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第15話 水銀中毒

 翌日、エミリアは陛下に謁見を申し込んだ。


「話したい事とはなんだね?」

「国民の命に関わる事です。こちらをご覧ください」


 昨日の夜に作成した資料を陛下に見せる。


「この国の女性が早死にしてしまう原因はこれかと思います」

「そうか、白粉に含まれる水銀が」

「はい、王都の店に売られている白粉の8割近くに水銀の成分が検出されています」


 これを5年10年と継続的に使い続けたら、人体に悪影響を及ぼすことは目に見えてわかる。


「今すぐ、水銀が含まれた白粉は禁止にすべきです」

「分かった。今後、水銀を含んだ白粉の販売禁止と回収の勅命を出そう」

「ありがとうございます」

「いや、礼を言うのはこちらの方だ。水銀に毒性があることなど知らなかった……これが民の命を脅かしていたなんて」


 陛下は目を伏せた。


「知識が無いのは仕方ないことです。肝心なのは、それを知った時どう対策するかです。陛下は、すぐに民の命を案じた。まだ居たんですね。命を最優先する政治家が」


 政治家というのは保身のためなら、平気で隠蔽工作する人間だ。

それでも、この王は自分の無知を恥じ民のためなら泥を被る。


「理想論と言われて他の貴族からは揶揄されることもあるけどな」

「私は、そうは思いません。素晴らしい理想や夢は、世界を変える力をくれますから」


 理想も語れない人間に、本気でついて行こうとする者が現れるだろうか。


「ただ、これだけは覚えておいてください。壁となり身体を張って自分が傷つくことが、大切な人を守る事では無いのです」


 この王は放っておけば自分を犠牲にしようとするだろう。


「覚えておこう」

「若輩が出過ぎたことを申し上げました。まあ、全てお祖父様の受け売りなんですけど」

「ブラットの言葉なのか。でも、言葉は託された者が受け継いで新たな者に託していく。そうやって受け継いでこそ意味のあるものになるのだよ」


 エミリアは祖父からたくさんのものを託されたのだと思う。


「ありがとうございます。それとこれを」


 もう一枚の紙を陛下に渡す。


「これは?」

「水銀中毒の解毒剤のレシピです。薬師協会と共有してください」

「いいのか? 貴重な情報だろう」

「知識は独り占めしては意味をなしませんから」


 医学の世界は日進月歩。

知識や情報を共有して、そこから新しい技術が生まれることもある。


 そうすれば、より多くの人の命を救うことができる。


「ありがとう。早速、薬師協会と共有して薬の生産に取り掛かるようにしよう」

「お願いします。では、私はまだやらねばいけない事がありますので」

「何をするつもりだね?」

「人体に無害な白粉を開発しようかと」


 ただ、禁止してしまっては今まで白粉を使っていた女性からしたらショックを受けてしまうだろう。

そうしたら、また美容のために瀉血をする者が現れるかもしれない。

それは避けなければならない。


「それは、医師であるきみのやる事なのかね?」

「女性にとって、美とは生き様なんです。それをただ取り上げる訳にはいきませんよ」


 応接間を出るエミリアの後ろ姿に、ブラットの影が重なって見えた。


「本当に、彼女には驚かされてばかりだな」


 数日後、陛下は水銀を含んだ白粉の販売禁止の勅命を出した。

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