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126.決戦の時 ⑧

 トオルと依織いおりがメアリと交戦を始めて、すでに20分が経過していた。


 依織は前線で果敢かかんに戦い、コダマとタマ坊が後方から絶妙なタイミングで支援を続ける。二人は平日の戦闘シミュレーション訓練を重ねてきたおかげで、数々の植物怪人を相手に長時間戦っても大怪我を負うことはなかった。しかし、倒しきれない怪人の軍勢に立ち向かい続け、彼らはなかなかメアリに有効なダメージを与えられずにいた。


 さらに、体力や源気グラムグラカの回復が遅いトオルは、激戦を続けるコダマやタマ坊を動かし続けるために源気を消耗し、ホールニンスの補給も限界に近づいていた。


 依織は盾で怪人の攻撃を受け流し、鋭い刃で三体の怪人を斬り倒す。激戦で熱くなった体を冷ますため、彼女は一旦後方に下がり、集中力を保ちながら周囲の状況を見極めていた。


 トオルは果てしなく続く戦いに疲労を感じ、手に持っていた最後のポーション瓶を見つめる。額には汗が滲んでいた。


「これが最後のホールニンスか……」トオルは依織に呼びかけた。「依織さん、ぼくが用意した補給品はもう尽きた。早くメアリを倒さないと、コダマやタマ坊が動けなくなる……」


「そう……トオルの体調を維持するために、源気をシェアするセーフティが働いているんだよね。それならコダマの切り札で一気に突破できないかな?」


「彼女の傘はスカーレットバンを完全に防げる。その防御を崩さない限り、ダメージを与えられない。しかも、また新しい怪人を作ることができるんだ。もし切り札が怪人の壁に阻まれたら、もう手が打てない……」


「トオルくん、源気が足りないなら、他に方法があるはずでしょう?担任教諭が教えてくれたよね?『転気トラティオ』のスキルでできるはずよ」


 依織が提案したのは、源気使い同士が源気を分け合うスキル『転気』だ。このスキルは、戦いの中で源気を大量に消耗した者を支援たり、緊急時の救命処置としても使われる技だ。ただし、源気の属性が合わない相手に無理やり分け与えると、拒絶反応が起こるリスクがある。


 『転気トラティオ』を分けあい法則は属性相克の真逆であり『騎士レッターフラッハ』⇨『魔導士マギア』⇨『闘士ウォーリア』⇨『操士ルーラー』⇨『騎士』だ。


「でも、その方法だと依織さんにも負担がかかるよ……」


「そうかもしれないけど、この戦いで限界に挑まないと、彼女に勝つことはできないわ」


「気楽に話している時間なんてないわよ?」


メアリは防御の態勢を崩さず、トオルたちの隙を狙っていた。蔦が天井や壁から一斉に伸び、宙を舞うコダマに襲いかかる。


「取ったわね。この建物にある蔦は私の手足も同然、どこからも攻撃できる、お前らが読み切れるかしら?」


 天井の高さが足りず、コダマは空中での機動力を十分に発揮できずにいた。蔦はコダマの爪脚を捉え、さらには胴体と翼を縛りつけ、彼の動きを封じた。


「コダマ!」


 さらに多くの蔦が飛びかかり、今度はコダマの爪脚だけでなく、胴体と翼が繋がる部分まで強く縛られてしまった。それを見たメアリは、妖しい笑みを浮かべながら、策が上手くいったことを確信していた。


「今まで私が作らせた分身体たちは、すべてお前たちを潰すための布石だったのよ!」


 コダマはビームマシンガンを撃ちながら、エンジンブーストの出力を最大限に上げていた。しかし、メアリの作り出した葉っぱの傘はその攻撃をものともせず、すべてを弾き返していた。


