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87.相談 ①

 その日、昼頃、オリヴィアに相談するためにペルシオンの教室棟にある裏庭にやってきた。曇りの日で、ガラス天井から差し込む光が弱く、庭に植えられた植物たちが息苦しそうに色褪せて見える。


 相談場所はオリヴィア決めた。なぜこんな場所を選んだのか、トオルには分からなかった。こんな開放的な場所で悩みを相談するのは良いのだろうかと、トオルは戸惑った。他の人がいるのではないかと気にしながら、裏庭の周囲をぎょろぎょろと見回す。


 トオルは約束の時間通りに来たが、遠くから見るとオリヴィアはすでに2人用のテーブル席で待っていた。彼女はコーヒーを注文しており、このあたりの席は簡易なカフェとして使われているらしい。


 10メートルの距離を取ったが、トオルの気配に気付いたオリビアが振り向いた。


「来たか」


「お待たせして申し訳ございません」


「約束の時間通りに来た君が謝る必要はない。さあ、座れ。何を飲む?」


「それならアイスコーヒーを一つ」


トオルはテーブルにタッチして自分の飲み物を注文した。


「さて、君が相談したいことは何だ?」


 オリヴィアの質問にトオルはなかなか口を開けなかった。肩をすぼめ、首をやや下げ、オリヴィアのジャケットの第三ボタンをじっと見ていた。注文したアイスコーヒーが運ばれてきたが、一口も飲まず、落ち着かない様子で無言のままだった。


「相談したいことを忘れたのか?」


「いえ……ただ、ここで話すと、他の人に聞かれるのが嫌で……」


「心配ない。こういうこともあるかと思って、音声ジャミング装置を使っている。私たちの話はこのテーブルに座っている私たち以外には聞こえない」


 テーブルに置かれたファンデーションのケースほどの装置が何らかの章紋を光らせている。


「そうなんだ……」


「話してみないと君の悩みは解決しないだろう」


 長い息を吸い込んだトオルは重い肩を直し、目線をオリヴィアの首筋に合わせて言った。


「先生は、私の出身を知っていますか?」


「ああ、教務部に記録されている情報なら把握している」


「それなら、先生は僕の父親が指名手配されていることも知っているんですよね?」


オリヴィアは生徒の苦情を真摯に聞き入れ、まっすぐに目を見て答えた。


「知っている」


「先生はこの件について、僕のことをどう思っているんですか?」


オリヴィアはトオルの投げかけた問題をすぐに理解できた。


「君は私の教え子だ。それ以上でも以下でもない。君の親が罪を犯したのは事実だとしても、事件と関わりのない君とは全く関係ない」


「ぼくもそう思ったんですが、世間の目はそう甘くない。父親が犯罪者だと知られたら、全てが終わり、せっかく手に入れた幸福も失うと思います」


「物事の見方は人それぞれだ。確かに地球界では犯人の身内に偏見を持つ人は少なくないが、ここはアトランス界だ。見られるのは君の実績と生き方だ。君の父親が何をしたかは関係ない。親は親、君は君だ」


「ぼくにはそんなに器用に生きることができません」


「弱気なことを早口に言うな。君には物を作る才能がある。たった一月未満で指令回紋の授業で教えた知識をもとに、自らの自習で課題を遥かに超えた物を作ったではないか?」


「はい」


「新しい物を作る力は、世に幸福を与える一方で、不幸も与えられる。それでは改めて聞くが、君は恵まれたその才能をどうしたい?」


オリヴィアの言葉がストレートに胸に刺さり、長年縛られた鎖に裂け目が現れた。


トオルはしばらく考えたが、具体的な方法が見つからず、少し鈍臭い口調で答えた。


「もちろん……ぼくは、作った物で人々に貢献したいと思います。僕の父親が犯した罪の詳細は知らないが、僕がやりたいことは彼と真逆で、人に幸福を与えるように頑張りたいと思います」


「君の見ている図面はまだ漠然としているが、それで良い。その思いを保って進めば良い。君なりの栄光を掴むために努力し、進んでいく君はもはや君の父親とは違う人間だ」


 トオルの答えを聞いてオリヴィアは満足げに微笑んだ。おそらく100点は取れなかったが、80点は与えるだろう。

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