表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/146

114.追跡 ③

 薄い雲が漂う夜空を背景に、トオルと穣治じょうじが乗る飛空艇テュルスは、200メートル上空を飛行していた。機体のモニターには、先行するコダマの姿が映し出されており、コダマは西南の方角に向かって進んでいる。追跡が始まってから10分が経過した。


「本当にあの鳥が依織嬢ちゃんの居場所を見つけられるか?」と、穣治が不安げに尋ねた。


源紋グラムクラストパターンセンサーと追跡機能を搭載してるんだ。クロディスの協力で、遠距離追跡の試験もうまくいったし、依織の源気をしっかりと捉えている。このまま追っていけば、時間の問題であの怪人に追いつけるはずだ」

トオルは冷静に答えた。


 その時、注意を促す音が鳴り、バックミラーに深紅の軽型飛空艇が映り込んだ。レンタルの量産型だが、キャノピーが半分しかない無骨な機体が、勢いよく追ってきている。

 大輝は飛空艇のレバーを全開にし、エンジンを唸らせながら速度を上げていた。


「おい、あの海老型の飛空艇、まさかおちゃんたちじゃないか?」と、大輝は強風に吹かれながら声を上げる。


「間違いないね。こっちらも追い付かないと」と後部座席で大輝の背中にしがみついている美鈴が頷いた。


「内穂さんまでの距離はあとどれくらいだ?」


「あと500メートル、もうすぐ追いつくはずよ」


美鈴はタマ坊のレーダーを確認しながら告げた。


さらに3分が経過し、雲を突き抜けた先に、レタスのような翼を広げた黒い影が見えた。それを見たトオルは、穣治に声をかける。


金田かなたさん、速度をもう少しい上げてくれないか?コダマに指示を伝えたい」


「任せて」


穣治がアクセルを押し込むと、飛空艇はさらに加速し、コダマと並走する位置まで追いついた。


トオルはキャノピーを開け、声を張り上げる。


「コダマ、敵を撃ち落とすな。少し距離を取って、このまま敵の本拠地まで追ってくれ」


ピーッという返答音と共に、コダマは速度を調整し、50メートルほどの距離を保ちながら怪人を追い続けた。


「よし、もし敵の飛行高度が下がってきたら、拠点が近いと見て警戒しろ」


コダマは鋭い音を立てて応じた。


その時、穣治が突然問いかける。


「トオル、内穂さんと何かあったのか?」


トオルは首を横に振った。


「いや、別に何も。どうして?」


「彼女の様子がいつもと違う。喧嘩でもしたのか?」


「いや、特にそんなことは……」


トオルは考え込むが、最近のクロディスの懇親会で何か問題があったわけでもなく、普通の友好関係を続けているだけだった。


「もしかして、何かした覚えがなくても、彼女が嫉妬しているんじゃないか?」


「嫉妬?ぼくに?」

トオルは首を傾げ、ぼけっとした表情を浮かべた。


「男が女を怒らせる時って、大抵は他の女のせいだ」


「他の女のせい?」


「例えば、君が他の女と親しげにしているところを見られたとか」


トオルはしばらく考えた後、ぽつりと口を開く。


「もしかして、この前、同級生のリーゼロティと二人で話してたのを、依織さんが見たのか……それで、ミーティングで急に神通心の話なんてしだしたか……」


「俺の余計な世話かもしれないが、アトランス界住民の恋に対する観念が知らないが、地球アース界人は浮気なんて普通受け入れないからな」


「でも、ぼくたちは恋人でもないし、告白もしてない。そもそもそんな雰囲気すらなかったんだけど」


「女はな、好きな男が別の女を見るだけで嫉妬するんだぜ。関係がはっきりしてなくても、彼女の行動をよく見ればわかる」


「……でも、どうして彼女がぼくを好きになるんだ?ただのクラスメイトで、しかも高校時代はほとんど話さなかったんだぞ。ぼくの存在なんて、ほとんど空気だったのに?」


 恋の事情に鈍感するトオルの初々しい顔を見て、涼しげ笑みを溢す。


「バカだな、人を好きになる理由なんてないんだよ。理屈じゃなく、気持ちなんだ。好意がなければ、何度も付き合おうとしないもんさ」


穣治の言葉に、トオルは顔を伏せ、黙考する。


「彼女は素敵な女だ。せっかく繋がった絆を手放したら、取り返しがつかなくなるかもしれない。ケネルみたいな男に取られたら、もう手遅れだぞ」


「……考えておく」


「さて、どうやら貪食者の拠点に着いたようだ」


コダマが追っていた植物怪人が高度を下げ、工場団地の上空にさしかかっていた。


「ここか?」


穣治は飛空艇のキャノピーを開けると、慎重に工場の方を見つめた。


「隼矢、ここで待機しててくれ。俺たちが様子を見に行く」


「了解」

穣治は飛空艇をゆっくりと降下させようとしたが、その瞬間、何もないはずの工場から燃え上がるような泥石が飛んできた。


激しい衝撃に、飛空艇が大きく揺れる。


「今のは何だ!?」


工場の窓や台座、チューブの表面には紋章が光り、十数箇所以上にわたって防御システムが作動している。


「あれは紋章術ルンクラスターだ。敵の魔導士が仕掛けた防衛システムかも」


「これだけ手荒に歓迎してくれるなら、間違いなく敵の隠れ家だな」


トオルはコダマに指示を出す。


「コダマ、紋章の攻撃を避けて、スカーレットバンでその防御システムを破壊してくれ」


コダマは軽やかに燃え上がる泥石をかわし、赤いエネルギーボールを発射。命中した紋章砲台が次々と爆発する。


「こっちも攻撃しようぜ!何か武器があるか?」


穣治は武器リストを確認し、まず試しにエネルギー弾を発射してみる。飛空艇の両翼から光の弾が飛び出し、次々と紋章砲台を撃ち落としていった。


「もっと派手にやれないか?一気に吹き飛ばせる武器はないのか?」


穣治はリストの最後の項目に目を向けると、ミサイル照準のような枠が現れた。狙いを定め、ロックオンが完了すると、発射ボタンを押した。


10本の光の束が一斉に紋章砲台を撃ち抜き、巨大な爆発が起こる。橙色の火光が空を染め、黒煙が上がる。


「最高だぜ!やっぱり突撃はこれに限る!」


「金田さん、怪人が降下した!」


植物怪人が工場の搬送用通路に降り立ち、翼を畳んで内部へと進んでいった。


「あそこが入り口か……俺たちも突撃して着陸するか!」


「隼矢、俺に続け!」


「ああ、分かった」

穣治は残存する砲台の攻撃を無視し、飛空艇のバリアを張って耐えつつ、ドンと勢いよく着陸させた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