「何度撃っても無駄よ。この特別製の葉っぱ傘は、ビームやエネルギーを弾く性質を持たせてあるんだから」


 タマ坊は脚に装着されたタイヤをハイスピードで走り回り、メアリの注意を引きつけようと試みた。


「まるで掃除ロボみたいにちょろちょろ動き回って、鬱陶しいわね」


メアリは床から生えた蔦でタマ坊のタイヤの軸を侵食し、縄のように巻きつけて、その動きを完全に封じた。


「タマ坊の動きまで!?あの子たちをいじめないで!!」


激怒した依織は、ソードを握りしめてコダマを助けに向かった。


「邪魔な女をちゃんと止めてやらないと!」


 動きが封じられ、戦闘支援もできなくなったコダマとタマ坊。その隙を狙って、怪人軍団が立ちはだかった。


「解きなさいよ!」


依織は奮戦し、怪人たちと打ち合った。


「今のうちに、この鋼鉄のように硬い蔦で、その雑鳥ざつとりを撃ち落としてやるわ」


 メアリは手指に妖しい緑光を纏わせ、荊棘のようなトゲのある硬い蔦を五本同時に伸ばした。宙に縛られていたコダマを狙い、胴体の二か所、そして左翼と右翼、さらに胴体と翼の繋がる部分までを次々と突き刺した。


「!?」


タマ坊も蔦に絡め取られ、自由を奪われてしまう。依織は怒り、ソードを手に怪人たちを蹴散らし、コダマを救おうと突進した。


「邪魔な女ね……!」


 しかし、メアリが操る怪人たちが依織の前に立ち塞がる。依織は必死に戦いながらも、コダマを救うことができなかった。メアリの攻撃がさらに激しさを増し、蔦は宙を舞うコダマを串刺しにする。


「そのまま落ちなさい!」


メアリの一撃で、コダマは力を失い、床に激しく叩きつけられた。


 その光景を見たトオルはショックで動揺し、対応策を考えることもできず、ただコダマが墜落する様子を茫然と見つめていた。


「コダマ……!」


トオルは膝をつき、絶望的な気持ちに打ちひしがれた。


「俺の躊躇いが……こんな結果を招いてしまった……」


「ガラクタが壊れただけで心が折れるなんて、脆いわね」


メアリは嘲笑し、トオルを見下す。

 トオルの切り札であるコダマのメガ粒子砲は、彼が飛行可能な状態でなければ使うことができない。今のコダマは翼もブースターも破壊され、決め技を使うことは不可能だった。


「熱情をたっぷり注ぎ込んで0から少しずつ作り出来た物が人に壊された気持ちなんて、あんたには理解できないでしょう!」


 依織は目を吊り上げ、激しい怒りに燃え、盾を強く振りかざし、一体の怪人を打ち飛ばす。さらに、その勢いで後ろに控えていた他の二体の怪人とも打ち合い、一瞬の隙を突いて飛び込む。そして、追撃の一閃で三体まとめて斬り倒した。


「トオルくん、しっかりして!戦いはまだ終わってないよ!」


 大切にして作り上げた宝物ロボットがメアリに傷かされたことで、トオルは無性に怒りが込み上げてきた。いつもは感情を押し殺したような無表情を見せる彼の目に、冷徹な光が宿り、まるで殺戮機械のように鋭く光り輝いていた。その目は、害虫を駆除するかのように冷たくメアリを睨みつけていた。


メアリはその無機質な冷徹な目に睨まれ、思わず鳥肌が立ち、背中に冷や汗が滲んだ。


「あら、本当に怒っているみたいね。その目……まるで私を殺そうとしているみたいで怖いわ。でもね、そもそもそのガラクタで私に挑んだのは、あんたの自業自得よ」


トオルは鋭く答えた。「ああ、そうだな。この茶番の戦いも、とっとと終わらせようか」


メアリはタマ坊に次の手を出そうとしたが、トオルが放つ強烈なプレッシャーに圧倒され、ためらって手を止めてしまった。


その瞬間、依織は突撃を攻めて来る。


一斬りが空気を斬った。

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