第31話 白銀病
白銀病、それは不治の病とも言われた難病である。
発症した者のほとんとが重篤化して、死亡する。
運よく完治したとしても後遺症が残る。
視神経をやられて失明する場合が最も多い。
しかし、これにエミリアは助かる希望を見出していた。
白銀病の症状は、リンパの腫れに高熱、口内に無数の口内炎ができるというもの。
効果的治療は無いと言われており、患者本人の免疫による治癒に委ねるしかなかった。
ただ、この病には効果的な薬を発見した。
そう、抗生物質だ。
エミリアの研究が正しければ、抗生物質が白銀病にも効くはずである。
「これでよし」
白銀病の効果薬についてのレポートをまとめると、宮廷を出る。
その足で薬師協会へと向かった。
「エミリア・メディと申しますが、協会長はいらっしゃいますか?」
「は、はい! すぐに確認します」
受付嬢が慌てた様子で対応してくれた。
「協会長がお会いになるとのことですので、こちらへ」
応接間へと通された。
「お待たせしました」
数分後、協会長が入って来た。
「いえ、こちらこそ突然すみません」
「いやいや、構わんよ。それにしても、エミリアさんが考案した解毒剤は素晴らしかったです。今日はどうしました?」
「実は、少し相談したいことがありまして」
薬の事は専門家の意見も取り入れておきたい。
「相談ですか?」
「白銀病に効く薬を考えておりまして、こちらを見ていただけますか?」
エミリアはレポートを協会長に渡した。
「拝見します」
メガネをかけた協会長がレポートに目を通していく。
「どうでしょうか?」
「確かに、抗生物質は効果的かもしれませんな。逆になんで今まで誰も気づかなかったのか……」
「では、私の研究に協力してくれませんか?」
白銀病の効果薬ができたら、今まで取りこぼしていた多くの命が救える。
薬師協会の協力を得られたら、研究は大きく進む事だろう。
「もちろんです。苦しんでいる人を薬で救うのが、我々薬師の仕事ですから」
「ありがとうございます。これで研究が一気に進みますよ」
今後、薬師協会と共同研究すれば実用まで最短で持っていくことができる。
「では、私は論文を発表する準備をしますので治験データを集めてもらってもいいですか?」
「分かりました」
「論文は協会長の名前と連名にしますので」
ここまで今日力してくれたのだ。
名前を出さないわけにはいかない。
「お願いがあります。名前は私個人のものじゃなく、薬師協会の名前にして頂けないでしょうか?」
「いいんですか?」
「私は、地位や名誉が欲しいわけではありません。現場で頑張っている薬師たちのおかげで今がありますから」
人格者だと思う。
こういう誠実な男だから、現場の薬師たちもついてくるのだろう。
「分かりました。引き続きお願いします」