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99.面倒を見られる、推測の先

 トオルは再び高台のベンチに座り、しばらくの間、リーゼロディの授業の様子を眺めていた。もとは何もない訓練場だったが、指導教諭がコントロール核に触れると、土塊が生成された。そこには、最も高い部分で5メートルほどの人工の土山が作られ、斜面がルートをつなぎ、多数の土塊や、飛び移るための長棒、さらには上から吊るされた輪が次々と設置された。

 授業を受ける心苗たちは、その輪に飛び移り、揺れる輪から次の輪へと移動していく。鉄棒や輪のゾーンをうまく渡れなかった者は、そのまま下の泥沼に落ちる。これは、基本的な体力を養うための確実な訓練らしい。


 授業が進む中、心苗たちの集団の中でリーゼロディが先頭を走っている。彼女はペースを崩さず、ミスもなく、穏やかに進みながらも、その速度はさらに上がっていく。トオルはその姿を見て、感心しながら呟いた。


「リーゼロディさん、すごいな。さすがレイカルプサス人の身体能力だ」


 トオルの存在に気づいた数人の心苗が振り返ると、授業を担当する教諭が近づいて声をかけてきた。


「君、ずっとこちらを見ていたけど、授業に興味があるの?」


 教諭は二本のヤギのような角を伸ばし、ピンクのセミロングヘアを一本の三つ編みに結んでいた。

 

 突然声をかけられたトオルは慌てて両手を振り、頭を横に振った。


「あ、いや、ただ考え事をしていただけで、つい長居してしまいました。ご迷惑をおかけしてすみません」


教諭は微笑みながら続けた。


「私はアキションスキル・体術基礎の教えを担当する、キミリー・アンヌ・エタナリンス。よかったら、一緒に走ってみない?特別に体験授業を許可するわよ」


トオルは再び手を振り、言った。


「僕は…いいです。体力があまりなくて、こういった訓練には耐えられないと思います。」


キミリーはトオルに興味を持ち、授業に引き入れたいようで、楽しそうに続けた。


「体力は日々少しずつ鍛えていくものよ。やってみないと何も変わらないわよ」


――この先生、なんて親切な方だ。授業を取っていない僕まで面倒を見てくれるなんて。でも、こういう訓練を受けたら、僕は必ず死んでしまうだろう……


「やっぱり、やめさせてください。僕のレベルではこういったトレーニングを受けると、かえって迷惑をかけてしまいます」


「そう、気が向いたらいつでも歓迎するわね。さて、君はここで何を考えているの?他に予定がないの?」


「僕は、ちょっと気になることを考えていて……」


キミリーは元気な目つきで遠慮なくドストレートに尋ねた。


「あら、もしかして誰かさんを覗いているの?」


トオルは動揺しながら、何とか顔に表情を出さないようにして応じた。


「違います……」


「私は見たわよ、授業が始まる前にヌーヌさんと二人きりで話していたでしょ?彼女を見守っているの?」


トオルは首をすくめ、言葉が出なかった。するとキミリーは気楽に言った。


「当たりね、好きな人を見守りたい気持ち、よくわかるわ。別に恥ずかしいことじゃないわよ」


「僕たちはそういう関係じゃありません……ただのクラスメイトです。最近、リーゼロディさんが誰かに狙われているのではないかと思って」


「しっかりと守ってあげているのね。偉いことだわ」


「でも、やはり僕の考えが間違っていました。リーゼロディさんは僕より源の使い方が上手く、体力もあり、実戦経験も豊富です。実際、僕が守る必要なんてないでしょう。」


「それは決まってないわよ。凄いスキルを持っていても、どこかに弱点があるものよ。十数年の経験を持つある門派の師範ですら、在学の操士ルーラーが作った物により簡単にやられたこともあるんだから。そもそも、君は筋肉じゃなくて、頭で彼女を守っているんじゃない?」


「そうなんですか……リーゼロディさんが最近の授業で何か違和感を感じることはありませんでしたか?」


キミリーは右手で頬を支えながら、少し考えてから言った。


「そうねぇ〜、彼女は4回ほど欠席していたわ。医療部と保安部によると、彼女は欠席の前日に貪食者グラムイーターに襲われたらしいわね。記憶を調べてみると、犯人は触手の擬似体を作れるみたいよ。今でも犯人は捕まってないみたいだけど、彼女は授業を受ける日にいつも先頭を走っていたわ。彼女の身体能力はとても優れていて、闘士としての逸材よ。」


「そうなんですか……」


「彼女のことは、君に任せるわね。」


 キミリーはそれ以上何も聞かずに授業に戻った。トオルはその場に取り残され、呆然とした。


――教え子の情報を簡単に流すなんて、この先生はあまりにも無防備すぎるんじゃないか?それとも、僕のことを信じているからこそ話してくれたのか……よくわからないな……


「僕は寮に戻って、武具を作る作業を続けようか……」


トオルは高台を後にして、ペルシオンの転送ゲートがある転送ホールに向かって歩き出した。リーゼロディのことと、彼女を狙う貪食者グラムイーターのことについて、新たに得た情報を頭の中で反芻はんすうしながら、昨晩に春斗を追ったカブトムシが撮った映像と録音された会話を思い出した。そして、すべての情報を組み合わせていく中で、恐ろしい事実に気がついた。


――あの先生が言っていた情報が正しいなら、間違いなく白石春斗が接触したあの人物こそがリーゼロディさんを襲う真犯人だ……待てよ!盗賊団で奴隷戦士として、高い戦闘スキルと実戦経験を持つということは、何度もリーゼロディさんを襲っているその人物は相当な実力者か!?



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