなものですか?」

「そう。連帯感って大切よ」

「わかりました。では、配ってまいります。ブリジア様はどうします?」

「もちろん、つけるわよ」


 ブリジアが髪留めに手を伸ばすと、テティがブリジアの髪につけてくれた。


「では、配ってまいります」

「お願いね」


 テティが髪留めを乗せた盆を掲げて出て行くと、入れ替わりに侍女のクリスが姿を見せた。


「ブリジア様、魔王様がお見えになっています」

「コマニャス様は?」


 魔王が宮殿に来る場合、各宮殿の主人が対応するのが規則である。

 ブリジアも、最近その規則を理解したところだ。


「必要ない」


 クリスの背後に、魔王の巨大な姿が現れた。

 魔王は巨大である。地下後宮にいるときは、妃たちと同程度に体の寸法を変えているのだ。特に、夜伽の時は妃と同族のサイズにまで変化する。


「ひっ……あ、魔王様、ご挨拶を」


 ブリジア俗女が慌てて膝をつく。目上の者には、無手であることと心臓を示す礼をとる。だが、魔王に対してだけは例外で、魔王の意に従うことを示すため、両手を体に推し打てて頭を下げる。


「立て。礼は不要である」

「感謝いたしまちゅ」


 初日に言い間違えたブリジアに大笑したことから、魔王の前では定期的に言葉を変えることにしていた。

 魔王が部屋に入ってくる。巨大なままでは、扉をくぐれない。魔王は、頭を下げずに部屋に入れるぎりぎりのサイズに縮小した。

 ブリジアの言葉遣いを気にかける素振りもなく、まじめな表情で魔王は尋ねた。


「ある者から訴えがあった。ブリジア……そなたは勇者と関係があるのか?」


 魔王はブリジアの部屋を大股で横切り、奥の寝台に腰掛けながら尋ねた。

 誰の部屋であれ、関係はない。魔王を前に、プライバシーなどは意味をなさない。


「勇者ですか? デジィ皇后様から伺ったことがあります。勇者と関係があることがわかれば、死罪とか。ですが、私は勇者を知りません。勇者とは、なんでございまちゅか?」


 ブリジアは首を傾げた。知っている。勇者のことを、知っていてはならないことは知っている。


「この世界で唯一、魔王である朕を殺すことができるとされている者だ」

「魔王様を……そんなことができるなら、勇者とは魔族なのでしょう。私に関わりがあるとは思えませんが」

「勇者は、人族にしか現れない」

「……どうしてでしょうか? 人族に、魔王様を殺せることができるとは思えません。ねぇ?」


 ブリジアが話を振ると、クリスが頷いた。


「人族の男が何人束になろうと、魔王様に敵うはずがございません」

「そうだな。通常なら、それが当然だ。だが、人族を守護する女神なる存在がいる。女神だけが、他の世界から勇者となるべき者を転移させることができるそうだ。だから、勇者は全て人族なのだ」

「なるほど。でも人族であれば、後宮の妃の半分は人族だと伺っておりまちゅが」


「そうだな。勇者の出現を妃のせいにしては、後宮の半分の妃を殺さなければならなくなる。だが、これだけは言っておく。そなたの願いで、朕がトボルソ王国に派遣した朕の私兵である親衛隊の者が殺された。朕の庇護を願いながら勇者に加担することは、朕に対する最大の侮辱である」

「はい。承知いたしましゅた」


 ブリジアは最後に素で舌を噛みながら、深く頭を下げた。


 ※


 魔王は言うだけ言うと、ブリジアの寝室を出ようとした。


「陛下、お待ちください」

「何用か?」


 ブリジアは、魔王の背中に向かって呼びかけた。

 魔王も振り向かずに応じる。


「陛下、お休みになっていかれませんか?」

「朕を引き止めようというのか?」

「はい」


「ふんっ……皇后以外では珍しいことだな。どの妃も、朕の伽を求めながらも、やはり朕を恐れている。当然だ。朕が怒れば、宮殿ごと吹き飛ぶことも珍しくない。デジィは別だ。あれは、朕が殺そうと思っても簡単には死なん」

「ブリジア様、陛下のおっしゃる通りですよ」


 ブリジアは、背後から服を摘むクリスの声を聞いた。

 だが、続けた。


「陛下は、長らく後宮にもおいでにならなかったと伺っております。陛下が疲れることなどないと承知しておりますが、気分転換は必要ではございませんか? このまま陛下を帰しては、妃の端くれとして名折れでございまちゅ」

「ふむ……そうだな。たまには、よかろう」


 魔王は振り向いた。歩み寄り、ブリジアの手をとった。


「えっ? 陛下?」

「誘ったのはそなただぞ」


 抱き上げ、軽々と荷物のように腕に抱いた。


「お、お待ちください。わ、私はまだ、子を為せません」

「承知しておる」

「き、規則違反ではございませんか」


 言いながら、ブリジアは自分の寝台に横たえられた。

 ブリジアを組み敷くかのように、魔王が上にいる。


「規則とは、朕が作るものだ。当然、変えるのも朕である」

「……陛下……」

「どうした? やはり、恐ろしいだろう?」

「お望みであれば……抵抗はいたしまちぇん」


 ブリジアは、体を強張らせながら硬く目を瞑った。


「冗談だ」


 硬く目を閉ざしたブリジアの頬が、優しく叩かれる。

 ブリジアが目を開けると、魔王が体を起こし、寝台に腰掛けていた。


「魔王様、よろしいのですか?」


 ブリジアも体を起こし、四つん這いでよちよちと、腰掛ける魔王に近づいた。

 魔王が口を開く。


「規則とは、それがなければ面倒なことになるから定めたのだ。簡単には変えられん。規則が簡単に変えられると思われると、規則の意味もなくなる」

「陛下の治世が長いわけですね」

「感心したか?」

「私のような小娘に感心されて、嬉しいですか?」


 ブリジアが尋ねると、魔王は口元を綻ばせた。


「おう。朕のように長く生きると、何ができても当然のこととなる。褒められることもなくなるというものだ。嬉しいぞ。小娘であれば、裏表もあるまいからな」

「私のことを裏表がない小娘だと思うなら、脅かさないでください。魔王様がお怒りのままお出でになると……デジィ様のことを思い出してしまいます」

「そうか」


 皇后デジィに脅され、失禁したことをブリジアは自ら口にした。

 魔王は声に出して笑い、ブリジアの頭を撫でた。


「侍女たちを集めよ。寝台を借りるぞ」

「御意に」

「朕を恐れなかった褒美に、そなたを傑女に封ずる」


 傑女とは、ブリジアが現在封じられている俗女の一つ上の階級である。


「魔王陛下に感謝を申し上げます」

「うむ。褒美を取らせたいが、王女だったそなたに何を贈ればよいかわからぬ。そう言えば、男とも女ともわからぬ、変わった人族を確保した。監禁しているが、傑女に封じた祝いに、見物を許そう。地下後宮の罪人庁におる。気が向いたら見てくるがいい」

「魔王陛下のご寵愛に感謝を」


 ブリジアが言うと、魔王が鷹揚に手を振った。


 侍女たちを集めるため、ブリジアは自分の寝室を出た。

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