第10話 帝国医術ギルドのその後
「すみません。私もこれで失礼します」
そう言って、サルヴァ殿下は立ち上がって扉へと向かう。
「あの!」
エミリアの言葉にサルヴァが振り返る。
「あなたが背負っているものが何なのかは分かりません。でも、私は殿下を残して先に死んだりしませんから、安心してください」
「名医ってのは心も治してくれるものなのですね」
そう言ったサルヴァの笑みはどこか、貼り付けたような笑みに見えた。
♢
「ギルド長! 大変です!!」
帝国医術ギルド。
ギルド長執務室に副ギルド長の声が響く。
「なんだ。騒がしいな。それより先月より利益が下がってるぞ。美容効果があるとか謳って瀉血を増やせ」
ギルド長は金儲けのことしか頭にない。
最近は、瀉血に美白の効果があるとか言って貴族令嬢に瀉血を行っている。
瀉血は利益を生むのだ。
「それどころじゃないですよ!! これを、これを見てください!」
副ギルド長が紙の束を机に叩きつけるように置く。
「なんだこれは。ってあの女の論文じゃないか。こんなもの」
ギルド長が論文をゴミ箱に捨てようとする。
「待ってください! その論文の最後のページを見てください!」
「最後だと」
そう言って、最後のページを開く。
「何!? これは……」
そこには以前はなかったページが追加されていた。
『マルディン王国国王、アーサー・マルディンの名を持って、この論文が矛盾しないことをここに証明する』
隣国、マルディン王のサインまで入っている。
偽造しようと思ってもできるものではない。
「医術局の上層部からも瀉血は中止するように言ってきています」
医術ギルドはあくまでも民間機関。
国務機関の医術局の指導には従わないと行けない規則である。
「せっかくあの邪魔な女を追放することができたというのに……!」
一国の王が証人になるということは、国をも動かすということなのだ。
「瀉血は当分やらない方がいいかと」
「ふざけるな! これからどうやってギルドを運営すればいいのだ……!!」
ギルドの運営費用は、瀉血行為によってのものに依存していた。
瀉血一回につきそれなりの料金を取れるのだ。
それによりギルドは潤っていた。
「バレないように瀉血は続けろ!」
「しかし、国に逆らうということですよ!」
「瀉血には需要があるんだ。それに応えてやって何が悪い!」
まだ、世間一般的には瀉血の危険性が伝わっていないのだ。
医師の言葉というのは信じてしまうのだ。
「かしこまりました」
この時のこの選択が、ギルド破滅への第一歩になるとはまだギルド長は気づいていなかった。
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