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131.葛藤、共闘、人命救助 ①

 一方、トオルと依織は水の布団に乗り、工場の中枢部へと飛び込んだ。天井が見えないほど高い広間には、六角形の柱が幾重にも組まれ、美しく施された巨大な石が所々に輝いている。その柱には紋様が刻まれ、光を放っており、クロディスの蔦が張り付いている様子に、二人は思わず感心する。


「ここが工場の中枢部か?機元端のコアを制御する装置がこんなにも巨大だなんて、まるで巨人が作ったパソコンみたいだな?」


「そんなことに感心している場合じゃないでしょ。オリアンさんが捕らえられた人たちを早く探さないと!」


「そうだな。ここにはいないみたいだし、もう少し奥にいるかもしれないな。」


二人がさらに奥へ進むと、柱のあちこちに、人間が手を伸ばせば届く高さに蔦で縛りつけられた人々の姿が見えた。


「トオルくん、あそこを見て!」


「本当にたくさんの人が捕まっているな……道理で、彼女があんなにも遠慮なく使役体を作れるわけだ。」


「彼女に捕らえられているのは男だけじゃないみたいね。女性もいるよ?」


「ほとんどが作業スーツを着ているから、この工場で働いていた人たちかもしれない」


依織は頷き、水の布団に向かって言った。


「水布団さん、ここで降ろしてください。」


依織の指示に従い、水の布団は高度を下げ、40センチほどの高さで静止した。トオルが先に降り、依織も続いて地面に立つと、水の布団は紋様の光を失い、水気となって散っていった。


「タマ坊、通常モードに戻ってくれ。」

タマ坊は少し動きが遅かったが、手足を出して変形し、周囲を確認しているようだった。


「タマ坊、僕たちは今から人質を解放する。周りの様子を見張ってくれ。」


動きは少し鈍かったが、タマ坊は理解したように頷いた。その様子に気づいた依織が、トオルに尋ねる。


「タマ坊、いつもより動きが鈍くない?」


「多分、変形駆動部はオリアンさんの蔦にダメージを受けたのと、さっきコダマが発射したメーガ粒子砲の反作用を抑えた影響だろう」


「タマ坊、無茶させちゃったかな?」


「タマ坊、まだ戦えるか?」


タマ坊は小さく頷き、依織はその姿に微笑んで言った。


「タマ坊、根性ある男の子わね。偉いよ。」


タマ坊の目のライトが、彼の誇らしさを表すかのように輝いた。


「よし、早速人質を解放しよう。」


依織は新たなイリジウムソードを作り出し、トオルもナイフカッターを構える。二人は縛られた人質たちに向かって歩き出し、ムラサキは更に高所から周囲を警戒していた。

そんな彼らの様子を、高所から一人の男が妖しい笑みを浮かべながら見下ろしていた。トオルは蔦に縛られて眠る人々を見渡し、声を漏らす。


「この人たち……まだ生きているみたいかな?」


「ああ、脈も息もある。彼女は彼らの源気を吸い取っているけれど、命までは奪っていないんだ。」


「私のときも殺すつもりはなかった。彼女、命を奪わなければ罪が軽くなるとでも思っているのかしら?」


「それもあるかもしれないし、もしかしたら人質たちを生かして、エネルギーを補給し続けるためかもな。まるで人間を発電機みたいに扱っている……。」


依織はメアリの歪んだ心情に触れるのを避けるようにして、トオルに声をかけた。


「そんなこと考えるより、早く皆を解放しよう。人数も多いし、手分けしてやろうよ。」


「そうだな。」


依織は右手の人質、トオルは左手の人質の蔦をそれぞれ丁寧に切り離していった。解放された人々は壁際に寄せておく。依織は手際よく動き、既に7人を解放していたが、トオルは3人を解放したところで手を止めた。依織がトオルを振り向き、声をかける。


「どうしたの?」


トオルは無表情で目の前の男性を見つめ、しばらく沈黙してから答えた。


「和彦だ。」


依織はトオルの横に立ち、寝ている和彦の顔を見てから問いかけた。


「彼ってトオルの従兄弟よね?」


トオルの従兄弟である和彦は、トオルに対して常に意地悪な態度を取り、周囲にも悪い噂を吹聴する男だった。キャンパス内での飛空艇テロ事件も、自分が解決したかのように話し、尊大な態度で振る舞っていた。依織も良い印象を持っていない。


「どうやら、彼はキャンパスでぶらぶらと日々を過ごしているらしい。」


美鈴みすずから聞いたことがあるわ。彼、授業もほとんど選択せず、虚勢を張るだけで、女子にも下心が見え見えの態度で、孤立しているって」


「そんなやつがオリアンさんのハニートラップに引っかかったのか……。彼はセントフェラストに入った意味が分からない」


依織は肩をすくめた。


「豚を天国に連れてきても、やっぱり豚のままってことか。放浪者に成り果てたなんて、残念な人ね」


トオルはため息をつき、迷いを見せながら蔦を切ろうと手を止めていた。和彦のことを考えると、心の中にわだかまりが残る。しかし、依織は優しく背中を押した。


「トオルにはやっぱり難しいよね?しかし、彼に嫌がらされでも、他の人と同じ人質よ。助けてあげないと」


トオルは少しの間考えた後、頷いた。


「分かっている……」


依織はトオルが和彦を救おうとする決意を受け止め、そっと言った。


「無理なら私がやるけど、どうする?」


「……ぼくにやらせて」


「彼のことを許せるの?」


「叔父一家や和彦のことをすぐに許せるわけじゃない。でも、彼らのおかげでぼくは強くなれた。それがなければ、今のぼくはここにはいない。そう考えると、彼らのことも少しはどうでもよく思える」


「トオルくん……強くなったね」


トオルは意を決めて、ナイフを振り下ろし、和彦を解放した。依織も笑顔で感心し、再び人質の解放作業に戻った。


そのとき、複数の足音が響き、上空を警戒していたムラサキが鋭い音で警告を発した。


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