第21話 終わりあるから命は煌めく
ブラッド・メディ、元医術局の局長にしてエミリアの祖父。
彼の功績はとても大きなものだった。
医学を10年は進歩させたと言われている。
その大きな背中を見て、エミリアは医者になりたいと思った。
局長の座を退任した後も、ブラットは命を救うことに奔走した。
地位も名誉もいらない。
ただ、目の前に消え掛かっている命があったら全力で助ける。
そこに、人種や性別、身分は関係ない。
皆んな、誰かにとって大切な人なんだ。
ブラット・メディの活躍を目にした者は皆こう言う。
『最強の名医』と。
「エミリア、医療の最終目標とは何だと思う?」
いつだったか、祖父から聞かれた事がある。
「永遠の命、でしょうか?」
まだ、医師になる前のエミリアはそう答えた。
「まだまだだな」
そう言って、ブラットがエミリアの頭を撫でる。
「確かに、永遠の命は人類の夢だ。そして、もしそれが実現したら医者は必要なくなるかも知れない」
「では、正解なのではないのですか?」
「でも、永遠に生き続けるのは寂しい。そう思わないか?」
この時、未熟だったエミリアは祖父が言った事を理解するのに時間が必要だった。
「エミリアもこれから大切な人と出会うだろう。その人たちと一緒に歳をとっておばあちゃんになりたい、そう思う日がきっと来るよ」
「お祖父様は幸せでしたか?」
「そうだな。婆さんと一緒に歳をとって色んな景色を見て、幸せだったかな」
そう言うブラットの目はとても優しかった。
「だから、医者の仕事は永遠の命を作り出す事ではない。人生を最期まで全うさせてあげることだ」
「最後まで全う」
「そうだ。終わりがあるから、命は煌めくんだよ」
永遠の命があれば、大切な人とずっとずっと一緒にす過ごす事ができる。
もしかしたら、亡くなった人間を生き返らせる方法もあるかも知れない。
だが、死の克服は医療の夢じゃない。
死を忘れた者は死を求める。
永遠は、生き物にはあまりにも辛すぎる。
生きることを全うする為に医療は存在する。
祖父が言っていた事、医者になったエミリアは理解した。
「死があるから生きることは美しい……」
だから、エミリアは命がけで戦う。
多くの人の生を全うさせる為に。
「お祖父様、見ていてください」
ブラット・メディはもうこの世に居ない。
きっと、まだやりたいこともあったはずだ。
でもその遺志を継ぐ人間というのは、必ず現れるものだ。
事実、現れたのだ『最強の名医』の後継者が。
その医者は、患者の未来を治す。
患者の無限に広がる未来の可能性を。
「治すよ。あなたの未来」
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