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139.三枚星を挙げる時 ④

クリーフはエンドルヌス騎士団の団長・コンスタンタンと共に歩いてきた。


その姿を見たアニスが二人に振り向き、丁寧に挨拶する。


「コンスタンタン団長、ゲネル卿、お疲れ様です。この件ではエンドルヌス騎士団のご協力をいただき、ありがとうございました」


団長のコンスタンタンは大きな声で答えた。


「いやいや、我がエンドルヌスは、生徒会やサンジェストール騎士団の最も頼れる支援者であるべく日々努めております!」


アニスは淡々と頷くと短く答える。


「心強いです」


すると、クリーフが涼しげな笑みを浮かべながら、どこか調子の良い声で言った。


「いやぁ、諸君。どうやら囮作戦は見事に成功したようですね。事件も無事に解決し、何よりめでたい!」


穣治はその言葉に顔をしかめ、忌々しげに吐き捨てた。


「ふん、ずいぶんと綺麗ごとを言うじゃないか。漁夫の利を狙っただけのくせに。苦労したのは俺たちだろうが、お前は何もしなかっただろ?」


クリーフは肩をすくめて、まるで悪びれる様子もなく返す。


「協力する予定でしたとも。ただ、君たちが思った以上に早く攻め込んでくれたおかげで、こちらは動く暇もありませんでしたよ。さすが、優秀な戦いぶりでしたね」


このやり取りを見ていた依織が、穣治をなだめるように前に出る。


「金田さん、ゲネル先輩のことは許してあげてください。彼は彼なりのやり方で協力してくれたじゃないですか?連絡がスムーズだったから、後からの救援も迅速に動けたんですし」


穣治は仕方なさそうに肩をすくめて答えた。


「まぁ、依織嬢さんがそう言うなら……」


コンスタンタンが笑顔で依織に向き直ると、彼女を褒め称える言葉を投げかける。


「おぉ、Ms.ウチホ。仁義を重んじ、度胸も備えた君のような人材こそ、我がエンドルヌス騎士団が求める者だ!」


依織は恐縮しながらも静かに答えた。


「ありがとうございます。それには及びませんが……」


すると、アニスが軽く咳払いし、冷静な口調で言う。


「コンスタンタン団長、事件現場での人材勧誘は規則で禁止されていますよ」


「おっと、これは失礼。優秀な人材を見ると、つい勧誘癖が出てしまってね。さて、ケネル君、我々もそろそろ戻るとしようか」


「かしこまりました。穣治さん、私の愛機どこにありますか?」


穣治はやや投げやりに指を指す。


「あぁ――あの海老型マシンか、あれなら物流入り口の近くに停めてある。緊急着陸後、そのまま放置していたからな」


クリーフはどこか不安そうに額に汗を浮かべつつ、平静を装った笑顔で答えた。


「そ、そうですか。では、皆さん、お達者で!」


そう言い残し、クリーフは部下たちを残してその場を去っていった。



去りゆくクリーフの背中を見つめながら、穣治が首を傾げて呟いた。


「なんかスッキリしない気分だな……」


依織が小首をかしげながら問いかける。


「金田さん、他に気になることでも?」


「いや、あいつが協力した理由がどうも引っかかるんだ。事件を解決した功績が欲しいだけなんじゃないかと思っていな。依織嬢が擬似体にさらわれたとき、俺たちに飛空艇(テュルス)を貸してきたのは確かだが、結局、俺とラウラ嬢がバルデルを倒した後に、タイミングよくエンドルヌス騎士団と一緒に現れた。なんか、計算作った感じがするんだぜ」


アニスは静かに目を閉じ、ため息をついてから答える。


「確かに、一部の騎士団は功績を独占しようとして、通報をわざと遅らせる場合もあります」


「やっぱり、自分の利益が最優先ってわけか。どうも気に食わねぇな」


穣治が腕を組み、不満げに呟く。


「嫌味だとは分かりますが、確かに彼は先にこちらに通報してきました。しかし、事件の通報を受けても、現場に他の組織より遅れて到着する場合もあります。現場への到着が後手に回ることで、不備が生じる点についてはご容赦ください」


