成就3
私は右目が見えるようになってからのことをしばしば妄想する。最初に彼の部屋のもう半分が見てみたい。次に彼の勉強机が見てみたい。そして、彼の喜ぶ表情をこの私の両目で見てみたい。私は両目で開けた世界を見ながら、彼とともに窓外に出て木々や鳥や空の中で燃やされて生涯を終えるのである。それはそれでいいな、と感じる。願いが叶った喜びの中で消えてしまうのは潔くてよい生涯だと。私の願いは私の世界が開けることである。それ即ち、彼の受験が成功するということでもある。
達磨とはよくできたもので、いつしか、私の願いは彼の願いの延長に存在するようになる。即ち、彼の願いに対して私と彼の2人で祈ることになるのである。達磨に願えば叶うというのは、単純に願いに対する祈りが2人分になるからではないかとも思う。私と彼の願いは一蓮托生となり、私は窓外を見ながら見えない右側で奮闘する彼のことを応援する。木々に蕾が付き始め、鳥が朗らかにそれを祝福する。私はあの花を両目で見られたらいいなと思う。
今日も少年はひたすら勉強しているらしく、ただただ時間が過ぎてゆく。私と言えば、木々の開きかけた蕾を片目で凝視することで時間をつぶしている。季節は春に近づいているようである。
すると、部屋の右側でごとりと何か物音がした。
その瞬間、瞬きでもするかのように突然、右目の視界が開ける。突然のことに喜びと驚きを感じながら、視界を合わせる。ピンボケしていた視界が少しづつ像を結ぶ。
彼の願いも少しずつ形になり始め、世界は彼に向けて開き始める。