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127.決戦の時 ⑨

メアリは依織いおりの奇襲をなんとか避けた。


「逃がさない…!」


依織はすかさず左手の盾を投げつける。メアリが避けた傘を掴む手に見事に命中した。

「ぐっ!」


依織はさらに追撃するべく、足を踏み込み、メアリに向かって一気に飛びかかる。


「無駄に攻めるなら、これでも喰らいなさい!」


 メアリは蔦を操り、細いランスのように依織へ突き出した。だが、依織はその一瞬の隙を突き、ソードの角度を変えて両手で思い切り切り上げた。


パキン――!!


メアリが操る蔦のランスは、依織の剣によって真っ二つに斬り折れた。


「嘘…!?」


「どうやら、私の剣の方が硬かったみたいね?」


 依織は冷たく言い放ち、メアリの首に剣先を向けた。あと一寸進めばメアリの喉を貫く距離だ。メアリは完全に追い詰められ、力が抜け、尻餅をつくように倒れ込んだ。


「や、やめて…命だけは助けて…」


メアリは怯えた様子で命乞いをする。しかし、依織は冷静に返す。


「最初から素直に降参していれば、こんなことにはならなかったのに。あの子たちを傷つけた代償はしっかり払ってもらうわ」


 その瞬間、メアリの背後で天井を吊れてある蔦に結ばれていた実が開き、毒ガスが噴き出した。依織はマゼンタ色の毒霧に包まれた。


「しまった…!」


 依織は反射的に口と鼻を手で覆ったが、既に毒ガスを吸い込んでしまった。途端に、体中から力が抜け、手足に力が入らなくなる。


――パシッ、パシッ!!


「くっ、これは…!?」


 蔦が依織の手足に絡みつき、剣が地面に落ちる音が響いた。毒ガスが散り薄れた時、依織はすでに蔦に捕らえられ、体を吊り上げられていた。


「ふふふ、形勢逆転ね」


メアリは蔦を操り、依織の太ももや体をさらにきつく締め上げた。


「うっ…こんな卑怯なことを…!」


「ふふ、君を無傷であの男に渡すのが交渉の条件だったけど…こんなに面白い展開で終わるのはもったいないわ」


「交渉?どういうこと…?」


「源の気配を消せるアイテムを手に入れるため、その交換条件として、君を捕らえるの。《《君のようにレア金属を生成できる者を狙う者が他にいるのよ》》」


依織は冷静さを保ちながらメアリの言葉を聴いとる。


「でも、私は、天辺に立つ人間が他人を見下すのが大嫌い。お前と戦って、ますます弄びたくなったわ」


 蔦がさらに依織の体を締め付け、彼女の腕や脚に血が滲み始める。メアリの蔦は依織の胸にも絡みつき、痛みを伴っていた。


「その苦しそうな顔…最高だわ」


 メアリは依織の顔を掴み、無理やり彼女の美しい顔を歪ませた。抵抗できない依織を楽しむかのように、メアリは冷たい笑みを浮かべていた。


「私の話を少し聞いてもらおうかしら。幼い頃、私はグラム使いとしての力に目覚めたの。あの頃は、源使いが社会に重宝されていた時代だったわ。私の家族も私に期待し、豊かな生活を夢見て投資してくれた。だけど、時代が変わり、期待は絶望へと変わったのよ」


依織は屈辱に耐えながらも、メアリの話を聞いていた。


「才能があっても、社会が変われば価値なんて消えてしまうものなのね。私の両親は借金に追われ、私に対する期待が重荷になり、最終的には虐待されるようになった」


「そんな…でも、保護を求める方法はあったはずよ…」


「そんな簡単な話じゃないわ。親たちはローンの返済補助を放棄したくなかったのよ。私は社会から見捨てられ、家を出てからも、生き延びるために男たちに身を委ねるしかなかった」


「それで…そんなに多くの男たちに…?」


「そうよ。だけど、一人だけ特別だった男がいたわ。彼は私を大切にしてくれて、私は彼に救われたと思った。だけど、最終的には裏切られた」


メアリの声は冷たく、感情の起伏が感じられた。彼女の話には、深い傷と憎しみが滲んでいた。


「その男は私に、もっと良い人と一緒になるべきだなんて言い訳して、結局別の女と再婚したのよ。私を裏切って、私を娼婦のように軽蔑した」


「それが、あなたが男を憎む理由なのね」


依織は静かに答えた。メアリはその言葉に激しく反応し、依織の頬を叩いた。


「黙りなさい!」


 腫れ上がった依織の頬に涼やかな微笑が浮かぶ。それが、メアリをさらに苛立たせた。


「そう、それが貴女がずっと偽りの分身で男たちの源気を奪う理由なのね?」


「ああ、そうさ。男という生き物に狂わされたこの私の復讐だよ。結局、男なんて一人たりとも信じられない獣だわ」


「それ、冗談よね?自分が被害者ぶってるけど、結局は自分が選んだ人生で起こした過ちを他人に押しつけるなんて無責任な話よね?」


「黙りなさい!」


 メアリは依織の顔を平手で打った。頬が赤く腫れた依織は、まるで哀れな人間でも見るかのように、冷静な微笑みを浮かべた。


「長い間、下品な男たちと付き合っていたから、心まで腐ったのね。塩が多め食べた経験した割には、大人になれてないみたいね?」


「ふん、だからお前みたいな人間に私の気持ちなんて理解できるわけがない」


メアリは指先を軽く振り、葉っぱで依織の顔を切りつけようとする。


「依織さんを放せ!」


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