第9話 過去を未来に
エミリアは王女にかかっている毛布をどかす。
「では、始めます」
「頼む」
「まずは、王女様にかかっている魔法を取り除きます」
第三者の魔法が介入している状態では、エミリアの魔法がうまく発動しない場合がある。
《力よ無に帰せ》
介入していた魔法が消え去ったのを確認する。
「凄いな。仮にも宮廷魔術師の魔法だぞ」
エミリアのやったことに陛下が驚きの表情を浮かべる。
「驚くのはまだ早いと思いますよ」
《エミリア・メディの名を持って命じる。我が理に従うのであれば、遡れ》
詠唱を終えると、魔法陣が王女様の上に浮かぶ。
そして、徐々に悪魔の筋書きの呪いの魔法陣の色が薄くなってきている。
数分後、王女様にあった呪いの魔法陣は完全に消え去った。
「終わりました。これで、もう大丈夫……」
エミリアはその場に倒れ込んだ。
「エミリアさん!! 大丈夫ですか!」
サルヴァ殿下に支えられているようだ。
ただ、その声は徐々に遠くなっていく。
そして、完全に意識を手放した。
♢
どのくらい寝ていたのだろうか。
エミリアはベッドの上で目を覚ました。
窓の外は暗闇に染まっている。
「よかった。お目覚めになられたのですね。今、陛下たちをお呼びしますから」
従者がそう言って部屋を出る。
その数分後、陛下とサルヴァ殿下が部屋にやって来た。
「大丈夫か?」
「どうやら、マナ欠乏症になってしまったようですね。今は大丈夫です」
一気に高出力の魔法を使った時に起きる症状だ。
体内のマナが限りなく低くなったのだろう。
「それならよかった。全く、無理をするものだ」
「リタ王女は……?」
「それも大丈夫だよ。今は眠っているが、呪いは無くなったよ」
「よかった……」
どうやら、エミリアの魔法は成功したらしい。
「一体、君は何をやったのかね? 説明してほしい」
「はい、リタ王女の時間を巻き戻しました。呪いを受ける以前まで」
あの魔法は、時間を術者の指定した時間まで巻き戻せるという特別な魔法。
戻す時間が長ければ長いほど、消費する魔力の量も増える。
「な、何! そんなことが出来るというのか!?」
「ええ、私の固有魔法なので他の者には使えないと思いますが」
固有魔法はオリジナル魔法とも言われて、全く同じ魔法を使える者は存在しないと言われている。
「では、本当にリタの呪いは解除されたのか!?」
「まだ経過観察をする必要はあるかと思いますが、とりあえずは安心していいと思いますよ」
「ありがとう! 本当にありがとう!」
陛下は涙を流す。
「私の命だけでなく娘の命まで……なんと礼を言えばいいのか」
「医師として当然のことをしたまでです」
「今日はゆっくり休んでくれ。後日、褒賞を与えよう」
陛下はエミリアの体調を気遣ってくれてその場を後にした。
サルヴァ殿下だけが残る。
「どうしました?」
「もう、あんな無茶はしないでください。マナ欠乏症になるほどの魔法を使うなんて」
「すみません」
「前に言いましたよね。あなたは、これから沢山の命を救う人なのだからあなたが死んではいけないと」
サルヴァは真剣な表情を浮かべている。
これじゃ、普通の女の子なら落ちるなという方が無理だろう。
「でも、あなたが無事でよかった……」
その言葉は震えていた。
この王太子、一体何を背負っているのだろうか。