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魔王の嫁でございます ~僅か8歳で魔王の後宮に入内した元王女ブリジア妃の数奇な人生~  作者: 西玉
第1章 魔王の嫁でごさいまちゅ

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10 魔王親衛隊第一三部隊

 〜魔王城〜


 魔王は、コマニャスの子である公子ディオレルの報告により来奇殿のブリジアの外出禁止を解いた後も、ブリジアのところを訪れていなかった。

 より正確には、地下後宮自体に足を踏み入れていなかった。

 勇者出現はそれほど重視すべき問題であり、勇者への対応にほとんどの時間をとられていた。


「陛下、少し休まれてはいかがでしょう。もちろん、陛下に休息が必要ないことは存じておりますが、目端を変えることで違う見方も出てくるかもしれません」


 這いつくばったような姿勢で、魔王親衛隊第四部隊の総督魔女シレンサが申し出た。


「そうもいかん。勇者の足取りさえ掴めないとは……第一三部隊は何をしておるのだ」

「親衛隊だけでは人数が足りません。魔王軍本隊を動かしてはいかがでしょう」


 魔王の命令で、シレンサは魔王城周辺の地図を壁に投射し続けている。疲労も溜まっているのだろう。

 魔王の前にいるのは、魔女シレンサの他には、常に仕えている第一部隊総督のガギョクと第二部隊総督のバブルがいるだけだ。ただし、床下ではベルジュが寝ている。


「軍は動かせん。勇者が居るとすれば、まず人族の街だ。我が軍を人族の領土に派遣すれば、その地の人族は滅びるだろう。世界のどこにいるかもわからない勇者をいぶり出すために軍を動かせば、朕が世界を滅ぼすことになりかねん」


