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13.ハイ・ジャック進行中 ③

穣治と美鈴はまだ同じ席にいた。


「金田さん、白河さん」と依織が声をかける。


「おう、おかえりお嬢ちゃん。探し出したか、左門くん!」


「はい!」


「グッジョブだ!」


「お姉さん、大丈夫ですか?」


「うん、心配かけてごめんなさい。ちょっと気が乱れただけ」


「気にするなって。ふむ、たしかにちょっと楽になったようだ。でも、無理は禁物だぜ?」


「はい」


 トオルはホッとしたようにひっそりと息を吐いた。

 四人が少し気を抜いたその時、船内につんざくようなアラームが鳴り響いた。耳が痛いほど鋭い音に、レストラン内にどよめきが起こる。


「え、緊急警報……?」


 依織が一番に声を上げた。


「うむ、船内で火災か?」


「でも、こんなに高い技術で造られた船なら、火災が起きてもすぐに消火できるはずですよね?」


「どこかで新入生が暴れたか~?」


「やっぱりテロか……」


 口を滑らせたトオルを、三人は一斉に見た。


「左門さん……テロって……?」と、美鈴が不安げな顔で言った。


「そうか」と穣治は眉をひそめ、目を閉じる。


「君が何度も警備員を見ていたのは、そういう意味か」


 依織は不安よりも先に、トオルの「やっぱり」という言葉に引っ掛かっていた。


「トオルくん、テロが起きるって知ってたの?」


「……あぁ。信じられないかもしれないが、ぼくには予知能力を持つ知人がいる」


 冒険の経験に富んだ穣治は、トオルの話を全く疑わず、


「興味深い話だな。あとで聞かせてくれ」


 だが、美鈴の表情にはどんどん不安が増していく。


「それって、テロリストが警備員を装って、この船に初めから乗っていたってことですか?」


「それはぼくにも分からない」


「俺も、君たちがいない間にしばらく警備員を観察したが、あまりにも人間らしさがない。まるで、何かに操られたミイラかゾンビのようだ。もし彼らがテロリストの真似事をしたとしても、それは本体ではないように思う」


 *


 その一方、ブリッジで、僅かな息が残っている船長は緊急警報と遭難信号のスィッチを押した。


 数分前、ブリッジで緊急警報と遭難信号のスイッチを押したのは、わずかに息が残っていた船長だった。


 船内に響くアラームを聞きながら、「こんなことをしたのは誰でしょうか?」とレイフがブリッジを見渡し、船長を見つける。


「へぇ、まだ息があるのか」と、キアーラが船長に近付いた。


「儂の船を、君たちの好きにはさせぬ……」


 船長はそう言ったまま、船長席のテーブルに伏せ、目を開けたまま息絶えた。


「チッ、小賢しい真似を」と、キアーラが船長を見下した。


 補佐に当たっているリーズがキアーラを見上げる。


「どうしますか、キアーラ様?ダイラウヌス機関に気付かれました」


「仕方ない。予定を早めて次のステップに移行する。この船の中にいる者すべてを制圧しろ。フェジを出せ、ド派手にやろうぜ」


「了解!!」


 ブリッジの廊下から9階の踊り場の間に待機していた十数人の戦闘員が動き出した。

 彼らは8階に降りると、管状の容器を開け、床に放つ。ビー玉ほどの大きさの黒い玉が、無数に階段を転がり落ちていった。一つ一つが意志を持っているように落下しながら、鈍い音を立てる。玉の一部は立ち入り禁止エリアの扉に張り付くと赤くなり、数秒後に爆発した。


 扉に穴が空くと、黒い玉は潮流のように船室へと滑り出していく。あちこちの階層で、異常の起こった場所から悲鳴が上がった。


「きゃああああ!」


「何だこれは!!」


 玉は短時間の間にすべての階層へと広がった。そして、粘土を固めるように十数個が集まって一つの大きな玉に変化していく。ボーリングを四倍ほど大きくしたような黒い玉は、バクテリオファージのように足を伸ばしはじめる。球体から銃砲のような武装を展開すると、機械的な動きで各階の制圧にかかる。


「何だこれ?救急ロボットか何かか?」


 ある階で、一人の男がそれに触れようとした。フェジはレールガンを発砲し、男は無防備なまま銃撃され、ショックで卒倒する。周辺にいた男女が同様に襲撃され、絶叫が響いた。船は一気にパニックに陥る。


 バスター砲を抱える戦闘員たちも、8階の廊下から左右に分かれて動き出した。素早く飛び降り、ブーツ装備を使って各階に着地する。いずれの階層にも6人の戦闘員が配備された。

 一人の女子が、近くにいたガードマンに声をかけた。


「警備員さん、助けてください!」


 しかし、呼びかけられたガードマンは警棒を取り出すと、悪人を制圧するようにその女の子を押さえつけた。


 ガードマンたちの様子がおかしいことに気付き、その場にいたもう一人が「逃げろ!!」と叫んだ。


 *


 トオルたちがいたカフェレストラン階にも、同じ光景が広がっていた。船尾から爆発音が聞こえ、すぐに黒い玉が変形したフェジがやってくる。その数、ざっと12体……。


「これは……ロボット?」


「うむ、ただのロボットじゃなさそうだな」


「あの模様、どう見ても武装マシンレベルだ。あまり動かない方が良い」


 トオルに命の危険があると判断したタマ坊が、主人を守るように前に出た。


「タマ坊、やめろ、ガードモードだ」と、トオルが小声で命令する。


 タマ坊はコマンドに従い球体に変形した。

 トオルはクロディスに言われたとおり、目立つ行動を控えるよう意識する。

 実際、数の差はあまりに大きかった。タマ坊の武装は護身レベル。戦闘用のロボットを相手に勝ち目はない。


 混乱するカフェレストランに、さらに戦闘員たちが侵入し、「動くな!」という声が響いた。


「この船は、我がデストロンドが乗っ取った」


「命が惜しい者は、無駄な抵抗をやめなさい」


 トオルたちは大人しくしていたが、レストランの中には多少、戦闘術を知っている者もいて、反撃しようと試みていた。


 すべての階層に戦闘員たちが広がり、船の至る所で、キアーラの立体映像が映し出された。大輝が船室で見ていた映像も、強制的に切り替わった。


「諸君。俺の名はキアーラ・アルホフだ。この船はすでに我々デストロンドが占領した。救命カプセルシステムは終了し、避難室もすでに我々の管制下にある」


「この男が……テロリストのボスなのか?」と、トオルがささやいた。


「力で船を取り戻そうとするすべての者に忠告だ。無駄な抵抗はするなよ。今、この船は海上に停泊している。俺たちに牙を剥くなら、船ごと海にダイブさせてやってもいいんだぜ」


 新入生の中には戦闘の経験者もいたが、あまりに分の悪い状況に、降伏せざるを得なかった。三階にいた案内人も、指示通り、黙って両手を挙げた。


 こうしてオースルクト号は、瞬く間にデストロンドにより制圧された。


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