第24話 愛しき勇者に捧ぐ涙
あれから四日で魔物の討伐部隊が編成された。
エミリアも、医療チームの編成を行なっていた。
他の宮廷医師や戦場での救命を専門とする軍医にも声をかけた。
その甲斐あって、医療チームは十分なほどに確保できた。
「これで、なんとかなりそうですね」
魔獣討伐を翌日に控えた夜、王宮の庭を散歩していると人影が見えた。
「誰でしょう」
この時間に人が居ることの方が珍しい。
気になったエミリアは、その人影に近づいていく。
それは予想外の人物だった。
「お一人ですか? 殿下」
「ああ、エミリアさんか」
「寝れないんですか? もう遅い時間ですが」
「まあな」
まだこの時間は肌寒い風が頬を伝う。
「エミリアさんは、怖く無いのか?」
「そうですね。怖いですよ。でも、目の前で人が亡くなるのはもっと怖い」
「強いんだな。かつての勇者もそうだった」
そう言って、サルヴァは涙を流す。
「情けないよな。王太子がこんな様で」
「いいえ。それだけ、あなたにとって大切な人だったのでしょう」
エミリアはサルヴァの手を取った。
「幼馴染だったんだ。勇者エリッサ、とても勇敢な女性だった」
「聞いたことがあります。とても多くの人の命を救った方ですから」
医師と勇者、職業は違えど根本にあるものは同じだろう。
誰かの未来を救いたい。
「正直、私は怖い。彼女の代わりになれるのか」
「エリッサさんと同じことをしなくてもいいのです。殿下は殿下なりの勇者の道を歩めば」
正直、周囲は強い力を持つというだけで期待する。
エミリアも、ブラットの孫ということで期待され注目されてきた。
「私も、お祖父様の代わりにはなれませんでしたから」
「強いんだな君は」
「最初から強い人間なんていませんよ。悩んで足掻いて、戻って、進んで、そうやって人は強くなるんです」
「そうか。ありがとう」
サルヴァは立ち上がった。
「俺なりの勇者か。できるかな」
「できますよ。私も私なりの医者の道を歩んできたつもりですから」
「情けない所見せてすまない」
涙を拭い、まっすぐな目をしたサルヴァがそこにはいた。
「いえ、気にしないでください。それで、魔物が強くなっているということは、もしかして」
「ああ、邪神復活はもうすぐということだろう」
「そう、ですよね」
まだ、確定ではなかった。
しかし、魔物が活性化して強くなっているということは邪神の復活が確定したと言っていい。
「エミリアさん、力を貸してください」
「もちろんですよ。この国を一緒に守りましょう」
誇りを持たない者には誰もついて来ない。
サルヴ・マルディンは今、勇者の誇りを胸に宿した。