第21話 薬師協会
エミリアは、陛下からもらった紹介状を手に薬師協会へと向かった。
協会は王都の中心部にあり、中に入ると視線がエミリアに集中する。
この白衣は左腕の位置に王家の家紋が刺繍されている。
宮廷医である証でもあるのだ。
「国王陛下のご紹介で参りました。協会長とお会いしたいのですが」
紹介状を受付嬢に見せる。
「伺っております。応接室へご案内いたします」
エミリアは応接室へと通された。
「こちらでお待ちください。間も無く、協会長が参ります」
出されたお茶を飲みながら、協会長を待つ。
数分後、再び応接室の扉が開かれ、初老の男がと青年が入ってくる。
「筆頭宮廷医殿をお待たせして申し訳ない」
「いえ、こちらこそ突然の訪問にご対応い頂き感謝します」
「どうぞおかけください」
その言葉でエミリアは再びソファーに腰を下ろす。
そして、初老の男が対面のソファーに座る。
「薬師協会長を任されております。オリバー・バートランと申します。こいつは、秘書のエドリックです」
「エドリックと申します。以後、お見知り置きを」
「エミリア・メディです。この度、筆頭宮廷医師に就任いたしました」
「存じ上げておりますよ。陛下の命を救ったこの国の英雄にして、最強の名医の遺志を継ぐ者」
最近、どこに行っても祖父の話が出るきがする。
それだけ、ブラット・メディが残した功績は大きいのだろう。
「そんな大層なものではありませんよ」
「ご謙遜を。水銀中毒の解毒剤ではお力添え頂きありがとうございました。それで、今日はあの悪魔の薬の件ですかな?」
「ええ、その通りです」
薬師協会や世間では、悪魔の薬と形容しているらしい。
「全く、面目ございません。まさか、使い方を誤ると毒になるとは」
「起こってしまったことは仕方ありません。問題はどう対策するかです」
「現在、協会としても解毒剤の開発を進めておりますが、完成には至っておらず……」
新薬というのは、一朝一夕でできるものではない。
安全性を確かめるにも時間がかかるだろう。
「私なりに考えてみたのですが、これが解毒剤になりませんか?」
エミリアは解毒剤のレシピを机の上に置いた。
「これは……!?」
そのレシピを見て協会長は目を見開いた。
「何か問題がありましたか?」
「いえ、滅相もございません。そうか、この手がありましたか……」
まじまじとレシピを見て、感心した声を上げる。
「理論上は完成されています。後は安全性と効果を検証するのみ」
「これをお譲りしますので、検証をお願いしてもよろしいですか?」
「無償で提供してくださるのですか!?」
「もちろんです」
きっと、祖父も同じことをするだろう。
「分かりました。責任持ってやらせて頂きます」
「よろしくお願いします。一緒に命を救いましょう」
「もちろんでございます」
エミリアと協会長は握手を交わす。
「では、私はこれで失礼します。お忙しい中、ありがとうございました」
そう言って応接室を後にする。
「どうやら、本物のようだな」
協会長が呟いた。
まだ、若い女性が筆頭宮廷医と聞いた時は疑った。
しかし、今は疑った自分が恥ずかしい。
「ようやっと現れたか。おかえり」
その言葉は確かに協会長の口から放たれた。
「協会長、どうされたのですか?」
「なんでも無い。それより、忙しくなるぞ! 所属薬師たちを集めてくれ」
「かしこまりました」