 魔王は、世界を滅ぼしかねない力を持つ強大な力と権力を持つ魔物に、自分に従う軍を率いて攻撃を仕掛け、滅ぼしてきた。

 敵対する魔物を滅ぼした土地には、復活を防ぐために自らの血縁を魔親王として封じ、魔親王国を設立させてきた。


 その大部分は、環境が過酷すぎて人族や亜人たちは生活できない地域である。

 魔王ジランにとって、人族とはこの世界を構成する一部族であり、敵視すべき存在ではないのだ。

 魔王が深く玉座に座り直したところで、部屋の端で控えていたガギョクが近づいてきた。

 ホムンクルスであり、見た目は人族と変わらないが、怪我をしても血が出ず、性別もない。


「第一三部隊の総督が帰還しました」

「ここにか?」

「はっ」

「珍しいな。通せ」

「はっ」


 ガギョクは応えると、柏手を打った。

 魔王親衛隊第一三部隊は、魔王配下では珍しい人族の部隊である。

 ただし、総督は魔王の息子であり、リルト公妃が産んだリディオス公子である。

 公子とは、魔王の子どものうち自ら魔王城に到達することができない者を指す。


 リディオスはほぼ人族の特徴を持つ少年で、皮膚に生まれつき模様がある以外、見た目は人族と変わらない。

 まだ16歳と若いが、魔王から受け継いだ身体能力と強い魔力で総督を任せられている。

 だが、魔王城に直接参上したことはない。魔王城は、標高20000メートルを越える山脈地帯の頂にあり、その厳しい自然環境が生物の生存を許さない。


 魔王の子どもたちの中でも、魔族の影響が強く出た頑丈な肉体の持ち主しか魔王城には至れない。

 リディオスが参上したと聞いた魔王が驚いたのはそのためであり、まず柏手を打ったガギョクに驚いた。

 魔王の子どもたちは、一定年齢に達すると麓の亜人の集落から魔王城を目指すことを求められる。


 その結果、到達できた者は王子と呼ばれ、将来は魔王軍や魔親王に封じられる。到達できない者は到達できるまで、魔王親衛隊などの雑用に就かされるのだ。

 魔王が声を発する前に、ガギョク配下のホムンクルスたちが担架を運んできた。

 ホムンクルスたちは魔王城の錬金術師たちによって生産され、主に後宮で働いているが、魔王には見慣れた存在である。

 問題は、担架で運ばれてきたリディオスだった。


「帰還したと言ったのではないか」

「はっ。この通りでございます」


 ホムンクルスたちが、担架を床に下ろす。

 担架に乗せられてきたのが間違いなくリディオスだと、魔王には断言できなかった。

 まず、四肢がない。2本ずつあったはずの腕と足が、全て肩と太ももで切り落とされていた。


 全身が黒く、焼死体を思わせる。

 顔も原型をとどめていない。

 確かに、ガギョクは『帰還した』と言った。無事だとは言っていない。


「この状況で、魔王城でなくとも一人では戻れまい。配下の人族たちはどうしたのだ?」

「何名か控えております。リディオス様の体を、3人で運んでいる時に、手紙配達の『影走り』が発見し、連れてきました」

「リディオスは生きているのか? シレンサ、確認せよ」

「失礼を」


 魔女シレンサが覗き込む。近くで見るとイボとシワだらけのシレンサの顔が押し付けられるように近づいても、焼け焦げた公子は身動きもしなかった。


「どうだ?」

「心の臓が動いております。微かに息もされています。手足を切られただけであれば死んでいたかもしれませんが、傷口を焼いたのは、延命処置やもしれません」

「人族らしい乱暴な処置だな」

「陛下、第一三部隊の生存者が参りました」


 ガギョクが平伏して告げる。


「そいつらは、自分で歩けるのだな?」

「そのはずです」

「通せ」

「はっ」


 ガギョクが下がると、入れ違いに武装した人族の兵士たちが入ってきた。

 確かに自分で歩いているが、顔色が悪く、全員が苦しそうに胸元を抑えている。

 運んできたのは3人だと言っていたが、人族の数は8人に及んだ。

 リディオスは意識がないままホムンクルスたちに運び出され、魔女が付き添った。


 8人の人族は、魔王を前にひざまずいた。ひざまずくことが出来ずに倒れた者もいたが、他の人族が無理に姿勢を正した。

 全員の体調が悪いのは、魔王城では珍しいことではない。人族が長時間滞在できる高さではないのだ。

 魔物に運ばれなければ、誰一人として魔王城に辿りつけなかっただろう。長時間の滞在は、それだけで命を落とすことになる。

 魔王は立つことを許さず、人族たちに尋ねた。


「リディオス総督の怪我は、勇者によるものか?」

「はい。その通りでございます、陛下」

「貴様らは何をしていた? なぜ殺されなかった?」

「命乞いをいたしました」

「恥知らずが!」


 魔王が机を叩く。魔王の手形が、鋼鉄で作られた机にくっきりと残る。


「お静まりを」


 控えていたガギョクが恐れて這いつくばる。人族たちもひれ伏していた。


「では、勇者の位置は?」

「おそらく、魔王城の近くまでは来ているはずです」


 魔王は再び机を叩いた。今度は拳で殴りつけた。鋼鉄の机に亀裂が走る。


「ガギョク」

「はっ」

「親衛隊の全軍に、城内の捜索を命じる。勇者を打ち取ったものには褒賞を取らせる。それと、朕の鎧を用意せよ」


「はっ。それと、リディオス公子の容態を、老練殿のリルト公妃にお伝えなければなりませんが」

「朕は行けぬ。それどころではない。ガギョク」

「恐れながら、申し上げたき議がございます」


 ホムンクルスが応える前に、ひれ伏していた人族たちが口を挟んだ。声が震えているのは、空気が薄いためだけではない。魔王に意見することを恐れているのだ。


「申せ」

「はっ。総督であるリディオス様をお守りできなかった我らですが、リディオス様の勇猛ぶりを母君にお伝えすることを約束いたしました。なにとぞ、我らにお命じください」


 魔王は顔をしかめた。魔王親衛隊の一員だ。言っていることが真実であれば、拒否する理由もない。顔をしかめたのは、命じようとしていたことを遮られたからだ。ガギョクがさらに口を挟むが、人族たちを庇うためだった。


「老練殿の皆様は、亜人は別にして、魔物を嫌っているようです。従者も人族の侍女に限っているようですので、私が行くよりは慰めになることでしょう」


 まるでガギョクが、老練殿で嫌われたことがあるかのようだ。

 結局のところ、魔王にとっては些事に過ぎない。


「よかろう。だが、人族の男を地下後宮には入れられぬ。人族ほど、何をしでかすかわからぬ種族はいないのでな」

「ご安心ください。私たちのうち、3人は女です」

「ガギョク、確認しろ」

「よろしいのですか?」


 全員が戦闘用の武装をしている。女であることを確認するというのは、服を脱がさなければできないのだ。


「構わぬな? ガギョクは魔物で、性別はない」

「構いません。それと……私も半分は男ですが、男ではありません」


 人族たちの中央にいた逞しい青年が言った。


「どういう意味だ?」

「ご確認いただければわかります」

「ガギョク」

「承知いたしました」


 ホムルクルスが応じた。

 人族たちの中央で話していた青年は、人族が種族を増やすのに必要な器官を戦闘で失っていたことが判明し、地下後宮に入ることが許された。

 もちろん、許されたのは老練殿のリルトに報告するのに必要な時間だけである。


 魔王は人族の配下に2時間を与えた。

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