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116.戦場突入 ②

穣治じょうじとユリアンが激しく戦いを繰り広げている間、トオルたちは工場内の製造室へと辿り着いた。

 そこには八つの生産ラインが並んでいたが、どれも稼働しておらず、薄暗い空間に響くのは、彼ら三人の足音だけだった。一本道の通路が、生産ラインの向こうにある事務所や工場の中心部へと続いている。管制システムは停止しており、ゲートは開いたままだ。

 製造室には、非常口のライトと蛍光処理された案内矢印だけがぼんやりと輝いていた。その薄明かりの中を進む美鈴は、周囲の不気味さにお化け屋敷を歩いているような錯覚を覚え、胸に手を当てながら疑問を口にする。


「おかしいですね。こんなに大きな工場なのに、警備システムがまったく反応しないなんて……まるで、この工場全体が眠っているみたいです」


恐れを知らない様子で、大輝だいきが応える。


「何を言ってるんだ?工場に近づいた時から、全てが異常じゃないか?」


トオルも工場の様子をじっくりと観察しながら言葉を続けた。


「環境は綺麗に保たれているし、設備も俺が働いている工場より新しい製造機械が使われている。廃棄されたわけじゃないのは明らかだ」


彼は電源の入っていない監視カメラや、動いていない防犯システム、生産機械を見上げながら考えを巡らせる。


「製造工場は無人の全自動生産のはずだ。夜でも稼働を続けるはずなのに、今は全てが止まっている。おそらく、この工場は強奪されたんだ。管理者たちも捕らえられているかもしれない」


その時、上層の通路から彼らの動きを眺める影があった。トニーは袋から十色のチョコ飴を一握り取り出し、くちゃくちゃと音を立てながら食べ始める。


トオルはそのわずかな音にすぐ気づき、立ち止まると、音の主に向かって声をかけた。


「そこにいるのは誰だ!?」


突然のトオルの反応に驚いた美鈴が尋ねる。

「左門さん、何かあったんですか?この製造室には誰もいないはずじゃ……?」


「いや、聞こえる。ほんの小さな音だが、乾いたお菓子を噛むような音が……それだけじゃない。気配を消そうとしているが、心拍や呼吸音もはっきり感じる」


「何ですって!?」


大輝と美鈴みすずは周囲に警戒を強め、視線を走らせる。すると突然、美鈴の体に紋章が輝き始めた。


「ぎゃあっ!」


美鈴は無防備なまま、謎の力に押し倒された。


「何が起こった!?」


「わからない……光が体にかかったと思ったら、急に倒れた……」


「風か、あるいは力を操る紋章術だ。この相手、章紋術使いだな!」


大輝は不快に大声で呼び掛ける。


「くそっ!どこに隠れてやがる!」


美鈴が倒れた床にもまた紋章が浮かび上がり、光を放つ。


「いやあっ!」


倒れたままの美鈴は、以前に図書館で体験した嫌な感覚を思い出した。


「また何か仕掛けてきたのか!?」


章紋から放たれる強烈な気流に地面へと吸い込まれ、美鈴は立ち上がることができない。


「この章紋……前に図書館で仕掛けられたものです……」


「あの時の奴か?」


「間違いないです……」


美鈴を助けようとする大輝に、彼女が警告する。


「大輝くん、来ないで!この紋章の中に入ったら、あなたも捕らえられてしまう……いや、もう源気が吸い取られてる……」


トニーは新たにチョコ飴を口に運びながら、くちゃくちゃと音を立てて笑みを浮かべた。


「ふん、この味、前にも食べたことがあるな。甘さは程よく、エレガントな香りが広がっている……」


だが、暗闇の中でトニーの正確な居場所を突き止めることはできない。その不気味な口調に、怒りを抑えきれない大輝が叫ぶ。


「卑怯者!どこに隠れてるんだ!出て来い!」


美鈴の状況を見たトオルは、すかさずコダマに指示を出した。


「コダマ、索敵機能を使って敵の位置を探し出せ!見つけたらビームマシンガンで集中攻撃だ!」


 コダマがソナーを使って敵の位置を探し出すと、胴体から二門の銃口が次々とビームを発射した。しかし、トニーは手に持った短剣型アーティファクトを翳し、紋章を発動させると、どこからともなく飛んできた岩がビームを受け止めた。トニーは素早く別の場所に移動し、生産ラインのコントロールを操作すると、八つの生産ラインが動き出し、工場内に轟音が響いた。


 生産機械の騒音で索敵が難しくなったものの、その光でトニーの姿を捉えた大輝は、光弾を投げつけた。だが、トニーは章紋で再び岩壁を生成し、光弾を防いだ。岩は粉々に砕けたものの、トニーは無傷で立っている。


「ふん、そんな攻撃が俺に効くと思ったか?」


冷静さを保つトオルの額に、冷や汗が滲んでいた。


「この男、章紋術ルーンクレストの扱いが上手い……手強い相手だ」


それでも、大輝は気迫に満ちた声で言った。

「左門さん、先に進んでくれ。ここは俺に任せろ」


「だが、白河さんが倒れた今、一緒に戦わないと……」


「美鈴をやられたこと、この俺が許すわけがない。必ずこいつを倒す」


トオルはまだ迷いを拭いきれない。


「行ってください、左門さん。私たちなら大丈夫です。」


源気を吸われ、倒れている美鈴が力を振り絞って応じた。


「白河さん……」


「情けないですけど、私はここから先、自分で進むことはできません。でも、大輝くんがいます。この相手は私たちに任せてください。左門さんはお姉さんを助けに行ってください」


「すまない。先に行ってくる。タマ坊、待機モード」


トオルはそう言い残し、タマ坊を丸く変形させ、コダマに指示を出した。


「コダマ、タマ坊を運んでついて来い!」


コダマは長く機械音を鳴らすと、タマ坊を掬い取り、トオルの頭上に飛び乗った。


「厄介者は通さないよ!」


トオルが向かう通路の入り口に、巨大な岩壁を生成する紋章が浮かび上がった。


「そんなもの、術式ロード、ファイアフィスト!」


トオルは拳に炎をまとい、章紋に向かって放つと、岩壁は一瞬で粉々に砕け散った。


「お前らウザいぞ、この赤ずきんをかぶったタコ野郎!」


トニーは怒りに顔を歪めたが、同時にトオルの突破力に驚きを隠せなかった。


「お前は章紋術ルーンクレストが使えるのか!?」


トオルは言葉にせず、通路をひたすら突き進んでいくのだった。


今度は先より大き光弾が真正面から飛んできた。テニーは間一髪でそれを避ける。


「何だ!?」


「左門さん、今のうちに行って!」


「バックアップ、ありがとう。あの方には負けるなよ!」


そう言うと、トオルとコダマは通路のゲートへと消えていった。


大輝は拳を打ち合わせ、気配を高めながら言った。


「バカなこと言ってんじゃねぇ。美鈴がいる限り、俺は負けるわけがない!」



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