第14話 仮説が確証に
「どうかしたのか?」
まじまじと白粉を見ているエミリアに、サルヴァが怪訝な表情を浮かべる。
「この国の貴族令嬢は平均寿命が若いなんてことはありませんか?」
「確かに、うちの国は男性よりも女性の方が早死にする傾向にあるが」
「やっぱりそうですか」
一般論ではあるが、男性の平均寿命のほうが女性よりは短いことが多い。
しかし、この国ではそれが逆になっている。
「それがどうかしたのか?」
「それはきっと、これが原因です」
エミリアが手に取ったのは売られている白粉。
「これは、肌を白く見せるためのものですね」
「問題はこれに含まれている水銀です」
「それは、毒なのですか?」
「少量ならさほど問題ではありません。しかし、継続的に使い続けるなら話は別です」
体内に過剰に水銀が入ると、嘔吐や腹痛、頭痛、視覚・聴覚異常などが現れる。
「とりあえず、ここにあるものを全て買って調べてみてもいいですか?」
「もちろんだ。それが事実なら、早急に対策を打たねばならないだろう」
「ありがとうございます」
エミリアは売っている白粉を片っ端から買い集めた。
「さて、目的は果たしました。王宮に戻りましょう」
「もう、街はいいのですか?」
「ええ、私が気になっていたのはこれなので」
「なんというか、エミリアさんらしいですね。いつも、あなたは誰かを救うことしか考えていない」
そう言って、サルヴァは小さくため息をつく。
「殿下は、医者として一番後悔することはなんだか分かりますか?」
「命を救えなかった時でしょうか?」
「そうです。それも“救えるはずの命“が救えなかった時です」
もっと、早く治療をしていたら、もっと早く効果薬を発見できたら。
そういった患者さんを多く見てきた。
「私の仮説が正しかったら、これから先も多くの人が命を落とすことになります」
「そうですね。私も出来ることがあれば協力しますので」
「はい、ありがとうございます」
宮廷に戻ったエミリアは自分の研究室で、買ってきた白粉の成分を調べる。
気づけば、外はすっかり暗闇に染まっていた。
「でも、これではっきりしましたね」
買ってきた白粉の11個の中から9個水銀の成分が検出された。
女性の死亡率が高いのは、これが原因で間違い無いだろう。
「明日、陛下に話す必要がありそうですね」
エミリアは成分分析の結果を、資料にまとめた。
貴族御用達の店でこれだけ水銀が検出されるということは、庶民の間で出回っているものには水銀が含まれている
と考えて矛盾しない。
この問題を解決したら、多くの命が救われる。
エミリアはそう確信していた。
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