「いや、ミズキさんを責めるつもりはないんだ」


「ミズキ先輩、事件協力に多くの人が関わると、APポイントは減ったりするのでしょうか?」

 

少し意外な質問に、アニスは驚き、美鈴の方を振り向いた。


「APポイントは協力の程度に応じて若干の差が出る。団体名義で協力した場合、その人数分のポイントが加算されるけれど、その分配は団体の裁量次第よ。でも、君たち5人で得たポイントは、他のメンバーより多いはず」


 その話を聞いて、トオルも口を開いた。


「なんだか、僕も違和感を感じています」


 依織がトオルの方を向いて尋ねる。


「何か、ほかに気になる点があるの?」


「ああ。ゲネル先輩が僕たちに見せた証拠映像、あれがどうもおかしい気がするんだ」


 その言葉に、アニスは真剣な目でトオルを見据えた。


「詳しく聞かせてくれる?」


 亮も鋭い眼差しでトオルに向き直る。


「俺も機元(ピュラト)使い獣で撮った映像が、ゲネル先輩の見せたものと違う気がするんだ。倉庫の映像は撮影位置が微妙にずれていたし、リーゼロティさんの件に関しても、撮影角度が全く別視点だった。さらに、個人的な感覚だけど、彼と話していたとき、彼の脈拍が一切変化しなかったんだ。」


「脈? 心拍のことか?」


「はい。脈拍パターンがあまりにも平穏すぎて、まるで機元みたいでした。」


 依織は目を丸くし、トオルを見つめた。


「えっ? トオル君、そんなことが分かるの?」


「うん」


 トオルは依織と視線を交わしながら、小さく頷いた。


「ミラティス人の血を引いているんだから、優れた聴力を持っていてもおかしくないだろ?」


 穣治がフォローを入れると、トオルは少し照れくさそうに顔を赤らめた。


「彼はポリグラフ測定も無効化するスキルを持っている。それを考えれば、君たちが違和感を覚えるのも無理はないが、ゲネル卿は『尖兵(スカウト)』だ。原則として、具体的な犯罪の証拠がない限り、事件解決の手法は個人に委ねられる。私が彼の物を調べる権限がない」


 大輝は不満そうに口を挟んだ。


「あの先輩、偉そうなこと言っていたけど、どれだけの経験を持っているかも分からない奴が、俺たちの見解を一つ一つ指摘してくるなんて、目下の人間の意見を全く無視しているだろ?」


 美鈴は眉をひそめ、大輝の袖を引っ張っていたしなめた。


「大輝くん、先輩の悪口はやめた方がいいよ」


「俺のことはどうでもいいが、美鈴だって意見を踏みにじられただろ?」


 美鈴は困った表情を浮かべ、大輝の言葉に返すことができなかった。


 アニスは冷静にその場を収めようと口を開いた。


「私は彼の人の扱い方を評価しない。しかし、ここは年齢や経験に関わらず、誰の意見も尊重されるべき場所だ。偏見や侮辱のない発言であれば、彼の言動を黙認しても良いだろう。周囲の人々が君たちの意志を最大限尊重するのだから、どちらかが未熟な発言や失礼をした際も、寛大な対応を心がけるべきだ」


そう言われ、美鈴は肩をすぼめて大輝を見た。大輝は口を閉ざし、視線を床に落とす。


穣治は涼しい口調で言う。


「ま、あいつなりのやり方で協力を得られたのは確かだ。ただし、俺は彼の言葉を全て鵜呑みにするつもりはないけどな。自利しか考えられない奴は見方に置いてつもりないね」


「ゲネルさんについて左門君が言ったことは記録しておこう。君は他に何か気になることがあるか?」


トオルは首を横に振った。


「いえ、ありません」

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