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104.情報を編み合う ①

 クリーフは手を離し、部屋にいる全員を順々に見渡してから、最後にトオルに目を留め、3秒ほど間を置いて尋ねた。


「君はあの時、キアーラ・アルホフと手を合わせた少年だな?」


「はい、左門トオルです」


クリーフは涼しげな笑みを浮いて言う。


「君とイオリさんは、俺に強い印象を残した」


「それはどういう意味ですか?」


「オースルクト号のハイジャック事件は、君たちの活躍のおかげでデステロントを撤退させることができた」


「事件はダイラウヌス機関が派遣した4人の『尖兵』によって解決されたのではないですか?」


「情報公告では、細かいことまでは知らされていないだろう」


「僕たちだけではなく、他の新入生もテロリストの退治に協力しました」

穣治も付け加えた。


「それに、あの爺さん学長も時間を稼いでくれたおかげで、救援行動が成立したんだ」

「俺が見たのは、イオリさんがうまくキアーラの装備を破壊したこと、そしてトオル君と目を合わせたことで、彼に撤退を考えさせたんだ」


クリーフはトオルを見つめながら、笑みを深めて言い続けた。


「殺人鬼アルホフに戦いを断念させるなんて、君は実に興味深い」


 トオルはただクリーフの目を見つめ返すことしかできなかった。彼の心拍は、トオルが今まで聞いたことのないほど安定しており、まるで完璧に調整された機械エンジンのようだった。あまりにも安定しすぎていることに、彼はクリーフの事を妙に気になる。


――これが達人の源使いのリズムか……メンタルが強そうだな……


「さて、イオリさん、これで全員が揃ったか?」


クリーフは依織に顔を向けた。


「はい」


依織はいつもより大人しく頷いた。


「それなら、さっそく本題に入ろう」


 まるで天から降りてきた英雄のように、クリーフが入ってきたことで、この集まりの主導権を握られた雰囲気が漂い、美鈴と大輝も黙って見守るしかなかった。


「ああ、まずは席に着こう。さあ、先輩、どうぞ」


クリーフは気楽に提案した。


「好きに座ればいいだろ?」


「いや、場所を取ったのは先輩だろ?君が選ぶ権利がある」


「行儀臭いね。俺は場所を提供しただけで、どう使うかは皆の自由だ。事件の解決が優先されるべきで、席の位置なんて些細なことだ」


「先輩が決めたルールに従うなら、甘んじて受け入れろうか」


穣治は窓に向かう中央の席を開け、トオルの肩を軽く叩いて、いつも通りの口調で言った。


「トオル君、君はここに座れ」


 トオルはリスクが全く意識してないようだ、今の時、知らない人と打ち合わたにより嵌められて命の危険が迫った経験がある穣治がトオルたちをカバーするしかない。


「僕が、ここで、いいのか」


「事件を追っているのは君だろう。話すことが多い人は中央に座るのが定石だ。俺は向こう側に座るよ」


「分かった」


穣治の後押しにより、トオルは中央の席に座った。


 穣治は窓を背にして中央の席に座り、美鈴は出入口に最も近い席に、大輝と向かい合う形で腰を掛けた。


「武具アイテムが完成したのか?」


「はい、完成しました」


 依織はトオルと目線を交わした後、何かを思い出したように目をそらし、トオルの隣に座った。


5人が席に着いた後、クリーフも着席し、声をかけた。


「皆、何を注文したい?俺が奢る」


「俺はビールでいいぜ」


「僕はあそこのアイスコーヒーで」


「私はホットハーブティーください」


「私はオレンジジュースでいいです。大輝君は?」


「俺はクリームソーダ」


「分かった。皆の分を持ってくるよ」


「お嬢ちゃん、待ってくれ。飲み物の用意は必要ない」


クリーフの呼びかけに美鈴は動きを止めた。


「そうなんですか?」


「ここではレベル消費だから、欲しい飲み物や食べ物を注文すれば、接待係が用意してくれる。他に特に食べたいものは?」


穣治が全員を代表して応じた。


「飲み物だけで十分だろう。懇親会じゃないし」


「分かった。必要ならいつでも言ってくれ」


クリーフは機元端ピュラムで注文を送信した。


 外の景色はすでに日が暮れ、空にはわずかにオレンジが残り、青黒い幕が降りてきた。水晶のような満天の星空と、青と赤の二輪月がかかっている。


 ベランダには小さな木々と花壇があり、装飾ライトが灯っていた。外から一匹のスズメバチが青いライトに誘われて止まり、その目で部屋の様子をじっと見ていた。


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