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109.敵襲、鹵獲されたヒロイン ①

 トオルは軽く息を吐いた。外から十数人の足音が近づいてくるのを耳にし、注意を払う。


 足音が一斉に止まった。トオルはその違和感を感じ取り、動きを止める。


クリーフがまるで素晴らしい財宝を見つけたかのように、トオルに声を掛けた。


「しかし、トオルくん、君は指令回紋マンタキューで動かせる戦闘機元ピュラトファイターまで作れるとは、本当に才能の塊だね」


「僕が作ったものよりもっと高性能な機元はたくさんあるだろう。テロリストが使った戦闘機元は生体記憶金属の技術で作られていたし」


クリーフは涼しげな笑みを浮かべて言った。


「君が作るのは、そんな指令回紋で動かすガラクタじゃないだろう?君の作る機元使い獣は、画期的な発想から生まれたものだよ」


「今まで、そんなものを作った人はいないんですか?」


生物オガニズム系や無機イノセンス系の擬似体を作れる人はたくさんいるが、それを世に普及させる人はほんの一握りだ。指令回紋を理解できなければ、実物を設計することはできないし、ノウハウを他人に売りたがらない者も多い。だから、多くの優れたアイデアが設計プロジェクトの途中で没にされてしまうんだ。魔導士マギアたちの間では、非自然な造物を使い獣として扱うことを嫌う者もいるが、君の発想は素晴らしい挑戦だ。君のような才能を持つ者は、戦いで実績を積み上げる者たちよりも、ずっと多くの富を得ることができる。君の未来は明るいよ」


 クリーフは手に持ったワイングラスを軽く揺らし、トオルの明るい未来を祝福するようにグラスを掲げ、一口飲んだ。


その時、何かを感じ取ったクリーフが目を鋭く細めて言った。


「外で何かが近づいているな」


美鈴みすずはトカゲを起動させ、トカゲを撫でながら微笑んだ。


「あなたは甘えん坊なのね。赤い体だから、名前はベニハナにしましょう」


トカゲと楽しそうに遊ぶ美鈴の顔を見て、大輝も微笑んだ。


 その時、クリーフの警戒に気付いたトオルは、音に耳を澄ませた。瞬時に、バルコニーに黒い影が次々と飛び込んでくるのを見た。


「バルコニーに人影が入ってきている!」


トオルの言葉に反応し、依織とクリーフ、そして穣治も窓の外に目を向ける。


 最初に6人が入ってきて、さらに3人が続けて飛び込んできた。その異様な動きに、依織いおりは不安を感じ、指をさして問いかけた。


「あの人たちは何なの?」


先頭の3人が攻撃態勢を取り、窓に向かってきた。


危険を察知した穣治は、急いでビールジョッキをテーブルに置き、大声で叫んだ。


「みんな、身を隠せ!」


一瞬で体を低くし、椅子とテーブルの間に身を隠した穣治。クリーフも部屋の隅に立ち、身を隠しながら様子を窺っていた。


トオルと依織もそれぞれテーブルの下に身を潜めた。


美鈴はベニハナを強く抱きしめていたが、突然の事態に反応が遅れた。彼女の無防備な姿を見て、大輝は咄嗟に飛び出し、彼女を押し倒した。


「美鈴!」


ガシャーン!


驚いた美鈴は叫んだ。


「ぎゃあーー!!」


大輝は床に倒れている美鈴に問いかける。


「何をしてるんだ!」


美鈴は細い声で応じた。


「だって、びっくりしたんだもん……」


割れた窓から飛び込んできたのは、暗緑色のジャケットスーツを着た者たち。女性らしき人影も混じっており、無表情で彼らは窓辺に立っていた。


穣治じょうじは立ち上がり、不審な一団に問いかけた。


「お前たちは何者だ?」


先頭の者は両腕を植物の蔦に変えて振り回し、穣治に襲いかかってきた。穣治はその攻撃をかわし、割れたテーブルが崩れ落ちた。


「オイオイ、せっかちな連中だな!」


穣治は源気で柄を作り、長い鞭を振り回して男の二度目の攻撃を斬り払った。斬り落とされた腕からは植物の茎が露わになり、蔦が緑の光を散らしながら地面に落ちた。


隅で様子を見ていたクリーフは、ソードライフルを構え、源気を注ぎ込んだ。銃から放たれた光弾が敵に直撃し、2人を打ち倒す。


「ヌウ……ヌウウウ!」


撃たれた敵の体は歪み、ぐにゃりと揺れながらも、ダメージを受けつつも動き続けている。


 穣治は柄のスイッチを押すと、鞭が柔らかくなり、先端が蛇のようにしなる。その鞭を操り、敵の男に何度も打ちつけた。しかし、その男は両手で防御の構えを取り、鞭の攻撃をしっかりと受け止めていた。男の足元をよく見ると、木の根のようなものが床に食い込んでいる。


「こいつら、人間じゃないな!」


クリーフは、敵の動きを止めるため、さらに銃撃を続けながら言った。


「擬似体のようですね」


大輝は、美鈴を守るように体で覆いながら、首を捻じ曲げて敵の様子を窺った。


「なんて奴らだ!?」


「早く救援を呼ばないと!」


美鈴は四つ這いになって物を探し、接待係を呼び出すための機元端を見つけた。手を伸ばそうとしたその瞬間、タケノコのような鋭い棘が飛び刺さり、機元端は破壊された。


「そんな……!」


美鈴は驚き振り返ると、5歩ほど離れたところにいる女性型の植物怪人が手を挙げ、刺々しい腕で照準を定めていた。


「このあばずれ!よくも!」


大輝は光弾を集め、女性植物怪人に投げつけた。光弾を受けた女性の正体が露わになる。彼女の腕は蔦が束ねられたもので、先端は茎のような指に変わっていた。


蔦を一つ束ねた腕の先端は、五本の指が茎になり、大輝に打ちつけた。大輝はそれを受け止めようとしたが、蔦の横払いで打ち倒された。


「あっ!!」


横に倒れた大輝を見て、美鈴は叫び出した。


「大輝くん!」


 次の瞬間、危険が美鈴に迫ってきた。近づいてきた女性型の植物怪人は、美鈴の顔を見て悪意に満ちた笑みを浮かべ、茎のような指で美鈴を襲おうとしていた。


その時、ベニハナが美鈴の懐から滑らかに抜け出した。


「あっ、ベニハナ!?」


 ベニハナは大きく口を開け、植物怪人に向かって火焔を放射した。全身が炎に包まれた植物怪人は、断末魔の叫びをあげる。


「うぁぎゃああああ!!!!」


 立ち直った大輝は、植物怪人を美鈴の前から蹴り飛ばし、さらに大きな光弾を放った。光弾を受けた女性型植物怪人は窓側の壁に叩きつけられ、強いダメージを受けて光の中に散り去った。

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