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第3話 隣国マルディン

 サルヴァ王太子が訪ねて来た翌日。

エミリアは隣国へ行く準備を整えていた。


 医師として必要な道具や薬、ポーションなど、状況に応じて様々な薬を処方できるように用意した。


 そして、屋敷の庭に王太子様の馬車が迎えに来た。


「エミリア様、お待たせしました。荷物は先に積ませてもらいます」


 従者によって、エミリアの荷物が馬車に積み込まれていった。


「では、参りましょう」

「はい、父上行って参ります」

「エミリア様をお預かり致します」

「気をつけてな。不束な娘だが、よろしく頼む」


 そう言って、父は頭を下げた。


「お父様、大げさですよ。またすぐに帰ってきますから」

「ああ、行ってらっしゃい」


 父に見送られて、エミリアは馬車へと乗り込んだ。

御者が馬に鞭を入れると、馬車はゆっくりと進み始める。

 

 やがて、地面を踏む蹄鉄の音が規則正しく聞こえてくる。

ここから、約1週間は馬車の旅である。


「まだ、先は長いですから、気を楽にしていてください」

「ありがとうございます」


 流石は、王家の馬車である。

クッションがふかふかでとても乗り心地がいい。

これなら、長距離移動でも腰が痛くならずに済みそうだ。


「先日説明しましたが、僕と弟が今は父の代理を務めています。エミリア様にには、僕の権限で父上の容態を見てもらおうと思っています」

 

 宮廷医師は、その国の国王しか任命することを許されていない。

なので、いくら代理でも宮廷医師に任命することはできないのだ。


「わかりました」

「宮廷の医師たちは何か言ってくるかも知れませんが、気にしないでください。あいつらは信用できない」


 セカンドオピニオンといったところか。

手持ちの薬で治すことができればいいのだが、それが無理なら新たに調剤する必要があるだろう。


「何か言われても僕は必ずエミリア様の味方です。あいつらを黙らせる方法は考えてありますからご安心を」

「ありがとうございます」


 そして、一週間の旅が終了しようとしていた。


「エミリア様、王都に到着しますよ」


 サルヴァが声をかけてくれる。


「すぐにでも、マルディン王の容態を診たいですね」

「お疲れの所申し訳ない」

「気にしないでください。苦しんでいる人がいたら全力で助けるのが医師の仕事です」


 道中に聞いたマルディン王の容態から察するに、もはや一刻の猶予もない。

すぐに瀉血を辞めさせなければ危険だ。


 馬車は王都を抜けていき、王宮の前で停車する。


「お疲れさまでした」

「ありがとうございます」


 エミリアは馬車を降りる。

そこには、サルヴァと同じ金髪を肩の位置まで伸ばした中性的な顔立ちをした男性が従者を連れて立っていた。


「遠い所からお越し頂きありがとうございます。グレン・マルディンと申します」


 そう言って軽く頭を下げた。


「私の弟です」

「兄上が無理なお願いをしたようなのに、快く引き受けてくださり感謝いたします」


 どうりでマルディンと似ている訳である。


「長旅でお疲れの所申し訳ございませんが、父上の容態を診て頂けますか?」

 

 グレンは改めて頭を下げた。


「もちろんです」


 私はサルヴァとグレンと共に王宮の中に入って行く。


「こちらです」


 王宮の中をしばらく歩き、豪華に装飾された扉を開く。

そこには、ベッドに横たわったマルディン王が居た。

そのすぐ横には王宮医が二人ついている。


「二人は今すぐ退出してください。今後の治療は彼女に一任します。宮廷医の立ち入りは今後一切禁止とします」


 サルヴァが言い放った。


「しかし、陛下には我々には必要なのです! そんなどこの馬の骨かも分からん女なんかに!」


 医師は反抗的であった。


「彼女は私とグレンの権限において特別臨時宮廷医師として来て頂きました」

「なんだと……」


 特別臨時宮廷医師は、正式な宮廷医師では無いので、国王の代理なら任命することができる。

しかし、宮廷医師と同等の権限を得ることができるのだ。


「父上は素人目でも酷くなっいるではないか。ここは彼女に治療を任せる。命令です」

「承知しました……」


 宮廷医たちは苦虫を噛み潰すような表情を浮かべながら、退出した。


「エミリア様、お願いします」

「はい、分かりました」


 エミリアは陛下のもとへと近づいた。


「想像以上に酷いですね……」


 腕には何回も行われたであろう瀉血の跡があった。

ろくに食事も取れていないのだろう。

頬は痩せこけ、呼吸も薄くなっている。


「このままでは衰弱死してしまいますね」


 私は鞄を開ける。

まずは、瀉血で傷ついた腕の治療である。

綺麗に消毒した後、薬を塗って包帯を巻く。


「お香は消してください」

「分かりました」


 お香を消して窓を開けて換気する。


「食事は消化に良い粥に変え、水分をいつもより多く取って下さい」


 私は陛下の従者へと伝える。


「私は、薬を調合したいのですが」

「部屋を用意してあります。ご案内します」


 サルヴァが王宮内にあらかじめ部屋を用意してくれていた。


「ここにある物は好きに使って頂いて構いません。何か足りないものがあったら言ってください。準備します」

「助かります」


 私に用意された部屋には調薬に必要な物が全て揃っていた。


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