124.決戦の時 ⑥
大輝は足に力を入れ、立ち上がろうとするが、飛んできた岩をかわすには間に合わなかった。
その時、前に立ちはだかった美鈴が反転ボールを投げ出した。
ボールが宙に紋章を展開し、詠唱が響く。
『嵐吹く勇士のごとく、盾となり』
強力な風が紋章から吹き出し、飛んできた岩を粉砕した。
「なに!?」
さらに美鈴は二発目の《コンヴェル》ボールを投げ、オレンジ色の紋章が光り輝く。
『夏の陣、陽炎の剣、反転手』
炎の剣が紋章から飛び出し、トニーが放った岩壁を突き破った。その光景を見たトニーは慌ててマントで顔を覆った。
「なんてことだ!?」
驚くトニーと目が合い、美鈴は怒りの表情を浮かべた。
「大輝くんは絶対に倒させない!」
「ふん、それならサンドゲイルをくらえ!砂塵を宿す……」
トニーが詠唱を始めたその瞬間、黒煙が急に吹き上がった。
「なんだこれは!?」
目の前には何もないのに、黒煙が広がり続け、トニーは目と口を押さえながら咳き込んだ。
「大輝くん、大丈夫?」
衰弱していた大輝は、様子を見に来た美鈴を見て目を開けた。
「美鈴?トラップ紋章はどうした……」
「紋章の効果が切れたみたい。しっかりして……これ、傷と源気を治すポーション。残りの半分を飲んで」
「そんなものを持っていたのか?」
「万が一の時のために、納屋に入れておいたのよ。大輝くんったら、出しゃばりなのに、戦いの準備を何もしていないなんて。全く計画性がないわね」
「すまんな」
申し訳なさそうにしながら、大輝は瓶を取り、残りのポーションを一気に飲み干す。内臓の傷が止血し、手足の擦り傷もすぐに治る。大きく息を吸えるほどに体調が回復し、全身に赤い光を纏った大輝は、七割ほどの力を取り戻していた。
「助かった」
「でも、大輝くん、その一直線の戦い方じゃ通用しないよ。別の策を考えないと……」
「いや、攻撃を一点集中で攻める」
「でも、あの岩壁で止められちゃうわよ」
「確かに、俺の光弾も、お前が放った炎の剣も、どちらも半端な威力じゃ彼に直接ダメージは与えられない」
「そうね……」
「お前の力を俺に貸してくれ」
「半人前の二人が力を合わせれば一人前ってことね?でも、どうやって?」
「お前は、左門さんが作った風を放せるアイテムを持っているよな?俺は前に出るから、その風を俺に投げてくれ。一気に突風を乗せて奴に攻め込む。至近距離で仕留めるんだ」
「それは危険すぎるわ!そんな術にかかったら、体が持たないかもしれない。岩石が飛んできたらどうするの?」
「俺は気合のスキルを最大限に引き出す。自分の源気を燃やし、体の限界を超えて耐えられるはずだ」
「でも、コントロールが上手くいかなかったら?」
「美鈴、俺を信じろ。俺たちは奴を倒さなきゃならないんだ。お前も奴に散々やられただろ?」
「……わかったわ。準備ができたら、いつでも行って」
その時、スモークが立ち込め、咳き込みながらトニーが二人の近くにやって来た。ピンクな雰囲気に苛立ち、叫ぶ。
「お前ら、まさかカップルか!?」
「カップル?そんなこと分からないが……」
大輝が眉を顰めながら答えると、美鈴は冷静に付け加えた。
「私は幼馴染みだよ」
「な、何だと!?リア充なんて許さん!」
その瞬間、背後からベニハナがトニーに鋭い鏢を飛ばしてきた。驚いたトニーは後ずさり、何度か身を引いたが、足元が裂け、薄毛の頭が露わになる。
「お前、本当に正真正銘の赤タコだな」
「なんだと!?」
金髪に薄毛、低い鼻、太い兎唇――トニーは大きく目を見開き、大輝を睨みつけた。
「大輝くん、こんな時に人の外見を茶化すのは良くないわよ!」
「いや、今は挑発だ。俺が前に出る!次に声を出したら俺が飛ぶぞ」
「わかったわ。タイミングは任せて」
互いの意思が自然に通じ合う二人に、トニーは嫉妬のあまり蕁麻疹が出るほど痒くなり、怒り狂った。
「このリア充ども、くたばれ!!」
トニーが「ストーンシャワー」の紋章を発動しようとした瞬間、ベニハナが再び鏢を放つ。
「このクソトカゲ!いつまで俺を邪魔する気か!?」
トニーは紋章で岩石をベニハナに向かって投げつける。岩石は壁に激突するが、ベニハナは素早く避け、すぐに環境に擬態して姿を消す。
「避けただと!?なんて速さだ!」
その時、大輝が自らの源気を強く解放し、全身が巨大な火球のように燃え上がる。
「行くぜ!」
準備が整った大輝は、一気に前へと突進する。
「行きなさい!」
美鈴は全力で源気を注いだ反転ボールを投げる。反転ボールは黄緑の光を帯びた俳句を展開した。
『風は羽根、光の梯子、飛べる道』
風が紋章の中心に集まり、一瞬で黄緑の旋風が大輝を追いかける。
「今だよ!」
大輝は思い切って高く跳び上がった。背後から追い付いた旋風が彼を後押しする。
「うおおおおおおお!!!!」
風の力を借りて、勢いよく上昇する大輝。その瞬間、トニーは岩壁を寄せる紋章を発動した。
「そんな脆い壁が俺の拳に通用するか!」
突風に乗りながら、人間の砲弾のように一直線に突進する大輝は、拳で岩壁を粉砕した。
「ガキがこんな力を……!?」
さらに壁を突き破った大輝は、追風の効果で宙を浮きながらトニーに接近する。
「こっちに来るな!」
「逃がすものか!!」
慌てふためくトニーを追い詰めた大輝は、力強く前進し、一歩踏み込むと、まず一撃をトニーの腹に叩き込む。
「くっ……!」
次の瞬間、二発目の拳がトニーの頬を撃ち、頬骨が砕ける音が響いた。
――リア充の気持ちの通じ合い……なんて羨ましいんだ……
その後も大輝の拳は止まらず、3、4、5、6……と、凄まじいスピードで26連打を繰り出す。
連打を終えた大輝は、息を荒げながら倒れたトニーを見下ろしていた。
トニーは白目を剥いて気絶し、二度と立ち上がることはなかった。