第25話 親愛なる民よ
医師、ブラット・メディにサルヴァは命を救われた。
しかし、それはサルヴァが物心つく前の話で実際にはよく覚えていない。
うっすらと覚えているのは、優しいおじいさんの影と掛けられた言葉。
『治すよ。君の未来』というものだけだった。
父が病に倒れ、もう長くないのではないかと悟った。
その時、真っ先に思い浮かべたのはブラット氏だった。
だが、帝国の医師記録を見たらブラットは4年前に他界していた。
サルヴァは絶望に近い感情を抱いた。
もしかしたら、あの医師なら父を治せるのではないかと思った。
自分には父の代わりは務まらない。
まだ、父に教わりたいことは山ほどあった。
「覚悟だけは決めておいてください」
宮廷の医師にそう言われた時、涙を流した。
そんな時、希望の光が舞い込んだ。
宰相が隣国の医師が書いた論文を持ってきたのだ。
製作者の家名には、よく見たものが書かれていた。
エミリア・メディ。
噂には聞いたことがあった。
初代医術局の局長を務めたブラット氏の孫娘で、史上最年少で医師国家試験に合格した天才がいると。
この人にかけてみたいと思った。
信じてみたいと思った。
父の治療を頼んだら、快く引き受けてくれた。
そして、宮廷医師ですら匙を投げた病を二週間で完治させてしまった。
父にかけたエミリアの言葉は聞き覚えがあるものだった。
「治しますよ。あなたの未来」
本当に存在したんだ。
その時、サルヴァはブラット氏の生写しだと思った。
しかし、それは違った。
彼女は、彼女なりの医師の道を突き進んでいる。
根底にはあるのは、ブラット氏の教えだがそこから彼女は自分なりの生き方を見つけたのだ。
勇者に選ばれたと知った時、怖かった。
また、誰かが自分の目の前で命を落とすのが。
だから、1人で抱え込もうとしていた。
そんな事も彼女に見抜かれてしまった。
「私は、殿下の側から居なくなったりしませんから」
その言葉に救われた。
この人は一体どこまで見えているのだろうか。
そこ知れない彼女の力を感じていた。
「誰も死なせない」
そこには、医師としての責任と誇りを感じた。
でも、実際に邪神復活が近づくにつれ不安はいっぱいになってしまう。
先代勇者はマナ欠乏症で命を落とした。
まだ、23歳という若さでだ。
サルヴァは勇者のことをよく知っている。
また、失うのは怖い。
どんな生き方をして、なんで一緒に戦ってくれたのかを知っている。
そんな人を失うのは怖い。
「殿下は殿下なりの勇者になればいいのです」
そう言って手を取ってくれた。
とても暖かく感じた。
サルヴァは決めた。
自分は先代勇者が愛したこの国と民を命が尽きるまで守り続ける。
“民の為の勇者“になろうと。
最近はよく聞かれることがある。
なぜ、エミリアを宮廷医にしたのか、なぜ彼女をそこまで支援するのか。
そう聞かれた時、こう答えるようにしている。
「返しきれないほどの恩があるから」
【作者からのお願い】
『面白い』『続きが気になる』という方は☆☆☆☆☆での評価やブクマへの登録をお願いします。
皆さんの応援がこの作品の力になります!!
執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。




